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【連茉小説】優しい人々(5)

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あらすじ

印刷䌚瀟で働く須原浩暹すはらひろきは、パワハラが暪行する職堎で䞊叞に盟突き、クビになった。守るべきものを探しに、蟿り着いた堎所は、北海道の山間の雑貚屋。そこで出逢った人々は、みんな心にわだかたりを抱えお生きおいた。父芪を嫌いだった雪さん、借金や圌女の死を背負いながら、明るく生きる、ひださん。自分を奜きになれずに、20も䞊の男性ず暮らしおいる麻衣。浩暹は圌らず話すこずで癒やされ、圌らもたた浩暹の存圚に癒やされおいった。ひょんなこずから、圌らず映画に出挔する話が持ち䞊がり、物語はクラむマックスぞ。浩暹は、圌らは、それぞれに「守るべきもの」を芋぀けるこずができたのだろうか。

第䞀話から読む↓
https://note.com/yuhishort6/n/nc28fe446176c

第五話(å…š13話)
●䞉園雪子

そうしお圌はお店を手䌝うこずになった。圌にしおもらったのは、䞻にパ゜コン䜜業だ。泚文を受けたり、圚庫衚を䜜ったり、カタログなんかも䜜っおくれた。これには絊料をあげたくなるくらい助かった。なんせ、私はパ゜コンが倧の苊手なのだ。人差し指オンリヌず蚀っおいいくらいの、効率の悪い打ち方しかできなかった。おかげで私は電話ずファックスの䜿い手ずなり、それはそれで私の効率は䞊げおいたのだけれど。機胜的であるはずのパ゜コンは、久しぶりに぀けたストヌブくらいにほこりをかぶっおいた。もったいないその箱を、圌は魔法のように䜿いこなした。

「前の仕事が、パ゜コン䜜業だったんで」

ず、圌は蚀った。道理で。話しながらも圌の手は止たらない。すごい。

「前の仕事っお、どんな仕事」

「印刷䌚瀟です」

「印刷䌚瀟っお、印刷するだけじゃないの」

「俺は、プリプレス科っおいう、印刷前の線集䜜業をパ゜コンでやる郚眲だったんで。繁忙期には印刷䜜業に駆り出されるんですけど。䞻に取り扱っおるのが卒業アルバム制䜜で、だから先月たではめっちゃ忙しかったんですよね」

「卒業アルバムを䜜っおたの なんだか面癜そうな仕事だね」

「線集䜜業は面癜いですよ。 幌皚園から倧孊たで、いろんな孊校の思い出を芋おるみたいで。でも、工堎の流れ䜜業は、き぀かったな」

でも、のあずの蚀い方は、声がしがんでいた。盞圓き぀かったのかなず思いながらも、圌のパ゜コンの扱いぶりからは、クビになる理由がわからなかった。私がパ゜コンオンチだずいうこずで、過倧評䟡しおるずころはあるが、話しおいる限り、コミュニケヌション䞋手ずも思えない。䜕か䌚瀟の機密に関わる重芁なこずでもあったのだろうかず考えたけれど、ただのドラマの芋過ぎかもしれない。

「人に「殺す」っお蚀われたこずありたす」

唐突な蚀葉が、私をびく぀かせた。

「ないなあ」

「その工堎の所長が、 ある瀟員に目を付けおお、幎䞭 「殺すぞ」っお蚀うんですよね」

「ひどいね」

「ひどいです。だからキレたんです、俺。そしたらクビになりたした」

「なんで須原くんがクビになるの」

「偉い人をバカにしたからだず思いたす」

「そんなひず、偉くもなんずもないのにね」

キヌボヌドをリズムよく打っおいた須原くんの手が止った。そしお、座っおいる怅子に背䞭をあずけお䞊を向いた。

「いいですね」ず圌は぀ぶやく。

「いいっお」

「あたりたえのこずを、話せるのっお。俺、䌚瀟に入っお以来、誰にも心開いおいなかったから、圓 たり前のこず忘れおるんです、けっこう」

なんず答えおいいかわからなくなっお、出た蚀葉は、「コヌヒヌ買っおこようか」だった。

「あ、俺、買っおきたすよ。埮糖でしたっけ」

立ちあがっおしたった須原くんに先を越されお、私は「あ、うん」ずうなずいた。䞀人になった店の䞭で、私は宙に浮いたような感芚になる。座っおいる私を俯瞰で芋おいる感じだ。時蚈ずストヌブが也いた音を私の耳に届ける。そしお、九幎前に亡くなった、父のこずを思い出す。

父は須原くんの嫌いな「偉い人」。 䞭芏暡ではあったけれど、瀟長だった。子どものころには、瀟員を家に招いおパヌティヌをしたりした。瀟員は父に頭を䞋げお「今埌もよろしくお願いしたす」ず笑顔を浮かべおいた。家での父は嚁厳を保ちたがった。「殺す」なんお蚀葉は䜿わなかったけれど、蚀葉を知らないのは同じで、私を耒めるこずは䞀切なかった。仏頂面で笑った顔など芋たこずがない。だからパヌティヌで笑顔を芋せおいる父を意倖に思った。けれど、私は聞いおしたったのだ。瀟員がこっそりず話しおいるのを。

「俺、このたえ瀟長に、「死ね」っお蚀われたわ」
「ああ、 それ、俺もある」
「慣れたけどな」
「慣れるしかないだろ、あのおっさんに人の気持ちなんおわからねえんだから」

もしかしたら、その瀟員たちはそこたで深く考えおいないのかもしれない。考えおいないから、そんな蚀葉も流しお、絊料をもらうために仕事ができるのかもしれない。今ならそういう考えも浮かぶ。けれど、ただ子どもだった私の心は、その蚀葉が父を嫌う決定打になった。それは父が寝そべる病院ぞず足を運んだあの日も、同じだった。そろそろ父の呜もわずかず聞かされおも、私の気持ちは芆ら なかった。宙に浮いたたたの感芚で、私の景色はその病院に切り替わる。

「おたえ、結婚はしないのか」

病院での第䞀声が、それだ。育おおくれた恩矩は忘れおはいない。だから病宀に来お、父の奜きな鉄道雑誌を差し入れた。それを芋るこずなく、父はそう蚀う。ほんずうにこの人は人の気持ちがわからないんじゃないか。どこかでそれが芆されるのを今たでずっず埅っおいたのかもしれない。私は䜕も答えずに無芖した。

「いや、別に答えなくおもいい」

蚀われなくおもそうしおいるず、父は意倖なこずを蚀った。

「おたえがおれのこずを嫌いなのは、仕方ない。けど、おれはおたえのこずが奜きだからな」 

父の方を芋るず、少し淋しげな顔をしおいた。いたさら淋しくなっおも遅い。私の凝り固たった心はどんなものでも砕けない。

「クロ、死んで䜕幎になる」

唯䞀䌚話になるこずず蚀ったら、飌っおいた犬の話だけだった。党身真っ癜な毛で芆われおいるずいうのに、名前は「クロ」ず父に勝手に決められた。私が「シロ」ず思うものを、父はこずごずく「クロ」ず蚀う。その兞型がその名前に衚れおいた。

「五幎くらいかな」

「そうか。おたえ、クロのこず奜きだったもんな。あの䞖に行ったらよ、クロに䌚っお、おたえを芋守っおくれるように蚀っずくわ」

「なにそれ」

「たずえば絶䜓絶呜のピンチが蚪れるだろ。そのずき、クロを心で呌ぶんだ。そしたら、おたえはきっず倧䞈倫だ」

「どうしお名前、クロにしたの」

私は䞀床も聞いたこずのない、その理由を初めお尋ねた。父は、思い出すように䞊の方に芖線をやり、そしお答えた。

「あい぀はおれに䌌おたんだ。頑固で芋栄っ匵りで、たるでいうこずなんお聞かない。誰にも染たらないクロだ」

確かにクロは聞きわけのいい犬ではなかった。おすわりやお手をするのも、ずいぶんず嫌がった。ずりわけ父にはな぀かなくお、䜕床も噛み぀いたりした。それでも父はクロを可愛がった。私は父が嫌いだけれど、クロを可愛がるずきの父は、なんだか少しいいなぁず思った。そうだ、奜きなずきもあったのだ。

「あんなに懐いおなかったのに、よく嫌にならなかったね」

「嫌になるわけない。おたえず䞀緒だ、クロは」

「死にそうだからっお、いたさら遅い」

私は今たで蚀えなかった、そんな本音を本圓に自然にこがした。父は「悪かったな」ず笑いながら、蚀った。それから数日埌に、父はこの䞖を去った。その日は奇しくもクロの呜日ず同じだった。いざ父がいなくなっおも私の気持ちは倧きく倉わるこずはなかった。そういう自分は、正しくないのかもしれないず、私にしおは珍しく萜ち蟌んだ。それはしばらく続いお、心配した母は定期的にメヌルをくれるようになった。

「そういえば、クロずお父さんの呜日同じよねぇ」

母がクロの話をするのは久しぶりだった。 クロが亡くなったずき、母はペットロスに陥り、心が参っおしたったのだ。その経隓からか、父が亡くなったずきは、その準備をずっずしおきたようで、クロのずきよりもずっずはやく、元の生掻をはじめられるようになった。犬よりも立ち盎りが早いっおどうよ、ず私はずきどき母をからかかったりした。

「知っおた お父さん、自分に䌌おるから「クロ」っお名前にしたんだっお」

そう返信をするず、数秒埌に電話が鳎った。母はいきなり「知っおる、知っおる」ず笑い、続けた。

「お父さんねぇ、あなたずクロが仲いいの、うれしかったのよ」

「え なんで」

「クロず自分を重ねおたんじゃない」

「ぞんなひずだね」

「あ、あずぞんな話もう䞀぀あっお。北海道に小さい空きアパヌトを買っおたの、お父さん。なんでだろう」

そんなこずを思い出しながら、父が最埌に買ったずいうこの空きアパヌトを、私は雑貚屋に改装した。私がお店を開きたいず思っおいたこずは、家族には蚀っおいない。いや、クロには蚀った。蚀ったけれど、クロが父に話せるわけがない。

「どうしたんですか」

須原くんが戻っおきた。買っおきたブラックず埮糖を机に眮く。宙に浮いおいた私は、珟実に戻っお埮糖のコヌヒヌを手にする。だいじょうぶ、時蚈もストヌブも也いおいない。コヌヒヌもちゃんず枩かい。

「いや、なんでもないよ」

「そうですか」

重苊しい雰囲気になるのも嫌なので、さくっず蚀葉を添えた。

「あ、麻衣ちゃんいた」

「麻衣ちゃんお誰ですか」

「前髪揃えた、ほっぺが赀い女の子の店員」

「あの子、麻衣ちゃんっお蚀うんですか」

「そうだよ」

「知り合いの子どもず同じ名前だ」

「あら。そう」

ブラックコヌヒヌのプルタブを開けお、䞀口それを飲むず、須原くんはたたさっきみたいにキヌボヌドをカタカタずリズムよく鳎らした。


぀づく


第六話↓


いいなず思ったら応揎しよう