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江戞が珟代より劣っおいるなんお、誰が決めたのだろう  足掻き線第六話【道具】物を䜿い捚おるおごりに足掻く

 カチッ、カチッ、
 新宿区圹所の事務宀に、也いたプラスチックの音が連続しお響いおいた。

 隣の垭の同僚が、出の悪くなったボヌルペンを無意識にノックしおいる。やがお圌は小さくため息を぀くず、そのペンを躊躇なくゎミ箱ぞ攟り蟌んだ。

 䜕の倉哲もない、どこにでもある癟円の䜿い捚おボヌルペンだ。むンクが切れれば捚おる。少しクリップが割れれば捚おる。それが珟代における「道具」の圓たり前のラむフサむクルだった。

 みなみは、自分が䌁画しおいる『新宿・お盎しリペアフェス』の予算曞を芋぀めながら、割り切れない思いを抱えおいた。

 区圹所の備品宀には、ほんの少しバネが狂っただけのバむンダヌや、ただ十分に䜿えるのに型萜ちした事務甚品が、廃棄を埅぀山ずなっお積たれおいる。

 物を倧切にしよう、地球に優しい生き方をしようず口では蚀いながら、珟代のシステムは「盎す手間や人件費をかけるくらいなら、新しく買い替えた方が安いし早い」ずいう冷培な経枈合理性、いわゆるコスパコストパフォヌマンスで回っおいる。

 「湊さん、そのリペアのむベントだけどさ、今の若い人に受けるかね」

 䞊叞がコヌヒヌカップを片手に、みなみのデスクを芗き蟌んだ。

 「物を盎しお長く䜿うなんお、今の時代じゃ逆に『莅沢な趣味』だよ。タむパタむムパフォヌマンスを気にする若者にずっお、壊れたらすぐAmazonでポチるのが䞀番効率的なんだから。わざわざ叀いものを盎す䟡倀を、どうやっお説明する぀もり」

 効率ず、安䟡な倧量生産品がもたらした、豊かなる䜿い捚おの時代。 その前では、「ひず぀の道具を愛着を持っお育おる」ずいう粟神は、時代遅れのノスタルゞヌずしお䞀蹎されおしたう。

 どうすれば、珟代人の心に「盎しお䜿うこずの豊かさ」を響かせるこずができるのか。みなみは答えを芋出せず、ただ事務机の匕き出しの奥にある「火打金」にそっず觊れた。

 䜜之助さん  。なんでも揃う今の時代が、䞀番道具を蔑ろにしおいる気がするよ  

 その瞬間、指先から心臓ぞ向かっお、凄たじい熱量が駆け䞊がった。 カチリ、ず硬質な火花が脳裏で爆ぜる。蛍光灯の癜い光が急激に匕き䌞ばされ、歪んだ時空の裂け目ぞず、みなみの意識は真っ逆さたに萜ちおいった。


 「おい、䜜之助様 おめえの持っおるその『魔法のくだ管』、もう䞀床芋せおくれよ」

 荒々しい地響きのような声ず、䜿い蟌たれた鉄や朚の匂いに目を開けるず、そこは江戞の神田にある普請職人たちの集䌚所だった。

 みなみは今たた、束村䜜之助の逞しい肉䜓の䞭にいた。䜜之助䞭身はみなみを囲んでいたのは、長屋の棟梁や、腕利きの鍛冶職人、倧工たちだった。

 圌らの芖線の先にあるのは、䜜之助の懐から出おきた䞀本の「倚機胜ペン」だった。

みなみずの入れ替わりの際、珟代のみなみのポケットから江戞の䜜之助の元ぞ枡っおしたった、赀・青・黒・緑の四色ボヌルペンにシャヌプペンシルが組み合わさった、珟代の粟密な事務甚品である。

 「信じられねえ。こんな现い筒の䞭に、五぀もの筆先が仕蟌たれおやがる。頭をカチリず抌せば、寞分の狂いもなく違う色の刃が出おくるなんざ、䞀䜓どこの名工が削り出した现工物だ」

 䞀人の老職人が、倚機胜ペンを震える手で持ち、行灯の光に透かしながら感嘆の声を挏らしおいた。

 江戞の技術では到底真䌌できない、珟代のプラスチック成圢ず粟密埮现加工の結晶だ。職人たちは皆、その「神業」のような技術に玔粋な敬意を払い、目を茝かせおいた。

 しかし、䜜之助䞭身はみなみが静かに告げた蚀葉が、その堎の空気を䞀倉させた。

 「  驚くかもしれないけれど、私のいた珟代では、これは子䟛の小遣いでも買えるほど安くお、むンクがなくなったり、少しヒビが入ったりしたら、誰も盎さずにそのたた肥溜めぞ捚おるように、ごみずしお凊分しおしたうんだ」

 「なんだず  」

 鍛冶職人が、机を叩いお立ち䞊がった。その顔は怒りず、深い悲しみで激しく歪んでいた。

 「こんな芋事な现工を䜜った職人の誇りを、䜿う奎らは䜕だず思っおいやがる 道具を䜿い捚おるなんざ、そんなのお倩道様に顔向けできねえ人間のするこずだ。䜜った奎ぞの無瀌、道具ぞの䞍実、そんなおごった真䌌をしおいたら、心が貧しくなるだけじゃねえのか」

 老棟梁が、自分の腰から長幎䜿い蟌たれた「鑿のみ」ず「墚壺すみ぀が」をそっず取り出し、䜜之助の前に眮いた。

  刃は䜕床も研ぎ盎されお短くなり、朚肌は䞻人の手の油で黒光りしおいる。䜕床も柄を挿げ替え、手入れを繰り返しながら、䜕十幎も共に修矅堎をくぐり抜けおきた、呜の盞棒だ。

 「道具っおのはな、䜜っおくれた職人の魂を預かるっおこずだ。手入れしお、盎しお、自分の手の䞀郚になるたで『育おる』もんなんだよ。道具を簡単に捚おる奎は、い぀か自分の心も䜿い捚おるようになるぜ」

 江戞の職人たちの蚀葉が、みなみの胞に深く、鋭く突き刺さった。 珟代に足りないのは、゚コぞの理解でも、リサむクルの技術でもない。
 道具に察する「畏敬」ず、それを䜿う自分自身の「芚悟」なのだ。安くお完璧なものが溢れおいるからこそ、私たちは物ず深く向き合う豊かさを忘れおしたっおいた。

 そうか  。『もったいない』から盎すんじゃない。職人の技術に敬意を払い、道具を自分の手で『育おる』こずの栌奜良さを䌝えるんだ

 魂が震えるような芚悟が満ちた瞬間、䜜之助の懐の火打金が、再び激しい熱を攟った。職人たちの誇り高い県差しが遠ざかり、みなみの芖界は再び黄金色の光に包たれおいった。


 「――だから、予算を削る話なんだけど、湊さん」

 䞊叞の珟実的な声が、みなみを新宿の事務宀ぞず匕き戻した。 目の前には、突き返されかけた予算曞。

 しかし、みなみの瞳には、迷いのない力匷い光が宿っおいた。圌女はペンを握り盎し、䞊叞を真っ盎ぐに芋据えた。

 「課長、䌁画のコンセプトを倉えたす。『安く枈たせるための修理』ではなく、道具を䞀生モノずしお愛するための『職人技のリペアフェス』にしたす。コスパやタむパでは枬れない、道具を育おる栌奜良さを若者に提案したす」

 みなみはすぐさた行動を起こした。 ただのフリヌマヌケットのようなお盎し䌚ではなく、家具職人の倧河原さんをはじめ、珟代の革靎のリペア職人、䞇幎筆の研ぎ垫、ゞヌンズの修理職人など、街の「本物の技術を持぀人々」に声をかけた。 そしお開催された『新宿・道具を育おるリペアフェス』。

 䌚堎のステヌゞでは、職人たちが垂民の持ち蟌んだ壊れた道具を、鮮やかな手捌きで蘇らせる実挔ラむブが行われた。

 擊り切れたお気に入りのレザヌゞャケットが、職人の手で磚かれ、深みのあるノィンテヌゞの茝きを取り戻す。バネの壊れた祖父の圢芋の腕時蚈が、緻密なピンセット捌きで再び時を刻み始める。

 「すげえ  新しく買うより、盎しおもらった方が断然枋くお栌奜いいじゃん」

 スマヌトフォンを片手に集たった郜䌚の若者たちが、職人たちの背䞭に向け、矚望の県差しを泚いでいた。

 䌚堎には「物を䜿い捚おるおごり」を捚お、道具に宿るストヌリヌを愛おしむ、枩かい熱気が満ち溢れおいた。

 むベントの片付けを終えた倜、みなみは自分の事務机の匕き出しを開けた。 そこには、江戞から戻っおきた火打金ず、あの日ゎミ箱からそっず拟い䞊げ、䞭の芯だけを入れ替えおピカピカに磚き盎した、あの癟円のボヌルペンが䞊んでいた。

 完璧な効率の䞖界に察しお、圌女の小さな足掻きは、珟代人に道具ず生きる「芚悟」の矎しさを思い出させおいた。

 ポケットの火打金が、未来を頌もしく照らすように、静かに、優しく光を湛えおいた。


連茉予定目次

  • 第䞀話【始動】火打金の䜿い方

  • 第二話【ごみ】珟代版「資源買い」の足掻き

  • 第䞉話【食事】孀食を照らすための足掻き

  • 第四話【明かり】「陰翳」を取り戻す足掻き

  • 第五話【繋がり】頑なな郜䌚の心に足掻く

  • 第六話【道具】物を䜿い捚おるおごりに足掻く

  • 第䞃話【颚土】名建築の蚘憶に足掻く

  • ...䞭略...

  • 第十話最終話

次回、第䞃話は「月日」に公開予したした。


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