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医療先進国フランスで「骨盤底筋ケア(ペリネケア)」が国家レベルで当たり前になった歴史と真相


出産後の女性に対して、国が全額負担で「骨盤底筋のリハビリ(Rééducation périnéale)」を提供する国——それがフランスです。

日本をはじめ多くの国では「出産後のマイナートラブルは時が解決する」「骨盤ベルトや自学自習のトレーニングで乗り切る」とされがちなケアが、なぜフランスでは公的医療保険に組み込まれ、文化として根付いたのでしょうか。

その背景には、単なる医療技術の発達だけでなく、アメリカの知見を持ち帰ったパイオニアの存在、80年代の保険制度の改革、そしてフランスならではの「女性観」が深く結びついたドラマがありました。


1. きっかけは「アメリカからの逆輸入」だった

1940年代、アメリカの産婦人科医アーノルド・ケーゲル(Arnold Kegel)が、産後の尿漏れ防止策として「ケーゲル運動」を提唱しました。


しかし当時のアメリカでは、このトレーニングは医療現場でシステム化されるまでには至りませんでした。


これに着目したのが、フランスの物理療法士(理学療法士)であるアラン・ブルシエ(Alain Bourcier)です。 1977年に渡米したブルシエは、筋肉の動きを視覚化する「バイオフィードバック(Biofeedback)」や電気刺激によるリハビリ技術を学び、これをフランスへ持ち帰りました。

彼はフランスの産婦人科医や理学療法士たちと連携し、膣や肛門の筋肉群(ペリネ=骨盤底筋)を専門的に評価・訓練する独自の「ペリネ・リハビリテーション法」を確立していきました。

2. 1985年:国家が「100%保険適用」を認めた転換点

1980年代に入ると、産婦人科医や臓器脱(子宮脱など)の手術を扱う外科医たちから「手術に至る前の予防措置として、また産後の機能回復としてペリネケアは非常に有効である」というエビデンスが次々と報告されるようになりました。

そして大きな決定打となったのが1985年です。 フランス政府は社会保障制度(Sécurité Sociale)の中で、出産後の女性に対するペリネ・リハビリ(通常10回分)の全額公的負担(100%償還)を正式に制度化しました。

国がこの政策に踏み切った合理的な背景には、以下の臨床的・経済的理由がありました。

  • 将来の医療費削減(予防医療): 高齢期における子宮脱の手術や、重度の尿失禁治療にかかる莫大な医療費を、産後の段階で予防する方が国家財政にとって遥かに低コストであること。

  • 助産師と理学療法士の連携: 助産師と理学療法士の双方に処方・施術権限を与えることで、アクセスしやすく専門性の高い医療インフラを整えたこと。

3. なぜ「フランス」で定着したのか? 文化と哲学の裏付け

制度が作られても、受け手側に心理的ハードルがあれば普及しません。フランスでペリネケアが爆発的に受け入れられた背景には、フランス社会独自の「女性観」と「身体観」がありました。

① 「母」になる前に「一人の女性」であるという価値観

フランス文化において、女性が出産して「母親」になったとしても、夫の「パートナー」であり「一人の自立した女性」であり続けることが強く意識されます。 ペリネケアは単に「尿漏れを防ぐ」という排泄ケアの側面だけでなく、「性生活の質の向上(QOLの維持)」という観点からも公然と語られ、推奨されてきました。

② 「痛みを我慢する美徳」の不在

フランスでは「痛みを我慢して耐えること」は美徳とされません。無痛分娩(硬膜外麻酔)の普及率が約80%を超えることからもわかるように、出産や産後の身体的苦痛は「科学と医療で解決すべきもの」と捉えられています。そのため、自分の身体をケアするために専門家に通うことへの抵抗感が皆無だったのです。

まとめ:歴史が教えてくれること

フランスでペリネケアが当たり前になったのは、単に「優しさ」や「余裕」からではありません。

  1. 一人のパイオニアが海外から持ち帰った技術(1977年)

  2. 予防医療の観点から下された国家の制度設計(1985年)

  3. 「女性の身体の権利とQOL」を尊重する文化

この3つが合致した結果生まれた、非常に理にかなったシステムなのです。

身体の変化を放置せず、国のシステムとして専門家とともに整えていく——フランスのペリネケアの歴史は、私たちが自身の身体とどう向き合うべきかという大きなヒントを与えてくれています。

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出典・注釈(References)

  1. Galliac, S. "Histoire de la pelvipérinéologie en France." Laboratoire de santé pelvienne. (アラン・ブルシエによる1977年の米国からの技術導入とフランスにおけるペリネ学の展開についての記録)

    1. paredoc.centredoc.fr他 1 件

  2. Ordre National des Masseurs-Kinésithérapeutes (CNOMK). (2017). "À chaque moment de la vie, votre kinésithérapeute est le spécialiste de la rééducation périnéale." Dossier de presse. (フランスにおける1978年以降の理学療法士によるペリネ・リハビリの発展と技術的アプローチについての資料)

    1. Ordre des masseurs-kinésithérapeutes

  3. Tibaudo, C. (2019). Histoire de l'émergence de la rééducation périnéale en France. Mémoire, IFPS-CHRU Tours. (フランスにおける産後ペリネ・リハビリの普及と社会保障制度による全額負担の歴史的経緯に関する論文)

    1. paredoc.centredoc.fr

  4. Décret n°85-918 du 26 août 1985 relatif aux actes professionnels et à l'exercice de la profession de masseur-kinésithérapeute. Légifrance. (1985年に制定された理学療法士の業務範囲および骨盤底筋リハビリの公的保険適用に関する仏国家法令)

    1. Legifrance

  5. Haute Autorité de Santé (HAS). (2002/2015). Bilans et techniques de rééducation périnéo-sphinctérienne pour le traitement de l'incontinence urinaire chez la femme. (フランス保健高等評価機構による骨盤底筋リハビリのガイドラインとエビデンスに関する報告書)

    1. Laboratoire de santé pelvienne

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