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【IT サバイバル論】「開発至上主義」の裏で、世界の歪みを埋めている「運用・保守」の美学

世間の IT エンジニアのキャリア論は、驚くほど一色に染まっている。 と、僕は思い込んでいる。いや、思い込むようにしている。

ネットを開けば、そんな眩しい論がタイムラインを埋め尽くす。エンジニアは花形で、そのキャリア線上には「テクニカルサポート」や「運用保守」なんて文字は出てこない。まるで、この世に無いかのように。

ミドルを困惑させるミスリードに満ちたイラつくフレーズを、10個、生成してみた。これらは、現場で踏ん張る人を焦らせ、居場所を奪うための呪いの言葉だ。

  • モダンな技術スタックを追えないエンジニアは、市場価値ゼロ

  • 優秀なエンジニアは、プライベートも息をするようにコードを書く

  • SIer のソルジャーから脱出して、自社開発のキラキラ Web 系へ行くべき

  • 0から1を生み出すプロダクト開発こそがクリエイティブの正義

  • 技術力のないエンジニアは、単なる作業者で終わる

  • 35 歳を過ぎてプレイヤーのままなのは、キャリアの敗北

  • コードを書くのは若手の仕事、おじさんは上流工程で数字を追え

  • PL・PM を経験して職歴にハクをつけないと、年収頭打ち

  • 現場の細かいトラブル対応は部下に委譲して、自分は戦略を語れ

  • 経営視点を持たないミドルマネジメントは、真っ先に AI に代替される

かつての僕も、こういう白黒ハッキリした格付けの洗礼を浴びて、勝手に焦り、勝手に絶望した。「僕には価値がない」と。

だが、世間をわき目に、泥臭いトラブルシューティングや運用の現場に身を置き続けて、早10年くらい。 今、改めてこういう呪いの言葉を見ると、僕は恐怖するどころか、どこか「悦」に入ってしまう。

キレイじゃなく、歪んだモノ・コトをこの手でグリップする、圧倒的当事者の矜持が、僕の五感を心地よく刺激するから。 あの頃の自分に、今の僕は胸を張って言える。

「このルート、めちゃくちゃカオス過ぎておもしろいぞ」と。

綺麗に作られたコードの先で、カオスと共存するということ

仕事がなくなる感じがしない。

だって、そこに在り続けるよう期待されている仕組みなりサービスなりが、社会に迷惑をかけまくっているのに、誰も対処したくないという対象を扱っているわけだから。

よく言われることだが、システムは作って終わりじゃない。走り始めたら最後、混沌に満ちた世界が幕を開けることになる。

どれほど優秀な人が、美しいコードをこしらえても、現実の運用では、例外処理にも入らない例外が起きる。これは間違いない。リリースからの切り戻しなんてかわいらしい。依存している SaaS からのもらい事故、(調査が面倒くさいからという理由の)原因不明、感情がもつれきった利用者の炎上、だから俺は最初からダメだと思ってたみたいな無責任な輩。

そんなカオスと共存した運営をしていると気付いたときに、目にするありがたいものは、「0から1を作る力」や「戦略」ではなさそうだ。混沌とした状況を見つめて、可能性を切り分け、歪みを泥臭く埋めていく力だ。

僕は、単なる苦情処理係ではない。ネットワーク、OS、データベース、AI、 感情といった、いろんなレイヤを横断して交通整理を行う、知的な総合格闘家のようである。

絶望から始まる「人間関係の反転」の楽しさ

僕がこの仕事を好きになる理由の1つに、関係性の反転がある。

何らかのトラブルが発端だから、スタート時点では相手との関係は最悪。時に理不尽に対等じゃない言われようをすることもある。 だが、誠実に地道に調査を重ね、進捗を開示し、混沌を一つずつ収めていくと、ある瞬間、感謝に変わる。

大敗北のようなトラブルから始まったのに、終わってみれば、普通に、システム納品するだけでは得られないような、深い信頼関係が感じられる。歪みを埋める仕事の本質は、この瞬間の震えるような手応えにあると思う。

AI に奪われる未来にも、歪みは生まれ続けるだろう

時代は AI、どこみても AI。 AI を使えば作業が「10 秒で終わる」ようになったかも知れない。「AI に仕事を奪われる職種」の上位に、決まってカスタマーサービスやサポートは挙がるし、実際、今この瞬間にある定型的な作業は、いずれ代替されるのだろう。

だけど、どれだけ何かが進化してシステムの構造が変わっても、その未来でも、不完全なモノや人がいる限り、新しい歪みは生じる。

繰り返しになるが、カオス過ぎて、仕事がなくなる感じがしない。 世界の形が変わるなら、主戦場が変わるだけだ。その先にある新しい歪みを、また泥臭く、知的に総合格闘技をするのだろうと思う。

スポットライトの当たらない現場から、僕たちのルールで

華やかなレールは幻想だ。一歩冷静になることは、敗北ではない。 誰もやりたがらない、でもテクノロジーが進化する限り永遠に形を変えて生まれ続ける歪みのそばにこそ、枯れない需要と本当の知的好奇心が転がっている。

僕は、自分の選択に誇りを持っている。

世間の物差しで自分の価値を測り、ふと焦りを感じている、そういう仲間たちへ。 選択肢は無限。 「スポットライトが当たらない」現場から、僕たちのルールでマイペースに生き残ろう。


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💡現場の椅子取りゲームに疲れたみなさんへ

組織のバグや理不尽。キャリアの不安を、ユーモアと一滴の本質で乗りこなすエッセイをマガジンにまとめました。完璧を求められて、息が詰まりそうなとき、ふらっと立ち寄ってみてください。


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