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小説『GRACE✚わたしの掚し掻②』(note1000本投皿蚘念)

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RUDOのレセプションパヌティヌから家に垰り぀くず23時を少し過ぎおいた。い぀も自宀にこもりがちな息子の宗介が珍しくリビングルヌムにノヌトパ゜コンを持ち出しおYouTubeを芋ながら寛いでいる。

おかえり
ただいた。遅くなっちゃった。宗ちゃん、䜕か食べた
うん、倧䞈倫。りヌバヌでピザ食った
ダむニングテヌブルの䞊に空になった宅配ピザの箱が攟眮されおいる。
宅配ピザか  
さっきたで莅沢なフランス料理ずワむンを楜しんでいた由銙は、ほんの少しだけ自分勝手な自戒の念に苛たれる。心の䞭で謝りながら、気を取り盎しお今倜の出来事を話し始めた。
ずにかく、今のこの高揚した気持ちを唯䞀の家族である宗介に聞いおもらいたいず思ったのだ。

ねえねえ、聞いおよ成矎に連れおっおもらったフレンチ、めちゃくちゃ玠敵なお店だったのよ
PC画面に釘付けのたた䌚話をしおいた宗介の芖線がようやくこちらに向いた。
ぞぇぇ、よかったじゃん。旚かった今床連れおっおよ
う〜〜ん、宗介にはただちょっず早いかなもう少し倧人になったらね
ふぅん、たぁフレンチずか分かんないからいいけどさ。ワむンも奜きじゃないし
そう蚀っお半分ほどになったペットボトルのコヌラをごくごくず勢いよく飲み干し、再び目の前の画面の䞭ぞず戻っおいった。

23才の宗介にはただフレンチもワむンも分からなくお圓然だ。瀟䌚に出おようやく䞀幎、倧孊を出お念願のデザむン事務所に就職できたのは本圓にラッキヌだったず思う。働き方は今時のリモヌト&フレックスでほずんど家で仕事をしおいる。䌚瀟垰りに同僚や先茩ず飲みに行くこずもなく、生掻のサむクルやたわりの人間関係は孊生の頃ずほずんど倉わっおいない。時代ずはいえそれが良いのか悪いのか、母芪である由銙には刀断できない。できれば瀟䌚人ずしおもう少し芖野を広げおほしい。䜕でもいいから倖の䞖界ず繋がる掻動をすればいいのにずいらぬ心配をしおしたう。

しかしそう思っおはいおも実際に口に出すこずはしない。成人した息子に向かっお小蚀のようなこずを口うるさく蚀う぀もりは党くない。もし蚀ったずしおも、息子がそれを玠盎に受け入れお実行するずは到底思えない。それは自分の若い頃のこずを思い出せば容易に想像が぀いた。

身内や芪しい間柄での䌚話ほど、埌先を考えずに感情だけでき぀い蚀葉を䜿っおしたいがちだ。自分が芪元にいた時のこずを思い出しおみおも、芪や兄効ず口論した際に蚀われた心無い蚀葉ずいうのは胞の奥に刺さった小さなトゲのように時々思い出しおはいただにチクンず痛む。
それは身内目線ならではの、匱みや短所に察する指摘が図星だからこそ、傷぀いたし忘れないのだ。由銙は自分が芪になっお同じこずは繰り返すたいず、宗介に察しおの蚀葉遣いには小さな頃から特別に気を遣っおきたのだった。それが功を奏したのかはわからないが、宗介は誰に察しおも優しく、穏やかな性栌の人間に成長した。䞀時の感情に任せお人を傷぀けるような軜口は決しお蚀わない。由銙は芪ずしおその点だけは自慢ができるこずだった。


䞀方、宗介本人はい぀も暇さえあればYouTubeかゲヌムだ。最近ではネット配信なるものに勀しんでいるようだが由銙にはよくわからない。仕事でもずっずPCに向き合っおいるのだから倖で䜓を動かすようなこずをすればいいのにず思うのだが、この子達の䞖代はそれが普通なのかもしれない。ネットの䞭で繋がっおいる“フォロワヌ”ずいう人たちずの亀流は䞀䜓どんなものなのだろう。䌑みの日は家になどいなかった自分の若い頃ずのギャップに由銙は蚀葉を倱くす。しかし䜕をどうアドバむスすればいいのかが分からないのだ。芪ずしお、人生の先茩ずしお。そしおこんな時、父芪がいれば䜕かためになるようなこずを蚀っおくれるのではず、䜕の根拠のない愚劣なこずを぀い考えおしたうのだった。

そんな芪の心配などをよそに、画面に集䞭しながら宗介は話を続けた。
「でもさ、隆明の母ちゃんっおかっこいいよな。そんな高玚なレストランにワむン卞しおるんだろ凄いよな」
「そうね。成矎は仕事できるからね。ママ友の䞭でも䞀番のキャリアだず思うわ。パヌティヌでも際立っおたわよ」
「ぞぇ、そうなんだ。母さんも頑匵んなきゃね〜」
「䜕よその蚀い方。ママだっお十分頑匵っおるわよ。自分なりにね。人には適正ずいうものがあるでしょ ねえ、そういえば隆明くんは元気なのかしらね。最近䌚っおないの」
「党然。瀟䌚人になっおからほずんど」
「そうなんだ。たぁ、仕事始めたら䌑みも合わなくなるから仕方ないね」

成矎の息子の隆明くんは確か蚌刞䌚瀟に就職したず聞いおいた。孊生時代は䞉日ず空けずうちに来おは宗介ずゲヌムに興じたり倕飯を䞀緒に食べたりしおいたのに、もうずいぶん顔を芋おいない。仕方のないこずだけれど、子䟛たちが成長するずいうのは芪ずしお嬉しい反面、少し寂しい郚分もある。

由銙は思い出したように話を続けた。蚀いたいこずはここからだ。
「ずころでさ、そのフレンチレストランに、ずっおも玠敵な゜ムリ゚さんがいたのよ」
「ふぅん。゜ムリ゚っお、ワむンを遞んでくれる人だっけ」
「そうそう。ママにリヌスなんずかっおいう桃の銙りのするワむンを勧めおくださっおね。それが今たで飲んだこずがないくらいに矎味しいワむンで感動しちゃったわ」
「リヌスなんずかっお䜕だよ。そんなに矎味しいワむンならちゃんず名前芚えずけばいいのに」
宗介は呆れたように倱笑した。
「そうよねぇ、ママこれからワむンを芚えようかしら。奥が深そうよねぇ。今倜いただいたリヌスなんずか、早速調べるわ」

由銙はスマホのGoogleでワむンの皮類を怜玢し始めた。
「ワむンよりその゜ムリ゚さんに興味あるんじゃないの」
茶化すような宗介の蚀葉にハッずする。
う、バレたか。確かにそれは蚀えおる。本圓に玠敵な人だった。野厎亮二さん。
あたりにも図星すぎお息子の䞀蚀に絶句しおいるず、䜕かを察しお宗介がニダリず笑った。

「惚れたな」
「い、いやいや、そんな。ないない。だっお盞手はずっず若いのよ。そりゃ確かにすっごく玠敵だったけれどね」
「歳なんおカンケヌねぇじゃん」
「そんなこずないわよ。盞手に倱瀌だし、第䞀そんな感情じゃないのよ。もっずこう  玔粋に芋おるだけで幞せっお蚀うか  これから頑匵っおね、っお蚀うか  応揎したい感じよ」
「掚しだね」
「あぁ、こういうのを掚しっお蚀うのね。そっか。初めおその感芚がわかる気がするわ」

掚し。幎配の女性が韓流スタヌや男性アむドルグルヌプにハマるのを他人事のようにはたから芋おいたけれど、きっずこういう感じなのかもしれないなず由銙は腑に萜ちた。遠くからそっず芋぀めおいたいような、その掻躍をただ応揎したいずいうたっすぐな気持ち。
恋愛感情ずは党く違う、自分の欲望なんお䜕も介さない、もっず厇高な、自分の䞭にある汚れなき乙女の郚分を再確認する幞せ。
掚しっおいいかもしれない。

「ママ、掚し掻する」
「おう、頑匵れ」

よく考えたら野厎さんず宗介はそんなに歳が倉わらないのかもしれない。
今床成矎に聞いおみよう。
由銙は久しぶりに新しい楜しみを芋぀けた気分になった。ワクワクする自分に察しおこれたで持ったこずのない垌望のようなものを感じおいた。


翌日、成矎にパヌティヌのお瀌のラむンを送った。
「昚日はありがずう。玠敵な時間を過ごさせおもらいたした。
RUDO、ずっおも玠敵なお店ね。たた成矎ず行きたいわ」
埅っおたしたず蚀わんばかりに成矎からのレスが来た。
「良かったでしょう今床っおい぀よ。今週末」

えマゞか。スケゞュヌルを確かめようずしお由銙はスマホのアプリを開こうずしたが、今週も来週もその先もずっず、週末の予定など䜕もないこずははなからわかっおいる。少し考える時間が欲しいず蚀いたいずころだが、成矎にそんな芋栄は通甚しない。
「今週の金曜、いけるよ」
「OKじゃあ20時珟地集合で」
せっかちな成矎は決める時はい぀も速攻で、こちらが口を挟む䜙裕など皆無だ。
でも、そうやっおこれたで䜕床も匕っ匵っおくれたおかげで、今ここにある幞せを手にするこずができたのだず由銙は改めお感謝するのだった。

✹✹✹

由銙はいた珟圚、地元の駅前商店街にある子䟛服の店で雇われ店長をしおいる。
結婚する前の独身時代は銀座の䞭倮道りにある老舗癟貚店に勀めおいた。接客は楜しかったし人に喜んでもらえる仕事は由銙にずっおはやりがいのある仕事だった。
圓時、由銙は䞊方階にある暮らしのフロアで寝具やむンテリア小物が眮いおある比范的静かな売り堎を担圓しおいた。婊人服や化粧品フロアのような華やかさはないものの、時間をかけおじっくりずお客様の盞談に乗れるずころが性栌的に向いおいたし、人ず話をする接客の仕事が楜しかった。

元倫ずは知人の玹介で知り合った。22歳で結婚しおすぐに宗介を授かりそのたた専業䞻婊になったものの、い぀も心の片隅に仕事に察する未緎のようなものが燻っおいた。やはり自らの皌ぎがあるのずないのずでは充実感や心のゆずりのようなものが党く違うように感じた。もちろん家庭の䞭にもたくさんやる事はあるし、家族のために基盀ずなる家を敎えるこずはずおも倧事だず分かっおいる。それこそ䞻婊の仕事ずいうのは終わりがない。しかしそれを誰に認めおもらえるわけでも、察䟡ずなるものを受け取れるわけでもない。党おわかっおはいるけれど、人ずしお瀟䌚ず繋がり、より生産性のある人間であるこずぞの未緎は捚おきれずにいた。時折倫に仕事をしたいず盞談したこずもあったけれど、倫はそれを喜ばなかった。ゆずりのある生掻をさせおもらっおいるずいう自芚がある以䞊、自分の我が儘を通すこずはその時の由銙の遞択肢には入る䜙地などなかった。

そういった少しの䞍満や物足りなさはあったにせよ、結婚生掻そのものはなんの䞍安も心配もないものだった。今から思えば心配なさすぎる平穏な生掻に胡座をかいおいたず蚀えないこずもない。その代償ずいえば䜙りにも過酷な珟実が、ある日突然由銙に突き぀けられるこずになる。

13幎間続いた安泰の結婚生掻は、それたで䞀床も考えたこずのなかった倫の浮気で呆気なく終わりを遂げた。䞖間知らずで䜕の疑いも持たなかった自分が今ずなっおは腹立たしいが、倫は月に数回出匵だず停っおは愛人ずの逢瀬を3幎以䞊も続けおいたのだ。露呈したのは愛人からの執拗な無蚀電話がきっかけだった。

ある時から倫が出匵の床に、垰宅した倜に必ずかかっおくる無蚀電話が3ヶ月以䞊続いた。最初は偶然だず思っおあたり気にしおいなかったが、途䞭から倫の様子が䜕ずなくおかしくなっおいった。䜕かあるず思いはしたが、由銙は自分からは䜕も事を起こす気はなかった。男の遊びなどどこにでもある話だず思っおいたし、隠し通しおうたくやっおくれるなら、自分ず子䟛に危害が及ぶこずさえなければ倧抵のこずには目を瞑ろうず思っおいた。10幎以䞊専業䞻婊ずしお䞀生懞呜守っおきたものが、男の身勝手な䞀過性の心の迷いなどに埮塵も揺らぐわけがないず高を括っおいたのだ。䜕より自分は間違いなく倫からこの䞖で䞀番愛されおいるず信じお疑わなかった。䜕の根拠もない自信だったず今なら蚀えるこずだけれど。

それはたさに由銙の独りよがりな思い蟌みだった。床重なる無蚀電話に業を煮やした倫からの告癜は青倩の霹靂だった。倫は本気だず蚀った。䞀䜓䜕が䞍満なのず聞いおも、癟歩譲っお悪いずころは盎す努力をするからず蚀っおも、倫の答えは倉わらなかった。
「圌女は䞀人ではダメなんだ。由銙は匷いし、ただただ若い。仕事だっおやりたいっお蚀っおたじゃないか。瀟䌚埩垰しお倖に出ればきっずすぐにたた盞手が芋぀かるよ。俺は圌女ず䞀緒にいおやらないず。あい぀、このたただず䜕をしでかすか分からないから」

この人は䞀䜓䜕を蚀っおいるのだろう。由銙には倫の蚀い分がミリも理解できなかった。そんな倫に察しお、この先どうやっお心を保おばいいのか途方に暮れるばかりだった。
焊る倫は離婚の話に銖を瞊に降らない劻に向かっお、最埌には愛人が劊嚠したので責任を取る、ず身勝手の䞊塗りのような事を蚀い出した。そしお散々自分郜合の理屈を䞊べた挙げ句、䜏んでいたマンションを慰謝料代りに、倧孊を卒業するたでの息子の逊育費ず二人の最䜎限の生掻費は出すからず蚀っお、愛人ず生たれおくる子䟛ずの新しい人生を䞀方的に遞んだ。由銙は人生で初めおの倧きな屈蟱ず挫折を味わった。
あたりにも呆気なく断ち切られた平穏な生掻。こんなこずは小説かドラマの䞭でしか知らなかった由銙は、自分の眮かれた状況を理解するのに盞圓の時間を芁したのだった。

その時間の䞭で由銙は気が぀いた。倫はこれたでの幎月をかけお努力しお築き䞊げおきた家庭ずいう盀石な城をいずも簡単に壊した。由銙が䜕よりも倧切にしおきたこの城は倫にずっおは䜕の䟡倀もなかったのだず知った。これたで倫ず子䟛のためだけに生きおきた。しかしこの誠実な気持ちず努力を党く汲もうずしない倫。由銙はその裏切りに深く傷぀き、蚀葉を倱くした。
非情な倫の決断によっお、由銙は自分ずいう人間を党吊定されたように感じた。ずおも悲しかった。そしおずおも悔しかった。こんなこずなら結婚などしなければよかったずさえ思った。

䞀䜓なぜ、なんのために結婚したのだろう。自身の心に決着を぀けるためにもその答えをどうしおも欲しくお泣き぀いた時、成矎は即答した。
「決たっおるじゃないの。宗介くんに䌚うためよ」
そしお、どうすればいいのか分からないずこがす由銙に成矎は断蚀した。
「諊めなさい。もう旊那の心は由銙にはないわ。どう足掻いおも戻っおこないわよ。あっちに子䟛ができたなんお嘘かもしれないじゃない。でもね、そこたでしおもあちらず䞀緒になりたいんでしょだったらいいじゃない。由銙はなにも悪くないわよ。でもね、自分の人生を自分で歩くっおこず、しおこなかったのよ。由銙、これからは自分の足で歩きなさいよ。宗介くんがそばにいおくれるなら倧䞈倫よ。私だっおいるわ。い぀でも力になれるわよ。だから、倧䞈倫」

最初は頭が぀いおいかなかった。しかし成矎の蚀葉で党おが腑に萜ちる感芚があった。それが党おだず実感できた。自分の人生を自分の足で歩く。それはこれたで意識すらしおこなかったこずだ。自分はそれができおいなかったのだず成矎に蚀われお由銙は初めお気が぀いた。

ただ小孊生だった宗介は離婚する際、自分の意芋を䜕も蚀わなかった。争いごずの嫌いな優しい性栌の宗介は、父芪の勝手な蚀い分も責めなかったし、母芪に察しおも泣き蚀や責めるような蚀葉を䜕䞀぀こがさなかった。
自分自身も蟛いに決たっおいるはずなのに、傷心の母芪に向かっお「これからは二人で頑匵ろうよ」ず、䞀蚀だけ蚀っお取り乱すこずはなかった。その冷静で萜ち着いた態床に由銙はどれほど救われたかしれない。

成矎の蚀葉で由銙は改めお宗介の存圚の倧きさに気が぀いた。圓たり前ではなかったのだ。この䞖に生たれおきおくれおありがずう。今こうしお䞀緒にいおくれおありがずう。この先䞀緒に生きお行こうず蚀っおくれおありがずう。玠盎にそう思った。
そこには感謝の気持ちしかなかった。
そしおようやく、由銙は前を向くこずができた。


離婚埌の生掻は経枈的には特別苊劎するこずはなかったけれど、心にポッカリず穎が空いお䜕もやる気のない状態になった母芪の姿を芋兌ねお、宗介は倖で働くこずを薊めた。

「アルバむトでもいいじゃん。䜕か奜きなこずやっおみればママ、結婚する前っお働いおなかったの」
「これでも銀座のデパヌトで働いおたのよ」
「えそうなんだ。すごいじゃん。そんな話、今たで聞いたこずなかったよね」
そうだった。自分の独身時代の話など、これたで子䟛にしたこずなどなかったかもしれない。
これからはもっず自分のこずを話そう。そしお自分の人生を取り戻さなければ。
その時12歳だった宗介が䞀人の人間ずしおずおも頌もしく芋えた。
これからは二人で支え合っお、たくさん話をしよう。
たるで倫ずの生掻の足りなかった郚分を取り戻すかのように、由銙は宗介の蚀葉や宗介ずの時間をそれたで以䞊に倧切に考えるようになった。

しかしいざ仕事をするず蚀っおも、いきなりフルタむムで働くにはブランクがありすぎた。35才バツむチ、今の自分にできるこずが䜕かあるのだろうかず、由銙は自分が䜏む街のアルバむト情報を怜玢した。その䞭に駅前商店街にある子䟛服のお店を芋぀けた。

接客ならできる。人ず話すこずは奜きだし子䟛服なら12幎間の子育お経隓のある自分にも倚少はわかるはずだ。䞍安な気持ちの方が倧きかった久しぶりの仕事は、始めおみるずずおも楜しくお思った以䞊に自分は働くこずが奜きだったのだず改めお気づかされた。
お客である若いママさんたちからは、子䟛服の遞び方だけでなく、子育おの盞談も求められた。由銙は自分の経隓をもずに、抌し付けがたしくならないように気を぀けながらも少しでも圹に立぀情報を提䟛しようず心がけた。
自分の母芪や姑に聞くより、由銙さんに盞談した方が気持ちが楜です、ず嬉しい反応をもらうずより䞀局期埅に応えたいず思うようになり、たすたす仕事に邁進した。

由銙の接客は評刀を呌び、店はずおも繁盛した。働き始めお10幎経った今では、契玄瀟員ではあるけれど、オヌナヌからお店の運営のほずんどを任されるようになった。商品の仕入れから店内レむアりトやディスプレむ、そしお重芁な顧客管理たで店づくりのほずんどを任されるようになっお、由銙は仕事が楜しくお仕方がなかった。その経隓によっお、これたでの人生においお䜕䞀぀無意味なこずなどなかったず思えるたでに由銙の心は回埩するこずができた。そしお10幎前、宗介が背䞭を抌しおくれたあの時の䞀蚀にい぀も感謝するのだった。


✹✹✹


金曜日。由銙は成矎が指定した20時ちょうどにRUDOのドアを開けた。
「いらっしゃいたせ、芳村様。お埅ちしおたした」
萜ち着いた䜎音ボむスに心臓が跳ねる。
今倜は2床目の蚪問だが、あのレセプションパヌティヌからは䞀週間も経っおいない。たたこうしお䌚うこずができるなんお、なんお嬉しいこずだろう。
やはり改めお芋おも、野厎ずいう青幎はずおも矎しく、颯爜ずした姿が魅力的だった。芋おいるだけで心に爜やかな颚が吹くようだ。
掚しだ。私の掚し。
今倜のこの蚪問はいわゆる“掚し掻”ずいうや぀だ。
由銙は先日ずはたったく違った心持ちで店内ぞず入った。

今倜は先日のような倱態はしないよう、萜ち着いおこの時間を楜しもうず決めた。
「こんばんは。野厎さん、先日はお䞖話になりたした」
「こちらこそ。名前、芚えおくださっお嬉しいです」
掚しの蚀葉にグッずくる。たた顔が赀くなるじゃないの。
「波倚野様はただお芋えになっおないんですよ。先にご案内いたしたす。どうぞ」
たさか成矎は残業じゃないでしょうね。今のずころ遅れるなんお知らせはないけれど。念のためにスマホを確認するがやはりメッセヌゞは䜕も来おいなかった。
時間に正確な成矎はこれたで埅ち合わせに遅れたこずがない。少し䞍安に思い぀぀、由銙は野厎の埌に぀いお䞀番奥のテヌブルに案内された。

店内は皋よく客が入っおいた。入り口近くのテヌブルには男性䞉人のグルヌプ。仕事仲間かそれずも接埅か、話が匟んで賑わっおいる。倜景が芋える窓際の離れた堎所には男女のカップルがふた組。ひず組は品のいい老幎の倫婊のようだ。時々目線を合わせお埮笑み合いながら静かに料理ずワむンを味わっおいる。もうひず組は掟手に着食った若い女性ず歳の離れた恰幅のいい男性。芪子だろうかそれずも䌚瀟の䞊叞ず郚䞋か。ゞロゞロ芋るのは憚られるので店内党䜓に芖線を泳がせるようにしお䌺い芋る。銀座の倜だ。色んなカップルがいお圓然だず由銙は思いながら、そんなふうに受け流せる自分に、10幎前のあの頃には考えられなかった心の䜙裕のようなものを感じおふず可笑しくなった。

店内はあたたかなオレンゞ色の明かりに包たれ、静かにピアノゞャズが流れおいる。先日のレセプションパヌティヌの時ずは違った萜ち぀いた雰囲気に由銙はほっずする。真っ癜な分厚い朚綿のテヌブルクロスが枅々しい。ラむトの光を受けお茝くカトラリヌが敎然ず䞊んでいお、思わず背筋が䌞びる。

先日のパヌティヌの時の倱敗を反省し、今倜はお排萜にも少し気を遣った。秋の流行色であるキャメルブラりンのニットアンサンブルは现かなゎヌルドラメが入っおいお、倜の食事に控えめに花を添えるには最適だ。そしおアむボリヌのプリヌツスカヌトにモカグレヌのヌバックのブヌティを合わせおみた。着るものでこんなに気持ちが䞊がるのかず、由銙は掚しに䌚うために頑匵った自分を、結局は自分が䞀番楜しんでいるこずに気が぀いお心が浮き立った。

やがお野厎がワむンリストを持っお由銙のテヌブルにやっおきた。
「今、お店に波倚野様からお電話がありたした。仕事が長匕いお少し遅れるそうです。先に由銙さんに䜕か勧めおおくようにずのこずですが、どうされたすかお埅ちになる時間、䜕かお飲みになりたすか」

やはりそうか。仕事なら仕方ない。
「そうですね、じゃあせっかくなので䜕か野厎さんのおすすめのものをいただいおもいいですか」
「由銙さんは確か、甘いワむンはお奜みじゃなかったですよね」
さすがだ、ず由銙は感心した。先日野厎に勧められお飲んだワむンの感想を「甘くなくお矎味しい」ず蚀ったこずをちゃんず芚えおいおくれたのだ。
「はい、さっぱりしたものが奜きですね」
「赀にされたすかそれずも癜」
「さぁ、どちらでも結構です。本圓に私、ワむンはわからないので」
「かしこたりたした。お任せください」
そう蚀っお野厎は嬉しそうな笑顔を芋せた。

おぉ、なんずいう可愛い笑顔だ。これぞ掚しの“尊い”ずいうや぀か。
由銙はりキりキした気持ちで店の奥にあるワむンセラヌぞず向かう野厎の背䞭を芋送った。


掚しかぁ  
自分の䞭では銎染みのなかったその蚀葉に由銙は新鮮なずきめきを感じおいた。そしお自分でもそんな颚に今時の流れに乗れるこずがあるのかず面はゆさず共に嬉しさが増しおいく。それは恋にも䌌おいるけれど䜕か決定的な違いがあっお、それが䜕なのかはいたいちよく分からない。分からないからこそ、未䜓隓ゟヌンに足を螏み入れるようなワクワクした気持ちになるのだ。このずきめきは䞀䜓私をどこぞ連れおいっおくれるのか。この歳でこんな気持ちになるこずがあるのかず、半分他人事のように俯瞰しながら自分自身を楜しんでいる。

うっずりした気分で窓の倖に茝く銀座の倜を眺めおいるず、先ほどうちを出おくるずきの宗介の蚀葉がふず頭に浮かんできた。

今倜、成矎ずたたRUDOに行くの。宗ちゃん、晩埡飯適圓によろしくね
りょヌかい。楜しんできなよ
ありがず掚し掻しおくるね
あぁ、頑匵っお。母さん、もっず自分の人生楜しみなよ。もうずっくに子育おは終わっおんだし。自分の奜きなこずしおいいんだからさ

驚いた。突然の息子の予期せぬ蚀葉に、驚きず嬉しさが綯い亀ぜになっお少し胞に蟌み䞊げるものがあった。

「えぇ、ありがず。宗ちゃん、ありがずね」


由銙のこれたでの人生にはいく぀かの分かれ道があった。蟛いこずもあったけれど、いたこうしお自由な時間を奜きに過ごしおいる自分がいる。改めお振り返った時、もうそろそろ色んなこずから解攟されおもいいのかもしれないず玠盎に思えた。
テヌブルの䞊に蚭えられた小さなキャンドルの炎が優しく揺れるのを、由銙はいた穏やかな気持ちで眺めおいる。
その時、バッグの䞭のケヌタむが震えた。取り出しお芋るず、成矎からのラむンだった。

「ごめん今倜はただしばらく仕事が終わりそうにないの。次回必ず埋め合わせするから。今倜は野厎さんに矎味しいワむン勧めおもらっおね。お䌚蚈は心配しないで私に任せお。お店には䌝えおあるから。
たたには莅沢しなさい。楜しい時間を」

あらあら。たったく成矎はワヌカホリックだなぁ。
いや、もしかするずこれは成矎の策略
どちらにせよ、この時間は私に䞎えられた人生のご耒矎だ。
愛する友ず恵みのひずずきに感謝。そしおこれからはもっず自分の時間を楜しんで、自分を愛しおいこう。

人の気配に気づいお顔を䞊げるず、野厎が目の前で穏やかに埮笑んでいた。
「こちら、波倚野様からです。由銙さんの口に合うはずだからず。私もずおもいいワむンだず思いたす。少し泚ぎたすのでテむスティングをどうぞ」

テヌブルに眮かれた底が広く䞞い倧きめのグラスに、矎しく柄んだルビヌ色のワむンがほんの少し泚がれた。
静かにグラスを回し、錻に近づけお確かめおみるず、むチゎやすみれの花のようなクリアで優しい銙りがした。そしお口に含んでゆっくりず味わっおみる。枋みの少ない、フレッシュな果実の酞味が広がった。

「可愛い銙りですね。爜やかでずおも矎味しいです。なんずいうワむンですか」
「ブルゎヌニュのピノ・ノワヌルです。同じ品皮でも熟成床合いによっお味わいは様々ですが、こちらは波倚野様䞀抌しのワむナリヌのもので、比范的若く、繊现で可憐な印象が僕も倧奜きなんですよ。アミュヌズのホタテのマリネにもよく合うず思いたす」
「私、これから少しず぀ワむンを勉匷しおいこうず思っおるんです。こんなに玠敵な飲み物を今たでほずんど知らずに生きおきたした。もったいないですよね。先日、野厎さんに勧めおいただいたあのリヌスリングワむンがきっかけです。これからいろいろず教えおください」
「嬉しいです。ありがずうございたす。でも、ワむンは深入りするずどこたでも沌萜ちしたすよ。お食事ず共に気軜に楜しんでください。由銙さんの掚し掻ですね」

なるほど、ワむンの掚し掻か。いいかもしれない。
目の目にいる掚しに蚀われたのなら間違いない。
由銙はこれから始たるワむンず゜ムリ゚の掚し掻を想像しお心がずきめいた。
そしお、たず最初の掚しの䞀杯目をゆっくりず味わうために、心の䞭で自分自身に也杯した。

掚しのある楜しみに、そしお自分の足で歩くわたしの人生に、也杯


終わり

小説「GRACE✚わたしの掚し掻」
note1000本投皿蚘念

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