タイ編20. 成田に着いた瞬間、思わず「Sorry」と言いかけた|7日目 後編(完結)
自動ドアが開いた瞬間、そこは気味が悪いほど静かな「日本」だった。
誰かにぶつかりそうになって、思わず「Sorry」と言いかけた。
僕の体にはまだ、タイの熱気と排気ガスの匂いが染み付いていた。
日記:2002年8月25日 バンコク空港〜日本、帰国。
空港に着き、お礼の言葉を考えていたけれど、言葉に詰まってしまった。
ただ、感謝の気持ちを込めて運ちゃんと固く握手を交わした。
出国手続きを終え、飛行機へ。
深夜便ということもあり、泥のように眠った。
機内食の味は、あのジャングルの村や屋台で食べたものとは、もう違う。
ソウルの空港で乗り継ぎを待つ間、写真を整理し、日記を書いた。
ゲートに並ぶ日本人の団体を見て、
「ああ、帰るんだな」と現実に引き戻される。
成田に着いた瞬間、すべてがあっさりしすぎていて不安になった。
税関で麻薬捜査犬にすり寄られ、厳しい検査を受けたけれど、後ろめたいことは何もない。
「麻薬、勧められなかった?」という質問を、自信満々で乗り越えた。
自動ドアが開くと、そこは見慣れた、そして気味が悪いほどに静かな「日本」だった。
誰かにぶつかりそうになって、思わず「Sorry」と言いかけて、不思議な感覚になる。
僕の体にはまだ、タイの熱気と排気ガスの匂いが染み付いていた。
エピローグ
この旅で、僕は「言葉の壁」という大きな壁にぶち当たった。
本気で英語を勉強しよう。そう心に誓った。
帰国して1週間。僕はもう、次の旅を決めていた。
「今やらなきゃ、いつやるんだ」という言葉が、頭から離れない。
僕は今、短大卒業後の進路に悩んでいる。
心にあるのは「ワーキングホリデー」への挑戦。
100万円以上の資金が必要だが、自力で貯めようと決意した。
この日記に、タイのことだけでなく自分の未来のことを書いたのは、自分に釘を刺したかったから。
目標を明確にして、逃げ道を無くしたかった。
今しかできないことを逃すな。
知らない事を知って、ドキドキとワクワクを求めて、人生を全うしたい。
薄っぺらな意味ではなく、心の底から「今を生きる」。
そんな人生を送りたい。
僕の旅は、これからも続く。
44歳の今、振り返って。
あの時の日記を読み返すと、19歳の僕はただがむしゃらだった。
カワタの「ダイジョーブネ」。
キャメロンの手のひらのキス。
雨の中のトゥクトゥクの背中。
名前も知らない人たちが、あの7日間で19歳の僕を作ってくれた。
旅は人を変えるのではなく、「もともとあった自分」を引き出してくれるものなのかもしれない。
【アラン:『幸福論』より】
「未来はまだ存在しない。過去はもう存在しない。あるのは『今』というこの瞬間だけだ」
パタヤの空を飛んだあの瞬間も、山奥でホタルを見た夜も、雨の中のトゥクトゥクも、すべては「今」だった。過去の後悔でも未来の不安でもなく、その瞬間に全力でいられたこと。それが19歳の旅から得た、一番の宝物だったと思う。
【ラッセル:『幸福論』より】
「熱意こそが、人生を生きるに値するものにする」
「今やらなきゃいつやる」という突き上げるような熱意が、その後のパパを香港へ、カナダへ、アメリカへ、ヨーロッパへと向かわせたエンジンになった。
いつかこれを読む子供たちへ。
不完全でいい。動けば、世界は応えてくれる。
───── タイ編、全20話、完結。─────
最初から読む方はこちら→ https://note.com/siokomepapa/n/n6032e7e1cf05
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次は香港編へ続きます。
note香港編の1話目はこちら
https://note.com/siokomepapa/n/n9d30d22cd892
香港編(全16話・完結)のマガジンはこちら
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