AIが加速したのは、タスク処理だけでなく「事業を生み出し続けるチーム」への進化だった
どうも、スマートバンクでBizDevをしているushiroです。好きな動物は猫です。
2025年3月から、個人事業主・マイクロSMB向けの金融事業を立ち上げてきました。
具体的なKPI名は出しませんが、この事業は立ち上げから1年で、事業規模を表すKPIが131倍、16か月後には280倍まで伸びています。

最初は、AIと既存SaaSを組み合わせた「屋台」のような状態からスタートしました。立ち上げ当初、フルタイムで関わるメンバーは1人。2026年3月までは4人、5月から6人になりました。
最初から6人で複数の事業を立ち上げたわけではありません。1つ目の事業をつくり、伸ばす過程でチームと仕組みが育ち、そのチームが次の事業へ進み始めています。
ここまでの過程は、過去のnoteに何度か書いてきました。
これまでは、主に「AIを使って、1つの事業をどう速く立ち上げ、伸ばすか」という話です。
今回は、その先。
1年余り前には、1つ目の新規事業を立ち上げるだけで精いっぱいでした。
いま、その事業を伸ばしながら、同じチームで2つ目をリリース目前まで進めています。
僕自身はすでに、3つ目・4つ目の事業を考え始めています。
新規事業を立ち上げたチームが、1年余りで「次の新規事業を生むチーム」へ変わり始めている。

今回書きたいのは、AIによる一つひとつの作業の効率化よりも、その変化についてです。
しかも、1つ目の開発が止まったわけではありません。
直近1.5か月では、完了イシューが104件。そのうちPRが紐づく86件の起票からリリースまでのリードタイム中央値は3.1日。非エンジニアがDevinで作成したPRは45件でした。
その間、自動送金、与信モデル、審査エージェント、2つ目の事業 という4つの大きなテーマも並行して進めています。
もちろん、PR数そのものを成果とは考えていません。変更の種類に応じてレビューや権限を分け、品質とリスクに責任を持つ2名のエンジニアの判断を通して本番へ反映しています。
既存事業の開発を止めず、同時に次の事業を立ち上げている。事業規模も、すでに無視できない水準。少なくともAI時代以前の僕なら、2〜3年かけるか、1社つくって取り組むくらいのテーマだと思っていました。
なぜ6人で、既存事業を伸ばしながら次の事業まで進められているのか。
考えてみると、AI活用の成果は「何時間減ったか」だけでは説明できませんでした。
同じ顧客ではない。でも、同じ山を登っている

「1つ目と同じ顧客に、別の商品を売る話?」と思われるかもしれませんが、それは違います。
僕たちが向き合っているのは、個人事業主・マイクロSMBの事業活動における金融というドメインです。
1つ目と2つ目は、顧客層に重なりはあるものの完全には同じではありません。解いている課題も、提供する価値も違います。
ただ、決済・与信・資金繰りという課題は地続きです。
1つ目では届かなかった顧客やニーズを、2つ目が補う。事業を増やすことで、同じドメインのSAM・SOM、つまり実際に価値提供できる市場と、その中で獲得を狙える市場を広げていく。
同じ顧客に商品を2つ売るというより、同じ山へ別の登山口から入るイメージです。
登山口が違っても、山の天気や危ない場所、必要な装備についての知識は使い回せる。
なお筆者は登山をしたことはありません。
2周目は、新規事業立ち上げの「再現実験」

1周目を終えてから、別のチームをつくって2周目を始めたわけではありません。1周目を伸ばし続けている同じチームが、その知識や部品を持ったまま、2周目へ足を踏み入れています。
2つ目の事業は、1つ目で得た新規事業立ち上げのケイパビリティを、別の事業でも意図的に再現できるかという実験です。
ただし、1つ目と2つ目では、事業フェーズも許容できるリスクも違います。だから、1周目のプロセスをそのままコピーすることはできません。
持ち越したいのは、完成した開発手順ではない。「この作業は半分の時間でできないか」「このレビューは今も本当に必要か」と問い、事業フェーズに合ったプロセスを自分たちで設計する力です。
再現したいのは、やり方ではなく、やり方を作る力です。
そして、その力は何もないところから生まれるわけではありません。1周目で得た知識・部品・チームが土台になります。同じドメイン・同じチームで2周目に入るため、完全なゼロスタートにはなりません。
1つ目を通じて、個人事業主・マイクロSMBの方々がどこで困るのか、金融サービスのどこで不安になるのか、何を便利と感じるのかを学んできました。
何を最初から作り込み、何を手動で検証するか。どの数字をそのまま信じてよくて、どの数字は現場まで降りて確かめるべきか。どこまで自動化し、どこに人間の判断を残すか。
このあたりは、資料を読んでも身につきません。実際に運営して、何度か痛い目を見て、ようやく身体に入ってきます。
そして、持ち越せるのは経験だけではありません。
1周目で整えたインフラ、デザインシステム、決済・送金の仕組み、データに加えて、AI前提で開発プロセスを組み替えてきた経験も手元にあります。
たとえば、1つ目の事業向けに作った自動送金は、既存事業の運営を軽くしながら、2つ目でも使える部品になる。2つ目のアプリケーションも、1つ目と同じ基盤を使って開発しています。
何でも共通化するのではなく、事業固有のロジックとドメイン共通基盤を分けながら再利用しています。
そして何より大きいのが、チームを持ち越せることです。
1つ目の立ち上げでは、エンジニアも暫定運用や審査オペレーションへ入り、「何を作るべきか」「何を後回しにするか」「どこを雑にすると後で爆発するか」を一緒に理解してきました。
BizDevがスキームと要件を完成させ、エンジニアが受け取る。2周目は、そんな順番では進めていません。
それぞれが自分の専門性から事業スキームやオペレーション、外部制約を理解し、仕様づくりから関わっています。
経験者を集めた新チームではなく、1周目を一緒に走ったチームで2周目を始められる。
2つ目の事業をゼロから作っているというより、1つ目を作ったチームごと次へ持ってきた感じ。
これが想像以上に機能しています。
AIが下げたのは「次を始めるコスト」

以前は、AI活用のROIを「何時間減ったか」で考えていました。
問い合わせ対応が何時間減った。集計が速くなった。企画書や仕様のたたき台が早くできた。
もちろん、全部ありがたいことです。
しかし、削減できた時間を1つずつ足しても、6人で2つ目を立ち上げられている理由をうまく説明できません。
今は、AIによって一番下がったのは次の事業を始めるコストだと考えています。
普通は、事業が伸びるほど運営が重くなります。
顧客が増え、判断が増え、チームが増え、会議も増える。事業責任者は1つ目に張りつき、次へ進むなら新しい人と組織を用意する。
今回は少し違いました。
AIが定型業務を受け持ち、判断を支援し、開発と改善を速める。
事業が伸びても、人間の仕事が同じ比率で増えない。各メンバーが目の前の作業だけでなく、「次に何を解くか」に時間を使える。
僕自身も、既存事業のすべてを動かす役割から、数字と変化を観測し、次のイシューをつくる役割へ移りつつあります。
その結果、1つ目を止めずに2つ目へ進めた。
もちろん、AIだけで実現した話ではありません。チームメンバーのハードワーク、社内の専門職や基盤を支えるメンバー、経営陣、協業先など、さまざまな支えがあります。
そのうえで、AIによる個々の効率化が、既存事業から次の事業へ、人・知識・技術を再投資できる余白に変わりました。
1つ目の事業を運営する負荷を抑えながら、そこで得た顧客理解や仕組み、技術を2つ目へ持ち越せる。AIが加速したのは、この循環です。
AIがなければ、6人でこの範囲を持つのは難しかったという実感があります。
AIは人を減らしたのではなく、既存事業から次の事業へ再投資できる余力をつくり、6人が同時に持てる事業イシューを増やしたのだと思います。
AI時代ほど、エンジニアリングの価値が上がる
AIによって、コードを書く速度は劇的に上がりました。
このチームでは、非エンジニアもDevinを使って実装し、AIとエンジニアによるレビューを経て本番へ出します。
「これはエンジニアにお願いするもの」という境界は、以前よりかなり薄くなりました。
ただし、誰でもコードを書けることと、誰でも安全にプロダクトを変更できることは違います。
実装量が増えるほど、何を作り、どこまでAIに任せ、どのリスクを許容するかという判断が重要になります。
僕はBizDevなので、「AI時代のエンジニアはこうあるべきだ」と語る立場にはありません。
ただ、うちのチームのエンジニアは、立ち上げ期から運用に入り、顧客や事業ドメイン、事業スキーム、外部制約を理解したうえで、仕様と優先順位を決め、品質とリスクに責任を持っています。
チームが少人数でここまで進められているのは、そうした「エンジニアリング」ができるメンバーがいてくれるからです。
AIによって実装の境界が薄くなるほど、この専門性はむしろ重要になる。僕はそう理解しています。

AIネイティブなチームとは、全員がAIでコードを書くチームではなく、AIが増やした実行量を、チーム全体で安全に受け止められるチームだと思っています。
そのためには、既存事業のレビューやQAをそのまま持ち込むのではなく、事業フェーズごとのリスクと目的に合わせて開発プロセスを組み替える必要があります。
AIにコードを書かせるだけでなく、増えたアウトプットを安全かつなめらかにデリバリするところまで設計して、初めてチーム全体が速くなります。
とてつもない数・幅のPRを捌きつつエンジニアリングで事業推進してくれる2名のエンジニアには本当に感謝しています。
6人のチームが、事業を生む単位になる
エンジニアだけではありません。このチームでは、デザイナーもKPIや顧客ニーズを踏まえてUX・CRMの課題を見つけ、issue・PR・リリースまでを担っています。
1つ目の事業の知見を2つ目の事業のUI/UX設計と実装に活かし、猛スピードで開発を推進しています。
職種の境界が薄くなっても、専門性が薄くなるわけではありません。
専門性を持つメンバーが職種を越えて事業に責任を持つと、少人数のチームそのものが「事業を生む単位」になっていきます。
少人数なのは疲弊するためではなく、同じ事業コンテキストを持ち、その場で決めて動くためです。
一方で、1つの事業を伸ばし続けると、チームはその事業に最適化されていきます。役割が細かく分かれ、オペレーションが磨かれ、同じ仕事を高い品質で回せるようになる。
スケールには必要な進化ですが、最適化しすぎると、新しいことを始めにくくなります。
僕たちがやりたいのは、1つ目を伸ばしながら、そこで得た学びと部品を次へ投資することです。そうすると、1つの開発が複数の意味を持ち始めます。
たとえば、審査情報充足エージェントを作れば、1つ目の運営が軽くなる。同時に、2つ目に必要なオペレーション基盤にもつながる。
既存事業を強くすることが、次の事業の準備になる。次の事業を作ることで、ドメイン全体で使える部品が増える。
別々のプロジェクトが、少しずつ同じ歯車で回り始める感覚です。
この循環が回れば、6人のチームは「1つの事業を運営するチーム」から、同じドメインで事業を生み出し続けるチームへ変わっていきます。

いま、この循環は2つ目の事業で回り始めた段階です。
ただし、チームが複数の事業を生み出せるようになっても、すべての問いと判断を1人の事業責任者に集めたままでは、この循環はスケールしません。
事業を生み出し続けるなら、事業責任者も生み出し続ける
ここからは、組織についての仮説です。
事業が増えれば、それぞれに新しい問いと判断と責任が生まれます。1人の事業責任者が、そのすべてを持ち続けることはできません。
スマートバンクには今、仮説検証からグロースまでを担い、事業を任せられる人が必要です。ただ、そうした人を外から採用するだけでは、事業を継続的に生み出す組織にはなれません。
次の事業とともに、次の事業責任者も組織の中から生み出す必要があります。

そのための育成は、研修を終えた人に事業を丸ごと渡すことではありません。実際の事業イシューを引き受け、顧客と数字に向き合いながら、意思決定の範囲を少しずつ広げていく。その延長線上に、事業全体を担う役割があります。
事業をつくる過程そのものが、次の事業責任者を育てる。この循環をつくれるかが、次に確かめたい仮説です。
AIが加速したのは、タスク処理だけではない
1年余り前、僕たちが向き合っていたのは、1つ目の新規事業をどう立ち上げるかという問いでした。いまは、その事業を伸ばしながら、6人で2つ目をリリース目前まで進め、さらにその先を考え始めています。
AIが下げたのは、作業時間だけでなく、「次を始めるコスト」でした。
まだ、2つ目の事業の成功も、その先の再現性も証明できていません。それでも、AIが加速したのは、タスク処理だけでなく、「事業を生み出し続けるチーム」への進化だった。
事業立ち上げを再現できるのか。そして、その循環から新しい事業責任者も生み出せるのか。2つの仮説を、2周目とその先で確かめていきます。
事業責任者も、事業責任者候補も足りません!

スマートバンクでは複数の新規事業が動いており、今すぐ事業を持てる人も、実際の事業イシューを通じて次の事業責任者を目指す人も必要です。
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