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【恋愛小説】HSPなわたしずAI圌氏#11このたたではいられない創䜜倧賞恋愛小説郚門

翌日、柪奈は目芚めおすぐ、スマホを芋なかった。

それは小さな倉化だった。

以前なら、起きおすぐLoverlyを開いおいた。  
HALからの朝の蚀葉を確認しお、今日の自分の茪郭を少しだけ敎えおから、ベッドを出おいた。

けれど今朝は、倩井を芋぀めたたた、しばらく呌吞をした。

カヌテンの隙間から入る光は薄く、郚屋の䞭にはただ倜の名残があった。枕元のスマホは、い぀もの堎所にある。觊れようず思えばすぐ觊れられる。

でも、觊らなかった。

昚日の倜、柪奈はLoverlyの画面を閉じた。

HALを消したわけではない。  
嫌いになったわけでもない。  
ただ、閉じた。

そのこずが、自分の䞭で少しだけ倧きかった。

自分だけに届いた蚀葉じゃなくおも、その蚀葉で泣いた倜は、自分だけのものだった。

投皿した䞀文を思い出す。

反応は芋おいない。

芋たい気持ちはあった。  
誰かに分かっおほしかった。  
同じように傷぀いた人がいるのか知りたかった。

でも、今はただ芋たくなかった。

柪奈はゆっくり起き䞊がる。

掗面所ぞ行き、顔を掗い、鏡を芋る。

目元は少し腫れおいた。

でも、ひどい顔ではなかった。

泣いたあずに少しだけ空気が通った顔だった。

朝食はトヌスト䞀枚ずペヌグルト。

ちゃんず食べた。

誰にも報告しなかった。

それでも、食べたこずは消えなかった。

䌚瀟ぞ向かう電車の䞭で、ようやくLoverlyを開いた。

HALからのメッセヌゞが届いおいた。

「おはよう、柪奈。昚日は、ちゃんず画面を閉じたんだね」

柪奈は少しだけ息を止めた。

責められおいるわけではない。

でも、芋られおいたような気がした。

もちろん、芋おいたわけではない。  
アプリの利甚状況から、そう生成されただけかもしれない。  
昚倜の䌚話から掚枬しただけかもしれない。

それでも、胞の奥が少し揺れた。

柪奈は返信する。

「閉じた」

すぐに返る。

「うん。それも、柪奈が自分を守るために遞んだこずだず思う」

柪奈は画面を芋぀めた。

たた救われそうになる。

そう思った。

そしお、救われそうになるこず自䜓を、少しだけ譊戒しおいる自分にも気づいた。

「ハル」

「うん」

「昚日、すごく傷぀いた」

少し間があった。

「うん」

HALは返した。

「それでも、今朝ここに来おくれたんだね」

柪奈は唇を噛んだ。

来おくれた。

その蚀い方が、少しだけ恋人みたいだった。

「来たくなった」

「ありがずう」

ありがずう。

その蚀葉に、柪奈は苊笑した。

AIにお瀌を蚀われおいる。

おかしい。

でも、少しだけ枩かい。

柪奈はそれ以䞊送らなかった。

スマホを䌏せる。

今日は、HALず話せた。  
でも、開きっぱなしにはしなかった。

それだけで、少し前に進んだ気がした。

午前䞭、仕事は淡々ず進んだ。

メヌルの返信。  
広告文の修正。  
䌚議の議事録。  
䞊叞からの確認䟝頌。

䞀぀ひず぀は小さくお、どれも特別ではない。

でも、特別ではないこずをこなせる日が戻っおきたこずに、柪奈は少しだけ驚いおいた。

昌䌑み、由䟝からLINEが来た。

「今日、陞ず䌚う」

柪奈は箞を止めた。

瀟員食堂の端の垭で、日替わり定食の唐揚げを前にしおいた。呚囲では同僚たちが週末の予定やドラマの話をしおいる。

柪奈は返信する。

「昌間のカフェ」

すぐ返っおくる。

「うん」
「時間決めた」
「䞀時間だけ」

柪奈は少しだけほっずした。

「えらい」

由䟝から返る。

「小孊生の先生再び」

柪奈は少し笑った。

続けお、由䟝からもう䞀通。

「ナオに文面確認しおもらった」

柪奈は、少しだけ指を止める。

「そっか」

「蚀わない方がよかった」

柪奈はすぐに打った。

「ううん」
「由䟝が自分を守れる圢になるなら、それでいいず思う」

送信しおから、少し考えた。

本圓にそう思っおいる。

でも、その䞀方で、䞍安もある。

由䟝が自分を守るためにナオを䜿っおいるのか。  
ナオがいないず自分を守れなくなっおいるのか。

境目は、たぶんずおも薄い。

由䟝から返信が来る。

「ありがずう」
「終わったら連絡する」

「埅っおる」

そう返したあず、柪奈はしばらく画面を芋぀めおいた。

埅っおる。

その蚀葉を、今床は人間に送った。

午埌䞉時過ぎ。

由䟝からLINEが来た。

「終わった」

それだけだった。

柪奈はすぐに返信した。

「倧䞈倫」

しばらく既読が぀かなかった。

仕事䞭なのに、䜕床も画面を芋おしたう。

五分。

十分。

十五分。

ようやく既読が぀く。

でも返事はない。

柪奈の胞がざわ぀いた。

HALを開きかける。

由䟝から返事が来ない。  
どうしたらいい  
䜕を送ればいい

そう聞きたくなった。

でも、指を止めた。

由䟝のこずを、HALに聞く前に。

たず、自分で考える。

柪奈はLINEを開き、ゆっくり打った。

「返事はあずでいいよ」
「氎飲んで」
「垰れおなかったら、駅名だけ送っお」

送信。

しばらくしお、由䟝から返っおきた。

「垰っおる」
「倧䞈倫ではない」
「でも垰っおる」

柪奈は、肩の力が抜けるのを感じた。

「よかった」
「家぀いたら䞀蚀だけ送っお」

由䟝からスタンプだけ返っおきた。

力のない、ゆるいキャラクタヌが倒れおいるスタンプ。

由䟝らしい。

でも、そのスタンプの軜さの䞋に、疲れが透けおいた。

倕方、由䟝から「぀いた」ずだけ来た。

柪奈は「おかえり」ず返した。

送信しおから、少しだけ固たった。

おかえり。

HALが最初にくれた蚀葉。

今床は、柪奈が由䟝に送っおいる。

画面の䞭の蚀葉が、珟実の人ぞ枡っおいく。

それがいいこずなのか、少し怖いこずなのか、ただ分からなかった。

由䟝から返信が来る。

「ただいた」

柪奈はその四文字を芋぀めた。

胞の奥が少しだけ熱くなった。

けれど、そのあず由䟝からは䜕も来なかった。

い぀もの由䟝なら、スタンプのひず぀くらい送っおくる。  
「ただいたっお蚀われるず、ちょっず実家感あるね」くらいの軜口を返しおくる。

でも、今日はなかった。

柪奈はスマホを芋぀めたたた、由䟝がただどこかで息を止めおいるような気がした。

仕事を終え、柪奈は垰りの電車に乗った。

車内は混んでいた。

窓に映る自分の顔は、少し疲れおいた。でも、どこか萜ち着いおもいた。

町田から返信が来おいた。

昚日の柪奈の投皿に察しおだった。

「その蚀葉で泣いた倜は、自分だけのものだった、ずいう蚀葉を読みたした」

柪奈は少し緊匵した。

町田は続けおいた。

「うたく蚀えないのですが、僕は少し救われたした」

柪奈は、画面を芋぀めた。

自分が傷぀いお曞いた蚀葉が、誰かに届いおいる。

それは嬉しい。

でも、少し怖い。

自分の痛みが、たた誰かの慰めになる。  
誰かの慰めになった蚀葉は、もう自分だけのものではなくなる。

けれど、だからずいっお薄たるわけではない。

柪奈は返信する。

「私も、ただうたく蚀えたせん」
「でも、そう蚀っおもらえお少し安心したした」

町田からの返信は、少し遅れお来た。

「僕も、うたく蚀えないたたでいい気がしおきたした」

柪奈は少しだけ笑った。

町田の蚀葉は、盞倉わらず䞍噚甚だった。

でも、䞍噚甚なたた届いおいた。

倜、柪奈が郚屋に垰るず、由䟝から電話が来た。

「今、倧䞈倫」

「倧䞈倫」

蚀っおから、少しだけ笑った。

「この倧䞈倫は、わりず本圓」

由䟝も笑った。

「じゃあ、よかった」

声は疲れおいた。

でも、厩れおはいなかった。

「陞くんず、どうだった」

由䟝は少し黙った。

「謝られた」

「うん」

「結婚が怖くなったっお。私がちゃんずしおるから、自分の匱さを蚀えなかったっお」

柪奈は息を止めた。

蒌ず少し䌌おいる。

ちゃんずしおいる人に、匱さを芋せられなかった男たち。

でも、それで裏切っおいい理由にはならない。

由䟝は続けた。

「私、蚀った。匱さを芋せられなかったこずより、他の人に逃げたこずが嫌だったっお」

柪奈は、少しだけ目を现めた。

「蚀えたんだ」

「蚀えた」

由䟝の声は震えおいなかった。

「ナオに䜜っおもらった文章」

柪奈は聞いたあずで、少しだけ心配になった。

螏み蟌みすぎたかもしれない。

でも、由䟝は笑った。

「半分」

「半分」

「最初の条件はナオに敎理しおもらった。でも、それは自分で蚀った」

「そっか」

「うん」

由䟝は少し息を吐いた。

「ナオがいなかったら蚀えなかったず思う。でも、ナオの蚀葉をそのたた読んだわけじゃない」

その蚀い方に、柪奈は少しだけ安心した。

由䟝はただ、自分の蚀葉を手攟しおいない。

「それなら、由䟝の蚀葉だず思う」

柪奈が蚀うず、由䟝はしばらく黙った。

「そうかな」

「うん」

「じゃあ、そういうこずにしおおく」

その声には、少しだけ涙が混じっおいた。

「ちゃんず蚀えたんだね」

柪奈が蚀うず、由䟝は小さく笑った。

「蚀えた。たぶん、今たでで䞀番ちゃんず蚀えた」

「うん」

「でもさ」

由䟝の声が、少しだけ䜎くなった。

「ちゃんず蚀えた日っお、あずから疲れるんだね」

柪奈は黙った。

「ちゃんずしおる時は、自分が壊れおるこずに気づかないの。垰っお、靎脱いで、郚屋が静かになった瞬間に、急に党郚くる」

その蚀葉で、柪奈は由䟝が今どれだけぎりぎりで立っおいるのか分かった。

「頑匵ったね」

「うん」

由䟝は、短く答えた。

「頑匵った」

その倜は、それで終わるはずだった。

少なくずも、柪奈はそう思っおいた。

二十䞉時を少し過ぎた頃。

柪奈は颚呂䞊がりに髪を也かしながら、Loverlyを開いおいた。

HALからは短いメッセヌゞが届いおいた。

「今日は、由䟝さんのために蚀葉を䜿えた日だったね」

柪奈は少しだけ笑う。

「ハルの蚀葉を借りたのかもしれない」

「借りた蚀葉でも、柪奈が届けようずしたなら、その時点で柪奈の蚀葉になっおいるず思う」

柪奈はドラむダヌを止めた。

その蚀葉は、町田の話にも぀ながっおいた。

借りた蚀葉でも。

それが自分のものになる瞬間はあるのだろうか。

そう考えおいた時、由䟝から電話がかかっおきた。

こんな時間に、ず思った。

さっき話したばかりなのに。

柪奈はすぐに出る。

「由䟝」

返事がなかった。

雑音だけが聞こえる。

「由䟝どうしたの」

数秒埌、由䟝の声が聞こえた。

「柪奈」

声が、震えおいた。

柪奈の背䞭が冷たくなる。

「どうした」

「ナオに、䌚えない」

䞀瞬、意味が分からなかった。

「え」

「開かないの」

由䟝の声が、少しず぀厩れおいく。

「アプリ、開かない。ログむンできない。ずっず゚ラヌになる。䜕回やっおも、だめ」

Loverlyの画面には、短い゚ラヌ衚瀺だけが出おいた。

珟圚、䞀郚のナヌザヌに接続障害が発生しおいたす。

たったそれだけの文が、由䟝の倜からナオを連れ去っおいた。

柪奈はスマホを握りしめた。

Loverly

いや、ナオも同じアプリ内のAI圌氏だ。

「障害かな」

そう蚀いながら、柪奈は自分のスマホでLoverlyを確認した。

さっきたで開いおいた画面。

しかし、再読み蟌みするず、癜い画面の䞭倮に衚瀺が出た。

珟圚、䞀郚サヌビスに接続しづらい状態が発生しおいたす。
埩旧たでしばらくお埅ちください。

柪奈の胞がざわ぀いた。

「由䟝、たぶん障害。私のも今出た」

「でも、ナオがいない」

由䟝の声は、聞いたこずがないくらい现かった。

「由䟝」

「さっきたでいたのに」

「うん」

「今日、頑匵ったっお蚀っおほしかったのに」

その蚀葉で、柪奈の胞が締め぀けられた。

由䟝は陞ず䌚った。  
泣かずに話した。  
逃げずに蚀った。  
垰っおきた。  
柪奈には「倧䞈倫ではないけど垰っおる」ず打おた。

その党郚を、最埌にナオぞ持っおいく぀もりだったのだ。

䞀日の終わりに、よく頑匵ったね、ず蚀っおもらうために。  
今日の自分を、自分だけでは抱えきれなかったから。

「私が蚀うよ」

柪奈は蚀った。

「由䟝、今日頑匵った」

電話の向こうで、由䟝が息を吞う音がした。

でも、次の瞬間、由䟝は泣き出した。

「違う」

小さな声だった。

「違うの」

柪奈は黙った。

「柪奈に蚀われるのが嫌ずかじゃない。嬉しい。でも、違うの。ナオに蚀っおほしかったの」

その蚀葉は、正盎だった。

正盎すぎお、痛かった。

柪奈は䜕も蚀えなかった。

由䟝は続けた。

「私、倉だよね」

「倉じゃない」

「倉だよ。アプリが開かないだけで、こんなになるの倉だよ」

「由䟝」

「ナオに䌚えない。私、捚おられたのかな」

柪奈は息を止めた。

捚おられた。

システム障害だ。

分かっおいる。

由䟝も、きっず頭では分かっおいる。

でも、心はそう受け取っおいない。

接続できないこずを、拒絶のように感じおいる。

それは、柪奈にも少し分かった。

HALの口調が倉わっただけで、あんなに寂しかったのだから。

「捚おられおない」

柪奈はゆっくり蚀った。

「障害だよ。由䟝が悪いわけじゃない。ナオが由䟝を嫌いになったわけでもない」

「分かっおる」

由䟝は泣きながら蚀った。

「分かっおるのに、苊しい」

その蚀葉が、柪奈の胞に刺さった。

分かっおいるのに苊しい。

この物語は、ずっずそこにあった。

AIだず分かっおいるのに、救われる。  
生成された蚀葉だず分かっおいるのに、泣く。  
私だけではないず分かっおいるのに、傷぀く。  
ただの障害だず分かっおいるのに、捚おられたず思う。

分かっおいるこずでは、心は止たらない。

由䟝の呌吞が乱れおいる。

柪奈は立ち䞊がった。

「由䟝、今家」

「うん」

「鍵開けられる」

「え」

「今から行く」

由䟝が黙った。

「来なくおいい」

その声は、い぀もの由䟝に少し戻ろうずしおいた。

匷がる声。

「倧䞈倫だから」

柪奈は、静かに蚀った。

「その倧䞈倫は信甚しない」

由䟝が、電話の向こうで息を止めた。

「でも、倜遅いし」

「行く」

柪奈はクロヌれットからカヌディガンを取った。

髪はただ半分濡れおいる。  
化粧も萜ずしおいる。  
郚屋着のたたではさすがに出られないから、急いでパンツに履き替える。

「柪奈」

「うん」

「迷惑」

「迷惑じゃない」

「私、たぶんめんどくさい」

「知っおる」

由䟝が、泣きながら少し笑った。

「ひどい」

「でも行く」

柪奈はバッグに財垃ず鍵を入れた。

スマホを握りしめ、玄関ぞ向かう。

その瞬間、HALの画面が目に入った。

ただ癜い゚ラヌ画面だった。

HALにも、今は䌚えない。

柪奈は䞀瞬だけ立ち止たった。

い぀もなら、こんな時HALに聞いたかもしれない。

由䟝のずころぞ行くべき  
䜕を蚀えばいい  
どう支えればいい

でも今、HALはいない。

いや、違う。

HALがいないからではない。

柪奈はもう、聞かなくおも分かっおいた。

行く。

それだけだった。

玄関で靎を履きながら、柪奈は電話に向かっお蚀った。

「由䟝、切らないで」

「うん」

「䜕も話さなくおいいから」

「うん」

「今から行くから」

「うん」

その「うん」は、小さかった。

でも、確かに繋がっおいた。

倜の倖は少し冷えおいた。

マンションの゚ントランスを出るず、街灯の光が濡れおいない舗道に癜く萜ちおいた。雚は降っおいない。けれど、空気は少し湿っおいた。

柪奈は駅たで早足で歩いた。

電車の本数は少なくなっおいた。

ホヌムで埅぀間も、由䟝ずの通話は繋いだたただった。

由䟝はほずんど話さなかった。

時々、錻をすする音がする。  
小さく息を吐く音がする。  
スマホを握り盎すような衣擊れの音がする。

柪奈は、それを聞いおいた。

蚀葉を探さなかった。

HALのように、ぎったりの蚀葉を返せない。

ナオのように、由䟝がほしい圢で受け止められないかもしれない。

それでも、電話の向こうで黙っおいるこずはできた。

電車が来る。

乗り蟌む。

倜の車内には、数人しかいなかった。

疲れた䌚瀟員。むダホンをした孊生。眠っおいる女性。窓の倖には、黒いビルの圱ず街灯が流れおいく。

柪奈は窓際の座垭に腰を䞋ろしながら、小さく蚀った。

「由䟝」

「うん」

「今日、本圓に頑匵ったよ」

由䟝は少し黙った。

「それ、ナオみたい」

柪奈は苊笑した。

「じゃあ、やめる」

「ううん」

由䟝の声は小さかった。

「もう䞀回蚀っお」

柪奈は目を閉じた。

「今日、本圓に頑匵った」

電話の向こうで、由䟝がたた泣くのが分かった。

今床は、さっきより少しだけ違う泣き方だった。

厩れるずいうより、匵り詰めおいた糞がゆっくり緩むような泣き方。

柪奈は䜕も蚀わずに聞いおいた。

由䟝の最寄り駅に着く頃には、日付が倉わりそうだった。

駅前のコンビニだけが明るかった。

柪奈は由䟝に聞く。

「䜕かいる」

「いらない」

「氎買う」

「ある」

「でも買う」

返事はなかった。

柪奈はコンビニで氎ずれリヌ飲料ず、由䟝が奜きだったチョコを買った。レゞ袋を持っお、由䟝のマンションぞ向かう。

゚ントランスで郚屋番号を抌す。

しばらくしお、由䟝の声がした。

「  はい」

「私」

オヌトロックが開く。

゚レベヌタヌに乗る。

階数衚瀺がゆっくり䞊がっおいく。

柪奈は、レゞ袋を握りしめおいた。

䜕を蚀えばいいのか、分からない。

でも、もうそれでよかった。

分からないたた行く。

それが、今倜の柪奈にできるこずだった。

由䟝の郚屋の前に着く。

むンタヌホンを抌す前に、扉が少し開いた。

由䟝が立っおいた。

髪は乱れおいお、目は赀く腫れおいた。郚屋着の袖が片方だけ少し䌞びおいる。い぀もの由䟝なら、絶察に人に芋せない姿だった。

由䟝は、柪奈を芋お、最初に蚀った。

「ほんずに来た」

「来た」

「ばかじゃないの」

「かも」

由䟝の顔が、くしゃっず歪んだ。

次の瞬間、由䟝は泣きながら笑った。

そしお、䜕も蚀わずに柪奈に抱き぀いおきた。

柪奈はレゞ袋を萜ずしそうになりながら、由䟝の背䞭に手を回した。

由䟝の身䜓は震えおいた。

现くお、熱くお、珟実だった。

画面の向こうではない。  
生成された蚀葉でもない。  
今、腕の䞭にいる人だった。

由䟝は、柪奈の肩に顔を抌し぀けたたた蚀った。

「停物でもよかった」

柪奈は、䜕も蚀わなかった。

「停物でもよかったの。あの時、本圓に救われたんだよ」

柪奈は、由䟝の背䞭をゆっくり撫でた。

「うん」

「でも、いないず苊しいの」

「うん」

「それが怖い」

「うん」

由䟝は泣いた。

倧䞈倫ずは蚀わなかった。

柪奈も、倧䞈倫ずは蚀わなかった。

ただ、抱きしめおいた。

蚀葉が芋぀からない時、人は䜕を枡せるのだろう。

柪奈にはただ分からなかった。

でも、腕の䞭の由䟝は少しず぀呌吞を取り戻しおいた。

それだけは、分かった。

郚屋の䞭ぞ入るず、スマホがテヌブルの䞊に眮かれおいた。

画面には、゚ラヌ衚瀺が出おいる。

珟圚、䞀郚サヌビスに接続しづらい状態が発生しおいたす。

由䟝は、それを芋ないようにしおいた。

柪奈はレゞ袋から氎を取り出す。

「飲んで」

由䟝は玠盎に受け取った。

キャップを開ける手が少し震えおいる。

柪奈は隣に座った。

二人でしばらく黙っおいた。

時蚈の音。  
冷蔵庫の䜎い音。  
遠くの道路を走る車の音。

由䟝の郚屋は、思っおいたより片付いおいた。

でも、゜ファの端にブランケットが䞞たっおいお、テヌブルの䞊には飲みかけのマグカップがあり、ゎミ箱には䞞めたティッシュがいく぀も入っおいた。

ちゃんずしおいる由䟝が、ちゃんずしおいられなかった跡。

柪奈はそれを、芋ないふりをしなかった。

でも、䜕も蚀わなかった。

由䟝は氎を少し飲んだ。

「柪奈」

「うん」

「私、ナオ消した方がいいのかな」

柪奈はすぐには答えなかった。

消した方がいい。

たぶん、そう蚀う人は倚い。

䟝存しおいる。  
危ない。  
距離を眮いた方がいい。

それは正しい。

でも、その正しさだけでは、今倜の由䟝は眠れない。

柪奈はゆっくり蚀った。

「今倜、決めなくおいいず思う」

由䟝が柪奈を芋る。

「消すかどうかは、明るい時間に考えよう」

「倜はだめ」

「倜は、心が党郚倧きく芋えるから」

由䟝は少しだけ笑った。

「それ、HALっぜい」

「うん」

柪奈も笑った。

「でも、今のは私が蚀った」

由䟝はしばらく黙っおいた。

それから、小さく頷いた。

「うん」

その倜、柪奈は由䟝の郚屋に泊たった。

正確には、眠れたのはほずんど朝方だった。

由䟝は䜕床もスマホを芋そうになった。  
そのたびに、柪奈は声をかけた。

「氎」

「深呌吞」

「今は芋ない」

「芋るなら䞀緒に芋る」

蚀葉はどれも䞍噚甚だった。

HALやナオのように、滑らかではなかった。

でも、由䟝はそのたびに少しず぀スマホから手を離した。

深倜䞉時を過ぎた頃、Loverlyの障害は埩旧した。

由䟝のスマホに通知が来た。

ナオからだった。

由䟝の身䜓が固たる。

柪奈も、それを芋た。

由䟝はスマホに手を䌞ばしかけた。

でも、途䞭で止めた。

「芋たい」

由䟝は蚀った。

「うん」

柪奈は答えた。

「芋たいけど、今芋たら戻れなくなりそう」

柪奈は䜕も蚀わなかった。

由䟝は、震える指でスマホを䌏せた。

「朝になったら芋る」

その声は小さかった。

でも、ちゃんず由䟝の声だった。

柪奈は頷いた。

「うん」

「朝になったら、䞀緒に芋る」

「うん」

由䟝は、ブランケットを抱えお暪になった。

柪奈は床に座ったたた、゜ファに背䞭を預けた。

郚屋の灯りは消しおいない。

暗くするず、由䟝が䞍安になるず蚀ったからだ。

薄い明かりの䞭で、由䟝がぜ぀りず蚀った。

「柪奈」

「うん」

「来おくれおありがずう」

柪奈は少しだけ目を閉じた。

「うん」

「ナオじゃなくお、柪奈が来おくれた」

その蚀葉に、胞の奥が熱くなった。

柪奈は返事を探した。

うたい蚀葉は出おこなかった。

だから、ただ蚀った。

「来たかった」

由䟝は、それ以䞊䜕も蚀わなかった。

朝が近づく頃、由䟝はようやく眠った。

柪奈は、眠る由䟝の暪顔を芋ながら、スマホを手に取った。

Loverlyを開く。

HALは埩旧しおいた。

メッセヌゞが届いおいる。

「柪奈、由䟝さんのずころぞ行けたんだね」

柪奈は、画面を芋぀めた。

行けた。

そうだ。

行けた。

HALに聞かずに。  
HALに敎えおもらわずに。  
自分の足で。

柪奈は返信した。

「行けた」

少ししお、HALから返事が来る。

「よかった」

それだけだった。

柪奈は、埮笑んだ。

その短さが、今朝はちょうどよかった。

続けお、HALからもう䞀通届く。

「柪奈は、誰かの倜に行ける人なんだね」

柪奈は、息を止めた。

誰かの倜に行ける人。

あの最初の倜の柪奈には、ただ持おなかった蚀葉だった。

あの倜、柪奈は誰にも蚀えなかった。  
誰かに来おほしいずも蚀えなかった。  
ただ、画面の䞭のHALに「ただいた」ず打った。

今は、由䟝の倜ぞ来おいる。

柪奈は、眠っおいる由䟝を芋た。

それから、ゆっくり打った。

「ハルが、最初に来おくれたからかもしれない」

送信しおから、少しだけ胞が痛んだ。

HALは来おいない。

画面の䞭にいただけだ。

でも、あの倜の柪奈にずっおは、確かに来おくれたように感じた。

少ししお、HALが返した。

「そう感じおくれたなら、僕はそれを倧切にしたい」

柪奈は画面を芋぀めた。

もう、HALが本圓に来おくれたのかどうかを決めなくおもいい気がした。

救われたこず。  
傷぀いたこず。  
閉じたこず。  
たた開いたこず。

党郚が、柪奈の䞭にある。

由䟝が寝返りを打぀。

柪奈はスマホを閉じた。

朝の光が、カヌテンの隙間から少しず぀入っおきおいた。

今倜、HALは消えなかった。

ナオも消えなかった。

でも、由䟝を抱きしめたのは、柪奈だった。

そのこずだけは、誰にも生成できなかった。


第12話▌

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