「AI動画1万本」「50陣営」はどこまで確認できたか――松井健氏の証言と国会記録を分ける
2026年9月3日更新
自民党総裁選と衆院選をめぐり、松井健氏が「生成AIで多数の動画を作った」「与野党約50陣営から依頼を受け、20人に協力した」と共同通信の取材に証言しました。
この問題には、報道機関が確認した接点と、松井氏が説明した動画本数・依頼関係、そして高市事務所側の否定があります。初出時の記事はこれらを一つにまとめ、「1万本のAI選挙操作」「与野党50人が関与」と確定した事実のように書いていました。確認できた範囲を整理します。
共同通信が報じた内容
共同通信は2026年6月7日、松井氏が、高市早苗氏を当選させる目的で小泉進次郎氏や林芳正氏を取り上げる動画を作成したと証言したと報じました。
熊本日日新聞に掲載された共同通信配信記事によると、松井氏は、総裁選で1,000~1,500本の動画を生成AIで作り、約300アカウントで拡散したと説明しています。また、衆院選では与野党約50陣営から依頼され、20人に協力したと述べました。衆院選の動画本数を「1万本」とする説明は、西日本新聞に掲載された松井氏への一問一答で報じられています。
共同通信は、松井氏と秘書とのメッセージを入手し、電話番号が秘書本人のものだと確認したとしています。一方、記事中の動画本数、アカウント数、依頼した全陣営の名前は、松井氏の証言として伝えられています。
共同通信配信・熊本日日新聞(2026年6月7日)
https://kumanichi.com/articles/1999919
西日本新聞・松井氏への一問一答
https://www.nishinippon.co.jp/item/1501258/
接点は確認されたが、目的について説明が食い違う
高市首相の秘書は7月に国会へ提出された陳述書で、総裁選前に松井氏らとのオンライン会議を持ったことを認めました。ただし、SNS戦略について意見交換したのであり、他候補を中傷する動画を依頼したことはないと説明しています。
高市事務所も共同通信に、他候補に関するネガティブ動画を作成・発信したり、第三者に依頼したりした事実はないと回答しました。
秘書の陳述書を報じた記事
https://www.itmedia.co.jp/news/article/2607/23/1260723115/
衆議院予算委員会・2026年6月22日
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001822120260622015.htm
したがって、オンライン会議や連絡があったことと、ネガティブ動画の依頼があったことは分けて扱う必要があります。前者は当事者側も一定の接点を認めていますが、後者は松井氏と高市事務所側の説明が対立しています。
数字を独立確認するために不足している資料
「1万本」「300アカウント」「50陣営」「20人」という数字を独立して確認するには、少なくとも次の資料が必要です。
投稿URLと投稿日をまとめた一覧
使用したアカウントと運営者の記録
依頼者、依頼日時、指示内容が分かる原資料
動画生成ログと公開実績
報酬、広告収入、役務提供の記録
今回の確認では、この全体を照合できる資料は見つかりませんでした。数字は重要な証言ですが、検証済みの全件データではありません。
違法性や選挙結果を先取りしない
松井氏は共同通信に、動画制作は無償で、広告収入も得ていないと説明しています。仮に依頼や役務提供があったとしても、公職選挙法、政治資金規正法、名誉毀損などのどの規定が問題になるかは、動画の内容、選挙との関係、依頼主体、対価、公開時期を個別に確認しなければ判断できません。
現時点で、これらの証言を理由に選挙無効や有罪判決が確定した事実は確認できません。「選挙不正」「一発アウト」と結論づける段階ではありません。
サナエトークンをめぐるオンライン会議、関連アカウントのリポスト、高市首相側の答弁は、別記事「高市事務所と『サナエトークン』――国会答弁で確認できる接点と残る疑問」で資料別に整理しています。
https://note.com/poliplus/n/n753f2db5c94b
確認できた接点を報じることと、未公開の全体像を断定しないことは両立します。今後は、名前や本数を増幅するより、動画URL、指示、対価、公開時期という検証可能な資料の公開を追います。
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