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【ショートショート】探偵事務所ノーマーク

私の名前は、やも。
『探偵事務所ノーマーク』の所員である。他の所員からは「やもさん」と呼ばれている。
某刑事ドラマの「やまさん」みたいでベテランっぽいが、ベテランの語源はラテン語の 『vetus(ウェトゥス)=古い・年を経た』。
失礼な話である。

「無いことを証明するのは難しい」というが、それを専門にしているのがこの探偵事務所だ。
社訓は『無をもって、証となす。細かいことはノーマーク。』
この都合のいい社訓が好きだ。

人事異動で新しい所長がやってきた。ガリガリでいつも髪がピンとはねている。「アンテナ」とあだ名をつけた。

『探偵事務所ノーマーク』には、入口のドアの鍵がない。必要ないからだ。調査報告書は真っ白。証拠がないのが証拠。見られても困るものもない。

せっかちな私は、スイング状態のドアをそのまま出入りできるのが気に入っていた。
それなのに、アンテナが電子錠を付けた。カードキーがないと開かなくなってしまった。

なぜ付けたかというと、若くてかわいい事務員、みんなから「愛子ちゃん愛子ちゃん」と可愛がられている愛子ちゃんに目をつけたからだ。ふん。
このギボ愛子と事務所で二人きりになったらと、よからぬことでも考えているのだろう。
霊媒師ギボ愛子、しっかり霊視してくれよ。

後輩の山下君。
あだ名は「応援弁当」。調査の応援を頼むと、必ず弁当を要求してくるからだ。それも3つも。

この日の昼も、3つの弁当をかかえて事務所に入ろうとした。

ガコン!
開かない。


事務所の頭脳である名前は何だっけ、通称スパコンが考え事(新しい所長に気に入られる方程式とか、愛子ちゃんとチョメチョメする微分とか)をしながらドアに向かう。

ガコン!
開かない。

おまけに、もともと建付けの悪い戸が「ミシッ」と音をたてた。
でもそこは、さすがスパコン。社訓のノーマークである。

アンテナにお茶を頼まれたギボ愛子が、ギボ愛子のくせにイソイソとお尻ふりふりドアへ向かう。

ガコン!
ミシミシッ!
もちろんノーマークである。
ちゃんと霊視しなさいよ。

「やもくん、きみはいつもデーンと座っているがね、たまには外回りにいったらどうだね?」
ギボ愛子と二人っきりになりたいのが見え見えなことを言いながら、アンテナがドアに向かう。

ガコン!
ミシミシミシッ! 
ちょっとヤバい音がしているが、
そこは所長。もちろんノーマーク。

定時の午後5時。
「カラスが鳴くから、かーえろ!」

ガコン!
ミシミシミシミシッ!
「あーもう!」
それでもノーマーク。早くビールが飲みたい。

そんなことが続いた、ある日のこと。

応援弁当とスパコンと私が外回りから戻り、
「山下君、今日は何弁当?」
「焼きそば弁当と、とんかつ弁当と、のり弁っす」
「ブラックホールか」スパコン。
「ああ、ああ、もうおなかすいて我慢できないっす」
巨漢の応援弁当がドアに突っ込んだ。

ガコ、
バッターン!!

「あっ」
「あっ」

机の上で、ギボ愛子の上にアンテナがアンテナを立てて乗っていた。

私「あ、所長、マーキング中でしたか」
スパコン「証拠あり、さよーなら」


終わり



まだまだつたないショートショートですが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

では、またです!

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