「泥の檻・改 シーン07・アルティメットスキル」
7話はすごいことになりそうだったので、もう少し時間をおいてもよかったのですけど、いつ完成するかわからないのでさらっと公開。公開しない傑作よりする駄作。
前話はこちら。
「泥の檻・改 シーン07・アルティメットスキル」
折目しのぶが式マコトをいたぶっていたその時のこと。
「なんなのあの女。お兄ちゃんにあんなことして」
立ち入り禁止の貯水タンクの脇に腰かけ、式マコトの妹、式霧子が図書館のベランダを見下ろしながら言った。
「まあ、いいわ。それ以上何かしたら、私が許さないから」
式マコトの前の折目しのぶが一瞬、霧子の方を見上げた気がしたが、霧子は動じない。なぜなら霧子は、悪魔オリウスの「フリーズ」の能力を超えた、神にも匹敵するアルティメットスキルをいくつか持っていたからだ。
その一つが光に自分の身体を貫通させるという能力だ。これにより霧子の身体は完全な透明になる。いや、それどころかそこに存在しないも同然になるのだ。この宇宙から消えたように見えるのだ。
そもそもオリウスと折目しのぶの持っているものが、結構なチートスキルだ。それをはるかに凌駕し、大人と子供のケンカとでも言えるほどの圧倒的威力を持つ霧子のとんでもないチート能力。それはオリウスさえも想定外のものであった。オリウスとしのぶは、人間をあなどっていたのではなかった。霧子をあなどっていたのだ(くわっ!
ここでもし霧子がしのぶであったなら、「さて、どうしたものか」と、冷静に得物を見る猟師のような顔つきで言っただろう。だが霧子はそうしない。もうすでに得物は檻の中だから。オリウスとしのぶは、完全に霧子の管理下に置かれた、家畜同然の存在なのだから。
あの夜、しのぶが時を止めて式マコトと式霧子の部屋に潜入し、式霧子の写真を見てこう言った。
「この娘、どうしてこんなに幸せそうに笑えるのか……」
折目しのぶが、幸せというものに触れたことのない、不遇な250年を過ごしてきたことも、そう感じた理由だろう。
しかし最大の理由は、式霧子という圧倒的強者の、余裕の笑みだったのだ。この世界の時が止まり、オリウスとしのぶだけが夜の闇を自由に歩き、自分のすぐそばまで近づいて来ているという、その事実を知覚し把握し理解してまでも、「時を止められたフリ」をしてベッドで横たわり続けるというその精神力。それは王者の余裕、赤ちゃんを見る大人の余裕、悪魔を見下す神の余裕であった。しのぶは悪魔オリウスと契約を結ぶことで、不老の身体と「フリーズ」の能力を得たが、式霧子はそうではない。産まれながらにしていくつもの超絶的に神がかった能力を持ち、そのことに気付き、使いこなす技を自分で開発したという天才、ギフテッドという恵まれた存在の中のさらに上位、いわばスーパーギフテッドなのだ。
そんな式霧子にとって、捕えた得物を「どうしてやろうか」と考えることさえ愚かなことだ。あとはかわいがればいい。愛でればいい。大切に育てればいい。どんな子に育つかな、わくわく、わくわく、と、楽しみにしているだけでいいのだ。あとは適切なタイミングで、適切な量のご飯とおやつをあげればいいのだ。
兄である式マコトに、そうしているように。
「今度のペットは、お兄ちゃんよりずっと楽しそう」 霧子はにっこりと笑った。
そして、どうやらオリウスと折目しのぶの意見がまとまったようだ。オリウスは黒い霧となって消え、そのあとしのぶが右手を頭上にかかげると、時が動き出した。周囲をきょろきょろと見回す霧子の兄、マコト。そのマコトの眼前にたつ幼女体型のしのぶは、制服のポケットからハンカチを取り出し、嫌がるマコトの顔をそれでぬぐった。どうやら自分の吐いた唾を拭いてやっているようだ。
「何をイチャイチャしているんだか」
一瞬むっとした表情になった霧子だったが、いつもの笑みを取り戻し、うれしそうに言った。
「胎児よ胎児、なぜ踊る」
くくっと笑った霧子は、さて、と言って姿を可視化させ、立ち上がってスカートのほこりを払った。
(続く)
