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最終話 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて




最終話 永遠の筆跡 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて


 告別式の朝。斎場の窓からは、大きな白い雲が浮かんでいた。だが、夏の光は熱い。

 棺の中のおじいちゃんは、まるで長い昼寝でもしているかのように、穏やかな顔をしていた。
 拓実、優花、智之の三人は、昨夜書き上げた手紙を手に、静かに棺のそばに立った。
 3人の胸ポケットには、黒、青、緑の万年筆が差されている。

「おじいちゃん、見て。私たち、ちゃんと書いたよ」
 優花が、青いインクで埋め尽くされた便箋を、おじいちゃんの胸元にそっと置いた。
 続いて智之が、力強い緑の文字が踊る手紙を。
 そして拓実が、深みのある黒で、これまでの感謝とこれからの決意を綴った一通を重ねた。

 かつて、未奈さんの旦那さんの葬儀では、3人は「ロケット」を棺に入れた。それは、過去の遺物を、あるべき場所へ帰すための儀式だった。

 けれども今日は違う。

 万年筆はおじいちゃんから託された「生きるための道具」であり、手放してはいけないものだからだ。
 3人はこれからも、このペンを、時に走らせ、時に迷い、時に傷つきながら、自分たちだけの軌跡を刻んでいかなければならない。

 おじいちゃんに手向けたのは、その道具を正しく使い始めたという、最初で最後の報告書だった。

「席に座ろうか? おじいちゃんは、天国でゆっくり読むだろうから」
 拓実の言葉に、二人が頷いた。
 
 最後のお別れの時、3人の手紙は、おじいちゃんを包む花々の中に隠れていった。

「じゃあ、私はバスに乗って、おじいちゃんを見送ってくるね。拓実と智之くんはこれで。今日は来てくれて本当にありがとう!」

 優花を乗せたバスがクラクションを鳴らした。2人は手を合わせながら、バスを見送った。


「いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて」

 かつて、そんな風に空想していた少年は、もうここにはいない。たとえ、ペンという物体が傷つき、壊れて、消えてしまっても、そのペンで書かれた人の想いは永遠に消えない。

「行こうか」

 拓実が歩き出すと、智之はコクリと頷いた。




いつか
これがペンでなくなる日が
来るなんて(完)


最後までお読みいただき、
ありがとうございました。




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山根あきら | 哲学者 記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします