中選挙区比例代表制という選択肢【後編】
この記事は、前編、中編に続く後編です。前二本の記事は、こちらからお読みいただけます。
6. 具体案
それでは、私が主張する中選挙区比例代表制の具体案について述べる。
定数4〜7程度(例外として2、3人区等も認める)の選挙区において、比例代表(修正サンラグ式)で議席を配分
有権者は政党名でも候補者名でも投票できる
非拘束名簿式比例代表制(まず政党に議席を配分し、その中で候補者票の多い順に当選とする)
無所属候補も立候補できる(名簿一名の政党として扱う)
複数政党による連結名簿の作成を認める(この場合、まず連結名簿に議席を配分し、その中で各政党に議席を配分し、各党の中で当選者を決する。連結名簿は、全選挙区で適用されるものとする)
選挙区定数
定数は、先述の論文(得票と議席の乖離を最小とし、かつ議員に対する有権者の監視を両立するには、定数4~8程度の比例代表制が最適とする)に倣って策定した。区割りについて詳細は本記事の後半で述べるが、都道府県の合区を避けるために、小規模県には例外として2、3人区等も認めることとした。
非拘束名簿式・無所属候補
また、比例代表制として一般的な拘束名簿式(政党が当選の順位を決めておく制度)は採用しなかった。日本では政党よりも候補者個人を選びたいと言う声が一定数あるため、これに応える形だ。現行の比例代表選挙では認められていない無所属候補の立候補を容認したのも、同様の理由である。ちなみに、先述の論文でも、非拘束名簿式の方が有権者による監視が働きやすくなり、汚職の件数も抑えられると主張されている。
同士討ち・共倒れ
非拘束名簿式にすることで問題となりうるのが、同士討ちである。中選挙区制下ではこれによって派閥政治・金権政治がもたらされ、問題視された。得票の多い政党の議席が得票の少ない政党を下回るといった共倒れと呼ばれる現象も、かつては起こっていた。しかし、本制度案では政党名での投票も可能であること、議席配分が政党を軸に行われることから、共倒れは完全になくなるのに加え、同士討ちについても以前のような大きな問題とはならないと考える。現行の参院全国区においても非拘束名簿式であるが、投票の8割は政党名での投票であり、候補者名での投票は2割に過ぎない。参院全国区は定数が50人であるため、衆院の中選挙区比例代表制の下でも同様になると断定はできないが、それでも、政党名での投票はある程度の割合を占めることになるだろう(同じく中選挙区比例代表制の提唱者である中央大学教授の中北氏は、政党名での投票が半数程度になるだろうと予測している)。
そもそも、かつての同士討ちは、同じ政党の候補者の間で政策や考え方を見分けられないという有権者を惹きつけるために莫大な金が使われた、というものである。本制度案では、候補者について分からない(或いはそこまで政治に興味がない)有権者には政党名での投票を可能とするため、かつてほどには同士討ちによる悪影響は生じないと考えられる。また、複数の候補者に異なる地域を担当させるといったように、政党も策を講じることができるため、金権政治が生じればそれは政党の責任である、と考えることもできる。
連結名簿
また、本制度案では連結名簿を認めている。これは、各党が政権の選択肢を提示できるようにするためである。複数の政党が、合併できるほど政策やビジョンが近いわけではないが、かといって協力して政権の選択肢を提示したいという場合に、連結名簿を作成するという選択肢が使える。いわば、連立政権としての選択肢を示せるのである。有権者から見れば、まずどの連結名簿の政党に投票するかによって連立政権の枠組みを選択し、さらに政党を選ぶことでより詳細な政策やビジョンを選択できる。このようにすることで、無理に一つの政党に集約させることなく、政権交代の可能性を高めることができる。
以上が中選挙区比例代表制の具体案である。
7. 具体的な区割り案
ここからは、中選挙区比例代表制の具体的な区割り案を紹介する。区割りに当たっての条件は以下の通りである。
原則、都道府県をそのまま選挙区とする
人口が200万人を大きく超える都道府県は、いくつかの選挙区に分割する。分割に当たっては、
選挙区内で人口が100万~200万人になるようにする
飛び地を作らない
原則として、市区町村が分割されるような境界線を引かない
偉大なる先駆者[2]の区割りや、地方自治体のHPに掲載されている地方区分等を尊重する
複数都道府県による合区は作らない
各選挙区内における2025年国勢調査速報値による人口を元に、アダムズ方式で各選挙区に定数を配分(総定数は465人とする)
その結果、基本的に定数は4~7、かつ小規模県には2, 3人区を、ギリギリ区割りの難しい県には8人区を例外的に認める、と言う区割りとなった。区割りの対象となった都道府県は、現行の参院選挙区で複数人区となっている都道府県に宮城県を加えた14都道府県となり、全県区となったのは33県であった。選挙区の総数は95となった。
また、一票の格差は1.397倍となった。
以下、その区割り案を画像と共に提示する。
※選挙区の名前は、現行の番号ではなく、主要都市名や地域名などから適当に名付けている。
北海道

赤:札幌選挙区(定数4)1084321人
青:石狩選挙区(定数5)1297758人
緑:道南選挙区(定数4)976105人
黄:道北選挙区(定数3)791559人
紫:道東選挙区(定数3)835766人
※札幌市北区、東区、白石区、厚別区は、その他札幌市から分割して石狩選挙区に組み入れた
東北地方
青森選挙区(定数4)1,140,395人
岩手選挙区(定数4)1,125,502人

宮城県
赤:仙台・仙南選挙区(定数5)1209573人
青:仙北・三陸選挙区(定数4)1011751人
※仙台市泉区は、その他仙台市から分割して三陸・大崎選挙区に組み入れている
秋田選挙区(定数4)882,100人
山形選挙区(定数4)993,127人
福島選挙区(定数6)1,711,937人
関東地方

茨城県
赤:水戸・日立選挙区(定数5)1255860人
青:つくば・土浦選挙区(定数6)1535347人
栃木選挙区(定数7)1,864,833人
群馬選挙区(定数7)1,867,582人

埼玉県
赤:さいたま選挙区(定数5)1345016人
青:川口・和光選挙区(定数6)1539894人
緑:川越・秩父選挙区(定数6)1625380人
水:熊谷・上尾選挙区(定数6)1629168人
黄:越谷・草加選挙区(定数4)1147711人

千葉県
赤:千葉・成田選挙区(定数6)1712110人
青:船橋・市川選挙区(定数6)1698658人
緑:松戸・柏選挙区(定数6)1538578人
水:市原・銚子選挙区(定数5)1309166人

東京23区
赤:東京都心選挙区(定数6)1677668人
青:目黒・品川・大田選挙区(定数6)1494331人
緑:世田谷・杉並選挙区(定数6)1554174人
黄:練馬・中野・板橋選挙区(定数6)1711920人
水:北・足立・荒川選挙区(定数5)1297490人
紫:台東・江東・墨田選挙区(定数4)1066951人
桃:江戸川・葛飾選挙区(定数4)1172677人
多摩地域
橙:北多摩東部選挙区(定数7)1815899人
茶:南多摩選挙区(定数5)1421839人
藍:西多摩選挙区(定数4)1033270人

神奈川県
赤:横浜東部選挙区(定数4)1026575人
青:横浜西部選挙区(定数4)1113232人
緑:横浜北部選挙区(定数6)1615033人
水:川崎選挙区(定数6)1561132人
黄:横須賀・鎌倉選挙区(定数5)1395376人
桃:海老名・相模原選挙区(定数5)1314877人
紫:厚木・小田原選挙区(定数4)1167432人
北陸甲信越地方
新潟選挙区(定数8)2,068,476人
富山選挙区(定数4)985,675人
石川選挙区(定数4)1,088,221人
福井選挙区(定数3)729,386人
山梨選挙区(定数3)779,912人
長野選挙区(定数7)1,954,950人
東海地方
岐阜選挙区(定数7)1,891,489人

静岡県
赤:静岡選挙区(定数4)1089748人
青:浜松選挙区(定数5)1269712人
緑:伊豆選挙区(定数4)1109385人

愛知県
赤:名古屋西部選挙区(定数5)1206769人
青:名古屋東部選挙区(定数4)1139123人
緑:尾西・海部選挙区(定数5)1399355人
黄:尾東・知多選挙区(定数5)1392145人
桃:西三河選挙区(定数4)1171081人
水:東三河選挙区(定数4)1140930人
三重選挙区(定数6)1,694,896人
近畿地方
滋賀選挙区(定数5)1,392,439人

京都府
赤:京都選挙区(定数5)1288595人
青:丹後・山城選挙区(定数5)1214152人
※京都市西京区は、その他京都市から分割し、丹後・山城選挙区に組み入れた

大阪府
赤:大阪キタ選挙区(定数5)1411950人
青:大阪ミナミ選挙区(定数5)1396674人
緑:北摂選挙区(定数7)1818968人
黄:北河内選挙区(定数4)1106257人
桃:南河内選挙区(定数5)1372514人
水:和泉・堺選挙区(定数6)1658215人

兵庫県
赤:神戸・淡路選挙区(定数6)1616829人
青:南阪神選挙区(定数4)1031699人
緑:播磨・但馬選挙区(定数6)1635772人
黄:丹波・北阪神選挙区(定数4)1039525人
奈良選挙区(定数5)1,269,180人
和歌山選挙区(定数3)864,262人
中国地方
鳥取選挙区(定数2)523,732人
島根選挙区(定数3)629,460人
岡山選挙区(定数7)1,808,664人

広島県
赤:広島・芸北選挙区(定数5)1354768人
青:備後・呉選挙区(定数5)1328631人
※広島市の中で安芸区が、また安芸郡の中で府中町が飛地となっているため、飛地が生じた
山口選挙区(定数5)1,264,006人
四国地方
徳島選挙区(定数3)675,489人
香川選挙区(定数4)907,725人
愛媛選挙区(定数5)1,260,088人
高知選挙区(定数3)643,437人
九州地方

福岡県
赤:福岡・糸島選挙区(定数5)1424831人
青:筑紫選挙区(定数5)1236028人
緑:筑後・筑豊選挙区(定数5)1213982人
黄:北九州選挙区(定数5)1207038人
※福岡市東区は、他の福岡市から分割し、筑紫選挙区に組み入れた
佐賀選挙区(定数3)781,214人
長崎選挙区(定数5)1,232,190人
熊本選挙区(定数6)1,678,090人
大分選挙区(定数4)1,076,875人
宮崎選挙区(定数4)1,018,904人
鹿児島選挙区(定数6)1,512,969人
沖縄選挙区(定数6)1,468,220人
区割りの数値的特徴
以下に、選挙区別の人口と定数についてグラフで視覚的に示す。横軸が選挙区内の人口、色が定数を表している。

また、定数ごとの選挙区の数をグラフにまとめた。

一票の格差は1.397倍に、選挙区の平均定数は4.895となった。議員一人当たりの人口が最小となったのは島根県で209820人、最大となったのは江戸川・葛飾選挙区の293169人であった。
先の論文に照らして考えると、9割の選挙区は定数4~8の範囲に、しかも8割以上の選挙区は定数4~6の範囲に収まっており、望ましい定数分布になっていると言える。
直近2回の総選挙のシミュレーション
最後に、実際の衆院選における比例票の結果を先述の選挙区ごとに集計し、中選挙区比例代表制のシミュレーション結果を掲載する。シミュレーション結果のほか、選挙区を日本地図に落とし込むとどうなるかも含めて、ぜひ見ていただきたい。
2024年衆院選

2026年衆院選

