文化史からの【女性の放尿学】【1】チンパンジーにはトイレという概念はある?
太古の人類の放尿を探るため、まずは大型類人猿の放尿について考えて行きたいと思います。(タイトル画像はBanana Proで作成)
1.類人猿の放尿から探る
有史以前の女性たちの放尿の実態について、直接的な記録は残されていません。
しかし、ヒトに近い類人猿(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ)の行動を観察することで、生理的な「排泄行為」にどのような社会的・文化的要素が加わり、やがて「人間特有の規範」へと進化したのか、そのミッシングリンクを推測することができます。
2.原則として「所かまわず」
ネコやイヌの飼育経験がある方は、彼らにお気に入りの排泄スポットがあることに気づくかもしれません。もっと極端な例では、タヌキは共同の排泄場所を持つとされています(1)。
一方、チンパンジー、ボノボ、ゴリラは、原則「所かまわず」の排泄となります。ただし、他の個体を汚すと争いになったりするので、緩やかなルールはあるのでは?とも言われています。
チンパンジーやボノボは糞尿に対する忌避本能が強く、また樹上に寝床を作ることから、樹上から下に向かって排泄を行い、寝床を糞尿で汚すことは少ないとされています(2)。
この行動は、のちの人類のトイレ誕生への布石となっていた可能性があります。
一方、ゴリラは寝床も地上にあるためか、しばしば寝床が糞尿で汚れるそうです。気にしないのでしょうか。
確かに動物園のゴリラは、時々ご自身のウ〇コをお持ちになって、投げてきますね。
3.類人猿の放尿は「コミュニケーションツール」になりにくい
類人猿の放尿には、イヌのような「マーキング」といった機能はほとんど見られません。
これは、類人猿が高度に「視覚」を発達させた動物であるためと考えられます。
彼らにとっての社会的信号は、表情やジェスチャーといった視覚的なものが優先され、嗅覚に頼る放尿は、単なる生理現象の域を大きく出ませんでした。
敵対個体への嫌がらせとして放尿するケースはあっても、それは「エンターテインメント」や「対話」としての文脈を持たなかったのです。
4.「つられション」は「連れション」の元祖?
しかし、ここで注目すべき例外があります。京都大学野生動物研究センターの研究によれば、チンパンジーには「共鳴放尿(つられション)」という現象が見られることが明らかになりました。
群れの1個体が放尿を始めると、つられるように周囲の個体も放尿を開始するーーーこの現象は、個体間の同調性を示唆しています。
現代の人間社会で見られる、誘い合ってトイレに行く「連れション」という文化。
そのルーツは、文明が生まれるはるか昔、祖先たちが群れの中で育んできた「身体的な共鳴本能」にあるのかもしれませんね。
まとめ
忌避本能: 寝床を汚さないという本能が、後の「トイレ」という概念の土台となった。
視覚優位: 類人猿において放尿が社会性を持ちにくかったのは、視覚コミュニケーションが発達しすぎたため。
同調行動: 「つられション」の事実は、排泄が単なる個人の問題ではなく、社会的な役割として関わっていた可能性を示している。
【参考文献・サイト】
1.Shigeru Osugi, et al. Raccoon Dogs Adjust Diel Visitation at Scent Marking Latrines to Reduce Human Disturbance in Urban Areas. ECOL EVOL. 2025; 15: e72695.
2. Cecile Sarabian, et al. Feeding decisions under contamination risk in bonobos. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2018; 373(1751):20170
3. Onishi E., et al. チンパンジーにおける排尿の伝染―仲間がおしっこすると、つられておしっこする―Socially contagious urination in chimpanzees. https://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/ja/publications/EnaOnishi/Onishi2025-cb.html (2026年8月17日確認)
