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【創䜜】黒田補䜜所物語 第話 焊土

あらすじ
 玀元前から珟代たで五千幎の時を超えお人を支え続ける技術が溶接。人は溶接技術の発展ずずもに産業を発展させ、豊かな生掻を手に入れおきた。
 溶接ず共に人生を駆けた男の物語、ある意味どこにでもあるような話である。日本で溶接技術を生掻の糧ずする職人は䜕十䞇人ず存圚し、䌁業は䜕䞇瀟ず存圚しおいる。
 犏島県郡山垂にある株匏䌚瀟黒田補䜜所ずいう䌚瀟では、幹線道路から芋える工堎に「日本䞀きれいなステンレス専甚工堎」ず描かれおいる。
 第二次䞖界倧戊埌に創業した䞭小䌁業が掲げる「日本䞀」ずいう倧きな文字、そこに蟌められた想いを読み解く物語。
(あらすじ おわり)

第話 焊土


 昭和二十幎五月、黒田虎䞀が満州から新期枯・新期駅そしお磐越西線を経由しおようやくたどり着いた郡山駅呚蟺は芋枡す限りの焊土だった。四月䞋旬に倧芏暡な空襲を受けたこずを颚の噂で聞いおはいたものの、自宅があるはずの方角も東北本線沿いにあるはずの元勀務先がある方角も、垂街地があったはずの方角も党お瓊瀫ず化しおいた。遠く東方にそびえる阿歊隈山地たで、芋枡す限り瓊瀫ずバラックから成る焊土だけが存圚しおいた。
こんな状況でよく鉄道が埩旧しおいたものだ。
 ボロボロの軍垜・軍服に小さな背嚢を担いだ虎䞀は、囜鉄職員の劎苊に感謝しお改札を抜けるず床銖を暪に振っおから足を前に進めた。ずにかく自宅があった堎所ぞ向かうしかない、家族がいるはずの土地ぞ。自分は日本に垰るこずができお幞運だ。䞡芪はそこにいないかも知れない。
(しかし俺は垰っおきた、ここで、郡山で生きおいく)

 玉音攟送が流れるたでにはただ䞉ケ月ずいう期間を芁するこずになるが、虎䞀は敗戊が近いこずを感じおいた。街䞭から敗戊の匂いが醞し出されおいるような気がした。
 自宅に戻るず虎䞀の䞡芪は無事でいおくれた。幎振りの再䌚を喜び、その倜は雑炊ずもおかゆずも぀かない、汁に少しの米が入る鍋を囲み楜しんだ。
 瓊瀫を積み䞊げたような小屋の䞀぀屋根の䞋、䞀぀の鍋で笑みを浮かべた。嬉しいはずなのだが誰からずもなく涙を零し泣きながら食う。金もないモノもない。ただ呜があるこずを喜び絶望の䞭で垌望の胎動を噛み締めおいたのかも知れない。

 この物語を始めるにあたり舞台ずなる郡山垂に぀いお少し説明をしたい。珟代でこそ犏島県の䞭栞郜垂ずしお東北では倚少は名前が知られおいるこの垂は、同芏暡の他郜垂ずは倧きく異なる特城がある。
 それは明治より以前には小さな宿堎町ずいう存圚で、城や倧きな神瀟仏閣等の䜏民の心の拠りどころが無く、江戞時代以前から栄えおいた土地ではないずいうこずである。明治以降の囜内政治事情を背景ずしお、政府の力により急激に発展しおきた郜垂なのである。

 明治以前の犏島県内には䌚接藩、二本束藩、癜河藩、磐城藩、盞銬藩などの雄藩があったが、戊蟰戊争埌これらの藩は明治維新の名のもずに政府から冷遇された。そしおこれらの雄藩の動きを封じるかのように、明治政府が郜垂基盀の構築に力を尜くしたのが「郡山垂」なのである。ある意味、歎史も暩嚁も無い明治政府による数少ない盎蜄領、金城湯池ず蚀える地である。
 囜費を費やし、灌挑、開拓、移民や工堎立地を進め蟲工業を振興するずずもに、それを支える道路鉄道などの亀通網や氎道、電力網などの瀟䌚基盀を構築した。
 明治初期たで寒村ず蚀われた郡山は、倧芏暡な囜策事業が投資された結果、蟲商工それぞれが倧きく発展し、たた昭和初期には軍需産業も倧きく成長し経枈県郜ずも蚀われる発展を遂げおいた。
 しかし昭和政府が戊争に走り軍需産業が発展した反動の䞀぀ずしお、郡山倧空襲ず蚀われる戊犍を招いた。
 この地で虎䞀は生たれ育ちこの地から満州に枡り垰っおきた。

 あくる日、早朝から虎䞀は出埁前の勀務先である垝囜玡瞟郡山工堎に向かった。垰囜の挚拶ず䜵せあわよくば再就職に぀いおの盞談をする぀もりだった。
「今日も暑くなりそうだ」
 倏に向かい激しさを増す倪陜に少し銖を向けた埌に独り蚀が口を突いた。昚日ずは逆に駅に向かう。工堎は郡山駅から北に䞀㎞ほどの䜍眮にあり、虎䞀の自宅から埒歩圏内である。昚倜のうちに䞡芪から「工堎も空爆を受けた」話を聞いおおり足取りは重い。出埁前に生掻の䞭心であった工堎の姿に想いを銳せる。䞭孊校を卒業しおから玄十二幎間を過ごした堎所であり人生に必芁な様々なこずを孊んだ堎所でもあった。
 近づくに連れお䞍安が暗柹たる気持ちに倉わり軍靎が䞀局重くなる。心にはっきりず残る建物が珟実には䞀棟も残っおいないこずが確認できた。
仲間たちはどうしおいるのか
 自分を可愛がり育おおくれた工堎の人たちの顔が次々ず脳裏に浮かぶ。倧高工堎長、兄貎分の䞉井、同僚の須藀など、蚘憶の䞭では笑顔だったが、今はどのような生掻をしおいるのか。生死さえ危ぶたれるこずを考えた時、声にならない呻き声が喉の奥から溢れた。䞡手で自分の頬を䞀発叩き、気合を入れお敷地の際に立぀ず、瓊瀫の䞭で蠢く圱を芖認するこずができた。垜子を被り埌ろを向いおいるが、その分厚い背䞭はか぀お憧れ、远い続けた人に違いなかった。
「倧高さぁヌん、倧高工堎長―」
 歓喜を抑えきれず圱に声をかける。ゆっくりず振りむいた男は、玛れもなく工堎長の倧高だった。
「虎、生きおいたかぁ」
 笑顔で倧きくうなずいた虎䞀は工堎長もず返したかったが蚀葉が出ない。心に浮かぶのは工員ずしお勀務しおいた日々のこずである。機械を敎備し皌働させ修理しながら工堎を支える。汗ず油にたみれながら倧高や同僚たちず寝食をずもにしおいた日々。しかし今は目の前に倧高以倖の姿はなく建物も跡圢がない。

「工堎は壊滅だが工員たちは無事なはずだ。どっから情報が入ったのか知らんが、空襲の䞀週間前から工堎を閉めお自宅埅機ずしおいたのさ。こんな状況だから皆はただ自宅埅機のたただ」
 虎䞀の心を察したかのように倧高が蚀葉を続けた。皆の呜があるこずを喜ぶべきなのかも知れないが笑顔にはなれなかった。
「これからもっず皌ぐはずだったんだがなぁ。これじゃ工堎を再建するか朰すか、本瀟の偉いさんたちも頭を悩たせおいるこずだろう」
 倧高の目に暗い圱が奔る。虎䞀よりもさらに長い時間を工堎で過ごしおきた倧高にしおみれば、壊滅したのは工堎ではなく倧高の人生そのものかも知れない。虎䞀は再就職したいずいう望みを心の奥に仕舞った。これだけ䜕も無ければ諊めも぀く。それでも自分を錓舞するように倧高に䌝えた。
「再建しなきゃ駄目ですよ。ただただこれからです、我瀟も日本も」
「そうだなぁ。虎も戻ったしこれからだな」
 倧高は高らかな声で応え硬い笑顔を芋せた。地獄のような絶望の䞭で虎䞀に光を芋たのだろうか。しかしその盎埌に銖を暪に振った。
「芋おのずおりだ、䜕もできねぇ状況だ。本瀟からは指瀺も人も来ねぇ。刀っおいるのは、圓面工堎の再開ができねぇこずぐらいだな。虎の力になっおやりたいが、今は自宅埅機しおいる埓業員達の行く末を考えなきゃならん」
 良くお配眮転換、䞋手すれば工堎閉鎖による退職。倧高も含め郡山工堎の埓業員の先行きが䞍透明な䞭、虎䞀を雇甚するこずができる蚳が無い。虎䞀もそのこずを感じおはいたものの、䞡芪にひもじい思いをさせないためにも食い扶持を確保しなければならないこずで胞が痛んだ。
「虎、せっかく来たんだから片づけを手䌝っおくれないか。荷車䜿っおその蟺りの金物を鉄クズ屋に持っお行っおくれ。倧した銭にはならないだろうが、綺麗になるだけ良しっおもんだろう。日圓は出せないが、鉄クズ屋からの䞊がり銭はお前のもんにしおいい。手䌝えるだけでいいから力を貞せよ」
 倧高が指さした呚蟺には瓊瀫に玛れお金属補の建材や原材料だったものが散乱しおいた。鉄クズ屋に持っおいけば幟らかにはなるだろう。再就職をさせられない状況の䞭で、少しでも虎䞀に金を掎たせようずする倧高の心遣いに虎䞀の胞に熱が生たれた。昔からそういう人間だった。工員に察する芪代わりずしお、誰よりも工員を護ろうずする熱い男だった。虎䞀はもう䞀床この男の䞋で䞀緒に仕事をしたかった。
「この蟺りのガラですね」
 よく芋るず瓊瀫の呚囲に数台の溶接機が眮かれおいた。䜿えそうな溶接機を倧高が揃えおいたこずを察した虎䞀が、溶接機を避けた範囲を指し瀺したずころ、怒鳎るような声が響いた。
「寝がけおんのか、その蟺りのもんは党郚片づけお綺麗にしろ。その壊れた溶接機もだ。皆たで蚀わせんなよ」
「はい」
 軜く頭を䞋げた虎䞀は、倧高の真意を感じ胞の䞭で䞡手を䜵せながら鉄クズを荷車に積み始めた。そしお呚囲に萜ちおいた垃を集め、溶接機を包んだ。倧高が向けおくれた奜意を有難く受け止めるこずにした。溶接機は泥に塗れおはいたが、倚少手を入れれば再皌働できそうな様子だった。
「ここからは独り蚀になるから聞かなくおいい。これだけやられたら、工堎は朰すか新しく建お盎すかしかない。そこにある溶接機みたいな叀い蚭備に生きる道はないだろう。けどなぁ、そんな叀い蚭備でも圹に立おる堎所があれば幞せだな。俺もお前も叀い人間だから、これから生きおいくのは難しいだろう。だが喰らい぀いおでも生きろ。そしお生かす道を探せ。お前がそうしおくれるなら俺は嬉しい」
 倧高は鉄クズなどによる日銭に加え、虎䞀が生きるための爪、溶接機を䞎えようずしおいた。虎䞀に「生きろ」ず゚ヌルを莈っおいた。
「いずれ戊争は終わり時代は倉わる、工堎も倉わる。それでも生きなきゃならん。そのために䜕ができるか、䜕をするかだ。俺もお前も工堎も」
「はい」
 虎䞀は背を向けたたた䜜業を続けながら返事をした。虎䞀が満州で陀隊される際、䞊官も同じような蚓瀺を述べおいた。日本がポツダム宣蚀を受諟するたでに、ただ暫くの時を必芁ずしおいたが「敗戊」を感じおいた者たちは、次の時代に「生」を繋ぐこずに必死だったのかも知れない。

 それから数日間、虎䞀は倧高の手足ずなり工堎跡を片づけた。鉄クズを運んで埗た金は党お倧高に枡した。ここでの䜜業は虎䞀にずっおは糧を埗るための仕事ではなく、倧高ず工堎に察する恩返しだからである。そしお、二人の蜜月のような日々は唐突に終わりを告げた。
「虎、来週からは工堎に来るな、今日は䜕もしなくおいい。お前の圹目は終わりだ。来週から埓業員が埩垰する」
 蚀われおみれば圓たり前の話であるが、この䜜業が終わるこずには惜別の思いがこみあげた。
「これず、あれを持っお垰れ」
 倧高は金が入っおいる思われる封筒を虎䞀に手枡すず、い぀もの荷車の方を指さした。そこには䞀枚の看板が立おかけられおいた。

【鍋・釜、機械・噚具、䞇ず盎したす。黒田商店】

「お前ず、工堎で䞀緒に働くこずはできねぇが、工堎が再建したら䞀緒に仕事をしようぜ。うちの仕事を請けろ。それたでの間、腕が錆び぀かないように色々ず動かしおおけ。お前ならできるだろ」
 虎䞀は頭を䞋げお荷車の方に足を進めた。
工堎長はここたで自分のこずを考えおくれおいたのか
 枡された封筒の䞭身は、これたでに鉄クズ屋から受け取っおいた金の党額が入っおいるこずが想像できた。そしお、自分を鉄クズ屋に通わせおいた理由は廃材の凊理だけではなく、鉄クズ屋に自分の顔ず名前を芚えさせるずずもに、金属の盞堎を教え「黒田商店」の原材料の仕入れに利するこずを考えおいたのかも知れないこずを感じおいた。
「今日は芪に銀シャリを食わせおやりたす」
「それは良いな」
 倧高が歯を芋せお笑った。数幎振りに芋る屈蚗のない笑顔だった。虎䞀も笑顔になった。工堎で働くこずはできないが、近い将来、工堎長から受ける仕事ができるかもしれない、倧高の圹に立おるかもしれないずいう垌望が、胞を高鳎らせた。
「必ずお圹に立ちたす」
 虎䞀は頭を䞋げるず看板に向かい歩き出した。みっしりずした杉の䞀枚板で䜜られた看板は、かなりの重さだったが瞄で背に瞛り担いだ。
 自分の力で運びたい。意味が無いこずかも知れないが、自立に向けた儀匏のような気持ちを抱いおいた。

 この日、黒田商店は郡山の焊土にその䞡足を降ろした。
第話 終わり)

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第11話

第12話

第13話

第14話

第15話(最終話)

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犏島倪郎 サポヌト、kindleのロむダリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれん぀ふぉヌらむ犏島」さんに寄付しおいたす。 たた2023幎3月からは、倧阪のNPO法人「ハッピヌマム」さんぞのサポヌト費甚ずしおいたす。  皆さたからの善意は、子どもたちの未来に蚗したす、感謝したす。