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AI時代、本当に価値があるのは「AIを使えること」ではなく「実行力」

ピーター・ティールの有名な言葉に「空とぶ車が欲しかったのに、手に入ったのは140文字だった」があります。
デジタルの世界は、日進月歩という言葉では足りないほどのスピードで進化を続けている一方で、私たちが暮らす現実世界は、その進化に比べると驚くほど変化が緩やかです。この言葉は、そんな「ビットは急速に進歩したのに、アトムは思うように進歩しなかった」という皮肉を表しています。

もちろん、製造業や建設業など、デジタル以外の産業が進化していないわけではありません。ただ、そこには工場設備や生産ライン、材料調達、品質管理、物流といった、ソフトウェアのように「今日から新しいバージョンです」と切り替えられない現実があります。
AIがどれほど優れたアイデアを生み出しても、それを形にするには時間も設備も人も必要です。

この「物理世界の慣性」は、生成AIの時代になってさらに際立ち始めています。
AIは、プログラムを書き、企画を考え、資料を作り、市場を分析し、翻訳し、文章まで書いてしまいます。その恩恵は私に限らず多くの人が感じるところです。そして、その進化の速度は、私たちの想像をはるかに超えています。

では、もしこの先もAIだけが猛烈な勢いで進化を続け、製造業をはじめとする物理世界がそのスピードについていけなかったとしたら、私たちの社会はどうなるのでしょうか。

私は、AI時代に本当に起きる変化は、「仕事がなくなる」という単純な話ではないような気がしています。
生成AIについて語るとき、多くは「AIが仕事を奪うのか」という視点で議論されます。
確かに、定型化された業務の置き換えなどその影響は避けられませんし、現実に起こっています。でもこの場合、それだけではないような気がしています。

これまで価値があったものの一つは「知っていること」でした。
専門知識を持ち、経験を積み、その知識を持つ人だけが解決できる問題が数多くありました。
ところが生成AIの登場で、その前提を大きく揺るがしています。

もちろん、AIの回答を鵜呑みにすることはできませんが、専門家にしかたどり着けなかったレベルの情報やアイデアが、誰の手にも届くようになりました。
つまり、「情報」や「知識」は急速にありふれたものになったということです。

一方で、物理世界はそうはいきません。
工場を建てることも、新しい設備を導入することも、物流網を整えることも、一夜にして実現することはできません。AIがどれほど優秀になっても、鉄を曲げるのは工場であり、製品を届けるのは物流であり、現場で品質を保証するのは人や設備です。

AIが生み出すのは「情報の豊かさ」です。しかし、情報があふれるほど、その価値は相対的に下がっていきます。ただし、その情報を現実の価値へと変える物理世界は、同じ速度では進化できません。
そのため、その情報をいち早く現実の価値へと変えられる企業や人材は、むしろこれまで以上に希少な存在になるのかもしれません。そう考えると、AI時代の競争は、AIを使えるかどうかではなく「AIが生み出したものを、現実世界でどれだけ価値に変えられるか」という競争になっていくのではないでしょうか。

AIは新しい製品のアイデアを提案し、市場分析や設計の補助、営業資料の作成まで驚くほどの速さでこなしてくれます。でも、そのアイデアを製品にし、市場へ届け、お客様に選ばれる商品へ育てるには、人や設備、資金、そして何より実行力が必要です。

AIが普及するほど、「考えること」のハードルは下がっています。だからこそ、その先にある「実際にやること」の価値が、これまで以上に高まってきています。

言い換えれば、これから重要になるのはアイデアではなく、それをもとに、試作品を作り、品質を保証し、現場で改善を積み重ね、そして、お客様の課題を最後まで解決できる人や会社です。
私は製造業に身を置いているからかもしれませんが、AIの進化を見れば見るほど、「ものづくり」の価値が下がるとは思えません。

むしろ情報があふれる時代だからこそ、それを取捨選択し、現実の製品やサービスへと変えられる企業の価値がこれまで以上に高まっていくのではないかと思います。

AI時代とは、デジタルの時代であると同時に「情報を現実の価値へ変えられる人」の時代なのではないでしょうか。


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