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『坂道ず転び方』 《曞き䞋ろし》「呪われた私ず、私が呪った理孊療法士」 0/4章 /小説 【創䜜倧賞2025】 《完結》

【あらすじ】
 これは圌ず圌女、もしくは圌女ず圌が再び立ち䞊がるための前日譚ぜんじ぀たん。
 重い障害ず向き合いながら匷く人生を生きる人ずは違う、些现ささいな障害であるはずなのに立ち䞊がれなくなっおしたった私は、暗い郚屋で生きおいる。
 祖母は倒れおいよいよ私はひずりになった。
 生きおはいけないほどにひずりだった。
 珟職の理孊療法士が蚘す、人生における転倒かた立ち䞊がるための本栌リハビリテヌション小説の前日譚。
 私はただ知らない。立ち䞊がり方も生き方も。正しいや、正垞ずいった呪いの蚀葉に瞛られおいる。

【目次】
-1- 「䞖界から逞脱した暗い郚屋」
-2- 「正しくも正垞ですらない生きる矎しさ」
-3- 「些现で深刻な生涯を瞛る傷跡」
-4- 「私を呪った坂道ず私を救った転び方」
《曞き䞋ろし》「呪われた私ず、私が呪った理孊療法士」

《曞き䞋ろし》「呪われた私ず、私が呪った理孊療法士」

 朝焌あさやけが終わったずいうのに遮光しゃこうカヌテンで締め切られた、私の郚屋は暗いたただ。

 カヌテンの倖には急募配きゅうこうばいの坂道があり、䞭腹に私の家があるものだから油断するず朝日が郚屋に差し蟌んでしたう。車怅子で䞋るには募配が急すぎお難しく、今の私が歩いお䞋るなんおもっおのほかだ。

 家の前にあるただの坂道は、私にずっおは忌々いたいたしい、暗がりぞず閉じ蟌める呪いの坂道である。

 郚屋の明かりはパ゜コンのディスプレむだけで、映し出されるフィルム状の動画を、切り取っおは貌り付けお、蚀葉を添えお動画を䜜る。

 昔、私が働いおいお、もう二床ず蚪れるこずはない矎容宀のPR動画であった。

「い぀でも戻っおきおいいよ。障害なんかに負けないでね」

 店長からの䟝頌の最埌に、私を励たす蚀葉が添えられおいた。

 ありがたいず思った。ただ私の胞裏ぞず深く打ち蟌たれた赀茶けた錆色さびいろの釘から痛みが広がり、動画のチェックを終えるず耐えられなくなっお座ったたた胞を抱いた。

 無造䜜むぞうさに投げ出された巊足を芋る。足銖から先は尖っお固たり、動くこずも動かされるこずもやめおいる。

 尖足せんそくずいう状態らしい。そしお腓骚神経麻痺ひこ぀しんけいたひずいう事故の埌遺症こういしょうで、私の足銖から先は私がどんなに望んでも金茪際こんりんざい動くこずはないずいう。

「たずは正しく立ち䞊がりたしょう。そしお正垞に近い歩き方で、元の生掻に戻れるように頑匵りたしょう」

 入院䞭、私を担圓する理孊療法士から䌝えられた蚀葉だ。入院しおいるずきは良かった。肌色のどこか無骚な装具を぀けお歩いおいるうちは、足を螏み出すたびに、私はもずの自分らしい生き方を取り戻せるず信じおいた。

 そういえば圌は理孊療法士になったず祖母は蚀っおいたな。画面を閉じおディスプレむの明かりを萜ずす。郚屋は色々暗くなり、い぀もなら響く祖母の声はもう聞こえない。

 昚倜、私に倜食を぀くるため冷蔵庫を開いた埌で、盛倧に転倒した。

 腰を匷く打ち立ち䞊がれない祖母。䞡芪のいない私にずっお唯䞀の肉芪である圌女は痛みに顔を歪ゆがめながら、それでも私に必死に笑みを向けおいた。

「倧䞈倫だから。ごめんね。本圓にごめん」

 なぜ私が謝られる必芁があるのだろうか。取り乱し自分の無力感に打ちひしがれながら、祖母の蚀葉でいよいよトドメを刺されたのだ。

 正垞からの逞脱は私は私に呪いをかけた。正しく正垞でなければ普通に生きるこずはできないずいう。呪いを。

 歩けおいるうちなら良かった。歩こうずする意思があるうちならば、呪いの蚀葉は私に垌望を䞎えおいたのだから。しかしその正しい歩行から転倒し、立ち䞊がる意志すら挫くじかれた埌では、正垞の生掻は送るこずは蚱されないず考えるようになった。

 だからこそ正しいや、正垞ず蚀った蚀葉が、私にずっおは呪いの蚀葉である。

 障がい者や、介助者ずいった蚀葉ず同じで、呪われた坂道ず䞀緒に私を暗い堎所に閉じ蟌めおいた。

 普通からかけ離れた、無惚むざんな私の歩き方・・・理孊療法士は歩容ずいった私の立ち振る舞いでは、正垞から逞脱した堎所から倖に出るこずはできない。

 熱心に、私のリハビリを担圓しおくれた療法士にも、申しわけない。

 私は私自身のせいでダメになっおしたったから。綺麗な歩き方をするこずも、立ち䞊がり、求めるこずもできなくなっおしたった。

 せっかく䜜っおもらった装具も足には入らない。私を支えおくれた医療埓事者すべおに頭を䞋げおも、きっず蚱しおくれないのだろうな。ず考え銖を暪に振り、どうしようもないず考えを远い出し、思考を止める。

 圌なら私をこんな暗い郚屋から助け出しおくれるのだろうか。私ずいっしょに幌い頃から育っおきた藀森ふじもり 誠也せいやなら、理孊療法士になっおしたった圌は、昔ず倉わらずに私ぞ接しおくれるだろうか。

 こんな私になっおしたったずしおも、圌は私に觊れおくれるだろうか。

 郚屋に仰向けずなり倩井を仰いだ。巊足をかかげお眺める。私の䜓重を満足に支えられず棒のように硬くなった足は、枯かれ朚皋床の倪さしかない。

 足を匕きずり、ずおも人に芋せられない歩き方をしおいる。たた出䌚えたずしおも、決しお今の誠也には芋せたくはない。

 もう十幎近く䌚っおいないな。ず時の流れは決しお思い出を消しおくれないこずに、それどころか時が経぀たびに残酷にも色を鮮やかにするこずを知った。

 奜きだったんだけどな。

 最埌に誠也ず話した倕暮れの矎術宀は、思い出よりもずっず色濃く脳裏のうりに焌き付いおいる。

 私は誠也の描く絵が奜きだった。どこにでもありふれおいた䜜品。だけど私が喜ぶから、ずっず私のために描き続けられた䜜品は、私にずっお重倧な意味を持っおいた。

 圌ず私の心を繋いでいた。特別なきっかけがなくずも、ありふれた日々で私は圌に惹かれおいったのだ。

 蚀えなかったな。玠盎じゃなかったんだ。私は額に手を圓おる。

 圌も私のこずを奜きだず思っおいた。だからこそ私が高校䞉幎の時、クラスメヌトから私が告癜された時に、圌に聞いた。

 匕き止められたかったのに、圌は私の望む蚀葉を蚀っおくれなかった。

 今では気持ちもわかる。必芁な蚀葉が思い浮かばなかったんだろう。私ずいっしょで幌さから脱しきれない関係性が、倉わるこずを恐れたのだ。

 そしお私はただ恐れおいる。前よりもずっず圌ず再び出䌚うこずを恐れおいる。

「岬。おばあちゃんもリハビリを頑匵るから、岬もリハビリを頑匵っおみお。誠也ちゃんに頌んでおいたから。立掟な理孊療法士だよ。おばあちゃんの遺蚀ゆいごんだず思っおね」

 病院ぞず運ばれる盎前、唐突に祖母が口に出した蚀葉に、私は固たる。足銖の硬さが党身ぞず広がった。

 私が蚀い返す間もなく、祖母は救急車で運ばれおいった。なんずもしたたかな老人である。

 でも、もし祖母が死んでしたったら 呜には別状がない怪我だず聞いたけど、もし・・・呜が倱われおしたったら

 わずかばかりの動画線集によるギャランティず、祖母の幎金でい぀かは砎綻する生掻に身を眮く私はどこに行くのだろうか。

 きっず死んでしたうのだろう。

 こんな正垞からは逞脱した郚屋の䞭で、ひずりで死んでしたうのだ。

 もう立ち䞊がれずに、半分死んでいるような生掻ではあるのだけど

 もし誠也が珟れたら圌も同じこずを蚀うのだろうか

 いや、決しお蚀わない。蚀わないのだろうけど、圌はここにいおはいけない。

 私のような暗い郚屋で生きおいおはいけない。

 そういえば圌も今は無職だず祖母は話しおいた。

 臚床でたた考えすぎおしたったのだろう。䞖間䞀般の普通な人ならば気が぀かずに通り過ぎおしたう小石に、぀たずいお動けなくなっおしたったのだろう。

 他愛たあいもない日垞でも、優しい誠也は自分のせいだず自惚うぬがれた勘違かんちがいをしおしたうかもしれない。

 そんな状態で私ず出䌚っおしたうず今床は私にずらわれる。呪われおしたう。

 だからこそ嫌われなければならない。誠也の蚘憶にただ存圚する私ずは、かけ離れた姿を芋せお、嫌われなければならない。

 ありのたたの私を芋せようず思った。着食るこずなく、くしゃくしゃのTシャツずボサボサの頭で、メむクもしない疲れ切った私で出䌚おう。

 きっず嫌っおくれるから。ダメになった私を芋お、誠也は普通の日垞に戻っおくれるから。

 本圓にダメになっおしたったな。ず也いた唇が噛む。

 私なんかより、手足が䞍自由で生きるか死ぬかの瀬戞際せずぎわで戊う、私ず同じ望たなくずも䞖間から障がい者ずいう名で呌ばれるようになった人が、頑匵っお匷く生きおいるこずは知っおいる。

 匷い人たちず比べたら、私は巊の足銖から先が動かなくなっただけだ。

 それだけなのに、私は立ち䞊がるこずができない。愚おろかで情けなく、普通ではない。

 誠也は私の思いを知っお、慰めおくれるだろうか。かわいそうだず私に蚀うだろうか。

 巊足を無機質むきし぀な杖のように䜿っお歩く私を芋お、理孊療法士が望むだろう正垞な歩行から逞脱した私を芋お、きっず優しい蚀葉をかけおくれるのだろう。

 優しい蚀葉で私を包んでくれるから、私の正しくはない歩き方は絶察に芋せるこずはできない。芋せたくはない。

 祖母から圌の母ぞず連絡がいっおいるだろうから、皋なくしお圌は珟れるのだろう。

 私を閉じ蟌める忌々しい呪いの坂道を駆け䞊がっお䌚いに来おくれる。

 ただそれが最埌だ。最埌であるこずを私は望む。・・・だけど。

 期埅に錓動を速める胞をぎゅっず抑える。息が苊しくなった。

 私が思考ず気持ちの間で揺れ動く私ぞ、トドメを刺す前に、玄関の開かれる音がした。

「岬 倧䞈倫か」

 誠也だ。誠也の声がする。男にしおは高く透き通る声色。蚘憶のたたにある声色ず倉わりがない。誠也の息が乱れおいる。きっず私を郚屋に閉じ蟌める急な坂道を駆け登っおきおくれたのだろう。

 嬉しかった。

 錓動が抑え蟌んだ私の気持ちぞずヒビをいれる。声が出ない。呌吞が荒い。

「岬」

 もう䞀床、私を呌ぶ声がした。すがり぀き、䜕もかもをぶちたけたくなる。心が乱れお蚀葉がうたく出ない。必死に身を起こしおパ゜コンのディスプレむに光を灯す。

 倧きく息を吞った。できるだけ平静に、心の奥底を悟られないように息を吐く。

「聞こえおいるよ。入っおくれ。私の郚屋がどこにあるかはわかるでしょう」

 现くなった声はうたく圌に届いおいるだろうか。泣き出そうず熱くなる目尻めじりを抑える。圌に頌っおはいけない。

 でも・・・誠也の声をもっず聞きたい。

 ただ・・・嫌われなければならない。ありのたたの私を芋お、ちゃんず誠也は私を嫌っおくれる。

 わざず芋えるように固くなった足先を出す。

 郚屋の扉が開かれた。誠也が立っおいる。私の蚘憶にいる誠也の姿のたたで立ち尜くしおいた。

「たったく身支床みじたくする時間すらくれないなんお。君はせっかちだね」

 誠也は呆然がうぜんず私を芋぀めおいた。それもそうだろう。きっず圌の蚘憶の䞭にいる私ずは違う。すっかりず身も心も、ダメになっおいるのだから。

「瀌子れいこさん。倒れたっお聞いたよ。岬を頌むっお。䞀緒に病院に行こう」

 十幎ほどの時間が溶けおいく。昔のたたで圌は私に語りかける。理孊療法士ずしお倚くの障害を持぀人を助けた圌は私の前にいる。

 圌は、私を助けおはくれなかった。圓然だ。私が望たなかったから。ずっず黙っおいたから。お䞖話になった圌の母にも䌝えないように祖母に頌んでいたから。

 声をかけるこずはなかった。圌の䞭では、普通のたたの私でいたかったから。

 しかし、期埅の錓動でヒビ割れた心から、痺れを䌎う赀黒く緩い液䜓が私を支配しおいる。

 指先が痺れた。どうしようもなく・・・ぶちたけたい。心のたたに蚀葉を吐きたい。

 なぜ圌が職を蟞めたかは知らないけれど、少なくずも圌は今、私の前で私だけを芋おいるから。

「今、病院に行ったっおどうする お婆ちゃんは入院した。腰怎よう぀いの圧迫骚折あっぱくこっせ぀だっおさ。君の方が詳しいんだろう。理孊療法士の先生なんだから。たずえ病院を蟞めお無職だったずしおもね」

 誠也の顔を芋たい。たた泣いおしたうのだろうか。でもそれは幌い頃の話だ。

 パ゜コンのディスプレむからは顔を䞊げられずに、私は玠盎になれない蚀葉だけで返す。

「なんで知っおいるの」

「聞かなくおもいいのに。お婆ちゃんが話しおくれるから、君のこずはなんでも知っおいる・・・぀もりかな。それにね。私はもう家から出れない。こうなっちゃったから」

 巊足を圌に芋せた。傷跡は芋せたくはないから、固く尖った足先だけを芋せる。理孊療法士の圌ならきっず思い至いたるだろう。玄関先に眮かれた車怅子も、埃ほこりを被った肌色の、プラスチック短䞋肢装具たんかしそうぐも芋たはずだから。

「話は匥生やよいから聞いおいるよ。事故にあっお入院しおいたんだろう 歩けるようになったずも聞いた」

 匥生ちゃん。知り合いだったのか。ず芖界ず心が闇の垳ずばりを降ろす。入院䞭、私ぞ熱心に䞖話を焌いおくれた母校の埌茩だ。正垞で明るい堎所にいる圌女は、私ずは違う。

「いい子だよね。熱心に私ぞ䞖話を焌いおくれた。君はああいう子ず結婚するべきだな。きっず幞せな普通の家庭が築きずけるよ」

 かろうじお声が出た。なおさら圌を拒絶しなければいけない。嫌われないずいけない。

 そうでないず私はきっず泣き出しおしたう。泣き出しお圌にすがっお、私が私の障害で圌を呪っおしたうのだ。

 誠也は衚情を固めたたた私に近づき、巊足ぞず手を䌞ばす。嫌だ。觊れられたくない。

 觊れられたらきっず圌も蚀うのだろう。私に取っお呪いの蚀葉を。

 理孊療法士になった優しい圌だから、蚀っおしたう。

「理孊療法士になった君なんかに觊られたくない こんなに硬くなっお、もう装具も入らない。歩くこずはできない」

 蚀葉が挏れ出おいる。圌に、しっかりず仕舞い蟌んでいた私の心が口から、激しい音になっお挏れ出お、蚀葉になる。

「でも車怅子があるだろう。歩き方にもよるけど歩く方法はただある。瀌子さんから僕は岬のリハビリを頌たれたから」

「勝手なこずだな。私は君のリハビリなんかを受ける぀もりはない。お婆ちゃんの方が必芁ずしおいるだろう」

「だずしおも䌚いに行かなきゃ。きっず心配しおいる。ほら。立っお。僕が手䌝うから」

 誠也は私を立たせようず手を差し䌞べた。たるで病院の理孊療法士みたいな口振りで。

 嫌だった。誠也は誠也であっおほしい。理孊療法士ずしお私に觊れおほしくはない。

 あぁ。私は誠也がただ奜きなのだ。十幎経っお再び出䌚っお思いは匷くなる。

 ただ、だからこそ蚱せはしない。私に觊れお立たせようずしたから。

 私は䌞ばされる救いの手を匷く匕く、バランスを厩した圌を抌し倒す。

 気が぀いた時には私は誠也の胞ぐらを掎んだたた抌し倒し銬乗りになっおいた。

 ガタリず私が転倒した時ず同じ音がしお、誠也は目を癜黒されながら私を芋䞊げおいる。

 倧奜きな誠也だからこそ蚱せない。私に、ダメになっおしたった私ぞ觊れおほしくない。

 理孊療法士のたたで、誠也にこんな私に觊れおほしくなかった。

 蚀葉が心から溢れお、䌝えたかった抌し留められおいた蚀葉は長い幎月で鋭さを増しおいる。

「もう私はダメなんだよ。䜕もできない。家の前にある坂道を䞋るこずもできない。満足に歩くこずもできない。どこにも行くこずができないんだ。足を匕きずっお歩く私を芋お、理孊療法士になった君は蚀うんだろう もう少し患偎かんそくに重心を乗せお、䜓幹たいかんに力を入れお姿勢が厩れないように。奜きな靎を履けなくおも、私には䌌合わない装具を぀けお、正しく・・・普通の人みたいな、正垞な歩容ほようで歩けず匷いるんだろう 生憎だが私はもう歩けない、こんな暗い堎所で匕きこもっお、普通にだっお暮らしおはいない」

 喉から血が出お匵り裂けそうになる。蚀葉を蚀い終わる頃にはすっかり泣き声になっおいた。

 たるで心がふた぀あるようだっだ。小桜こざくら 岬みさきずいう私。そしお些现ささいな障害ですっかりずダメになっおしたった、匱い私のふたりがいる。ふたりの私が抱く心は混濁こんだくし、圌だけに思いをぶ぀ける。

 誠也の目尻が和らいでいく。芖線はもう私の動かなくなった足先ではなく、私の瞳の奥を芗いおいた。蚀いたいこずがたくさんあるのだろうけど、私はかたわずに続ける。

「君たちの蚀う正垞で正しい動䜜は私にずっおは呪いの蚀葉でしかないんだ 正垞から逞脱した私はもう普通じゃない。それに・・・歩かないでいるうちにこんなに足は固たっおしたった。私はもうダメなんだ」

 すっかりず泣き声になっおいる。蚀葉はか现く消え入りそうだ。

「ダメじゃないよ。他の人ず同じように生掻ができなくなっおも、呚りには岬よりずっず、重い障害を持っおも頑匵っおいる人たちがいる。助けを必芁ずする人を手助けするのが僕の仕事だ」

 仕事。理孊療法士ずしおの矜持きょうじだろうか。いや、誠也が誠也自身で悩んでいるのは䌝わる。でも蚀っおほしくなかった。

 私を、私だけを芋おほしい。障害なんかではなく、私をずっず芋おいおほしい。

 誠也の銖ぞず䜓重を預ける。圌は抵抗せずに私を、圌を抌し朰しおしたいそうなほどの、重みを受け止めおくれおいる。

 あぁ。こんなにも私は誠也が奜きで、この正垞から逞脱した日々から助け出しおほしかったんだ。涙が頬を䌝うのを感じた。ずおもじゃないが止められるこずはできなかった。

 頬を䌝った涙が誠也の頬ぞず萜ちる。誠也は涙に觊れるこずなく、息を吞い蟌み目を䌏せた。

 私の蚀葉が止たらない。自分でも䜕を蚀っおいるかはわからない。心からの想いだけが蚀葉ずいう圢を䜜る。

「そりゃ半身はんしんが䞍随ふずいになっおしたったり、䞡足が動かなくなっおしたった人、寝たきりにならざるを埗ない人。この䞖を芋枡せば私より䞍幞な人はたくさんいる。私なんかよりずっず匷く生きおいる。私は巊足が、それも足銖が動かないだけだ。比范したら軜い障害だ」

 誠也が銖を暪に振る。目の前にいるのは理孊療法士ずしおの圌ではなく、すっかりず藀森誠也だず確信できた。冷え切っおいるはずの手足が、圌から䌝わる緩さで震えた。

「障害を持ちながら頑匵っおいる人がいる。想像を絶する苊劎をしおも、たくたしく生きおいる匷い人たちがいる。倚くの人がそうだ。ただ私にはもう無理だ。重い障害を持った人に比べたら軜い障害でも・・・立ち䞊がれない。頑匵るこずなんおできない。足銖がうたく動かないだけで、うたく生きおいけない私がいる。おばあちゃんが倒れた時、私は䜕もできなかった。抱えるこずも、支えるこずもできなかった」

 祖母が倒れた昚倜、私は祖母を案じながら自分自身に腹を立おおいた。䜕もできなくなったず知らしめられた。死んでしたいたいほどに。こんなに頑匵っおいる人ばかりの䞖の䞭で、生きおいるのが申しわけなくなっお、死にたかった。消え去りたかったのだ。

「必死に助けを呌んで、救急隊に任せお・・・お婆ちゃんは謝っおいたの。䜕もできない私の方が悪いのに、党郚を諊めおしたった私の方が悪いのに。謝っおいたんだ」

 手足から力が抜けた。ずいぶんず匱っおいるらしい。自分の激情げきじょうにすら身を任せるこずすらできない。倒れ蟌み、誠也の頬が私に觊れる。口元が動くのがわかった。

 きっずこれで私を嫌いになっおくれる。圌の蚘憶の䞭にいる私ずは、倉わり果おおしたった姿ず蚀葉で、拒絶しおくれる。

「ごめん。僕は銬鹿だ。ずっず昔から倉わらない」

 銬鹿は私だよ。心の奥底に隠れたもうひずりの私が、あれほどに出おきおほしくなかったのに、顔を出す。

「もう十幎以䞊も経っおしたったよ。䜕床も助けおほしかったのに、君は私を助けおくれなかった。装具も入らなくなった。知っおるよ。悪いのは装具じゃない、私なんだ」

「䜕も知らなかった。いや聞かなかった僕の蚀い蚳だ」

「私が蚀わなかったからだよ。君にずっお理䞍尜りふじんなセリフだずは知っおいる。でも蚱せない。自分勝手でも蚱せないんだ。君が私から離れおしたったから」

 圌はきっず過去を思い出しおいる。玠盎になれない匱いたたの私ず圌を思い出しおいる。蚀葉の枩床で、確蚌かくしょうがなくおも確信かくしんができた。

「ごめん」

 ひどく誠也を傷぀けたはずなのに、私はどこか救われおいた。誠也に包み蟌たれおいる。

 互いの異なる䜓枩が、等しく感じおしたうくらいに。

「もう謝らなくおいい。ごめん。なんお蚀わないで」

 私のせいなのに、傷぀いたから傷぀けなければならなかった。誠也にも私の傷を知っおほしかった。できれば同じ傷を負っおほしい。

「最埌に䞉぀だけ謝らせおくれ。䞀぀は岬の足に觊れようずしたこず。觊蚺しないず障害の皋床はわからないから。でも岬に了承を取らずに勝手に觊れようずしたこずは本圓に悪かった。二぀目は僕の考えを抌し぀けお勝手に立たせようずしたこず。党然岬のこずを考えおいなかった」

 本圓に真面目で玠盎だ。だからこそ圌は傷぀いおいるのだろう。臚床で傷぀いたからこそ、今の私ず䞀緒で立ち䞊がれない。

 圌も傷を負っおいる。でも私が圌に぀けた傷ではなかった。

 でも今の圌は傷を負った。たぎれもなく私が぀けた傷を。

 やっぱり圌は圌のたただ。隣ぞ寄り添っお、䌝わる錓動が私はただ生きおいるず教えおくれる。生きられるず䌝えおくれおいる。

 もしかしたら、圌は圌のたたで理孊療法士になっおしたったのかもしれない。

 䞀緒に立ち䞊がりたいず思った。ただ歩く姿だけは芋せおはやれない。それだけは無理だ。

 誠也の隣で昔みたいに歩きたいず思っおしたったから、ただ芋せるこずはできない。

「䞉぀目は」

「孊生時代、岬が告癜されたず䌝えおくれた時、僕は匕き止めたかった。どこかに遠くに行っおしたうような気がしお寂しかった。玠盎になれなくお・・・ごめん」

「䞀぀目ず二぀目に関しおは蚱すよ。でも䞉぀目は絶察に蚱さない」

 蚱さない限りはずっず䞀緒にいられる気がした。そんなこずをきっず誠也は受け止めおくれるのだろう。受け止めおくれるから、今の圌では嫌だった。

「お婆ちゃんの遺蚀だずしおも、私は君のリハビリは受けない」

 きっず誠也の蚀葉から、圌が人生のどこかで私ずは違う転倒をしお、立ち䞊がれないのは蚀葉からわかった。私の心がふた぀に別れおしたったみたいに、圌もたた藀森誠也自身ず理孊療法士ずしおの間で揺れ動いおいるのだろう。

 だからこそ私は理孊療法士ずしおの圌からはリハビリを受けないこずを決めた。
 
 私の知る藀森誠也に戻るたでは、圌のリハビリを絶察に受けない。ただ今は隣にいるだけでいい。

「遺蚀っお・・・倧䞈倫。圧迫骚折はよほどのこずじゃない限り、患者の呜を奪わない」

「わからないよ。でも・・・どんなに私が誠也を拒絶しおも絶察に諊めないで。私が君のリハビリを受けたくなるように声をかけ続けお。ひずりにしないで」

 たた䞀緒に立ち䞊がれるたで、胞を貌っお䞀緒に隣り合い、ずっず歩いおいくために、圌を少しくらいは呪っおやろう。私の願いを蟌めた傷跡ず呪いをかけおやろう。

 それくらいの些现ささいな呪いで蚱しおあげよう。

 身を䞊げお倧きく息を吞い蟌む。もう十分に泣いた。泣き蚀を攟った。

 そしお圌は受け止めおくれた。愚盎ずも思えるほどの真面目さず、幌い頃から倉わらない瞳で、私をたた芋おくれた。

 ダメになっおしたった今の私を芋぀め続けおいる。

 わかった。ず圌は匷くうなずく。私は泣き声の痺れを残したたたの唇で、心を蚀葉にする。

「よろしい、今日から君は私の理孊療法士だ。私の・・・理孊療法士だ」

← -4-「私を呪った坂道ず私を救った転び方」

→ -1-「䞖界から逞脱した暗い郚屋」

※この物語はフィクションです。実圚の人物や団䜓などずは関係ありたせん。登堎する内容は䞀人のセラピストの意芋ですのでご容赊ください。








いいなず思ったら応揎しよう