満州から見た中国の近代。『張作霖』澁谷由里
本書は、出版直後からおもしろいと評判だったので、仕事が一区切りついた時間にほぼ一気読み。冒頭の与謝野晶子夫妻が爆殺事件に行き合うところから、続きがとにかく気になる展開です。
中国の近代史を書いた本の何が大変って、日本の戦国時代の10倍、いろんな軍人や政治家が入れ替わり、立ち代わり、裏切ったり、寝返ったり、反旗を翻したり、買収されたりすることです。婚姻関係や同郷の他に、三国志みたいな「昔の仲間」や「恩人」、「兄弟分」、「科挙で同期」とかもあります。
軍人は、これに加えて暗殺したり、騙したり、危なくなったら下野して国外逃亡するし、いつの間にか戻ってきて、誰かに味方して復活したり。政治家は暗殺しないけど、暗殺される側ですし、そうでなくても追放されるし、下手すると処刑されるし。海外にも亡命します。
中国の話なのに、中国だけじゃなくて、イギリスとかロシア(or ソ連、コミンテルン)とか、アメリカとか、当然日本も介入してきます。ややこしいったら、ありません。
そんな、やたら読者泣かせの、しかも込み入った中国の近代史の前半を、張作霖中心に描いたのが、この本。張作霖は満州(中国東北地域)出身で、父親ははやくに殺された貧しい生活から、下剋上みたいな馬賊の世界をのし上がって、中国を統一する手前…くらいまでいった軍人・政治家です。
個人的には、東北視点が新鮮でした。大体の中国近代史を扱った本は、革命派の孫文とか、中華民国政府の蒋介石を中心に描くので、だいたい南の視点です。もしくは袁世凱とかの北京視点。それを、張作霖中心の東北視点からみると、こんな感じなんだなってのが、おもしろかったです。
あと、孫文が予想以上に、あちこちかき回していてすごかった。「敵の敵は味方」、「支援してくれれば味方」っていうのを、辛亥革命前後から30年くらい、ずっとやり続けてて。
この本は張作霖が中心なので、彼が爆殺された時点で話が終わります。中華民国の前半って感じですね。残りの半分は、息子の張学良の時代になります。
張学良も、澁谷さんの視点で読んでみたいです……が、その後は日本が「満洲国」建国しちゃうんで、張学良は東北視点ではいられなくなるんでした。外遊したり、共産党討伐で西安に行かされたり。そして、蒋介石に「兵諌」して、その後はずっと…。
ともあれ、澁谷さんは浅田次郎作品の『中原の虹』とか『マンチュリアン・レポート』ほか、小川哲作品にも関わっておられるそうなので、ファンの方にも、そうでない方にもおすすめです。
同時代の日本軍がどんなだったかを知るには、こちら。いろんなことが、全部違うけど、張作霖爆殺のあたりは、本当に対照的です。
中国を南を中心にみた歴史はこちら。北からいつも軍事的・政治的に押されて、より南に、海を越えても遠心力が働くところが南という感じ。あわせて読むと、陸続きの大変さがわかります。日本って、島国で本当によかった…
