銅が迎える新たなスーパーサイクル | 過去175年の歴史と現代の需要集中を読み解く

私は以前から銅の時代がくると書いてきました。そして、今、ロンドン金属取引所(LME)において、銅価格が1トンあたり14,533ドルと史上最高値を更新し、年間上昇率は17%に拡大しています。
今回の急騰の背景には、トランプ大統領が精製銅の輸入に関税を拡大するとの観測があります。高値が見込める米国市場へトレーダーが数十万トン規模の現物を急速に移送したことで、米国外の市場で供給が一段と引き締められる事態となりました。

さらに供給サイドでは、鉱山の老朽化が進むなか、AIデータセンターや再生可能エネルギー、送電網の拡充に伴う急速な需要増への対応が追いつかず、世界は本格的な「供給逼迫(サプライクランチ)」の局面へ突入しています。
しかし、足元で起きている歴史的な高騰は、単なる短期的な需給の偏りだけによるものではありません。国際商品市場において、銅は世界の産業活動や実体経済の動向を敏感に映し出す基幹資源であり、過去175年の歴史を振り返ると、その大きな価格変動は世界情勢の大きな転換、技術革新、そして需給バランスの歴史的変化と常に連動してきました。
現在、市場では新たな「スーパーサイクル(長期的な価格上昇局面)」への突入が意識されています。歴史的に銅価格を押し上げてきた3大要因である「産業化と電化の進展」「戦争や供給網の混乱」「戦後復興」が、現代においてかつてない規模で同時に重なり合っているためです。
その一方で、供給側では過去10年以上にわたって投資不足が続いており、急増する需要に対して十分な銅を確保できていません。
本稿では、1850年から現在に至る長期推移と足元の国際環境をもとに、銅市場が直面している根本的な上昇要因と今後の市場力学について整理・解説します。

第1章 1850年から2025年に至る銅価格の歴史的変遷
産業革命から世界大戦・大恐慌期における価格変動
銅の長期推移をたどると、産業の進歩や有事の発生による需要の急増が、相場を大きく動かしてきたことが分かります。
1850年代から1900年頃にかけての産業革命および電力の台頭期において、銅は近代産業に欠かせない資源としての地位を築きました。
この時代を象徴する出来事が、1860年代の米国南北戦争です。弾薬や大砲、各種装備品といった軍事需要が当時の供給能力を大幅に上回り、銅価格は3倍に急騰しました。また、1887年から1888年にはセクレタン・シンジケートによる市場の買い占めが発生して価格が2倍に跳ね上がりましたが、1889年3月に同組織が破綻したことで、相場は一転して急落を経験しています。
セクレタン・シンジケート(Secretan syndicate)
フランスの金属商ピエール・セクレタン主導のもと、銅の供給独占と価格引き上げを狙って結成された連合体。1887〜1888年に銅価格を倍増させたものの、1889年3月の破綻によって市場の急落を招き、歴史的な市場歪曲と崩壊の代表例とされる。
20世紀に入ると、世界大戦と経済危機が市場を大きく揺るがしました。1916年から1918年にかけての第一次世界大戦期には、軍事需要の急増を背景に価格が急上昇しました。しかし、1930年代に世界恐慌が起きると、需要の急減によって価格は大きく落ち込みました。
さらに、1939年から1945年の第二次世界大戦期にはロンドン金属取引所(LME)が閉鎖される事態となり、戦時下における市場機能の停止を経験しています。

戦後復興から中国の台頭、そしてエネルギー転換へ
第二次世界大戦後の1945年から1990年にかけて、銅価格は長期的な上昇基調をたどりました。この時期の上昇を主導したのは、主に以下の要因です。
戦争で被害を受けた各地域の戦後復興需要
世界的な経済ブームと、社会全体で進んだ電化
1970年代の石油危機に伴うインフレ、および鉱山の国有化やストライキによる供給網の混乱
その後、2001年に中国が世界貿易機関(WTO)へ加盟したことで、銅市場は新たな局面を迎えました。中国の急速な経済成長によって需要が急拡大し、価格の上昇が本格化したのです。
さらに2020年以降は、エネルギー転換と電化の進展が新たな需要を力強く牽引しており、足元ではロンドン金属取引所(LME)で1トンあたり14,533ドルの過去最高値を記録するなど、歴史的な高値圏で推移しています。

第2章 現代において重層化する価格押し上げ要因
産業基盤の再構築と全面的な電化の進展
過去175年の歴史において、銅価格を力強く押し上げた主な要因は「産業化と電化の進展」「戦争や供給網の混乱」「戦後復興」の3つでした。

現在の世界情勢を精査すると、これら3つの要素が過去のどの時代よりもはるかに大きな規模で、同時に発生していることが見て取れます。
第一に、西側諸国が中国への過度な依存から脱却するため、自国の産業基盤を再構築する必要に迫られている点です。製造業やサプライチェーンの自立を目指す取り組みは、基礎的なインフラや生産設備の再整備を伴うため、資材として銅を大量に必要とします。
第二に、「あらゆるものの電化」が強力に進められている点です。近年のエネルギー転換の流れと歩調を合わせ、動力や各種システムの電力化が進むことで、高い導電性を持つ銅の実需は持続的に押し上げられています。

有事の拡大と供給網の歴史的混乱
第三の要因として、地政学的な緊張の高まりに伴う供給網の混乱と、復興需要の発生が重なっている点が挙げられます。現在、国際社会は歴史上最大級の供給網の混乱に直面しており、調達や物流の滞りが価格を押し上げる背景要因となっています。

さらに、軍事衝突や混乱を経た地域では、将来的な大規模再建が不可避となっています。具体的には、以下の地域において本格的な再建が求められています。
ウクライナ
ガザ
イラン
イスラエル
レバノン
これらの地域でインフラや社会基盤の復旧を進めるには、膨大な資材が欠かせません。過去の戦後復興期と同様に、あるいはそれ以上の規模で銅需要を生み出す要因となります。

第3章 10年超の投資不足と供給制約の市場力学
供給サイドの過小投資と保有量の不足
産業基盤の再構築、全面的な電化、供給網の混乱、そして各地の復興需要という強力な需要拡大要因が重なる一方で、これに対応すべき供給側には深刻な制約が生じています。

銅の新規供給に対する投資は、過去10年以上にわたって過小な状態に据え置かれてきました。鉱山開発をはじめとする資源開発には長い年月と巨額の資金が必要となるため、過去10年間の投資不足は、急激な需要増に対してすぐに供給を増やせないという強い制約として市場に作用します。
現在、これから訪れる巨大な需要の波に対して、市場が保有している銅の量は決して十分ではありません。この需給の大きな隔たりが、市場に強い引き締め圧力をもたらしています。

総括
過去175年の銅市場の歴史を紐解くと、技術革新による電化、有事や供給網の途絶、そして戦後復興という大きな転換点が、いずれも相場を大きく押し上げてきたことが分かります。そして現代は、これら過去の急騰要因のすべてが、歴史上類を見ない規模で同時に重なり合う極めて特殊な局面にあります。

西側諸国による脱中国依存の産業再建、全産業に波及する電化、世界的な供給網の混乱、そしてウクライナや中東をはじめとする各地の復興需要は、銅に対する持続的で巨大な実需を形成しています。
しかし、その需要を受け止めるべき供給側は、10年超に及ぶ過小投資によって身動きが取りづらく、将来求められる規模に対して十分な量を確保できていません。
複数の歴史的な需要拡大要因の集中と、長期の投資不足による供給制約。この2つの要素が交差する市場力学こそが、銅市場が本格的なスーパーサイクルへ突入しつつある本質的な背景と言えます。
短期的な市況の浮き沈みにとどまらず、根本的な需給バランスの変容を見据えた長期的な視点が、今後の市場を読み解く鍵になってくると思います。

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