見出し画像

#073|バイク旅の真骨頂、寄り道に寄り道を重ね何も予定通りに進まない|世界放浪-ユーラシア大陸横断編-Day58~60🇬🇪

前回はこちらから。


森の向こうはアブハジア

ウシュグリから山を下り、ズグディディまで戻ってきた翌日、未承認国家アブハジアとの境界に近いルヒ要塞へ向かった。

要塞はツタに覆われ、かなり朽ちている。
観光客も誰一人とおらず、静かというより少し不気味なくらいだった。

城壁へ上がる。
見えるのはひたすらに森、そしてその向こうに続く山々。

ただの田舎の景色だ。
でも、この向こうには事実上の別国家がある。

アブハジアは国際的にはジョージア領とされながら、ソ連崩壊後の戦争を経てジョージア政府の統治が及ばなくなった地域だ。
2008年以降はロシアが独立を承認し、現在も事実上分離した状態が続いている。

つまり今でも緊張が続き、気軽には行き来できない。
そんな場所が、今見えている森の向こうにある。

でも景色にはもちろん何の境界も見えない。
山の色が変わるわけでも、地面に線が引かれているわけでも当然ない。

それでも、この見えない線を巡って人が戦い、故郷を離れた人がいて、今もなおこの問題は解決していない。

地図ではただの一本の線。
でも現実ではもっと複雑で難しい問題。

国境とは何なのだろう。
そんなことを考えながら、ルヒ要塞を後にした。


廃リゾート、アナクリア

そのまま黒海沿いのアナクリアという町へ。

ここではかつて大規模なリゾート開発が進められたものの、計画通りには完成せずに廃ビーチリゾートとなってしまった場所らしい。

ところが、実際に足を運ぶと思ったよりもちゃんと普通に人がいてそこまで廃れた印象はない。
営業している綺麗なホテルもあり、その前のビーチは海水浴客で(やや)賑わっていた。

なんだ、普通のビーチじゃないか。
そんなこと思いながら少し北へ進むと、急に人が減った。

立派なのに使われている気配の薄い建物や、途中で時間が止まったような空間が出てくる。

そこにはリゾート計画が幾度となく頓挫した痕跡が…。
こういうのを見たかったのだ。

つい最近まで、ここに未来を造ろうとしていた人がいた。
そう思える距離感が面白い。

こういう建物は、何百年も前の遺跡とは違い時間が近い。
たかが十年単位で廃墟と化した建物たちには、独特の哀愁と趣があってやはり良い。

その日はさらに南のウレキという場所まで走り、黒海沿いにテントを張り一泊。
こちらは想像していた数倍ちゃんとした観光地と化していた。

ビーチ近くのメイン通りにはレストランやお土産屋さんが多く並び、ロシア語を話す観光客やロシアナンバーの車も多く見かけた。

雲の多い一日だったが、日没の瞬間だけ太陽が顔を出した。
思えば久々の海だ。
(体感ほぼ海だったカスピ海を海としなければ、)韓国から中国に船で渡って以来だろうか。


橋の下にいた人

翌日、黒海沿いを南へ走り、バトゥミという場所から東に折れて再び山へ入った。

黒海だってちゃんと青い。

やがて内陸部に入り、川沿いを走っていると中世に作られたという古い石造りのアーチ橋が散見された。
休憩がてらそのうちの一つに寄り道してみる。

特に長居するつもりもなく、橋そのものを軽く見て、そのまま出発するつもりだった。

ところが橋の下を見ると、一人のおっちゃんが川で何か作業をしている。
気になって声をかけた。

魚を獲る仕掛けを作っているらしい。
長い糸にミミズをいくつも付け、それを川へ流す。
ジョージア語のため何を言ってるかまるで分からないが、おそらくそう言っている。

しばらくすると、もう一人男性がやって来た。
彼の友だちだという。
その友人は英語を話せたので、彼を通訳に会話が始まった。

少し話していると、
「1時間くらい待てば魚が獲れる。一緒に食べていかないか?」
とのお誘いが。

そんなん、食べるしかない。


魚が獲れるまで

自分で造ったという川沿いのスペースへ案内された。
どうやら彼はこの辺りで必要なものを自分で作りながら暮らしているようだ。
良い生き方だなあとしみじみ。

聞こえるのは、川のせせらぎと風で木々が揺れる音、そして虫の声。
魚が獲れるまで、ただ待つ。

さらに二人の友人も合流し、自分を含め計5人となった。

そのうち食べ物も次々と出てくる。
パン、トマト、玉ねぎ、ジャガイモ。

ほとんどが自家製らしい。
そして当然のように、自家製のチャチャ(= ワイン造りで出るブドウの搾りかすを蒸留した酒)まで出てきた。

バイクで移動しなくちゃいけないと伝えると、
「家に泊まっていけばいい。部屋が余ってるから好きに使っていいぞ。」
と言う。それならお言葉に甘えよう。

小さなグラスに並々注がれ、乾杯。

「80%くらいあるぞ」
そう笑いながら言っている。

一気に飲む。カーっと喉が焼ける。これはヤバい。

そんなことをしながら待っていると、魚が獲れた。
ムルツァという魚らしい。

慣れた手つきで内臓と卵を取り出し、塩だけ振って直火で焼いていく。
卵も一緒に火へ。この窯も自分で作ったらしい。

やがて魚が焼きあがる。
これが抜群にうまかった。


チャチャを飲み、話し、また飲む。
宴会はそのままひたすらに続いた。

気づけば19時半頃。
日は山の向こうへ隠れ始めていた。

突如混ぜてもらった宴会は終わりを迎えた。

改めて楽しい時間だった。
午前中ここに立ち寄るまでは、当然こんな予定ではなかったのだが…。


名残惜しい朝

そのまま山の裏手にある彼の家に移動して一泊。
思った以上の取っ散らかり具合だったが、ぐっすりよく眠れた。

翌朝、紅茶を入れてくれたので川辺でのんびり。

自家製ワインとチャチャの貯蔵庫も少し見せてもらい、出発するつもりがなんだかんだでゆっくりしてしまう。

昨日たまたま橋の下で声をかけただけの人。
それなのに別れるときには少し名残惜しささえあった。

9時を少し過ぎた頃、礼を言って再びバイクに跨った。

そのまま東へ山道を進む。

最初は川沿いの狭いワインディングで、どこか日本の田舎を走っているような景色だった。
途中には工事中の荒れた道も続く。

それを抜けたあたりで、突然視界が開けた。


一番好きな峠

ここはゴデルジ峠(Goderdzi Pass)という名前がついているようだ。
山の斜面に小さな家々が点々と並び、その向こうに高原らしい景色が広がっている。

あまりの気持ちよさに、思わずバイクを停めた。

標高のせいか、もはや涼しいというか少し肌寒さすら感じる風が顔をなでる。
観光客の姿はほとんどない。

カズベキ周辺のような圧倒的な岩山でもなければ、ウシュグリのように巨大な雪山が目の前にあるわけでもない。

でも、ここまでジョージアで走った峠の中では一番好きかもしれない。
理由はうまく説明できないが…。

あまりの良さに、そこを起点に少し周辺を散策した。
どこを走っても最高に気持ちが良い。

前日の朝時点では、この辺りはその日の夕方には通過していたはずなのだが…。
寄り道に寄り道が重なっていく。

もはや目的地へ早く着きたいという気持ちは完全になくなっていた。


城より、野良温泉

そんな峠を越え、アハルツィヘという街に到着。
ここで一泊することにした。

街にはラバティ城というお城があったので少し寄ってみた。
良くも悪くも観光用に整えられた綺麗なお城といった具合だ。

この街のハイライトは、そんなお城よりも街外れにある野良温泉だったかもしれない。

湯は少しぬるめ。
底の泥が舞うので、入ったところで体が綺麗になる気は全くしない。

でもそんなことはどうでもいい。

横には川が流れ、地元の子どもたちはそこで遊んでいる。

暑くなれば川へ入り、体が冷えたらまた温泉へ戻る。
夕方になると、川の向こうにあるラバティ城が少しずつ夕日に照らされていった。
それを湯に浸かりながら眺める。最高だ。

湯につかりながら、ここ数日をふと振り返る。
何も予定通りに行っていないなあ、と。

でも、それこそがバイク旅の真骨頂。
バイク旅はこうでなくっちゃ。


続きはこちらから。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集