「いつもありがとうございます」と言う側になりたい。
野望がある。
印税をもらいながら、喫茶店を開くこと。
印税だけで暮らせるほど本が売れるのか。
喫茶店を営みながら、次の本を書けるのか。
細かいことは、まだ考えていない。
野望なのだから、少しくらい夢見がちでいい。
大学時代、お気に入りの喫茶店があった。
カウンター席と、テーブル席が三つほど。
こぢんまりとした、小さなお店だった。
その喫茶店で、こんな話を聞いたことがある。
「いいコーヒー豆は、スターバックスがほとんど買い占めてしまう」
それがどこまで本当なのか、私は今も知らない。
ただ、コーヒー豆の世界にも、大きな会社と小さなお店のあいだに、見えない競争があるのだなと。
私はその喫茶店に通いつづけた。
何度通ったころだろう。
ある日、お見送りの言葉が変わった。
「ありがとうございました」
ではなく、
「いつもありがとうございます」
と言ってもらえたのだ。
たった一言、「いつも」が加わっただけ。
それなのに、顔を覚えてもらえたことが嬉しくて、私はひそかに舞い上がった。
お店の中に、私のための小さな居場所ができたような気がした。
私があの喫茶店へ通っていたのは、コーヒー豆のためだけではなかったのだと思う。
ところが、しばらくして、その喫茶店が雑誌で紹介された。
お気に入りのお店が評価されるのは嬉しい。
たくさんの人に知ってもらえるのは、お店にとっても喜ばしいことだ。
けれど、それから店内は混み合うようになった。
以前のように、ふらりと立ち寄ることが難しくなった。
私のお店ではないのに、秘密の場所を誰かに見つけられてしまったようで、少しだけ寂しかった。
そのうち、だんだん足が遠のいてしまった。
もうずいぶん行っていない。
今度訪れても、きっと「いつもありがとうございます」とは言われないだろう。
それでも、また行きたい。
「ありがとうございました」から、もう一度始めればいい。
もし私が喫茶店を開くなら、あのお店のように小さなお店がいい。
何度も来てくれる人の顔を、少しずつ覚えられるくらい。
そして、ある日のお見送りに、そっと「いつも」を加えたい。
あの豆の話が本当なら、いい豆は大きな会社に先に買われてしまうのかもしれない。
それでも、「いつもありがとうございます」は、小さな喫茶店にも残されている。
誰にも買い占めることのできない、特別な一言として。
そのためにも、まずは印税をもらえる本を書かなければならない。
喫茶店の思い出を語っていたはずが、結局、野望の話に戻ってきてしまった。
なんのはなしですか。
喜木 拝
凛花さんのビンゴエッセイ企画に参加しています。
今月はビンゴできるかが怪しくなってきましたが、
「喫茶店」をテーマに、いつか叶えたい野望まで綴ってみました。
夢の喫茶店は、カウンターとテーブル席が三つほど。
本棚も置けたら最高です。
まずは、本を書くところから始めます。

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