メモ 日本国民の間で広がる政治不信の根源にあるのは「統治の不安」である

日本社会では以前から政治不信が一つの大きなテーマとなっており、政治改革を求める声に繋がってきました。それらの不満の表現内容は経済、社会、安全保障などの文脈で異なりますが、根底には「統治の不安(anxiety over governance)」という共通項があると考えられています。

池田謙一『統治の不安と日本政治のリアリティ』は、計量的アプローチでこの日本国民が抱いている「統治の不安」の変化を分析している研究の一つです。日本国民はさまざまな国際的危機や経済的変動を経験してきましたが、高度経済成長(1954年~1973年)の時代には大幅に生活水準が向上し、世界的に見ても豊かな生活を送れるようになりました。

しかし、第四次中東戦争(1973年)に端を発する石油危機の影響で高度経済成長が終わると、成長と分配を前提とした日本政治のあり方が見直されました。『統治の不安と日本政治のリアリティ』はこの時代の変化を投票行動の長期的変化から考察した研究と位置付けることができます。

池田謙一『統治の不安と日本政治のリアリティ:政権交代前後の底流と国際比較文脈 変動期における投票行動の全国的・時系列的調査研』木鐸社、2019年

この研究で興味深いのは、日本国民が他国に比べて将来の国家的リスクに統治が対応できないことへの不安、つまり「統治の不安(anxiety over governance)」が国際的比較で見ても突出して高いということです。客観的指標で日本国民は世界でも平和で安定した社会で暮らしていますが、日本国民は戦争やテロ・内戦に巻き込まれるのではないかという不安、自分が失業したり、子供が十分な教育を受けることができなくなるのではないかという社会生活上の不安を他国より強く持つ傾向があるのです。

「統治の不安」に関する分析は、Ikeda, K. I. (2022). Contemporary Japanese politics and anxiety over governance. Routledge.でさらに詳細に分析されています。この研究では2010年から2019年の間に「統治の不安」に改善が見られたことが報告されており、2012年に発足した安倍政権の長期化による効果である可能性があると述べられています(Ikeda 2022: 175)。しかし、2010年代の改善効果が出た後でも客観指標は大きく上回り続けているので、基本的な傾向が変わったわけではありません。その後、新型コロナウイルスの危機の後で傾向はさらに顕著となり、最近の国内における党派対立も「統治の不安」を悪化させています。

Ikeda, K. I. (2022). Contemporary Japanese politics and anxiety over governance. Routledge.

日本国民が全体として感じている「統治の不安」を引き下げる取り組みが行われる必要がありますが、具体策については、さらに検討を重ねる必要があります。池田謙一、前田幸男、山脇岳志編著『日本の分断はどこにあるのか』では「民主的統治度認知」を高め、日本が民主的に統治されていると認識するほど、「統治の不安」が軽減されることが指摘されています(248-249頁)。

池田謙一、前田幸男、山脇岳志編著『日本の分断はどこにあるのか:スマートニュース・メディア価値観全国調査から検証する』勁草書房、2024年

ただし、民主的統治度認知を引き上げる対策をどのように組み立てればよいのかという難題が残されます。政治学の研究では、民主主義の有効性と社会関係資本との間に密接な関係があるとされており、それは有権者の政治参加を促す効果があると考えられています。例えば、自身と同じ地域に住んでいる人の名前をどれだけ多く思い出せるか、日頃から挨拶する人の数がどれだけいるかによって社会関係資本を測定することが可能です。

社会関係資本が減少すると有権者の公的関心を低下させ、私的関心に引きこもりやすくなります。貨幣では換算できませんが、個人の幸福度や地域の経済発展とも関連が分かっています。日本の歴史では高度経済成長の時代に地方の人口の多くが都市部に流入していますが、この都市部で社会関係資本を強化できる場所が不足している可能性があります。

ここまで課題を要素分解すれば、国政というよりも地方政治の文脈で取り組むべき課題に落とし込むことができます。今後、日本社会として人々の社会関係資本を積極的に形成できる都市空間の開発に投資していかなければ、日本国民が共通の課題として感じている「統治の不安」に対応することはますます難しくなってしまうのではないかと思います。

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