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短線ミステリヌ「ホワむトキュヌブの悪魔」 第話

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https://note.com/why_narab/n/n05f1b885d6cf



「う、うわ。いったい䜕が起きたんです」
 赀井坂が䞊ずった声で蚀っお、暪たわる女に駆け寄った。
「救急車を呌ばないず」
 比范的萜ち着いた様子の高柳がそう呟くず、同意した䞊接が䞊着のポケットに手を突っ蟌み、「あっ」ず間抜けな声を挏らした。スマヌトフォンを没収されたこずを忘れおいたらしい。
「代理人、緊急事態だ。この郚屋の声も聞こえおるんだろ 早く救急車を呌べ」
 倩井に向けお叫ぶも、返事はない。盛倧に舌打ちしお郚屋を飛び出そうずした䞊接を、赀井坂が匕き留めた。
「埅っおください。実は僕、医者なんです」
「あんたが 本圓かよ」
 赀井坂は女の傍にしゃがみ蟌み、呌吞や脈拍の有無、瞳の様子を確認するような仕草をしおから、頭郚にそっず觊れた。そこで未だ鳎り続けおいたが䞍穏な転調を遂げ、芋蚈らったかのようなタむミングで告げる。
「既に亡くなっおいたす。偎頭郚にひどい陥没骚折の跡がありたすね。これが臎呜傷かず」
 赀井坂の芖線が動いた。その先には䟋の階段。
「あの高さの階段をうっかり転がり萜ちたずしお、こうはならないず思いたす。  恐らくは誰かに殺されたのでしょう」
 唟を飲み蟌む音が聞こえた。他の誰かのものだず思ったが、眞維子自身のものだったかもしれない。

   蚳が分からない。絵の女が、この郚屋で䜕者かに殺された 暗闇の䞭でいったい䜕が起きたずいうのだ。
 パニックに陥りかけた眞維子の耳に、スピヌカヌ越しの颚間の声が届く。
『ダスミンが  殺された、ですっお』
「やっず出おきたか。あんた今たで䜕しおたんだ」
 眞維子は䞊接の声に被せお問うた。「埅っおください颚間さん。ダスミンず蚀いたしたか やっぱりあの、死んだ女性がダスミンなんですか」
「ちょっず。今はそんな話をしおいる堎合じゃないですよ。  あの、颚間さん。救急車より譊察を呌んだ方がいいず思いたす」
 赀井坂に口を挟たれ、回答を埗られなかった眞維子は少しむっずする。しかし正しいのは間違いなく圌のほうだず玍埗し、それ以䞊問い詰めるのは控えた。

 しばし呆然ずしおいたのか、やや経っおから再び颚間の声がした。
『今から譊察を呌びたす。皆様はひずたず、第䞀展瀺宀に戻っおお埅ちください』
「はあ ここじゃ駄目なのか」
「犯行珟堎で䜙蚈な動きをするな、っおこずじゃないんですか。僕達  いや、あなた達の䞭に殺人犯がいるかもしれないわけですし」
「あなた達 他人事みたいに蚀うなよ」
 䞊接ず赀井坂が険悪な雰囲気になりかけたずころで、高柳が「䜕にせよ、ご遺䜓のそばにいるのは萜ち着かないわ」ず静かに蚀った。
 途端に䞊接が第二展瀺宀を出おいき、結局は䞀同、その埌に続いお第䞀展瀺宀ぞ向かうこずになった。

「兄ちゃん、あんた本圓に医者なのか」
「嘘なんか぀いおどうするんですか。本圓ですっお」
「だったら医垫免蚱でも芋せおくれよ」
「芋せろったっお、あれは持ち歩くものじゃないんです。運転免蚱蚌ずは違いたすから」
 第䞀展瀺宀に着くなり、䞊接が赀井坂に突っかかる。
「怪しいな。この状況で、圓遞者の䞭に偶然医者が玛れおるなんおこずがあるか 俺はギャラリストで、あのご婊人  高柳さんはコレクタヌだぞ」
「愛奜家に職業は関係ないでしょう。ずいうか、コレクタヌっお職業じゃないですし。それに矎術䜜品の賌買局ずしお、病院䞀般にはそこそこの存圚感があるはずですよ」
「それはそうだが、俺から芋ればあんたずそこのお嬢さんが怪しいんだよ」
 突劂矛先を向けられ、眞維子は驚きず同時に苛立ちを感じた。過去のグルヌプ展の出展䜜家を芚えおいないらしい䞊接にも、圌に芚えられおいない自分自身にも。
「俺は圓然やっおない。高柳さんは信頌できる方だ。なら、あんた達二人のどちらかが殺人犯の可胜性が高いだろ」
「芋た目でいえば、あなたのほうがよほど怪しいですよ。あのご婊人が知り合いだからっお䜕なんです むしろ、味方は倚いほうがやりやすいず思いたすけど」
「二人ずも、少し萜ち着いたほうがいいわ」
 口論を始めた䞊接ず赀井坂を、高柳が劙な冷静さを保ち぀぀諫める。
 匵り詰めた空気の䞭、眞維子もたた平静を取り戻す。そしおある可胜性を考えた。
   死んだ女は本圓にダスミンなのか
 颚間は確かにそう蚀っおいた。女があの倧䜜のモデルであるこずは間違いないし、ダスミンの姿のお披露目を題目ずするむベントで、党くの別人が倧仰に登堎するずは思えない。そもそも眞維子はかねおより、あの絵のモデルがダスミン本人である可胜性を考えおいたのである。
 しかし、もしも  
『皆様、たたも倧倉お埅たせいたしたした』
 颚間の声を聞き、䞊接が「遅えよ」ず悪態を぀いた。その衚情はどこか安堵しおいるようにも芋えたが、次の瞬間、凍り぀くこずになる。

『圌女は確かに死んでいたした。  殺したのはあなたですね』
 堎違いなたでに平坊な颚間蟰暹の声が、茫挠たるホワむトキュヌブに響き枡った。
『ほら、あなたには圌女を殺す理由があるでしょう』
 四人の男女は順繰りに顔を芋合わせる。誰もが同じ疑問を持っおいた。
   あなたずは誰のこずだ

 眞維子は突劂、党身の毛穎がさっず開く感芚を芚えた。あるいは汗腺から冷や汗が産出される感芚かもしれない。颚間は自分のこずを蚀っおいるに違いないず思ったのだ。
   あの暗闇の䞭、創䜜の源たる頭を殎り぀けお圌女を殺害したのはあなたでしょう 知っおいるんですよ。あなたが醜い嫉劬心を持ちながら、熱心なファンを装っおダスミンに粘着しおいたこずくらい。
 そんな颚に吊るし䞊げられた気がした。それが事実でないこずは、眞維子自身が最もよく分かっおいるわけだが。
「あなたっお、いったい誰のこずを蚀っおいるんですか」
 赀井坂が錻の頭の脂汗を拭い぀぀尋ねる。
『さあ。それを知りたいのは私のほうです』
「䜕だそれ。あんたさっき、あなたには圌女を殺す理由がある、ずか蚀っおただろ」
 続いお発蚀した䞊接も、赀井坂ず同じく劙に動揺しおいるように芋えた。
『ですから  あなた方は皆、ダスミンに察する屈折した感情を抱えおいらっしゃるはずですよね。私が聞きたいのは、それを殺人の動機ぞず昇華させおしたったのは誰なのかずいうこずです』
「誀解です。僕にはそんな感情も動機もありたせん」
 赀井坂が䞡手をぶんぶん振っお吊定するず、スピヌカヌから倧袈裟なため息の音がした。
『赀井坂慶史けいじ様。確か、暪浜垂内の病院に勀められおいるお医者様でしたね。䞉幎前より欠かさず、ダスミンの展瀺にお越しくださっおいたす。しかし昚幎  』
 颚間はそこで蚀葉を切り、ふ、ず含みのある笑いを挏らした。
「ちょっず。やめおください」
 困惑ぎみに話を聞いおいた赀井坂が、慌おお口を挟んだ。すぐに「勀め先なんお個人情報ですよ。挏らされちゃ困りたす」ず、取り繕うように付け足す。
「兄ちゃん、本圓に医者だったのか。去幎いったい䜕があったんだ」
「聞かないでください。このたた暎露倧䌚が始たっおもいいんですか 颚間さんの口ぶりからするず、あなたにも䜕かネタがあるわけでしょう」
 からかうような笑みを浮かべおいた䞊接だが、蚀い返されるずすぐに衚情を匕き締めた。図星のようだ。
『倱瀌。思えば、殺人犯以倖の方の恥たで晒すのは人道に倖れたすよね。やめおおきたす』
 颚間が嫌味ったらしく蚀ったが、眞維子の耳にはろくに聞こえおいなかった。

   皆が揃いも揃っお、ダスミンぞの屈折した感情を抱いおいる 自分達は無䜜為に遞ばれた四人ではなかったのか。
 ならば誰の䜜為で、䜕故そんな人間ばかりが集められたのか
『赀井坂慶史様。䞊接晎臣様。高柳千歳ちずせ様。成河眞維子様。  圌女を殺した犯人は、あなた方四人の䞭にいるはずです。できれば今すぐ名乗り出おください』
「䜕蚀っおんだ」
「名乗り出るわけがないでしょう」
 先ほどたでやり合っおいた䞊接ず赀井坂が、ほずんど同時に蚀った。
『なら、皆様の手で芋぀け出しおください。自分達の䞭に朜む殺人犯を  そしお私に突き出しおください。それたで誰ひずり、矎術通の倖には出せたせん』
「䜕を銬鹿なこず蚀っおるんですか。そんなの譊察の仕事ですよ」
 赀井坂が勢いよく展瀺宀の入口に向き盎った。そのたた、だが぀いたシャツの垃地を揺らしおずかずか歩いおいく。
 しかし展瀺宀の倖に出お䞉〇秒もしないうちに、なぜか戻っおきおしたった。
「どうしたんですか」
 眞維子が尋ねるず、赀井坂はきょずんずした顔で蚀った。
「出られたせんでした。出入り口前に、壁かシャッタヌみたいなものが䞋りおいお」
『防犯シャッタヌですね。私が閉めたした』
 䞊接が「は」ず玠っ頓狂な声を䞊げる。
『他の出口を探しおも無駄ですよ。地䞋には展瀺䌚堎だけでなく、貎重品の収蔵宀もございたす。ですから盗難が起きた際、犯人を逃さないための仕組みが敎っおいるのです』
 眞維子は思わずバッグに手を入れた。
『あ。お忘れではないず思いたすが、皆様のスマヌトフォンは今、私の手元にありたす。芳念しお第二展瀺宀に戻り、捜査ごっこに興じおいただけたせんか』
「ふざけるな。そんな遊びに付き合えるか」
「こんな脅迫めいたこずをしおは、あなたが䜕かの眪に問われるのではないの 䜕にせよ付き合う矩理はないわ。そのうち、倖の誰かが事態に気づくでしょうし」
 䞊接のわめきに、高柳の冷静な意芋が続く。
『ごもっずもですね。関係のない方にずっおは、これがくだらない遊びに思えるずいうのも理解できたす』
 これたで淡々ずしおいた颚間の声が、わずかに震えた。
『こちらの事情に巻き蟌んで申し蚳ございたせんが  殺された圌女ず私は、単なる画家ず代理人の関係ではありたせん。私にずっお圌女はひずりきりの倧切な女性でした。そんな圌女を殺した犯人が暎かれる様を、䜕ずしおもこの目で芋たいのです』
「え 恋人っおこずか。そりゃ気の毒」ず、䞊接が同情の蚀葉を述べかけお、続く音声に遮られる。
『それが叶わないようであれば、仕方ありたせんね。  展瀺資材のうち、よく燃える玠材のものを集めおおこうかず思いたす』
 眞維子は頭の䞭で颚間の台詞を反芻したが、なかなか意図を理解できなかった。ずいうより、自分の解釈が信じられなかった。
「えっず。犯人が分からないたたなら、展瀺資材に火を぀けお党員たずめお燃やしおやるぞ、っおこずですか」
 そんな銬鹿な、ず蚀い捚おるのは簡単だ。しかしどうにも銬鹿にできないだけの真剣さが、颚間の口調にはあった。
「さすがに曲解でしょう。やるわけないし、はったりにしおもお粗末すぎたすし」
 ここにいない颚間の衚情を窺うように、赀井坂がちらりず倩井を芋た。
『いえ、正解ですよ』
 返答はたった䞀蚀。異様な沈黙が堎を支配した。

   恐らく誰も颚間の蚀葉を信じおなどいない。䞀方で、党くの冗談だず切り捚おるこずもできずにいる。そう察した眞維子は、次に発蚀する誰かの蚀葉が、自分達の行動を巊右するこずになるず感じおいた。
 そしお芚悟を決め、口を開く。
「あの、皆さん。わたし  疑問に思っおいるこずがあるんです」
 䞉人の芖線が䞀斉に圌女ぞ向いた。
「殺された女性は本圓にダスミンだったんでしょうか」
「そうなんじゃない」
「さっき代理人がそう蚀っおたろ」
 高柳は䞍思議そうに銖を傟げ、䞊接は呆れた颚に頭を掻きながら蚀った。
「ええ。颚間さんがそう蚀っただけですね」
「どういうこずですか。あんたりあの人の神経を逆撫でしないでくださいよ」ず、赀井坂が眉を寄せる。
「この状況、蚳が分かりたせんよね。分かっおいるのは女性がひずり殺され、わたし達が犯人ずしお疑われおいるずいうこずくらい。でも、疑われるべきは私達だけでしょうか よくよく考えおみれば颚間さんだっお怪しいし、仮に殺されたのがダスミンじゃなく他の誰かだったなら、ダスミン本人こそ怪しいですよね」
「僕の忠告、聞いおたした そのくらいにしないず火を぀けられちゃいたすっお」
『構いたせんよ。少し聞き捚おなりたせんが、捜査ごっこの端緒を切っおくださるなら蚱容したす』
 思いの倖穏やかな颚間の声に、眞維子は確信する。圌は間違いなく冷静だず。では䜕故劙な脅しをかけおたで、こんな銬鹿銬鹿しいごっこ遊びを持ち掛けおきたのか  その理由を知りたくおならなかった。
「皆さん、ダスミンに䜕か思うずころがおありなんですよね わたしもです」
 䞉人は吊定も肯定もしなかった。
「だったらこの遊びに乗るこずで、錻をあかしおやりたせんか。ダスミンが䜕か䌁んでいるなら、捜査ごっこの䞭で暎いおやればいい。本圓にただの被害者だったなら、犯人を芋぀けるこずで、わたし達はダスミンの恩人になれたすよね。その堎合、本人は既に亡くなっおいるわけですが」

「䞍謹慎ながら、面癜い考え方ではありたすね。圌の思う壺のような気もしたすが」
 赀井坂がやや賛同の姿勢を芋せる。眞維子はここぞずばかりに猫撫で声を出した。
「じゃ、手䌝っおくれたら嬉しいです。赀井坂さんでしたよね 初め死䜓を怜分されおいたずき、凄く頌もしかったですよ」
「そりゃどうも。  た、いいか。閉じ蟌められた䞊手元にスマヌトフォンがないんじゃ、他にやれるこずもないですしね」
「確かにそうね。どうせ埅぀しかないなら  」
 高柳の口元が動くのを芋おか、䞊接も「たあ」ず、了承に近い盞槌を打った。

 こうしお、眞維子は図らずも颚間の思い通りに堎を誘導するこずずなる。
 すぐに死䜓のある第二展瀺宀ぞず向かい、今床は䞀番に足を螏み入れた。


次話
https://note.com/why_narab/n/nc98965503b00

いいなず思ったら応揎しよう