中選挙区比例代表制という選択肢【中編】 ー政党制は国民が決める
この記事は中編です。前編を読んでいない方は、先に前編をお読みください。
4. 「主権」
政党制を規定する選挙制度
単純小選挙区制では、得票率がどうであれ最多得票の候補者しか議席を得られない(現行制度では法定得票率と呼ばれる基準が存在し、最多得票者のの得票率が6分の1を超えなければ再選挙となることに留意)。そのため、必然的に1つ又は2つの政党に有利となり、単一の勢力に過半数の議席を与えることが非常に多くなる(デュヴェルジェの法則)。逆に完全な比例代表制では、鏡のように民意を議席に反映するため、少数派にも得票に見合った議席が与えられる。その結果、単一の勢力が過半数を取ることが困難となり、政党の乱立を招きやすい。
このように、単純小選挙区制と完全比例代表制は、逆方向にではあるが、どちらも政党制の在り方を強制的に決めてしまう点では共通している。
しかし、政党制の在り方を、選挙制度によってあらかじめ決めてしまってよいのだろうか。
政党制は国民が決める
日本社会はしばしば同質的だと言われる。英国のような明確な階級分断もなく、大陸ヨーロッパの一部にあるような民族・言語・宗教に根ざした対立もない。社会の亀裂は他国より浅く、流動的だ。条件次第で一党優位制にも、二大政党制にも、多党制にもなりうる社会であり、事実このいずれもを経験してきた(とはいえ、一党優位の時期が非常に長い)。
だとすれば、その時々の選挙で主権者たる国民自身が政党制のかたちを決める、という発想の方が真に民主的ではないだろうか。国会議員の定める選挙制度によってあらかじめ特定の政党制を強制するのではなく、国民の意思と政党間競争の結果として政党制が事後的に決まっていく方が、国民主権の理念にも適合的であろう。
もっとも、一党優位制は政権交代の可能性を低下させる点で、分極的多党制は政権の安定性を損なうという点で、あまり良い政党制ではない。実際には、二大政党制と穏健な多党制の間で揺れ動くような選挙制度が望ましいだろう。
中選挙区比例代表制という選択肢
しかし、安易に小選挙区と比例代表を並立させると、その噛み合わせの悪さから小党乱立と一党優位を誘発してしまう。求められるのは、二大政党制にも穏健な多党制にもなりうる制度、すなわち2〜5程度の中〜大規模政党が議席を確保するような制度である。この要請に見合う選挙制度こそが、「中選挙区比例代表制」である。
中選挙区比例代表制とは、中選挙区の区割りで比例代表を行う選挙制度である。定数の少ない比例代表制と考えても良い。定数を絞ることで小規模政党が議席を得るハードルを高め、小党乱立を抑えるほか、二大政党にある程度の得票が集まれば二大政党制に近い選挙結果をもたらすようになる。
この制度は学術的にも主張されたことがある。Carey / Hix の論文「The Electral Sweet Spot」では、定数が4〜8の選挙区において比例代表制を採用すると、比例性(民意が議席に反映される度合い)と代表性(候補者を選択できる、又は監視できる度合い)を高いレベルで両立できると主張された。
5. 「平等」
一票の格差
さらに、中選挙区比例代表制には思わぬ利点がある。
それは、区割りの容易さである。
そもそも衆議院の選挙制度協議会が設置された背景には、現行の小選挙区制で一票の格差を解消することが困難になっていると言う状況がある。日本では選挙区の地域性が重視される傾向にあり、都道府県や市区町村を跨がないことが重視される。これにより、一票の格差は2倍にまで大きくなっている。 ある地域の有権者は、他の地域の有権者2人分の議員を輩出している、と言うことになる。
一方、現在の区割りが地域性を重視できているかと言われたら怪しい。公職選挙法の末尾にある「別表第一」には、衆議院の各小選挙区に含まれる市区町村が定められているが、画像のように、一部の選挙区では町丁単位で指定されており、かなり分かりづらい区割りとなっている。

複数人区における一票の格差
一般に、小選挙区制よりも比例代表制の方が一票の格差は小さくなる。現行制度においても、小選挙区部分では2倍近い格差があるのに対し、比例代表部分では1.1倍程度でしかない。
その理由として、選挙区の定数を柔軟に変えられると言うのがある。小選挙区では定数が1で固定されているため、どうしても選挙区内の人口を揃える他ない。一方の複数人区では、定数を変えることによっても対応できる。ただ、参議院地方区のように、選挙区によって人口に大きな差がある場合にはその限りではない。
中選挙区比例代表制では、定数を柔軟に設定できるのに加え、選挙区の人口規模が概ね同じオーダーになるように区割りを行える。これにより、一票の格差を小さくできることが期待される。事実、2025年の国勢調査速報値を用いて区割りを行ったところ、一票の格差は1.39倍にまで低減できた。
中選挙区比例代表制の利点が分かったところで、今回はここまでとする。次回では、具体的な制度案について検討する。
