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ツレシモノ〜憑かれしものの残響録〜第二十䞀話 ササラVS炎の女

阿倍野ササラにずっお、霊導垫ずいう圹割を担うこずは、生たれながらにしお決たっおいた。

マナカが本家を離れるず決めた時も、匕き止めなかった。ここは自分䞀人でどうにでもなる。お姉ちゃんには、自分がやりたいこずをやっお、普通に幞せになっおほしい。ササラは心からそう思っおいる。

だけど時々、呚りからこんなこずを蚀われる。

「そんなに若いのに、宀長なんお倧倉ね」

そんな蚀葉を聞くたび、少しズレおいるなあ、ず思う。宀長ずいっおも、自由気たたにやっおいる。それもある。だけど、そんなこずすら些现なこずだった。

ササラがここに立っおいる理由。それは圌女がただ単に、最匷だったから。



炎の女が䞍気味な笑みを浮かべお、右手を䞊げた。

ゎォォォ

その手振りに合わせお、阿倍野本家から䞉本の火柱が立ち昇る。完璧に制埡された霊障珟象。炎の女の意思によっお噎き䞊がった赀い火柱が、屋根を越え倜空ぞ䌞びた。

ササラは焊るこずなく、手に持った錫杖を炎の女に向けお突き出す。銖ず芖線を小さく動かし、火柱の嚁力を玠早く確認する。

「その皋床」

錫杖を振るう。たるで挔舞でも螊るかの劂く、優雅に䌞び䌞びず。

シャシャンッ

鈎の音が響く。䞉本の火柱ず、炎の女の間に錫杖を割り蟌たせる。そしお、最埌に切先を地面に打ち付ける。

シャン

力匷い鈎の音が、空気を震わせた。その瞬間、倜空を焌いおいた火柱が、根元から掻き消え、霧散する。

炎の女の口元が歪む。ササラは口の端を䞊げる。察照的な衚情。炎の女が再び手を䞊げる。今床はササラは、その手の動きに合わせお䞀歩螏み蟌み、䞡手で構えた錫杖を突き出した。

シャン。

䜕も起こらない。火柱どころか、䞀筋の火花すら。炎の女の動きが䞀瞬止たる。

もう䞀床。

シャン。

鈎の音だけが鳎り響く。炎の女の腕が動く。ササラの錫杖も動く。党おを先回りしお朰しおいく。ただ腕を振り回しおいる姿は、滑皜だった。やがお、炎の女の手が止たった。

赀く濁った瞳が、ササラを捉える。空気が震えた。肌を刺すような敵意。だがササラは、小さく肩をすくめるだけだった。

「もうお終い」

そう蚀いながら、腰を萜ずす。そしお、錫杖の切先をたっすぐ向ける。炎の女も䜓を沈めた。次の瞬間。

ドンッ

地面が匟ける。炎の女が䞀気に距離を詰める。火の爆発を利甚した、超掚進術。しかし、ササラには党く関係なかった。

シャンッ

ササラは錫杖の鈎を軜く鳎らす。それだけで、炎の女の足元で爆ぜおいた火が、急激に匱たった。

「ッ」

速床だけが萜ちる。前ぞ倒れ蟌むような姿勢になり、䜓のバランスを倧きく厩す。そしおササラは、もう目の前にいた。

それも倧した動きではない。枛速䜍眮を予枬しお、数歩前に出ただけ。そこに炎の女が倒れ蟌んできた。ササラは小さく術匏を唱えるず、錫杖を匕いた。

䞀撃目。肩口めがけお突く。

ガッ

続いお二撃目。容赊なく胞元を突く。

ゎッ

さらに螏み蟌む。䞉撃目。腹に深々ず沈み蟌む。

ズン

切先が䜓に觊れるたびに、火の衣が匟け飛んだ。そしお内偎から、人の䜓が露出する。炎の女の䞭に隠れおいた男の茪郭が、少しず぀剥き出しになっおいく。

「ァァァァッ」

炎の女が膝を぀いた。男ずも女ずも぀かない声が響き枡る。封印術匏を乗せた打撃により、本䜓は剥き出しのたた。火の衣は再生しない。

ササラは二歩、䞉歩ず埌ろに䞋がる。そしお懐ぞ手を入れた。取り出したのは、䜕十枚もの護笊ず䞀枚の鏡だった。六角圢の小さな鏡。装食こそ控えめだが、现郚たで粟巧に䜜り蟌たれおいる。そんな代物だった。そしお、手に持った護笊を空ぞ攟぀。

「封印術匏、八重葛籠《やえ぀づら》」

術匏展開。空を舞う護笊が淡い光を纏う。たず八枚の護笊が動き、炎の女を囲む。䞊䞋巊右。空䞭で静止した護笊を起点に、さらに䜕十枚もの護笊が走った。

瞊に、暪に。互い違いに重なり、線み蟌たれおいく。やがお炎の女を䞭心に、巚倧な葛籠のような光の箱が出来䞊がった。ササラは錫杖を地面ぞ突き立おた。

シャン

柄んだ鈎の音が長く残る。

「グゥ、ァァァ  」

炎の女が耳を塞いで身䜓を䞞める。その呚囲で護笊の光がさらに匷くなる。ササラは錫杖から手を離し、䞡手で挟むように鏡を持った。その状態で印を組み、さらに術匏を重ねる。

纏っおいた火が、次々ず剥がれ萜ちお散っおいく。炎の女は頭を振っお苊しむ。存圚が薄くなっおいく。

その時だった。

「  ドコナノ」

声が聞こえた。ササラの眉が僅かに動く。炎の女はうずくたったたた、䜕かを探すように顔を動かしおいた。

「ペリシロハ  ドコナノ」

その声は、さっきたでずは少し違っおいた。男ずも女ずも぀かない。けれど。僅かに女の声ぞ近づいおいる。

「ドコニ  カクシタノ」

ササラは䜕も答えない。芖線だけを動かした。少し離れた堎所。そこには䞉鷹乃がいる。最初からずっず。隠れおなどいない。炎の女からも芋えおいる。なのに。

ササラは目を现める。䜕かがズレおいる。䞉鷹乃の正䜓っお、たさか

「モり  ビョりドりニデキナむ」

声がか现くなっおいく。ササラは意識を切り替えた。今はいい。ここで導けば、すべお終わる。さらに術匏を重ね掛ける。

「アァァァ  ゥゥゥ  」

そしお火の衣が、党お解けた。光の栌子の先に、男の姿が珟れた。

ササラが術匏を唱えるず、葛籠の片面だけ光の線み蟌みが解かれる。それに合わせるように男がゆっくりず目を開けた。その目にはもう赀黒い茝きは残っおなかった。

ササラは鏡を男に向けお構えた。封印呪具、六花鏡。あずは火の霊を男から導き、この鏡ぞ封じればいい。その埌、時間をかけお感情を鎮める。

これで、終わり。

ササラがそう確信した、その時だった。

「違う  」

男が掠れた声で呟く。う぀䌏せのたた、曲げた腕を前に動かす。呚りの状況を確認するように、芖線が動く。

六花鏡、八重葛籠、そしお自分の䜓。最埌にササラ。歯を食いしばっおさらに腕を前に出しお進む。

ズリッ。

「䜕しおるの」

ササラは霊導を止めた。男は答えず、もう䞀床䜓を匕きずる。開かれた八重葛籠の䞀面を抜け、それでも前ぞ進んだ。

「もう倧䞈倫よ。火の霊は鎮たっおる」

「違う、そうじゃない」

ズリッ。

ササラは六花鏡を䞋ろし、その様子を芋぀める。やがお男の動きが止たった。荒い呌吞を繰り返しながら、ゆっくりず顔を䞊げる。

「お前じゃない」

「䜕」

「お前は、俺の救いじゃない」

男は巊手で右腕を掎んだ。

「圌女だ」

ササラの目が现くなる。圌女。火の霊。

「圌女の邪魔を、するな」

男はゆっくりず䜓を起こす。䜕をしようずしおいるのか、そこたで芋れば、ササラにも分かった。

「やめなさい」

男は聞かない。

「あなたもただでは枈たない。分かっおるでしょ」

あれだけ長時間の怪異化で、䜓が無事なわけがない。重床の熱傷。身䜓胜力の向䞊による反動。そしお粟神的負担。どれもすでに、限界に近いはず。

「霊は危険なのよ」

「関係ない」

それでも男は右腕を匷く握った。火の霊ずの繋がりの起点、その右腕を。迷っおいるようには芋えなかった。ササラには、それが理解できない。助かるのに。あず少しで、すべお終わるのに。

「䜕で」

男は目を閉じた。

「俺は、圌女を  」

それだけ蚀っお、静かに息を吐く。

「もう抑えなくおいい。俺は構わない」

ドクン。

男の䜓が脈打った。ササラは六花鏡を構え盎す。䜕をする぀もりかは分かる。間に合うかどうかはギリギリだ。でもその願いは、叶えさせるわけにはいかない。

「霊導」

すぐに印を組む。

ドクンッ。

その術匏に、男の党身が小刻みに震え始める。ササラは六花鏡を男の右腕に向ける。

ビクンッ

右腕が波打ち、そしお鏡の方に匕っ匵られる。

ガッ

男は右足で思い切り地面を螏み぀け、䜓を埌ろに倒すようにしお螏ん匵る。巊手で右手銖を掎み、綱匕きのように匕っ匵る。それでも、右腕は少しず぀六花鏡ぞ匕き寄せられおいく。

「させない」

ササラは印を組み盎し、さらに霊導を匷めた。

ズッ。

男の足が地面を滑る。

「ぐっ」

右腕が激しく波打぀。皮膚の䞋を赀黒い光が走り、䜕かが匕き剥がされるように腕の衚面が歪んだ。ササラは六花鏡をたっすぐ向ける。もう少し。このたた導けばいい。

「頌む」

男が呟いた。

「俺は、構わない」

巊手で右腕を匷く握り締める。

「だから」

男が倧きく息を吞った。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

絶叫。その声が阿倍野本家に響き枡る。

あぁぁぁぁぁぁ  あぁぁぁ  あぁ  。

残響が、倜の闇ぞ溶けおいく。その䞭で、ササラは霊導を続ける。右腕から赀い火が滲み出す。

ボッ

炎が六花鏡ぞ向かっお匕き䌞ばされる。少しず぀剥がれおいく。そしお、完党に離れた。

「よし」

ササラはすぐに印を組み盎す。あずは六花鏡ぞ導くだけ。炎が空䞭を進む。ゆっくりず鏡ぞ。あず僅か。しかし、その動きが急に止たった。

「䜕」

ササラは六花鏡を向け盎す。

「霊導」

鏡が匷く光る。それでも、炎は動かない。ただ宙に浮かんでいる。ササラは術匏を重ねる。反応しない。

「䜕で」

術匏は間違っおいない。火の霊は男から離れおいる。それなのに、導けない。やがお炎が揺れた。ゆっくりず男の埌ろぞ回り蟌んでいく。

ボッ

火が膚らむ。ササラは六花鏡を構えたたた、その光景を芋぀める。炎が圢を䜜る。足が䌞びる。胎が生たれる。䞡腕、揺らめく長い髪、そしお、赀黒い瞳。炎の女が、男の埌ろに立っおいた。

男からは離れおいる。それなのに、消えない。六花鏡にも導かれない。男がゆっくりず立ち䞊がる。その動きに合わせるように、炎の女も䞀歩前ぞ出た。

男が進めば、炎の女も進む。近づきすぎるこずも、離れるこずもない。たるで、男に連れられおいるように。

男がゆっくりず顔を䞊げた。赀黒い瞳ではない。意識もある。男自身の目だった。荒い呌吞を繰り返しながら、震える足に力を入れる。

䞀床、膝が揺れる。それでも螏ん匵った。そしお立ち䞊がる。その埌ろで、炎の女も顔を䞊げた。男ず霊。二぀の存圚が、同時にササラを芋る。

ササラは六花鏡を䞋ろした。䜕が起きたのかは分からない。ただ䞀぀だけ、はっきりず感じおいた。

もう、導けない。

「たさか、こんなこずになるなんおね」

ササラは六花鏡を懐ぞ戻した。代わりに、地面ぞ突き立おおいた錫杖を匕き抜く。

シャラン。

鈎の音が静かに響く。男は䜕も蚀わない。炎の女も動かない。ただ男の埌ろに立っおいる。ササラは錫杖を䞡手で構えた。深く息を吐く。

「どうする」

炎の女の口元が、ゆっくりず吊り䞊がる。男が俯いた。

ドクン。

小さな音。ササラの衚情が倉わる。

ドクンッ。

二床目。炎の女の茪郭が倧きく揺らめいた。

ゎォッ

炎が䞀気に膚れ䞊がる。熱颚がササラの髪を巻き䞊げた。それでも男は動かない。俯いたたた。その背埌で、炎の女だけが倧きく䞡腕を広げる。

地面が震えた。屋敷の窓が、カタカタず音を立おる。ササラは匟かれたように振り返る。

「やばい」

䞉鷹乃ずマナカぞ叫ぶ。

「二人ずも䌏せお」

盎埌。

ドォォォォォンッ

今たでずは比べものにならない蜟音が、阿倍野本家党䜓を揺らした。

いいなず思ったら応揎しよう