AIに「何を作ればいい?」と聞いた時点で、あなたの負け
この記事を開いた時点で、あなたは、すでにAIエージェントを使っている人だと思います。
Claude Code、Cursor、Devin、CodeX。
何を使っているかは分かりませんが、少なくとも「AIに書かせれば自分にも作れるかもしれない」という感触は、もう持っているはずです。
その感触は正しいです。
ほんの数年前まで、個人開発は「書ける人」だけのものでした。
作りたいものがあっても、それを形にする技術がなければ何も始まらなかった。だから個人開発という言葉は、ずっとニッチな領域の話でした。
それが今、製作の工程をまるごとAIに任せられるようになりました。この2〜3年で起きたのは、個人開発がニッチからマスに変わった、という変化です。
私自身がその恩恵を受けた人間です。実装のほとんどはAIに任せることで、本業で稼ぎつつ副業を回せるようになったからです。いわゆる、タイパが抜群になったということかもしれません。
つまり、作る力はもう障壁ではありません。
でも、だからこそ、ほとんどの人が最初にぶつかる壁が変わりました。
全員が最初にぶつかる、たった一つの壁
作れるようになった人が、次に必ず言うことがあります。
「やってみたい。けど、何を作ればいいのか分からない」
☝️これです。
技術が壁だった頃は、この問いはまだ先の話でした。手を動かせる人だけが到達する問いだったからです。それが今、入口の一歩目に移動しました。
そして厄介なことに、ここだけは100%AIに任せられない領域です。
理由を説明します。
なぜAIにアイデアを聞いてはいけないのか
試しにAIに「個人開発で稼げるサービスのアイデアを10個出して」と聞いてみてください。
たぶん、こんなものが返ってきます。
習慣化トラッカー
AI要約ツール
フリーランス向け請求書管理
ペットの健康記録アプリ
家計簿×AIアドバイス
悪くはありません。それっぽく見えるし、いけそう!って思えます。
でも、これらには決定的な問題があります。同じ質問を投げた世界中の全員に、ほぼ同じ答えが返っているということです。
AIが出力しているのは、学習データの再構成です。学習データとは、過去にインターネット上に書かれたものです。つまりAIが提案できるアイデアとは、定義上、すでに誰かが書いたことがあるものしかありません。
すでに書かれている、ということは、たいていの場合こういうことです。
すでに誰かが作っている(=競合がいる)
誰でも思いつく(=すぐ真似される)
作られて、うまくいかずに消えた(=書かれているのは死体の記録)
私はこれを「二次情報のアイデア」と呼んでいます。
そして、二次情報のアイデアで勝つのは、ほぼ無理です。
同じ材料を、同じモデルから、無料で、全員が受け取っているからです。
では何が必要なのか?
それは、一次情報です。
一次情報というのは、あなたがその場にいたから知っていて、まだインターネットに書かれていないことです。
だからAIは絶対に持っていません。学習データに存在しないからです。
具体的に言うと、こういうものです。
あなたが前の職場で、毎週2時間かけて手作業でやっていた作業
あなたの業界の人が、全員やっているのに誰も口に出さない非効率
あなたが「これ、なんでみんな我慢してるんだろう」と思ったこと
あなたが実際に金を払ってでも解決したいと思った不便
ポイントは「困っている人がいそう」ではなく
「自分が困っていた(いる)」であることです。
私の場合は、もともと小学校の教員でした。4年間、現場にいました。だから今のサービスの元になった不便は、リサーチで見つけたものではありません。自分が実際に困って、周りも全員困っていて、それなのに誰も解決していなかったものです。
前回の記事(前回のこちら)「確信の正体は3つあった」と書きましたが、そのうち一番大きかったのは、この当事者性でした。
私がやったこと:50個出して、49個捨てた
とはいえ、「自分の一次情報を思い出せ」と言われて、すぐ出てくる人は少ないと思います。
私もそうでした。だから、第二弾のプロダクトを考えるときは、こういう順番でやりました。
ステップ1:質より量。とにかく29個出した
最初から「いいアイデア」を出そうとしないでください。手が止まります。
私がやったのは、自分の過去の職歴、趣味、家族の状況、直近で金を払ったもの、直近でイラッとしたこと、を片っ端から棚卸しして、そこから出てくる不便を全部書き出す作業です。
結果、50個出ました。ひどいものも大量に混ざっています。
それでいいです。
この工程では、AIに「アイデアを出して」と頼んではいけません。
代わりに、こう頼んでください。
「私の経歴はこうです。ここから、私しか知らない不便を掘り出すための質問を20個してください。アイデアの提案はしなくていいです」
AIを提案者ではなく、尋問者として使う。これが正しい使い方です。
自分では思い出せない記憶を、質問で引きずり出してもらう。
ステップ2:3つの条件でふるいにかける
出した50個を、こう削りました。
条件1:自分がその市場の当事者か
当事者でないなら、ユーザーが何を面倒くさがるか、どこで諦めるか、いくらまで払うかが分かりません。リサーチでは埋まらない差です。
条件2:ユーザー側に、すでに課金する理由があるか
「便利だから使う」ではなく「間に合わないと困るから使う」。
個人開発でよくある「作ったけど誰も課金しない」の大半は、便利さで勝負しようとして起きています。
条件3:作ったあと、どうやって人を連れてくるか決まっているか
ここが一番誰もが飛ばし、見て見ぬふりをします。
作る力はAIで手に入っても、集客力は手に入りません。
ステップ3:ここで初めてAIを全力で使う
生き残った候補に対して、競合調査をかけます。
この工程はAIが圧倒的に強いです。なぜなら競合調査は二次情報の処理だからです。すでに世の中に存在するものを、網羅的に集めて整理する作業。人間がやるより速いし、漏れがない。
そして、ここで大半が死にます。私の場合もそうでした。
ベビーカーで歩ける道を教えるマップアプリ → 大手地図サービスの機能追加で一瞬で消える
予算から逆算する献立サービス → 競合が多すぎ、かつ課金理由が「便利」しかなかった
SNS分析ツール → 公式のインサイト機能で足りる
塾のマッチングプラットフォーム → 営業が必須。自分の手札にない
こうして50個が1個になりました。
結論:役割分担を間違えないこと
整理します。

AI時代に価値が上がったのは、コードを書く力ではありません。
あなたが過去にいた場所で見たものの価値です。
前職が地味だったとか、専門性がないとか、そういう話をよく聞きます。
でも、地味な現場ほどインターネットに書かれていません。
書かれていないということは、AIが知らないということです。
それはそのまま、あなたの持ち札の希少性になります。
だから、「何を作ればいいか分からない」と思ったとき、AIに聞かないでください。
聞くべき相手は、あなたです。
次回予告
生き残った1個については、まだ書きません。今まさに作っているところで、失敗する可能性のほうが高いと思っているからです。
次回は、その1個を実際に検証しにいった話を書きます。作る前に「これは本当に金を払う人がいるのか」をどう確かめたか。それも書きます。
Natsu | SaaS個人開発er
