英国の研修医ストライキに見る「医師余り/仕事不足」という逆説──医師は足りないのに働けない社会とは何か
英国で以前から医者などがストライキしていた(以下)が、
またやっているらしい

ちなみに韓国でも医学生が結構な長期間ストライキしていた
1. 事件の概要:医師が「仕事不足」でストに立つという異常事態
2025年10月、イギリスの初期研修医(Foundation doctors)たちが、
「職の不足」に抗議してストライキに踏み切る方針を決めた。
報道:BBC Health Correspondent Nick Triggle(2025年10月6日)
URL:https://www.bbc.com/news/articles/c4gdwzzm7v5o
イギリス医師会(BMA)によると、
第2年次研修を終えた3万人のうち、専門研修ポスト(specialty training)を得られるのは1万人程度。
精神科では1万人応募→500人採用。
GP(家庭医)枠は5倍以上の競争率。
政府は10年計画で1,000枠の増加を掲げているが、BMAは「paltry(あまりに少ない)」と一蹴。
背景には「医師養成の急拡大と、研修ポストの整備不足=ワークフォース・プランニングの失敗」があると指摘する。
2. 数字のからくり:3万人の研修医は“国内生”ではない
この記事で最も誤解されやすいのは、「英国の研修医が3万人もいるのか?」という点だ。
実は、この3万人のうち、イギリス国内医学部卒業者は約9,000人にすぎない。➡残りの2万人超は、海外からの応募(IMGs: International Medical Graduates)ということになる。
つまり、世界中から研修医を集めている。
イギリスは英語圏の強みを活かし、医師の「教育輸入国」になっている。
その結果、国内の若手医師が自国でのポストを得にくくなっている。
*これは米国でも同じような構図である。
3. 日本との比較:むしろ“数”のバランスは日本の方が整っている
指標 🇬🇧 イギリス 🇯🇵 日本
人口 約6,800万人 約1億2,300万人
初期研修応募者 約30,000(うちUK卒9,000) 約9,000(国内卒のみ)
研修枠 約10,000 約9,300
医師養成主体 国内+海外流入 国内完結
問題点 海外流入による過剰競争 地域・診療科偏在
日本の初期臨床研修は、ほぼ需給均衡(むしろ空きはたくさんある)で推移している。むしろ課題は「分布」──地域格差・診療科偏在・勤務負担──である。
一方の英国は、「需要」ではなく「供給側の開放性」が制度を不安定化させている。
4. グローバル医師市場の歪み:輸入しすぎる国、閉じすぎる国
イギリスは、医師を国際市場から輸入するモデルをとってきた。
その結果、NHS(国営医療制度)は海外医師なしでは成り立たないほど依存体質になっている。
だがその後のポスト(というか予算ですよね)は限られているため、患者はたくさんいるのに「指導医・一人で働ける医者は足りないまま」という逆説が生まれる。
日本はその逆だ。
外国医師をほとんど受け入れず、国内完結(ほぼ鎖国)で養成・雇用を回している。
結果として、「特に田舎・忙しい病院では医師が足りないのに、都市では医者余り」という形で需給バランスが崩れている。
どちらの国も「量」の問題ではなく、制度的な需給調整の不全=政策デザインの失敗に直面している。
5. 医師の“余剰”は教育の失敗ではなく、政策の失敗
BMA代表Jack Fletcher医師の発言は印象的だ。
“Doctors have spoken clearly – they won’t accept that they face a career of insecurity at a time when the demand for doctors is huge.”
これは単なる賃上げ要求ではない。
医師という職業は「資格」ではなく「制度的ポジション」である──
つまり、国家が設計する医療・教育・雇用の三位一体構造のなかでしか成立しないということだ。
医師数を増やしても、研修枠・勤務環境・報酬体系・生活支援が整わなければ、「人がいるのに医療が届かない」社会ができあがる。
それは教育の失敗ではなく、政策の失敗である。
6. 「量」から「配置」へ──これからの医療人材政策
日本の医療政策も、もはや「医学部定員を増やすか減らすか」では議論にならない。
むしろ問われるのは:
どの地域・領域にどれだけ配置するのか
医師・看護師・リハ・介護などのタスクシフトをどう設計するか
教育と雇用を連動させる「出口政策」をどう再構築するか
イギリスの研修医ストは、医療制度が教育と雇用の接続を失ったとき、国家全体が揺らぐことを示している。
それは日本にとっても、他人事ではない警鐘だ。
7. 結語:「医師が足りない社会」と「医師が働けない社会」の共通点
英国でも日本でも、医師は“数”ではなく“制度”の問題に苦しんでいる。
医療の現場には、使命感を持つ若手があふれている。
しかし、制度設計が彼らの力を社会に接続できていない。
医師を増やすことは、医療を良くすることと同義ではない。
医療を良くするとは、人が働ける構造をつくることだ。
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