イギリスの医師はストライキで何を勝ち取ったのか:3年以上続いたNHS医師スト、その「戦果」と現在


以前、イギリスで研修医たちが大規模なストライキを繰り返していることについて書いた。


当時、日本から見るとかなり衝撃的だった。

病院で働く若手医師たちが一斉に職場を離れ、

「給料をもっとあげろ」

と政府に要求する。

しかも、一度や二度ではない。

何日間にもわたるストライキを何度も繰り返した。

その後、ストは研修医だけではなく、NHSの医療を支える最上級の医師であるconsultant(コンサルタント)にまで広がった。

では、あの騒動はいったいどうなったのだろうか。

調べてみると、非常に興味深い。

結論から言えば、

医師側はストライキによって、かなり大きな賃上げを実際に勝ち取った。

しかし、それで終わったわけではなかった。

むしろ、

「ストをすれば政府は動く」

という経験を医師側が獲得し、NHSにおける医師の給与決定そのものを巡る長期的な労使交渉へと発展している。

日本の医師もストを検討すべきではないのか?


そして2026年現在、研修医のストはいったん終結した一方、今度はコンサルタントが再びストライキを行う権限を獲得している。

いったい何が起きていたのか。

順番に見てみたい。

そもそもの発端――「医師の給料が15年間で大幅に目減りした」

イギリスの医師ストライキを理解するには、単純に

「給料をもっと上げろ」

という話として見ると少しわかりにくい。

医師側、特にBritish Medical Association(BMA:英国医師会)が掲げていた言葉は、

Full Pay Restoration

だった。

つまり「賃上げ」というより、

実質賃金を以前の水準まで回復させろ

という主張である。

BMAは、2008年以降、インフレを考慮すると研修医の給与は大幅に下落してきたと主張した。

そこで2023年、研修医側が要求したのが、およそ35%の給与回復だった。

当時の保守党政権から見れば、35%という数字はあまりにも大きい。

政府は拒否した。

ここから全面対決が始まった。

2023年3月、研修医がストライキに入る

2023年3月。

イングランドのjunior doctors、現在の呼称ではresident doctorsが大規模ストライキに入った。

「junior doctor」というと日本語では「駆け出しの若手医師」のように聞こえるが、実際には医学部卒業直後から専門研修後半までかなり幅広い医師を含む。

病院医療の実働部隊である。

政府は当初かなり強硬だった。

当時の保健相Steve Barclayは、2023年4月のストについて、

「患者の安全を危険にさらすだけでなく、イースター休暇後に最大限の混乱を起こすよう日程が設定されている」

と批判した。

一方、BMAは、

政府が信頼できる給与案を出せばストは止められる

と主張した。

完全に平行線だった。

そして研修医たちは、ストを繰り返した。

政府が最初に出したのは平均8.8%

2023年度、政府は研修医給与について平均8.8%の引き上げを実施した。

給与段階によっては8.1~10.3%程度だった。

普通なら相当大きな賃上げである。

ところがBMAは納得しなかった。

なぜなら彼らのロジックでは、

「今年のインフレ分を補償してほしい」

のではなく、

「2008年以来失った実質賃金を返してほしい」

からである。

だから8%や10%では決着しない。

ストは続いた。

そして2023年夏、ついに「コンサルタント」までストに入った

そして事態はさらにエスカレートする。

2023年7月。

今度はconsultantがストライキを開始した。

英国のconsultantは、日本語の「コンサルタント」とはもちろん違う。

専門研修を終え、病院で診療科の最終的な責任を担うsenior doctorである。

日本の感覚なら、

専門医・指導医・診療科幹部クラス

と考えれば近い。

つまり、

研修医がストをする

その穴を上級医が埋める

という構造だったNHSで、

その上級医までストに入った。

これは政府にとってかなり厳しい。

政府「6%上げる」 コンサルタント「足りない」

Sunak政権は2023年度、コンサルタントについて6%の給与引き上げを認めた。

しかしBMA側はこれを不十分としてストを継続した。

BMAコンサルタント委員会のVishal Sharmaは当時、

「適切な提案が示されるなら、たとえ直前であってもストを中止する用意がある」

と述べた。

政府側は逆に、

まずストをやめれば話し合う

という姿勢だった。

労働組合側は、

まともな提案を出せばストをやめる

と言う。

この「どちらが先に動くのか」という膠着状態が続いた。

ついに研修医とコンサルタントが同時にスト

2023年9月には、さらに象徴的な出来事が起こった。

研修医とコンサルタントが同時期にストライキを実施したのである。

NHS史上でも異例の事態だった。

コンサルタントは救急など最低限の医療を残しながら通常業務を停止。

研修医も加わった。

病院によっては「クリスマス当日並み」の人員体制になり、予定手術や外来が大量に延期された。

この頃までのNHS全体の医療従事者のストによる延期・中止は、すでに100万件規模に達していた。

ここまで来ると、単なる労使問題ではない。

NHSそのものが英国政治の争点になった。

野党LabourはSunak政権を攻撃する

ここで面白いのが政治家の発言である。

当時野党だったLabourの保健担当、Wes Streetingは、研修医ストを止められないSunak政権を激しく批判していた。

2024年2月にもStreetingは、

「再びキャンセルされる手術や診察について責任を負うのは首相だ」

という趣旨でSunakを攻撃した。

つまり当時のLabourの論理は、

「医師が悪いのではない。政府がまともに交渉しないからストが続いている」(医者側w)

というものだった。

これは後で重要になる。

なぜなら、そのStreeting本人が保健相になったからである。

2023年末、コンサルタントについて政府が譲歩する

膠着状態に変化が起きたのは2023年末だった。

Steve Barclayに代わってVictoria Atkinsが保健相になると、政府とBMAの交渉が進み始めた。

政府は単に一律で給与を上げるのではなく、

コンサルタントの給与体系自体を作り替える

案を提示した。

従来よりも早く高い給与段階に到達できるようpay scaleを圧縮する。

さらに、政府から独立して医師の給与を勧告するDDRB(Doctors' and Dentists' Review Body)のあり方についても改革する。

医師側は、

「政府がDDRBに介入し、医師の給与を長年抑えてきた」

という不満を持っていた。

つまりこれは給与額だけではなく、

医師の給料を誰がどう決めるのか

という制度そのものについての譲歩でもあった。

2024年4月、コンサルタントが妥結

最終的に2024年4月、BMAのコンサルタント会員による投票が行われた。

結果は、

約83%が政府案に賛成。

投票率は約62%だった。

ストライキは終了した。

Rishi Sunak首相は、

「NHSでのコンサルタントのストが終わることは、患者にとって素晴らしいニュースだ」

と歓迎した。

BMAのVishal Sharmaも、

長年の実質賃金低下と給与決定制度への政府介入を批判しながら、

今回の提案は問題解決への「最初の一歩」として十分だ

と評価した。

コンサルタントの「戦果」はどのくらいだったのか

ここが重要である。

コンサルタントは、すでに決まっていた2023年度の6%賃上げに加え、給与体系の再編による追加引き上げを獲得した。

キャリア段階によって効果は違うが、追加分は最大でかなり大きくなった。

当時の報道では、既存の6%を合わせて、一部のコンサルタントでは総額約19%に達する給与増になるケースもあった。

さらに、

・給与段階を整理
・最高給与への到達を早める
・DDRBの独立性を強化
・特に中堅コンサルタントの給与を追加調整

などが行われた。

つまり、

「6%で終わり」としていた政府から、ストによってさらに条件を引き出した

のである。

これは明らかに労働組合側の戦果だった。

しかし研修医はまだ終わらなかった

コンサルタントが妥結しても、研修医はストを続けた。

BMAは35%のpay restorationという旗を下ろさなかった。

そして2024年7月、英国では総選挙が行われる。

保守党政権が敗北。

Keir Starmer率いるLabour政権が誕生した。

そして保健相になったのが、

あのWes Streetingである。

野党時代に、

「政府がちゃんと交渉しないからストが続いている」

と批判していた人物が、今度は政府側の交渉責任者になった。

Streeting「NHSは壊れている」

就任直後、Streetingはかなり強い言葉を使った。

「NHSはbrokenだ」

と述べ、研修医との交渉をすぐに再開すると宣言した。

実際、Labour政権はかなり早く動いた。

そして2024年7月末、政府とBMAは合意案をまとめる。

研修医の「戦果」――2年間で平均22.3%

この数字はかなり大きい。

2023/24年度について、すでに平均8.8%程度上がっていた給与に、さらに政府が平均4.05%相当を追加した。

https://questions-statements.parliament.uk/written-statements/detail/2024-07-29/hcws41

その結果、2023/24年度のpay scaleは2022/23年度から平均13.2%高い水準となった。

しかも遡及して支払われた。

さらに2024/25年度には、

6%+一律1,000ポンド

が給与表に恒久的に追加された。

結果として、

2022/23年度から2024/25年度までの2年間で平均約22.3%の給与上昇

となった。

給与段階別に見るとさらに分かりやすい。

2022/23年度 → 2024/25年度では、

初期研修相当のNodal Point 1は

£29,384 → £36,616

約24.6%増。

Nodal Point 3は

£40,257 → £49,909

約24.0%増。

最上位のNodal Point 5でも

£58,398 → £70,425

約20.6%増となった。

これはかなりの金額である。

「35%要求して22%で妥結」は敗北なのか

一見すると、

要求35%

獲得22.3%

なので、BMAが妥協したようにも見える。

しかし少し違う。

BMAはこの合意を、

Full Pay Restorationの完了ではなく、第1段階

と位置付けた。

つまり、

「ここまで取れる分はいったん取る。しかし最終目標は変えない」

という戦略だった。

BMA自身、2024年の合意について、

ストライキによってこの水準まで到達できたのであり、pay restorationへの大きな前進だったと明記している。

そして実際、この伏線は翌年に回収される。

2025年、政府はさらに平均5.4%上げた

2025/26年度。

Labour政権はresident doctorsに、

平均5.4%

の給与引き上げを決定した。

内訳は、

4%+一律750ポンド

だった。

政府は、

「公共部門で最も高い給与改定だ」

と強調した。

この時点で政府の計算では、resident doctorsの給与は3年間で平均28.9%上昇していた。

普通なら、

「ここまで上がればさすがに終わりだろう」

と思う。

ところが研修医は再びストに入った

BMAは納得しなかった。

理由は、

「まだ2008年の実質賃金水準まで戻っていない」

からである。

2025年時点でBMAが求めたpay restorationはさらに約29%

再びスト権投票を行い、圧倒的多数で可決された。

そして2025年7月、再び5日間のスト。

その後もストは続いた。

ここで興味深いのは、今度はStreetingの立場が完全に逆転したことである。

野党時代は政府を批判していたStreetingが、今度は医師を批判

Streetingは野党時代、

「政府が交渉しないから患者が迷惑している」

とSunak政権を攻撃していた。

ところが自分が保健相になると、同じ問題を反対側から見ることになる。

2025年末のストについてStreetingはかなり激しい表現を使った。

医師のストを、

「self-indulgent, irresponsible and dangerous」

――自己中心的で、無責任で、危険だ――

と批判したのである。


さらに、

「このストを行う必要はない」

とも述べた。

BMA側からすれば、

「野党時代と言っていることが違うではないか」

という話になる。

しかし政府側にも事情がある。

すでにかなり大きな賃上げを実施している。

医師だけ際限なく上げれば、看護師、救急隊員、その他のNHS職員にも波及する。

財政負担は巨大になる。

実際Streetingは後に、医師側の要求を他のNHS職員まで広げれば、コストは極めて大きくなると警告するようになる。

政権を取る前と後で見える景色が変わった典型例である。

そして問題は「給料」だけではなくなった

2025~26年の紛争では、もう一つ重要なテーマが加わった。

研修ポストが足りない。

医学部を卒業し、医師として働いているのに、次の専門研修ポストに進めない医師が増えていた。

そこでBMAは、

「pay and jobs」

つまり

給与+キャリア

を一体として政府に要求するようになった。


2026年、ついに最終合意

そして2026年6月。

政府は新しい提案を出した。

給与については2026/27年度、平均4.9%程度の引き上げとなる仕組みを提示。

特に若い層では、

1年目:約6.2%
2年目:約7.1%

程度となる。

さらに給与表そのものを改革し、キャリアが進むにつれて、より頻繁に給与が上がる仕組みを導入する。

そして非常に大きいのが、

最大4,500の追加研修ポスト

である。

さらに、

・Royal Collegeの必須portfolio feeを償還
・必須試験費用を償還
・less-than-full-time勤務の待遇改善
・locally employed doctorsの条件改善

なども盛り込まれた。

BMA会員による投票では、

賛成 17,410
反対 15,522

52.9%対47.1%。

かなり僅差だった。

しかし賛成が上回り、2026年6月29日、長かったresident doctorの紛争はいったん終結した。

結局、研修医はいくら給料を上げたのか

政府の数字で見ると非常に分かりやすい。

4年前と比較して平均35.2%増。

である。

もちろんこれは名目値なので、物価上昇を差し引いた「実質賃金が35%増えた」という意味ではない。

むしろBMAは2026年の合意後ですら、

2008年の実質賃金水準と比べればまだ約2割低い

と主張している。

したがって双方の説明はこうなる。

政府:「4年間で35.2%も上げた」

BMA:「それでも2008年より実質約2割低い」

実は両方とも、それぞれ違う基準で話しているため成立する。

BMA「組織すれば勝てる」

2026年の合意後、BMA resident doctors committee委員長のJack Fletcherは象徴的な言葉を残している。

「ストは終わる」

と宣言したうえで、

今回のストによって、

より多くの研修ポスト、より良い給与、より良いNHSを得ることができたと主張した。

そして最後には、

“When we organise, we win.”「組織すれば、我々は勝てる」とまで言っている。

“I’d like to thank everyone who stood on a picket line, who organised, argued and raised their voice on the issues of pay and jobs. Your continued dedication and refusal to give in has moved us miles from where we started, and you should be proud. When we organise, we win.”

https://www.bma.org.uk/bma-media-centre/resident-doctors-in-england-vote-to-accept-pay-and-jobs-offer


労働組合としては、これはほとんど勝利宣言である。

政府も「ストを続けるより合意した方が安い」と認めた

さらに興味深いことがある。

2026年の政府発表には、かなり率直な数字が書かれている。

resident doctorsのストライキは、

1日あたり約5,000万ポンド

NHSにコストを生じさせるという。

そして政府自身が、

今回の紛争を解決する費用は、ストを続ける費用よりずっと小さい

という趣旨を公式に述べている。

これは労働組合の交渉戦略として考えると非常に重要である。

ストとは、単に「仕事を休んで抗議する」ことではない。

相手に、要求を受け入れないことによる経済的コストを発生させる交渉手段

だからである。

NHS医師ストでは、その構造が非常にはっきり現れた。

研修医がようやく終わったと思ったら……今度はコンサルタント

ここまでなら、

「3年以上続いた英国医師ストも、ようやく終わった」

という話になる。

ところが終わっていない。

2026年、今度はコンサルタントの不満が再び高まった。

2026/27年度の給与改定などを巡り、BMAは再びコンサルタントについてindustrial action ballotを実施した。

結果は、

有権者 35,067人
投票者 18,069人
投票率 51.53%

スト等のindustrial action賛成

13,695人、75.81%。

反対

4,369人、24.19%。

つまり、

4人に3人以上が再びストに賛成した。

英国法で必要となる投票率50%も超えた。

そのためBMAは現在、再びコンサルタントのindustrial actionを実施できるmandateを持っている。

2024年に大幅賃上げしたのに、なぜまた怒っているのか

ここも興味深い。

コンサルタント側の主張は、単純な給与額だけではなくなっている。

BMAは2026年現在、

・実質賃金の回復
・複数年のpay deal
・勤務時間制度の改善
・夜間・時間外勤務の適正評価
・professional timeの確保
・consultantという職位そのものの地位回復

などを要求している。

さらにBMAは、

イングランドのコンサルタント最高給与はウェールズより約£16,000低い

として、この格差も問題視している(まぁ日本も、東京の勤務医は、北海道よりも300万円くらい低そうではあるが、それに怒る医者はあまりいなそう)。

つまり2023年のストが、

「インフレで給料が下がった」

という話だったのに対して、

2026年には、

「NHSにおける医師という専門職の価値をどう評価するのか」

という争いへ変化しているのである。

2026年8月現在、コンサルタントはまだストを開始していない

ただし重要なので付け加えておく。

2026年8月時点で、コンサルタントが実際に再び全国ストへ突入したわけではない。

BMAは、

ストを実施できる権限を会員から獲得した

段階である。

BMAは政府に対し実質的な交渉を要求しており、

政府が合理的な提案をしなければスト実施の可能性はますます高くなる、

という立場を示している。

つまり現在は、

拳銃を撃ったのではなく、テーブルの上に置いた状態

と言ったほうが近い。

こうして見ると、ストの「戦果」はかなり大きい

ここまでを整理してみよう。

研修医では、

2022/23

2023/24
平均約13.2%増

2024/25
さらに6%+£1,000

2年間累計平均約22.3%増

2025/26
さらに平均5.4%

2026/27
さらに平均約4.9%

という給与改定が続いた。

政府の集計では、

4年間で平均35.2%の給与上昇。

それだけではない。

研修制度改善。

最大4,500の追加研修ポスト。

試験費用やportfolio feeの償還。

勤務制度改革。

給与体系そのものの変更。

一方のコンサルタントも、

2023年度の6%に加えて給与体系再編と追加増額を獲得し、一部では当時の改定を合わせて約19%に及ぶ上昇となった。

DDRBのあり方にも変更を加えさせた。

こうして並べると、

ストライキの「戦果」は相当に大きかった

と言っていいと思う。

日本の医師から見ると、かなり異質な世界である

日本の医療界にいると、この話はかなり異質に見える。

日本にも医師会はある(経営者メインだが)。

学会もある(研究メイン)。

勤務医の待遇問題も昔から存在する(やってる感くらいか)。

しかし、

数万人の病院勤務医が組合として組織され、

全国規模でスト権投票を行い、

75%が賛成し、

政府と直接給与交渉し、

要求が通らなければ実際に診療を止める。

そして政府が、

「スト1日で5,000万ポンドかかる。それなら妥結した方が安い」

という計算をする。

このような世界は、日本の医師にはほとんど想像しにくい(民医連やいくつかの大学の看護師労組はやっているが医者はやっていないような)。

ただし「医師が勝った、めでたし」だけでもない

もちろん、この話を単純な労働組合の成功物語にするのも違う。

ストライキの間、膨大な数の外来、検査、手術が延期された。

もともとNHSには巨大なwaiting listがある。

そこにストが重なった。

患者側からすれば、

「医師にも事情はあるだろうが、自分の手術が延期されるのはたまらない」

という話になる。

実際、ストが長期化するにつれ、医師ストへの世論の支持が弱くなったことを示す調査もある。

政府が強硬姿勢を取る理由も理解できる。

限られた医療予算の中で医師だけを大幅に引き上げれば、当然、看護師やその他のNHS職員からも同じ要求が出る。

結局これは、

専門職の労働価値をどこまで社会が負担するのか

という難しい政治問題なのである。

それでも、この3年間で一つはっきりしたことがある

それでも、2023年から2026年までを通して見ると、一つだけかなりはっきりしている。

最初、政府は医師たちの要求に非常に強硬だった。

35%などあり得ない。

ストをやめろ。

患者を危険にさらすな。

そう言っていた。

しかし医師たちはストを繰り返した。

コンサルタントまで加わった。

100万件を超える診療への影響が出た。

政治問題になった。

政府が交代した。

交渉が行われた。

その結果、

研修医の給与は4年間で名目平均35.2%上昇し、

給与体系が変更され、

研修ポストが4,500増やされ、

試験費用なども償還されることになった。

コンサルタントも給与体系の大幅な改善を勝ち取った。

「ストをしても何も変わらなかった」

とは到底言えないのである。

そして、まだ終わっていない

さらに興味深いのはここである。

resident doctorsのJack Fletcherは2026年6月、スト終結を宣言しながら、

「pay restorationへの道はまだ終わっていない」

とも明言している。

一方、コンサルタントは翌7月、75.8%の賛成で再びindustrial actionのmandateを取得した。

つまり英国の医師をめぐる労使関係は、

一度大きく賃上げして終わったのではない。

医師側が、

「自分たちは集団で交渉できる」

「必要なら診療を止めることができる」

「そして実際に政府から譲歩を引き出せる」

ということを学習したのである。

政府側もまた、

「どこまで譲歩すればストを回避できるのか」

「医師だけを上げれば他職種に何が起きるのか」

「NHSを止めないためにはいくら払うべきなのか」

を考え続けなければならなくなった。

これは単なる給与問題ではない。

国家が運営する巨大医療システムの中で、医師という高度専門職の価格を誰が決めるのか。

その力関係そのものを巡る争いなのである。

そして2026年8月現在。

研修医はようやくピケを畳んだ。

しかしその横で、今度はNHSの最上級医師であるコンサルタントたちが、再びストライキというカードを手にして政府と向き合っている。

イギリスの医師ストライキ。

どうやら、まだ完全には終わっていない。


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