米国は円安・米国債安どちらが嫌なのか?
日米貿易交渉に加え、日米財務相会談で、ドル安円高に向けての為替調整が議題に上るのではとの観測が燻った経緯がある。しかし米国にとっての優先順位は為替誘導ではなく、米国債市場の安定である背景を解説し、今後の為替・株式市場動向を探った。
1.米国政府の基本的な考え方
トランプ減税の実施を目指し、今後も巨額の米国債発行を目論む米国政府としては、米ドルが基軸通貨としての地位を維持しながら、米国債を安定的に消化するために、長期金利を低位安定させる必要性がある。米長期金利が低下する結果として、ドル相場が下落するのは望ましいと考える反面、ドル安が起点となって米国債が下落する事態は避けたいのが本音である。
2.日米貿易交渉の目的は貿易不均衡是正であって円安是正ではない
トランプ米政権の重要施策は、貿易不均衡是正であって、その手段として関税を利用するというスタンスである。自動車関税の発動によって、日本の対米輸出が減少に向かい、その結果、日本の貿易赤字が拡大する結果、円安になっても米国の政策目的は達成されることになる。
3.トランプ政権が望むのは国内生産の拡大
トランプ政権は、海外からの自動車輸入を嫌い、国内生産へのシフトを望んでいる。その結果、日本の自動車メーカーは今後、対米直接投資を拡大させる方向に舵を切ることになる。自動車産業以外でも、ソフトバンクグループは、4年間で1,000億ドル(14兆円超)の対米投資を発表しており、既に年間30兆円を超える日本の対外直接投資が、40兆円に到達する日も遠くないであろう。このように資本取引においても、ドル買い需要が大幅に高まるため、需給面での円安要因として効いてくることになろう。
4.米国は円買い介入を許容しない可能性
対米不均衡が是正される結果として進むドル高円安を止めるため、日本銀行(日銀)が円買い介入を実施しようとしても、トランプ政権が米国債売却を嫌って承認しない可能性がある。「為替レートは、市場が決めるべき」との基本原則を持ち出して、ドル高是正のための円買い介入を受け入れず、金融政策での対応を求められることになろう。
5.円安下の景気後退で身動きの取れない日銀
自動車輸出の減少は、日本のGDP成長率を押し下げ、国内雇用や賃上げに悪影響を与えるため、円安が進行しても、国内景気の低迷から、日銀が利上げに踏み切ることが困難となる状況が想定される。日本こそ、インフレ下の景気後退(スタグフレーション)という深刻な事態に陥る公算が大きい。
6.物価高抑制にも景気刺激にも動かない石破政権
備蓄米大量放出や米輸入拡大による価格鎮静化策を講じず、ガソリン暫定税率の廃止にも後ろ向きで、石破政権は国内インフレの上昇を放置している。日米貿易交渉でもトランプ政権から自動車関税は対象外と通告されるなど、既に交渉の主導権を奪われる展開となっている。自動車輸出を封じられる日本経済への打撃は大きく、景気低迷を打開できない石破政権に、国民は愛想をつかし始めており、参議院選挙に向けて政権交代への期待が膨らんでいる。内憂外患に悪戦苦闘する日本経済ではあるが、今後、景気テコ入れとインフレ抑制のための積極財政を標榜する政権が成立すれば、現在低迷する日経平均株価が史上最高値に向けての上昇モメンタムを再度回復するきっかけとも成り得、今後の政治動向が注目される。

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2025年5月7日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久

