陸軍省検閲済「衛生及救急法」(其八)
前の記事はコチラ
第六章 患者手運ビ法
第百二十一 患者ヲ運ブニハ運搬具(擔架、患者車、患者自動車等)ヲ用フルヲ可トスルモコレナキ場合ハ手運ビ法ニ依ルベシ
手運ビニハ一人ニテ運ブ法ト二人ニテ運ブ法トアリ
(現代語訳)
第六章 患者運搬法
第百二十一 患者を運ぶには、運搬具(担担架、患者車、患者自動車など)を用いるのがよいが、これがない場合は「手運び法(人力による徒手搬送法)」によるべきである。
手運びには、一人で運ぶ方法と、二人で運ぶ方法とがある。
其一 一人ニテ運ブ法《ハフ》
第百二十二 一人ニテ運ブ法ニ負ヒ方ト抱キ方トアリ、負ヒ方ハ長途(トホミチ)ノ運搬ニ堪ヘ易キモ創及容態ニ依リテ抱キ方ヲ便トスルコトアリ
(現代語訳)
其の一 一人にて運ぶ方法
第百二十二 一人で運ぶ方法には、「負い方(背負い搬送)」と「抱き方(抱きかかえ搬送)」とがある。
負い方は、長い道のりの運搬に耐えやすいが、傷の部位や容態によっては、抱き方の方が適している場合もある。

(一)負ヒ方 運搬者ハ患者ノ前ニ脊ヲ向ケテ右膝ヲ地ニ著ケ患者ヲシテ兩上肢(リヤウウデ)ヲ己ノ肩ニ掛ケシメ兩手ニテ患者ノ膕ヲ支ヘ負ヒテ立ツベシ(第三十二圖)
長途ノ運搬ニハ携帯天幕、卷脚絆等ヲ患者ノ腰ニ纏ヒソノ端ヲ己ノ胸ニ結ビテ扶ケ支フルヲ可トス
負ヒテ患者ヲ運ブ法ハ最モ屢々用ヒラルル方法ナリ
(現代語訳)
(一)負い方
運搬者は、患者の前に背中を向け、右膝を地面につけて、患者に両腕を自分の肩に掛けさせ、両手で患者の膕(膝の裏側)を支え、背負って立ち上がること(第三十二図)。
長い道のりの運搬には、携帯天幕や巻脚絆(ゲートル)などを患者の腰に巻きつけ、その端を自分の胸の前で結んで支え助けるのがよい。
背負って患者を運ぶ方法は、最も頻繁に用いられる方法である。
(二)抱キ方《カタ》 運搬者ハ患者ニ向ヒテテソノ一側(カタガハ)ニ立チ患者ノ足ニ近キ方ノ膝ヲ地ニ著ケテソノ脊ト臀トノ下ニ己ノ前膊(マヘウデ)ヲ送リ患者ヲシテ兩上肢ヲ己ノ頸ニ纏ヒテ自ラ體ヲ支ヘシメタル後先ヅ患者ヲ抱キ上ゲテソノ體重ヲ立テタル膝ニ托シ然ル後地ニ著ケタル膝ヲ立テテ起ツベシ
抱クトキハ布片、卷脚絆若ハ帶革等ノ中央ヲ患者ノ臀ニ當テソノ兩端ヲ結ビ合セテ己ノ肩ニ掛ケ扶ケ支《ササ》フルトキハ運搬容易ナリ(第三十三圖)
(現代語訳)
(二)抱き方 運搬者は、患者に向き合ってその片側に立ち、患者の足に近い方の膝を地面につけて、患者の背中とお尻の下に自分の前腕を差し入れる。
患者の両腕を自分の首に回させ、自ら体を支えさせた後、まず患者を抱き上げて、その体重を(立てている方の)膝の上に一度乗せて、その後、地面につけていた方の膝を立てて立ち上がること。
抱くときは、布切れや巻脚絆(ゲートル)、あるいは帯革(軍用レザーベルト)などの中央を患者のお尻に当て、その両端を結び合わせて自分の肩に掛け支え助けるときは、運搬が極めて容易になる(第三十三図)。

其二 二人ニテ運ブ法
第百二十三 座位ニテ運ブ法ニ次ノ三法アリ、何レモ長途(トホミチ)ノ運搬ニ堪ヘ易キモ創及容態ニ依リ坐ルコトヲ得ザル者ニハ用ヒ難シ、又(一)、(二)ノ方法ハ運搬者二人並ビ歩ムヲ以テ通路狹キトキニハ|行ヒ難シ
(現代語訳)
其の二 二人にて運ぶ方法
第百二十三 坐った姿勢で運ぶ方法には、次の3つの方法がある。いずれも長い道のりの運搬に耐えやすいが、傷の部位や容態によって、坐ることができない者には用いることが難しい。また、第(一)および第(二)の方法は、運搬者二人が横に並んで歩くため、通路が狭いときには行うことが難しい。
(一) 片手組ミ 運搬者二人ハ患者ノ兩側ニ寄リ各片膝(右側ノ者ハ右膝、左側ノ者ハ左膝)ヲ地ニ著ケ片手ヲ患者ノ臀ノ下ニ送リ互ニ手ヲ握リ他ノ手ヲ患者ノ脊ヨリ互ニ相手ノ肩ニ支ヘ患者ヲシテ兩手ヲ運搬者ノ頸ニ掛ケ自ラ支ヘシムベシ(第三十四圖(一)、(二))
コノ時一人ハ「宜シ」ノ合圖ヲナシ他ノ一人ハ「左」ノ號令ヲ下ス
起テ
コノ號令ニテ二人同時ニ起ツヘシ、次ニ
前ヘ
ノ號令ニテ右側ノ者ハ右足ヨリ左側ノ者ハ左足ヨリ歩ミ始ム
(現代語訳)
(一)片手組み 運搬者二人は、患者の両側に寄り、各自片膝(右側にいる者は右膝、左側にいる者は左膝)を地面につけて、片手を患者の尻の下に差し入れて互いに手を握り合う。もう一方の手は、患者の背中の後ろに回して、互いに相手の肩を支え合う。患者には、両手を運搬者の首に掛けさせ、自ら体を支えさせる(第三十四図(一)、(二))。
このとき、一人が「宜し」と準備完了の合図をし、もう一人が「左」の号令を下す。(noteのため下の号令になります)
「起て」
この号令によって、二人同時に立ち上がるべきである。次に、
「前へ」
の号令によって、右側の者は右足から、左側の者は左足から歩み始める。
(二)輪持チ 腹卷、卷脚絆、手拭、繩等ニテ輪ヲ作リ各片手ニテ握リ(第三十五圖)ソノ上ニ患者ヲ坐ラシム、ソノ後ノ動作ハ前ニ同ジ
コノ法ハ運搬者ノ疲勞ヲ減ズル利アリ
(現代語訳)
(二)輪持ち 腹巻、巻脚絆、手ぬぐい、縄などを用いて一つの輪を作り、運搬者二人がそれぞれ片手でその輪を握り(第三十五図)、その上に患者を座らせる。その後の動作は、前と同じである。
この方法は、運搬者の疲労を減少させる利点がある。


第三十五図
(三)馬乘リ 一人ハ負ヒ方ニ於ケルガ如ク患者ノ前ニ脊ヲ向ケテ右膝ヲ地ニ著ケ他ノ一人ハ患者ヲ扶ケテ脊ニ縋ラシメ兩手ヲソノ股ノ間ヨリ送リ前ノ運搬者ノ帶革ヲ握リ患者ヲソノ上ニ坐ラシム、次ニ患者ニハ兩手ヲ運搬者ノ肩ニ掛ケテ自ラ支ヘシメ前ノ運搬者ハ患者ノ膕ヲ支フ、コノ時後ノ運搬者ハ「宜シ」ノ合圖ヲナシ、前ノ運搬者《ウンパンシヤ》ハ「左」ノ號令ヲ下ス
「起テ」
コノ號令ニテ二人同時ニ起ツベシ、次ニ
「前へ」
ノ號令ニテ前後運搬者共ニ左足ヨリ歩ミ始ム(第三十六圖)
(現代語訳)
(三)馬乗り
一人は、負い方のときと同じように、患者の前に背中を向けて右膝を地面につけて待機する。もう一人は、患者を支えて背中にすがらせ、自らの両手を患者の股の間から前へと差し入れて、前の運搬者の帯革をガッチリと握り、患者をその上に座らせる。次に、患者には両手を前の運搬者の肩に掛けさせて自ら体を支えさせ、前の運搬者は患者の膕《ひかがみ》(膝の裏側)を支える。このとき、後ろの運搬者が
「宜し」と準備完了の合図をし、前の運搬者が「左」の号令を下す。(下の号令)
「起て」
この号令によって、二人同時に立ち上がること。次に、
「前へ」
の号令によって、前後の運搬者ともに、左足から歩み始める(第三十六図)。

第百二十四 臥位ニテ運ブ法ニ次ノ三法アリ、共ニ長途(トホミチ)ノ運搬ニ堪ヘ難シ、故ニ坐リ難キ者又ハ近キ處ヘノ運搬ニ用ヒラル
(現代語訳)
第百二十四 寝かせた姿勢(臥位)で運ぶ方法には、次の3つの方法がある。いずれも長い道のりの運搬には耐え難いため、座ることが難しい重症者、または近い場所への運搬に用いられる。
(一) 縱抱キ 運搬者ノ一人ハ患者ノ頭邊ニ近ノキ右膝ヲ地ニ著ケ患者ノ頭ヲ己ノ胸ニ當テ兩手ヲ患者ノ後ヨリ兩腋ノ下ニ送リ胸ノ前ニテ左右ノ指ヲ組ミ他ノ一人ハ患者ノ兩脚ノ間ニ入リ患者ノ足先ノ方ニ向ヒテ右膝ヲ地ニ著ケ兩手ヲ以テ患者ノ膕ヲ抱ク、ソノ後ノ動作ハ第百二十三(三)ニ同ジ(第三十七圖)
コノ法ハ胸ニ創アル者、呼吸迫レル者ニハ用ヒ難シ
(現代語訳)
(一)縦抱き 運搬者の一人は、患者の頭の近くに寄り、右膝を地面につけて、患者の頭を自分の胸に当て、両手を患者の後ろから両脇の下へと差し入れて、胸の前で左右の指をガッチリと組み合わす。もう一人は、患者の両脚の間に入り、患者の足先の方向を向いて、右膝を地面につけて、両手で患者の膕(膝の裏側)を抱える。
その後の動作は、第百二十三条(三)と同じである(第三十七図)。
この方法は、胸に傷がある者、または呼吸が切迫している者には用いることが難しい。

(二) 向ヒ抱キ 運搬者二人ハ患者ノ兩側ニ寄リ片方ノ膝(右側ノ者ハ右膝、左側ノ者ハ左膝)ヲ地ニ著ケ各兩手ヲ患者ノ背ト大腿(フトモモ)ノ下ニ送リ互ニ兩手ヲ入レ違ハセ患者ヲ擔ゲテ抱ク、患者ニハ自ラ手ヲ兩運搬者ノ帶革若ハ頸ニ掛ケテ支ヘシム、ソノ後ノ動作ハ第百二十三ノ(一)ニ同ジ(第三十八圖《ヅ》)
(現代語訳)
(二)向かい抱き 運搬者二人は、患者の両側に寄り、片方の膝(右側にいる者は右膝、左側にいる者は左膝)を地面につけて、各自の両手を患者の背中と大腿の下に差し入れて、互いに両手を互い違いに入れ交ぜて患者を持ち上げて抱く。患者には、自らの手を両方の運搬者の帯革(軍用ベルト)、または首に掛けさせて体を支えさせる。その後の動作は、第百二十三条の(一)と同じである(第三十八図)


(三) 横抱キ 運搬者二人ハ患者ノ片側ニ並ビテ立チ次デ各右膝ヲ地ニ著ケ一人ハ手ヲ患者ノ肩ト腰ノ下ニ他ノ一人ハ臀ト大腿トノ下ニ入レ患者ニハ手ヲ運搬者ノ肩ニ掛ケ自ラ支ヘシム、ソノ後ノ動作ハ第百二十三ノ(三)ニ同ジ(第三十九圖)
(二)(三)共ニ布類ニテ環ヲ作リ患者ノ頸ヨリ運搬者ノ頸ニ掛ケ患者ノ頸ヲ支フルトキハ運搬容易ナリ
|衛生法及救急法《ヱイセイハフオヨビキウキフハフ》終
(現代語訳)
(三)横抱き 運搬者二人は、患者の片側に並んで立ち、次いで各自、右膝を地面につけて一人は手を患者の肩と腰の下に、もう一人は尻と大腿の下に差し入れる。患者には、手を運搬者の肩に掛けさせて自ら体を支えさせる。その後の動作は、第百二十三条の(三)と同じである(第三十九図)。
第(二)項(向かい抱き)および第(三)項(横抱き)ともに、布類で輪を作り、患者の首から運搬者の首へと掛けて患者の頭・首を支えるときは、運搬が極めて容易になる。
衛生法及び救急法 終
(衛生法及救急法奥附)
昭和十二年六月五日印刷
昭和十二年六月八日發行
定價 金拾五錢
翻刻兼
發行者
東京市麴町區三番町十四番地
横尾民藏
印刷者
東京市麴町區三番町十四番地
横尾民藏
印刷所
東京市牛込區市谷臺町二十二番地
成武堂印刷所
電話四谷(35)五七三九番
發行所
東京市麴町區三番町十四番地
成武堂
電話九段(33)二八一五番
振替口座東京三〇七一三番
おまけと後書き
衛生法及救急法(昭和11年)
アジア歴史資料センター
なぜか途中のページがごそっと50ページくらい抜けております。
衛生法及救急法(昭和6年)
アジア歴史資料センター
版が古いので20ページくらい薄いですが全ページ見られます。
*左側のルビは()で表現しております。
例 仰臥(アヲムキニネセル)
嘔吐(ハク)

包帯包(私物)


包帯包を入れる左裾の「隠し(内ポケット)」写真を小玉克幸【奥州つはもの文庫】様より頂きました。


とうじのえいせいすいじゅんのたかさにおどろきましたが、つかれはてたのでもうふっこくはしばらくやりません。
まんがやしょうせつのしりょうにつかってください。げんきになったらもうすこしましなあとがきにします。
ちやほやしてください。
ちやほやしてください。
