文化史からの【女性の放尿学】【2】太古の放尿は命がけ?
有史以前の人類(ホモ・サピエンス)がどのように放尿していたのか。尿は化石として残らないため、その真相は土壌分析と現代の狩猟採集民の観察から推測するしかない「神秘の領域」です。しかし、そこには現代の私たちが忘れてしまった、生存のための切実な知恵が刻まれていました。
(タイトル画像はBanana proで作成)
1.太古にトイレという概念は存在したのか?
よく、「太古の時代にトイレはなかった」と語られますが、この表現は、はたして正しいのでしょうか?
前回、私たちと近い関係にある類人猿が「寝床を除いて、所かまわず」排泄をすることに触れました。
おそらく、定住しない狩猟生活の時代には人類も特定のトイレは持たなかったと推測されます。
しかしチンパンジーやボノボ同様に、人間も本能的に排泄物が発するアンモニア臭などに嫌悪感を抱きます(1-3)。彼らは、寝床となるエリアと、排泄するエリアをきちんとゾーニングしていたと考えられます。
私たちの生存本能として受け継がれているこの特徴は、感染症を回避するための戦略として極めて合理的で、「パラサイト・アボイダンス(Parasite Avoidance)」と呼ばれる行動免疫の一部として知られています(4)。
この「不快なものを生活圏から遠ざけ、封じ込める」というこの防衛本能こそがトイレの原型であり、たとえ排泄専用の建造物や場所がなくとも、「人類は常にトイレとともに存在していた」と言えるのではないでしょうか。
最近の研究でも、南アフリカのボーダー洞窟で、20万年前(石器時代)の「草のベッド」の跡が発見されています(5)。ここでは、意図的に灰が敷き詰められた痕跡があり、彼らがダニや虫を避けて寝床を清潔に保っていた可能性が示唆されています。
2.命がけの「放尿タイム」
狩猟社会において、排泄の時間は捕食者に隙を見せる危険な瞬間でもありました。現代のように、リラックスしている暇はありません。
そのため、効率的かつ迅速に済ませることが生存の絶対条件でした。そこでは男性はもちろん、女性も例外ではありません。
姿勢の推測: 貴重な毛皮などの衣服を汚さぬよう、周囲を警戒しながら「しゃがんで腹圧をかけ一気に済ませる」か、あるいは即時に逃走できるような「立位」または膝を少し折って腰を沈ませた「中腰」で行っていたと推測されます。
3. 「しゃがみ」か「立位・中腰」か?
世界的にみて、女性の放尿は「しゃがみ」が主流です(6)。太古の時代でも、低木やブッシュなどの隠れる場所がある場合「しゃがみ」は隠れて一息つける方法であったと考えられます。
しかし私は、隠れる場所のない草原や砂漠では「立位」か「中腰」だったのではないか、と思っています。
立位あるいは中腰の放尿は、生存に有利な、いわば戦闘用放尿スタイルです。「いざ!」と言う時、わずかですが「しゃがみ」より逃走に有利に見えます。
現代でも、女性が下着なしでスカート状の衣服(巻き布)を着用する文化圏では、周囲への警戒を行いながら、いつでもどこでも放尿可能な立位・中腰スタイルが稀に見られます。アフリカでは、現代においても立位による衣服を汚さない放尿テクニックが現存します(7)。
4.「連れション」という名の安全保障
現代では日常的な光景である「連れション」も、そのルーツは太古の安全保障にあると推測されます。
女性が放尿する際に直面するリスクは、肉食動物だけではありません。「オスからの予期せぬ性的接近」という社会的リスクも存在しました。
ボノボのメスが集団で協力してオスの攻撃を退けるように(8)、太古の女性たちもまた、「連れション」を通じて互いの身を守っていたのではないでしょうか。
「連れション」は、単なる社交ではなく、女性たちが身体の自由を守るために編み出した、最も古い「連帯の儀式」だったのかもしれません。
現代のデジタル監視社会がこの「放尿の歴史」をアダルトやノイズとして排除しようとも、私たちの身体には、かつて大地の上で鋭く周囲を警戒しながら放尿していた「野生の記憶」が確かに刻まれているのです。
まとめ
ゾーニングの本能: 人類は常に、不快を遠ざける「トイレ(境界)」とともに歩んできた。
機能的な姿勢: 立位・中腰は、危険と隣り合わせの環境が生んだ「実戦的スタイル」であった。
社会的同調: 「連れション」は、捕食者や性的リスクから身を守るための高度な防衛戦略だった。
【参考文献・サイト】
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Gibson AK, Amoroso CR. Evolution and Ecology of Parasite Avoidance. Annu Rev Ecol Evol Syst. 2022;53:47-67.
Wadley L, et al. Fire and grass-bedding construction 200 thousand years ago at Border Cave, South Africa. Science. 2020;369(6505):863-866.
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