見出し画像

【14-10前編】ジークアクス全12話真相考察⑩-1 拳銃の重みから自由というものの底おそろしい広さと責任を感じるマチュ


 ジオン側の事情を後編にまとめ、先にマチュとシャリアの難解な会話を読み解いておきたいと思う。

脱走前のマチュは胎児だった

 マチュは、完成式典の直前まで、シャリアと訓練を積んでいる。
 キケロガの先陣に位置し、マチュは見事な着艦。

 このときジークアクスは、ヘッドパーツがロックされたままで、サイコミュを起動していない。シャリアとの訓練中は、基礎からマニュアル操縦を憶えているのだ。
 地球でララアと出会った経験から何かを決意したマチュが、シャリアに師事し、短期間に成長していることがわかる。

 ソドンブリッジ内では「国際手配のお尋ねものだ」と言われてはいるが「彼女って本物のニュータイプだったんですねえ」と素直な賞賛も。

 第9話で胎児のように丸まっていたマチュが、訓練後は直立に近い姿勢で浮いている。彼女は道を決めて、自分の足で歩く決心をしたのだ。

シュウジを追うというところは揺るぎないマチュ

 凍結された時間の中にいる薔薇ララアには、時間の概念がない。彼女は、これまで経験してきた数え切れないシャアの死を、すべて同時に見ている。
 娼館ララアは、眠りに入るたびにこの記憶と繋がった。たくさんのシャアの死。しかし、そこには必ず「ララアを迎えに来て宇宙へ連れて行ってくれるシャア」の姿があった。
 地球にいるララアはこの夢の成就を待ち続け、カバスの館から自由になれない。

 娼館ララアの受け身の辛抱強さとは違い、好きな人には自分から会いに行くのがマチュだ。
 時間凍結から救い出し、娼館ララアを呪縛から解いた後で、薔薇のララアから(彼女を探していた)シュウジのことを聞き出す。そして、彼を追う。

 マチュはその決意にたどり着いた。訓練を重ねながら、シャリアにも本気が伝わる。彼は一言、その程度を確認した。
「貴方は、シャロンの薔薇のことを知りたいのですか?」

シャリアには彼女に頼みたいことが三つある

 シャリアがマチュに願っていること。

 一点目は「シャロンの薔薇内部の少女を救出する」ということだ。(マチュの目的も一致して、彼女は積極的に訓練を積んでいる)

 二点目は「転移兵器イオマグヌッソの無力化(アバオアクーと地球へのゼクノヴァ攻撃を事前に阻止する)」

 三点目が「ギレン・キシリア同時排除」である。

 現在、イオマグヌッソの完成式典に、キシリアとギレンが揃っている。シャリアは、シャロンの薔薇をいったん捧げてまで、この状況の完成を待っていた。
 ここに奇襲をかけ、両者を排除できれば彼の計画は一気に進む。シムスから報告を受けているとおり、アルテイシア擁立による新政権樹立の準備はできているのだ。

 彼女が玉座に向かって歩む道を、キケロガとジークアクスで掃き清めねばならない。

 障害となるのは、ギレンのビグザムと、キシリアのニュータイプ部隊だ。(結果的に前者は後者に駆逐されたが)これをシャリア一人で相手取るのはかなり無茶である。マヴが要るのだ。ニュータイプ同士のマヴなら、戦力は倍増する。その前提で、マチュとジークアクスを鍛えてきた。
 短期間に、彼女はよく応えてくれたと思う。

そろそろ師匠のことが知りたくなっているマチュがふてぶてしさでカモフラしながら恐る恐る尋ねる

 そのマチュが、赤い彗星の話題になったときシャリアに問う。

「ザビ家に復讐しようとしていた人(シャア)と友達のアンタが、なんでザビ家を守るために(木星まで行くなんて大変な思いをして、今も)働いてるの」

 シャアさんの意思を継いで、クーデターとかやればいいじゃん。
と、マチュは問う。
 何か理由があるんだろうな、とは思っている顔だ。
 発話せずとも、意図は伝わる。

 いまやってるんですよ、マチュ君。
 マジで。
 マジです。
 そのへんの話をしようと思っていたんですが、長くなりますよ?
 いいですか。
 聞く。
 じゃあ、まずはシャア大佐と出会うまで。
 マジで長そう。

 そんな感じのニュータイプ意思疎通を一瞬に挟みつつ、シャリアは、木星に行ったことを振り返る。

 ジオンの自治と独立のためにと木星船団に乗り、持ち帰ったヘリウム3で起きた戦争。俗に言う一年戦争は、想像以上の戦災をもたらした。

 やっと平和が訪れて、いまはそれを必死に守ろうとしている。
 ならば、そもそも戦争などしなければよかったのだ。
 ヘリウム3などに頼らず、ザビ家の独裁を許さず、政治的に平和を勝ち取る道(現在のアルテイシア擁立)を模索するべきだった。
 いまから思えば──。

「あれは、くだらない旅でした」

 ただ、シャリアには大きな転機だった。木星で事故が起き、他に頼れる拠点もない船団が行動不能に陥った。

 使命も果たせず、宇宙の果てで死ぬしかないという塞がった状況。
 ここで、シャリアは不思議な精神状態になった。

自分の使命を完全に手放せる機会

「できることが何もない」
「やりたいことも何もない」
「誰の期待にも応えられない」
 そうなって──。
「わたしははじめて自由になれた」

 マチュとシャリアの共通点は「束縛からの解放」だ。
 家庭でも、ジオンでも、そこにいるうちは、自由というものが何もわからなかった。所属する団体や組織に守られ、行動も目的も規定されていたからだ。マチュには、シャリアと自分の共通点が少し分かる。

 木星での経験が呟かれる。

「誰の期待に応えることもできない」
「そうなってはじめて私には本当の自由が生まれたのです」

 ジオン軍の任務という、己を縛る「やらねばならぬ」こと。それは同時に己を守る「間違いない」環境だ。それから無理矢理に切り離される、絶望という切除があってこそ、やっと「自由」が分かるようになるのだ。

 マチュもそうだった。守られていた制服(サイド6のお嬢様学校の生徒)という枠組を失い、与えられていた「いまは勉強でしょ」という進む方向が設定されている靴も無くした。

 シュウジを求めて地球に行き、絶望の世界で生きる少女たちと会い、助けようとしたララアは、自分の信じる自由のためにそれを拒絶した。
 サイド6にいた頃なら、わけがわからなかっただろう。しかし、いまのマチュには分かる。

 これが自由だ。

 自由は、絶望の向こう側、何もかもを無くして、誰からも期待されなくなって、そこでわかる。
 マチュは、なにもできない状況になってはじめて「さあ、自分がやるべきことは何だ」と道を探せるようになったのだ。

「私はどうする?」

 それを自分で決められる自由。
 これが彼女の自由だ。

高次元ララアがどうしても欲しかったシャアの支え手

 高次元から覗き見しているララアは思う。
 これを、シャアに教えてあげたい。

 ジオン・ダイクンの血筋、ザビ家への復讐、人類の未来と革新への責任。そうしたものを、完全に手放して自由にならなければ、結局あの人は落下するアクシズとともに燃え尽きてしまう。

 シャリアの話は続く。
 突然に電子的な干渉があり、木星船団は生き返った。
「それやったの、私」と高次元ララアが懐かしむ。シャアの救済モデルになり得るこの青年を、彼女はどうにかして引き合わせたかったのだ。

 マチュを脱走させるためにソドンの電磁ロックを外させたのと、同じ存在。それが、シャリアの人生にも干渉してきた瞬間だ。

シュウジとシャアはよく似ていてそれに恋している自分たちも似ているのだろうか

 地球帰還後にシャリアが出会ったシャアは、若く、自信家で、大それた野望を持ち、その理想を自分に課された責任だとすら思っている人物だった。

 大それた理想。何か使命を持っている。
 シャリアが語るシャアへの眼差しには憶えがあった。

 マチュは気がつく。わたしがシュウジを見る目と同じだ。
 自分とはぜんぜん違う不思議な少年。
 だから彼にあこがれたのだ。破滅するくらいに。

 静かな共感が声に滲む。

「だから惹かれたんだ」

 ヒゲマンとシャアさん。
 私とシュウジ。
 似ている。

 えっ、でもヒゲマンは、誤魔化してるけどシャアさんを殺そうとしてるよね?
 じゃあ、
 じゃあ、私も、シュウジを殺さなきゃいけなくなるの?

「違います」

 あなたはシュウジ君を殺さなくていいのです。
 新時代のニュータイプが、心中とかダメですよ。
 だって、でも──。

「彼は私と似ている」

 その点、あなたとシュウジ君は、ぜんぜん違うじゃないですか。

 マチュは、ちょっとだけムッとして声がとがる。
 さっき、シャアさんは大それた野心家だって言ってたじゃん。似てるって?

「空っぽのアンタと?」

 さっき言ったじゃん。「若く自信家で大それた野望を持ち、それを自分に課された責任だとすら思っている」って。どこが? 赤い彗星は何かやろうとしてるんでしょ?

 ええ、私にもやろうとしている「大それたこと」はありますよ?
 シャリアは向き直った。

 ギレン・キシリア同時排除です。
 あまりにも危うげな、赤い彗星に代わって。

シャリアはシャアの未来をどのへんまで危険視しているのか

 シャリアから見て、シャアは「かつて崇高な使命を持っていた昔の自分」に、あまりにもそっくりだった。

 だからわかる。自分の中の虚無とちかしいものが、シャアの中にある。
 そして、この青年が絶望したとき、彼は自分と同じように「もう人類が半分死のうが、どうだっていい」と思うだろう。
 そうして無慈悲に、無感動に「やってしまえる」のだ。
「大それた野望」を。
「地球人類の粛正」を。
 あのとき、ワインを傾けながら読み取れた、彼の未来を。

 シャアは危険だ。
 特にジークアクスのシャアは、みすみす機会を逃すような男ではない。
 行動力があるだけに危険すぎる。
 だからこそ、誰かが止めなければならない。

 彼を絶望させずに「できることが何もない」「やりたいことも何もない」「誰の期待にも応えられない」という状況に、この私が叩き込む。

 ザビ家殺しを代行する。
 人類の革新のために薔薇の少女を解放し、人殺し以外のニュータイプの生きる道を開拓する。
 ジオンの血という期待も、アルテイシア様が担って下さるよう話もついた。

 これでこそ、シャアは自由になれるはずなのだ。(高次元ララアの願うところでもある)

 この目的で、シャリアはザビ家殺し、つまり「ギレン・キシリア同時排除」戦のマヴに、目の前で素直に話を聞いているマチュを選ぼうとしていた。
 実際、そのための二機連携の訓練も行っている。着艦前の両機の位置取りはマヴの距離感だ。

 シャリアはマチュを「自分やシャアに似たところがある」と捉えていて、その点で信頼している。サイコガンダム撃墜後に、ニャアンではなくマチュの方に向かったのは、それが理由の一つだ。

二人いるパイロットのうちどうしてマチュを選んだのか

「ジークアクスのパイロットは二人いる」
 そう判断した上で、どちらを味方に引き込み、どちらをキシリアに差し出すか。サイド6でシャリアは考える。

 彼がクランバトルの動画をよく観ていたのは(そして、それで楽しそうにしていたのは)キシリア・ギレン同時排除時のマヴを選んでいたからだ。(エグザベをどうにか引き込めないかと思っていたが、キシリア様への忠誠心が強すぎて断念。途中で現れたマチュに乗り換えている)

 二人いるパイロットのうち「こちらのパイロットの方が、キケロガとマヴを組むには良さそうですね」と、マチュには見当をつけていた。操縦の癖はすぐに見つかった。オールレンジ攻撃を読むよりは、はるかに容易い。ビットでも、ましてモビルスーツでも、それを動かしているのは人の意思なのだ。シャリアはそれを読める。

 サイコガンダム撃墜後に、軍警から逃れて必死に飛行する姿は間違いなくマチュだった。これだけ追い詰められているのに、周囲からの攻撃を全部回避して、目くらましのきりもみまで混ぜている。センスがいい。「あのパイロットが乗ってるな」と確信してシャリアは直行している。ニャアンの無様な墜落などから「途中で乗り換えたな」と分かっていたはずだ。

 マチュを選んだのは、キケロガとの相性や、パイロットのセンスから。
 そして、もう一つ理由がある。

「ニュータイプは人を殺しすぎた。だから憎しみを巻き込んでしまうのかもしれません」という悔恨からくるシャリアの心変わり

 軍人しかいなかったニュータイプの世界で、新世代のトップランナーがマチュだ。

 訓練を通じて理解できた。マチュは、シャリアたち旧時代のニュータイプのありようを写す鏡だ。彼女は、シャリアに対して「ヒゲマンはそれでいいの?」と、いつも突きつけてくる。

 最初、シャリアは、具体的な戦力としてマチュを利用しようとしていた。彼女とジークアクスは、ギレン・キシリア同時排除(殺害)計画に利用できる。

 しかし、新時代のニュータイプは人殺しの道具であってはならない。
 戦争のきっかけを作った昔語りの中で、彼はふと、そう思ったのだ。

 クランバトルで、ドムのコクピットを直接狙うニャアンと比べ、マチュの戦闘は頭部切断で決着をつけていた。
 これほどのニュータイプ能力を持ちながら、彼女はそれを用いて人を殺さない。

 実際にヒゲマンヒゲマンと呼んで不器用に慕ってくるマチュを見ながら、シャリアは思う。これからニュータイプの世を作っていく若者は、我々のように、死をもたらし、憎しみを巻き込み、血で薄汚れる宿命を甘受してはいけないのだ。この子には、この子自身の未来を選ばせたい。

「お願いしたいこと」を、彼はここで変更している。

 マチュ君には、大量破壊兵器の中心核として利用される薔薇の少女の、その救出をお願いしたい。いま話をしていて、そう決心しました。キシリア様のニュータイプ部隊とビグザム部隊は、私がどうにか沈めましょう。ああ、計画を練り直さないと。

 シャリアはそう考えて、流れを切る。

「お察しの通り、あなたには頼み事があるのですが、それはまた今度」

 ただ、マチュへの頼み事(薔薇ララアの解放)の前に、渡しておくものがある。

ハンドガンの重さ

「お前はもう自分で決断できる大人だ」という無言の承認をこめて、シャリアは拳銃を渡した。
 マチュがコロニー事件で社会的なすべてを失いながら、ララア救出という目的を見出したことを彼は認めているからだ。

 35歳のシャリアから見れば、17歳のマチュは子供に見える。
 危険なものは渡したくない。
 しかし、シャリアは拳銃を託すことで敬意を示している。

 自由は「ポジティブな選択」だけではなく「破滅の選択」も含む広大なものだ。
 木星で、この銃を一度はこめかみにめり込ませた男が、合金鋼の重量感でそれを語る。

「あなたが決めた道が間違っていたなら、自分で終わらせなさい」
「破滅を選ぶのも自由です」

 そう、伝えている。
 シャリアは、マチュの成長を強制しない。彼女の自主性を最大限尊重しているからだ。

 この後の第12話で、シャリアは「あなたが権力を握ると破滅を招く」とガンガン警鐘を鳴らしながらシャアに襲いかかるが、マチュにも「虚無と力を同時に持つ」という、そのリスクを自覚させるため拳銃を譲っているのだ。

 この重みで、マチュは自由の負の側面を理解する。
 彼女はいま、シャリアを通じて「自由の全貌」を見渡したのだ。

 マチュはこの重みを両手でなんとか受け止めて、独房で見下ろしている。
 彼女の背中に、自由を選んだ者の責任が重く積載される。

 大人として扱ってくれていることの、これ以上ないほどの証明。
 自分でやることを決めて自由になったマチュには、もちろん自殺する自由も、破滅する自由もある。
 加えて、シャリアが譲ったのは、自分が間違ったら撃ち殺していいという信頼と、より広い自由を理解する広い視野だ。

 そうか、自分で死ぬことも自由に含まれるんだ。
 あらためて、自由というものの底おそろしい広さと責任を感じる。
 自由とは、自分の命とならべられるほどの価値があるのだ。

 かつて「宇宙(そら)って、自由ですか」とクランバトルに飛び込み、視野狭窄を起こし、シュウジを助けるためにと実現不可能な細い細いルートを突っ走って破滅した自分を思い出す。

 自殺する自由もある。
 いま自分のいる場所は、なんて広いんだろう。

 これが自由だ。
 宇宙(そら)のように広い。

 マチュはこの拳銃が気に入っている。
 シャリアという尊敬できる大人が「自由」を得たという。
 その自由の象徴。

 もう自由を得てしまったシャリアには必要ない。
 コモリに注意せよと言っているのは、彼女が自分たちのことをよく見ていて、よき理解者になってくれているという伏線だ。

「ちゃんと支給されたパイロットスーツを着なさい」と規律の人であるコモリが叱る。
 しかし、これはどちらかというと、本当に不慮の事故があったときマチュの生存率を案じての親切だと思う。私服も貸しているし(しかもマチュから「いつもありがと」と言われるくらいの頻度で)本質的にコモリンは優しい人なのだ。

「こっちの方が慣れてるからさ」
「まあまあ、彼女は軍人ではないから」

 二人が息をそろえてそういうのは、互いにニュータイプの勘もあって「軍人になりきっちゃうとジークアクスが嫌がりそう」とか、そういったものを感じ取っているのだと思う。

余談:ララアはどうしてもシャアの相棒を用意したかった

 ジークアクスで「シャアがガンダムに乗るルート」を実現する直前宇宙で、高次元ララアは考えた。
 一年戦争を生き延びて、Z時代には白いガンダムと共闘するようになって、サザビーにまで乗った世界でも、シャアは白いνガンダムに殺されている。

 何が悪かったのだろう。
 いや、あの第二次ネオジオン抗争(逆襲のシャア)を見ればわかる。
 シャアがこだわって、アムロに決着を求め挑んだからだ。

 本質の半分は「乗るモビルスーツ」
 もう半分は「そばにいるヤツ」だったのだ。

 その点で絶妙なのがシャリアだった。
 薔薇のララアは、宇宙の塵になるはずだったシャリアを生かし、シャアの元に導いた。これは見事に奏功して、最終回のシャアは「シャア・アズナブル」という名前を捨てて、生きる道を模索し始めた。
 彼は、シャリアによって戦いの環から解放されたのだ。

 仮に、シャリアがいないままでララアの導きがトントン拍子に進んだとしよう。ガンダムはシャアが奪ったので戦士の心配はない。とにかく死なれては困るのでザビ家への復讐も諦めさせ、テロの標的になっても困るので人類革新の理想も諦めさせた。すべてを失い、シャアは自由になる。
 長く、あらゆるパターンを見てきたララアには、容易に想像がついた。
 シャアは、きっと自殺する。

 実際に「機動戦士ガンダム」第43話では、復讐を遂げたあとでシャアは死んでいる。
 ザンジバル爆発に巻き込まれても構わないという覚悟でブリッジ正面に立っているので、ほぼ自死であろう。

 では、ザビ家復讐も完了し、血塗られた手のままでジオンを導き、シャアの理想が成就したらどうだろう。それでも、彼の虚無は埋まらない。
 ザビ家への復讐も、ニュータイプの理想も、彼にとっては宇宙の意思に従って粛々と行う当たり前の義務として動いている。
 このシャアが独裁の権力を握ったとき、アクシズ落としのような破滅的な行動につながり、自らも燃え尽きる。

 あまりにも、復讐と革新が人生の中心になりすぎていた。シャアは、もうそれ無しには自分自身を考えられなくなっている。

 だからこそ、ララアは木星からシャリア・ブルを引っ張ってきた。
 シャリアが(一度は)自殺を選んだからこそ、そこから生還した人間(虚無先輩としてのシャリア)がそばに必要なのだ。

余談:シャアと結びつけて一番いい相手は返す返すもアムロでなくシャリアであった

 単純にアムロと比較してみよう。
 シャアにとって、アムロという存在は、
「年下」
「自分より強い」
「共通する好きな女がいて、金で買った関係だからと心から甘えられず遠慮してたら、横から掻っ攫われた上に殺された」
 という相手だ。シャアはいつまでも「俺より強いくせに」「ダイクンの子という俺よりもちゃんとしたニュータイプのくせに」と、あふれる才能に嫉妬してつっかかる。ララアという因縁もあって、死ぬまでこだわる相手になってしまった。

 ところがシャリアという存在は、
「年上」
「自分よりはちょい弱い」
「共通する女がいなくて、失踪中もメッセージを理解してジークアクスをパイロット込みで用意完了してくれたし、ザビ家を滅ぼす同志になってくれた」
 という人物だ。

(マチュ帰還後ならララア・スンの名前くらい分かるだろうに「薔薇の少女」とオブジェクト呼びを続けているのもイイ)

 シャアも、アムロの放言には言い返したくなるが、シャリアの諫言ならわりとすんなり聞ける位置関係にある。
 非常にありがたい友人。
 そして、基本は善意だ。
「人の善意を無視するヤツは一生苦しむぞ」とカミーユが言われたアムロのセリフが、次元をこえて響く。

 シャアの虚無という洞窟に、すじかいまで掛けて、死ぬまで崩れぬ支保工となり、そのコンプレックスの大穴を刺激し続けたアムロではなく「こっちの方角に掘っていくと自然と埋まりますよ」と教えてくれたのがシャリアだ。

 ジークアクスの最終回で、彼の虚無は埋まっている。
 一度は空っぽになったシャリアの心に、シャアが野望を注ぎ込んで満たしてくれたように。

 だからこそ、シャアは最後に自由になれたのだ。




 次回はジークアクス第10話の後半。
 これらシャリアの思惑を飛び越えて、キシリアは先手を打つ。



いいなと思ったら応援しよう!