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江戞が珟代より劣っおいるなんお、誰が決めたのだろう足掻き線第䞃話【颚土】名建築の蚘憶に足掻く

 「䜕のための反察運動だよ。どうせあんな叀臭い建物、残しおおいたっお䞀銭の埗にもなりゃしないのに」

 新宿駅近くのカフェ。隣の垭のビゞネスパヌ゜ンが、タブレット端末に映る再開発のニュヌスを芋ながら冷ややかに錻で笑った。

 みなみはその声を聞きながら、手元の分厚い「郜垂蚈画申請曞」を睚み぀けおいた。

 いた、西新宿の䞀角にある、昭和初期に建おられた朚造モダニズムの掋通が取り壊しの危機に瀕しおいた。倧正から昭和の初めにかけお、著名ではないが確かな審矎県を持った建築家たちが、日本の䌝統朚造技術ず西掋の意匠を融合させお生み出した、街の至宝ずも蚀える矎しい建物だ。

  しかし、珟代の郜垂開発のロゞックは非情だった。叀い建物は「耐震性が䜎い」「土地の容積率を無駄にしおいる」ずいう理由で、容易にスクラップ・アンド・ビルドの察象にされる。

 跡地に建おられるのは、党面ガラス匵りの、どこにいっおも芋かけるような均䞀で効率的な高局ビル。それが珟代における「発展」の定矩だった。

 「湊さん、色んな垂民団䜓から保存の芁望曞が届いおるけど、これはもう『決定事項』だから」

  開発掚進課の同僚が、すたなそうな顔でコヌヒヌを差し出す。

  「叀い建物を維持するのには、莫倧な修繕費がかかる。民間の土地だし、区ずしおは関䞎できないよ。新しいビルになれば皎収も増えるし、街も『綺麗』になるんだから、仕方のないこずさ」

 仕方のないこず。珟代人が諊めるずきに䜿う、䞀番䟿利な蚀葉だ。

 しかし、みなみには分かっおいた。歎史ある建物を壊すずいうこずは、単に叀い朚材ず煉瓊を撀去するこずではない。

 その空間に染み぀いおいた人々の蚘憶、街の固有の「䜓枩」を氞遠に消し去っおしたうずいうこずなのだ。

 すべおが均䞀化された街で、人々はどうやっお自分たちのアむデンティティを保おばいいのだろうか。

 江戞の町は、倧火があっおも、職人たちの手で䜕床も同じ『街の蚘憶』を再生させおきた。圢を倉えながらも、街の魂を繋いできたのに。どうしお今の私たちは、過去を消すこずでしか未来を䜜れないの  

 みなみは、コヌトのポケットの䞭で「火打金」の角を匷く芪指で圧した。 圌女は諊め切れず、建物をただ保存するのではなく、珟代の建築技術で耐震補匷を斜し、地域のコミュニティ拠点や若手クリ゚むタヌのシェアオフィスずしお『動態保存』する逆提案を緎っおいた。

 しかし、圹所や地暩者を説埗するための「決定的な仕掛け」が足りない。

 「䜜之助さん  力を貞しお。この街の䜓枩を守りたいの」

 祈るように火打金を握りしめるず、手のひらが匕き裂かれるような熱を垯びた。

 カチ、ず耳元で硬質な火花の音が響く。オフィスの喧隒が急速に遠ざかり、みなみの意識は再び、土ず朚の匂いが色濃く挂う過去の䞖界ぞず匕き剥がされおいった。


 「――おい、䜜之助様 そこを突っ匵っおくれ 梁はりの重みを感じるだろ、職人の意地の匵りどころだ」

 腹の底に響くような怒声ず、小気味よい朚槌の音。目を開けるず、みなみは建築䞭の倧きな歊家屋敷の足堎の䞊に立っおいた。

今たた、束村䜜之助の逞しい身䜓の䞭にいた。隣では、倧汗をかいた棟梁が、組み䞊げられる巚朚を鋭い県で芋据えおいる。

 「棟梁  この朚組みは、ずいぶんず手の蟌んだ现工ですね」

  䜜之助䞭身はみなみが感嘆の声を挏らすず、棟梁は誇らしげに錻を鳎らした。

 「圓たり前だろ。これは『仕口しぐち』っお蚀っおな、釘を䞀本も䜿わずに朚ず朚を噛み合わせる江戞の知恵だ。

 朚っおのは生きおる。倩候や季節で䌞び瞮みするんだよ。その朚の『呌吞』を殺さずに、いなしお受け止める。

 だから、江戞の建物は、倧地震が来おもしなやかに揺れお持ち堪えるんだ」

 棟梁は組み䞊がったばかりの柱を、愛おしそうに掌で叩いた。

 「俺たちが建おおいるのは、ただの雚颚をしのぐ箱じゃねえ。この土地の颚土、ここで暮らす人間の人生、それを包み蟌む『噚』なんだよ。  叀い建物を盎しながら癟幎、二癟幎ず匕き継いでいくのはな、先人たちの『やさしさ』を未来の奎らに手枡しおいくっおこずなんだ。  新しいもんをただ䞊べりゃいいっおわけじゃねえ。それじゃ、街に『䜓枩』が通わねえだろうが」

 颚土を生きる、呌吞をする、やさしさを手枡す。 江戞の建築職人たちの蚀葉が、みなみの脳裏で新宿の掋通の姿ず重なった。

 あの掋通に䜿われおいる朚材も、昭和初期の職人たちが「癟幎先の人々の暮らし」を思っお、䞀本ず぀䞁寧に削り、組んだものだったはずだ。

 珟代のスクラップ・アンド・ビルドは、その䜕䞖代にもわたる「やさしさのバトン」を、自分たちの代で身勝手に叩き折る行為に他ならない。

 そうか、建物を『残す』こずが目的じゃない。あの建物が持っおいる『人ず土地の蚘憶』を、珟代の新しい感性ず掛け合わせお、次の䞖代ぞ『普請ふしん』し盎すんだ

 胞の奥に熱い颚が吹き抜けるず同時に、䜜之助の身䜓の奥で、火打金が激しい熱を攟ち始めた。棟梁の頌もしい背䞭が遠ざかり、みなみの芖界は再び黄金色の光に包たれおいった。


 「――だからね、湊さん。地暩者も聞く耳を持たないよ」

  同僚の珟実的な声で、みなみは新宿の事務宀ぞず匕き戻された。 目の前には、開発のスケゞュヌル衚。

 しかし、みなみの瞳には、江戞の職人から受け継いだ、揺るぎない「普請の芚悟」が宿っおいた。

 「分かりたした。地暩者の方に、もう䞀床だけお時間をいただけるよう調敎しおください。今床は、行政の理屈ではなく、この建物を掻かした『新しい街の䟡倀』をご提案したす」

 みなみはすぐに動き出した。匕退職人の倧河原さんたちや、建築孊科の若い倧孊生、そしお地域の名建築を愛する同奜䌚の仲間たちに声をかけ、突貫で䞀぀の「建築暡型」ず「事業蚈画曞」を䜜り䞊げた。

 それは、叀い掋通の倖芳ず矎しい朚組みをそのたた掻かし぀぀、内郚だけを珟代の最新技術で耐震・断熱補匷し、1階を地域䜏民が集たる「䞀汁䞀菜のカフェ」、2階を若手クリ゚むタヌが栌安で集う「コワヌキングスペヌス」ぞず生たれ倉わらせる『新宿モダニズム・普請プロゞェクト』だった。

 みなみは、取り壊しを予定しおいた頑固な地暩者の老玳士の元ぞ、その暡型を持っお盎談刀に蚪れた。

 「倧旊那、この建物を壊しお高局ビルを建おれば、確かに目先の利益は出るかもしれたせん。でも、この掋通は倧旊那のご祖父様が、この新宿の街を愛しお建おられたものですよね。建物を壊すこずは、ご家族の歎史も、この街の䜓枩も消しおしたうずいうこずです。どうか、珟代の力で、この建物を未来ぞ『普請』し盎させおください」

 老玳士は、粟巧に䜜られた暡型をじっず芋぀め、やがおその震える指先で、暡型の小さな朚の柱に觊れた。

 圌の脳裏に、か぀おこの掋通で過ごした家族の枩かい蚘憶が蘇っおいるようだった。

  「  効率ばかりを远う䞖の䞭に、私も少し疲れおいたのかもしれんね。分かった。この蚈画で、もう䞀床挑戊しおみよう」

 数ヶ月埌、取り壊し予定だった掋通は、職人たちの手によっお芋事に蘇り、『新宿・普請通』ずしお産声を䞊げた。

 ガラス匵りの高局ビル矀の足元で、その朚造の掋通は、どこか懐かしく、圧倒的な存圚感を攟っおいる。1階のカフェからは出汁のいい銙りが挂い、2階からは若い起業家たちの熱い議論の声が聞こえる。

 街の人々は、その建物の前を通るたびに、自然ず歩調を緩め、その䜇たいに目を现めおいた。

 みなみは、建物の柱にそっず手を圓おた。手のひらから、朚の優しい呌吞ず、確かな「䜓枩」が䌝わっおくる。 ポケットの䞭の火打金が、よくやった、ず告げるように、静かに、そしお枩かく、圌女の未来を祝犏しおいた。


連茉予定目次

  • 第䞀話【始動】火打金の䜿い方

  • 第二話【ごみ】珟代版「資源買い」の足掻き

  • 第䞉話【食事】孀食を照らすための足掻き

  • 第四話【明かり】「陰翳」を取り戻す足掻き

  • 第五話【繋がり】頑なな郜䌚の心に足掻く

  • 第六話【道具】物を䜿い捚おるおごりに足掻く

  • 第䞃話【颚土】名建築の蚘憶に足掻く

  • 第八話【恋ず玄束】桜の朚の䞋で

  • ...䞭略...

  • 第十話最終話

次回、第八話は「月日」に公開したした。

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