旅のはじまりを、もう一度。─ 第2章:喪失と再生の30代、ドイツから再び歩き出す
私の旅の遍歴の続きです。
21歳で初めて海外に出てから25歳までの4年間、私は7回の渡航を重ね、旅の魅力にすっかり取り憑かれていました。
ところがその後、私はしばらく旅から遠ざかることになります。
前回(第1章)はこちらです。
※第1章では、幼少期から25歳までの“旅の原点”を振り返りました。
今回は「喪失と再生の30代、ドイツから再び歩き出す」として、
旅から離れていた30代前半のこと、そして再び旅が戻ってきた30代後半のことを綴ります。
仕事に追われ、旅を失った10年(旅の空白期)
25歳のバリ島旅行を終えてしばらくした後、私は勢いで自営業を始めました。
「自由な働き方ができれば、また旅に出られる」
そんな期待がありました。
しかし現実は、その理想とはまったく違うものでした。
若さゆえの経験不足から仕事は思うように軌道に乗らず、
会社員時代よりも時間の余裕がない生活に。
気がつけば毎日が仕事のことで頭がいっぱいで、
海外旅行どころか、国内旅行ですらままならず、
旅の話題さえ自分の中から消えていきました。
友人から海外出張の誘いをもらっても、資金が足りず断るしかない。
「自由になるための自営業」が、皮肉にも“一番不自由な時期”になっていったのです。
この頃私は30代になっていました。
借金だけが手元に残り、心身ともに疲れ切っていました。
旅が与えてくれていた好奇心や余白はすっかり失われ、
朝の光でさえどこか遠く感じるような時期でした。
35歳、ドイツで取り戻した“旅の感覚”
そんな中、思いがけない転機が訪れます。
会社勤めに戻って数年が経った頃、担当業務の都合で
「2週間ほど休みが取れる」という話が舞い込んできました。
当初は借金返済の足しに、知り合いの仕事を手伝おうと考えていました。
しかし、その少し前に偶然観た映画が、すべてを変えました。
『グッバイ、レーニン!』
東西ドイツ統一前後を描いた作品で、そこに映るベルリンの街並みに強く惹かれました。
「そういえば、ドイツも行ってみたかった国のひとつだったな」
何気なく検索を始めた瞬間、長い間閉じていた“旅の扉”が少しだけ開いた気がしました。
10年前とは違い、インターネットで情報を集め、航空券や宿泊先を自分で手配できるようになった時代。
試しに調べてみると、中国経由のフライトを使えば思ったよりも安く行けることを知り、
数日かけて航空券・宿泊・鉄道などの手配を進めました。
学生の頃、旅行会社のパンフレットや海外旅行情報誌を夢中で眺めていたあの感覚が一気に蘇ってきたようでした。
こうして、ドイツ・オーストリア・チェコを巡る9日間の一人旅が決まりました。
約10年ぶりの海外旅行です。
『グッバイ、レーニン!』で見たベルリンの街、
歴史を感じるウィーンやプラハの世界遺産の街並み、
移動中の車窓から眺めたヨーロッパの田園風景──
その一つひとつが、心の奥をゆっくり満たしていきました。
旅はやはり私にとって“生きるリズム”そのものであり、
忘れていた自分の感覚を取り戻してくれる大切な存在だと、改めて知った旅でした。




結婚、そしてアメリカのキャンプ旅へ
帰国後、私は前向きな気持ちを取り戻し、数年で借金を完済しました。
「また旅をしたい」という思いが、何よりの原動力でした。
そして30代後半、今度は“結婚”という新しい転機に恵まれます。
幸いにも、妻も旅好き。
結婚式や新生活の準備よりも「新婚旅行は大切にしよう」という価値観で意気投合しました。
その想いは今も変わらず、私たちが一緒に多くの旅を重ねられた理由のひとつだと思います。
新婚旅行はポルトガル・スペイン・トルコの10日間。
ユーラシア大陸最西端のロカ岬や、サグラダ・ファミリアの荘厳な姿も印象的でしたが、
意外にも一番心に残ったのは、猫が自由に歩くイスタンブールの街角でした。
その後、貯まっていたマイルを使ってアメリカ西海岸へ。
国立公園を巡りながらキャンプをする旅でした。
日中は果てしなく続く荒野を走って、夜は満天の星の下で過ごす。
10年以上経った今でも、心のアルバムの中で輝き続ける旅の一つです。


遠ざかっていた旅が再び戻ってきたのは、
あのドイツでの一人旅がきっかけでした。
旅に出ることで、気持ちや生活のリズムが少しずつ整っていった──
今思えば、そんな転機だったように感じています。
次回は、この続きを最終章としてまとめたいと思います。
40代で旅を日常に取り戻していった過程や、
50歳を前に夫婦で長期旅へ踏み出すまでのことをまとめる予定です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
また次の投稿でお会いしましょう。
📸 旅のかけら。one scene, one thought.

📍2009年9月 ドイツ🇩🇪ベルリン・東ドイツ博物館にて
約10年ぶりの海外となったドイツ旅。
「また旅を続けていきたい」と思い直せた理由は、観光地や風景だけではありませんでした。
一人旅だったこともあって、いろいろな場面で人の優しさに触れることができました。
ドレスデンでは、トラムの乗り方を丁寧に教えてくれた学校の先生。
そのまま車内で少しだけお話した時間が、今でも記憶に残っています。
ベルリンに着いたときは、環状線が突然の運休。
途方に暮れているところを助けてくれたのは、美大に通う学生さんでした。
地下鉄のホームでは、右に行くのか左に行くのか迷っていた私に、
ゆっくり歩きながら案内してくれた高齢のおばあさんもいました。
気がつけば、優しくしてくれたのは年配の女性が多かったように思います。
どこか嫌味のない親切さが、日本人の感覚と通じるものがありました。
そういえば『グッバイ、レーニン!』に出てきた主人公のお母さんも、
東ドイツという国を静かに愛していた、誠実な女性でした。
もしかすると、私を手助けしてくれた方々の多くも、
かつて東ドイツ圏で暮らしていた人だったのかもしれません。
そんな想像をしながら、
「もっと異国の人たちと関わってみたい」
そう思えたことも、この旅の大きな収穫でした。


