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土は砲弾からどこまで守ってくれるのか

 ウクライナ戦争の映像には、幾度となく兵士が塹壕を掘る場面が映し出されます。精密誘導砲弾や無人機(ドローン)が飛び交う21世紀の戦場で、人々はなお素手やスコップで地面を掘り、土砂を積み上げます。この光景は、大口径火砲が戦場を支配するようになった19世紀末以来、変わっていません。土という素材は、砲弾や爆発に対してどれほどの防護力を持つのか。そしてどこから先は守れないのか。米軍の野戦教範(Field Manual)をはじめとする技術資料をもとに、その実態を整理してみます。

土が防護材として機能するしくみ

 砲弾の爆発が人体に与える危害には、大きく二種類あります。爆風と破片です。

 爆風、すなわち爆発による衝撃波は、空気を媒体にして球状に広がります。その圧力は爆心直近では数千気圧に達することもありますが、距離が離れるにつれて急速に減衰します。爆心に近いほど減衰は急激で、遠ざかるにつれて緩やかになります。爆風が引き起こす主な被害は、肺・消化管・内耳といった中空臓器の損傷です。鼓膜の破裂は最も軽微な症状で、肺の損傷は重篤な結果をもたらすことがあります。

 破片は、砲弾の鉄製ケースが爆薬の爆轟によって砕け、高速で飛散したものです。初速は破片の大きさによって異なり、小さな破片ほど速く大きな破片ほど遅い傾向があります。概ね毎秒600〜1,500m程度が典型的な範囲で、殺傷力を持つ範囲は爆風よりはるかに広くなります。

 土はこの二種類の危害に対して、それぞれ異なる方法で機能します。破片に対しては「遮蔽体」として機能し、土砂の壁に当たった破片はそこで運動エネルギーを失って止まります。爆風に対しては「エネルギー吸収体」として機能し、圧縮・変形することで衝撃波を減衰させます。コンクリートや鉄板が剛体として衝撃に抵抗するのとは異なり、土は変形することでエネルギーを分散させます。このため湿った土(粘土・湿った砂)は乾いた砂より防護効果が高く、固く締め固めた土は軟弱な土より有効です。

破片の届く範囲

 口径ごとに、破片がどの距離まで殺傷力を持つかを整理すると、以下のようになります。

 「確実死傷圏」は致死率50%以上の範囲の目安です。旧日本陸軍は「厚さ3cmの松板を破片が貫通する距離」を危害半径の基準としており、75mm砲弾で約20m、150mm砲弾で約40mという数値が記録されています。これらはすべて遮蔽物がない状態(露天・直立)での数字であり、塹壕や土砂の壁があれば大きく変わります。

 ちなみに、米軍が火力支援時に「誤って味方を傷つけない距離」として定める基準(danger close)は155mm榴弾で600mに設定されています。これは破片の飛距離ではなく、砲弾の着弾誤差を見込んだ安全距離の概念です。

直撃に対する土の限界

掩蓋とは何か

 野戦での防護構造は、大きく「塹壕(開放式)」と「掩体(閉鎖式)」に分かれます。塹壕は地面を掘り下げただけの構造で側壁が破片を防ぎますが、上方は開いています。掩蓋(えんがい)とは、この塹壕や個人掩体の上に設ける屋根のことです。VT信管による真上からの破片や、直撃・至近弾の爆風から頭上を守る
ことを目的とします。

 掩蓋の基本構造は複数の層が積み重なっています。最下層に支持材(丸太・鋼製有孔板・木材など)を並べ、その上に防塵層(合板など)、さらに土嚢を積み、防水シートを挟んで最上部を土砂で覆います。層の数と材料の強度によって、直撃に耐えられる砲弾の口径が変わります。

掩蓋の種類と構造

 では、土はどれだけの厚みがあれば砲弾の直撃に耐えられるのか。米軍野戦生存性教範(FM 5-103)および迫撃砲運用教範(FM 7-90)の基準をもとに、自衛隊の分類と対応させると以下のようになります。

 重掩蓋では丸太の第1層を木材の梁の上に密に並べ、その上に土嚢や石、さらに横方向に第2層の丸太を渡し、最後に締め固めた土を載せるという複合構造になります。構築にかかる労力と資材は段違いで、戦闘の合間に兵士が自力で作れるのは現実的には簡易掩蓋または軽掩蓋が限界です。中掩蓋以上は工兵の支援か、陣地が長期化した場合の作業になります。

 FM 5-103によれば、コンクリートや鉄骨を用いない野戦築城では、122mm以上のロケット弾や152mm榴弾の直撃に耐える構造を構築することは不可能とされています。152mm榴弾は、爆発しない不発弾の状態でさえ約1.2mの固い土を貫通します。炸裂すれば当然それ以上の破壊力を持つため、土砂掩蓋だけでは対処できません。大口径砲による直撃は、土砂防護の範囲を超えた問題です。

至近弾に対する土の有効性

 直撃に対する土の限界は明らかですが、砲兵戦の現実では直撃より至近弾の方がはるかに多く発生します。砲弾が地表で炸裂した場合、破片の大半は地中に吸収されるか、斜め上方に飛散します。水平方向に近い低軌道の破片が立っている人体に当たるのが主な死傷パターンであるため、体勢と遮蔽物の有無が生存確率を大きく左右します。

 155mm榴弾が着発信管で地表炸裂した場合、距離・体勢・掩体の組み合わせによるリスクの目安は以下のとおりです。

 地面に伏せるだけで被弾面積は大幅に縮小します。胸まで入れる深さの塹壕に入れば、側壁の土が水平方向の破片をほぼすべてブロックします。遮蔽の原理はシンプルであり、土砂の壁一枚が生死を分けることがあります。

信管の種類と防護

 同じ砲弾が同じ距離に落ちても、信管の種類によって土砂の防護効果は根本的に変わります。これは、土の防護力を考えるうえで重要な要素です。

 着発信管では地面が爆発エネルギーの一部を吸収し、破片も多くが地中に没します。塹壕の側壁がそのまま水平破片を遮断する、土砂防護にとって最も有利な条件です。遅延信管では砲弾が土に潜ってから爆発するため、掩蓋そのものを下から突き上げる形になり、土砂防護をほぼ無効化します。

 近接信管(VT信管)は空中で起爆することで破片を真下に向けて散布します。塹壕の側壁は水平破片を止めるために存在しているため、真上から降り注ぐ破片に対してはほぼ機能しません。ウクライナ戦争でロシア軍がVT信管を多用したのは、まさにこの理由です。ただし、屋根にあたる掩蓋さえあればVT信管に対しても土砂は再び有効な防護材になります。信管の選択と掩蓋の有無は表裏一体の問題です。

土を掘り続ける理由

 土はすべての砲弾から守ってくれるわけではありません。大口径榴弾の直撃には耐えられず、遅延信管には貫かれ、VT信管には掩蓋なしでは無力です。それでも兵士たちは掘り続けます。

 なぜなら、戦場における砲弾の大部分は「直撃」ではなく「至近弾」として着弾するからです。砲兵の精度が向上した現代でも、1発の砲弾が特定の人物に直撃する確率は低く、至近弾による破片と爆風が砲兵火力の主な効果です。土砂の壁はこの至近弾の破片を止めるという点で、他の追随を許さない防護材です。軽量で、どこでも手に入り、大量に使えます。

 土砂の壁は、直撃に対しては限界があり、信管の選択によっては無効化されます。しかし45cmの土砂は破片から命を守り、胸まで入る塹壕は至近50mの爆発から生存確率を大きく引き上げます。土の防護力とはそういうものであり、その限界を知ったうえでなお兵士が土を掘るのは、不完全であっても確かな効果があるからです。




参考文献

U.S. Army. (1985). Survivability (FM 5-103). Department of the Army.

U.S. Army. (1990). Tactical Employment of Mortars (FM 7-90). Department of the Army.

U.S. Army. (2024). Infantry Rifle Platoon and Squad (ATP 3-21.8). Department of the Army.

Wikipedia contributors. (n.d.). M795 projectile. In Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/M795_projectile

Wikipedia contributors. (n.d.). Proximity fuze. In Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Proximity_fuze

陸軍省. (1943). 野戦築城教範 総則及第一部. 武揚堂.(昭和館デジタルアーカイブ所蔵、請求記号 060002608)

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