小説「観音子」原案・プロット
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◎あらすじ
室町末期。寺に生まれ、未来の住職の母となる運命を背負った少女・観音子。 だが、幼なじみとの禁断の逢瀬の果てに、許嫁の死という取り返しのつかない出来事が起きる。 故郷を追われ、花街へ流れ着いた彼女は、 やがて“観音のご利益”を纏う看板上臈として名を馳せ、 花街と都の権力が交差する場所で、ひとつの象徴となっていく。 しかし、その栄華の裏で、彼女を生涯縛り続けたものとは何だったのか。 運命か、因果か――。 満月に見守られた、一人の女の数奇な生涯を描く小説の原案プロットです。
※【抜きだし場面】【資料その他】も合わせて読むことで、より一層物語をお楽しみいただけると思います。
【抜きだし場面】一覧
『あの日の秘め事』『覚醒の月』
『柳の観音様』『柳の観音様・続き』
『二世の盃』『渦』『変貌の街』
『最期の客』
【資料その他】一覧
『周辺資料・弁明』『追加資料』
『未来予測(空想おまけ)』
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◎小説「観音子」原案・プロット
時は室町末期
満月の夜
界隈では最も格式のある古寺、明円寺(みょうえんじ)に女の子が生まれた。
観音子(かなこ)と名付けられた女の子は、檀家筆頭の嫡男・誠一朗(じょういちろう)の許嫁という定めを負って、「閉じた秩序」の中で育っていった。
誠一朗と観音子の祝言
大勢の親族の集まりの中で、
宴の片隅で膝を抱えて酒を舐める男。
観音子と幼なじみの八十吉(やそきち)の姿がある。
祝言の儀、宴は滞りなく終わった。
誠一朗の実家に程近い小ぶりの屋敷で、
若い二人の生活が始まる。
「観音子さん、本日より私どもは連理の枝の如く共に歩んで生くこととなります故、
くれぐれも宜しゅうお頼みいたします。」
「誠一朗殿、ふつつか者故、私の方こそ宜しゅうお頼み申し上げます」
二人はそうして、二世の契り(にせのちぎり)を交わした。
誠一朗は義直な男だ。
観音子を伴い、近隣の挨拶廻りにも余念がない。
行く先々で、言葉をもらう。
「いや~将来がえらい楽しみや
誠さんも早う頃から美男やったが、観音子さんの見目も引けを取らぬ美人やし、
ややこが産まれるのが、ほんに楽しみや」
「励みおこして早よ~こしらえてな!わっはっは!」
いまだ初(うぶ)な誠一朗
そして、観音子は互いに顔を見合わせては「ほおずき」のように赤く染まるのだった。
周囲の期待の籠った暖かい眼差しに見守られ、
新米の夫婦は
どちらともなく
自然と寄り添っていったのだった。
・・・・
三月ばかりたった頃
ある日の夕暮れ
ある男が屋敷に訪ねてきた。
幼なじみの八十吉である。
祝言の日以来、久しく顔を合わせていなかった二人だったが、
観音子は八十吉の来訪を嬉しく感じた。
暫しの会話の後、観音子は頷き、
二人してある用足しに出かけて行った。
仕事を終え、
家に帰って来た誠一郎が、庭先で薪の仕度をしていると、
怪しい影が近寄ってくる。
誠一朗は「盗賊」の襲撃を受け、防戦する暇もなく痛めつけられ瀕死の状態に。
「盗賊」は屋敷内を少々荒らした後、すぐさま退散していった。
用足しを終え、
屋敷に戻ってきた観音子はその凄惨な光景に目を疑う。
虫の息の誠一朗を胸に抱き、泣き叫び助けを乞う観音子。
必死の介抱虚しく、誠一朗はその日のうちに息を引き取った。
満月の夜だった。
・・・
明円寺での葬儀、法要が終わり、実家に戻された観音子は心を病み、屋敷に閉じ籠もるようになる。
・・・・・
暫くして後の、ある晩のこと
寺屋敷の庭に忍び込む影がある。
八十吉だ。
彼はあの日以来、
常に観音子の身を案じている。
八十吉は身分は低い、
が、優男である
幼少から籠の鳥だった観音子にとって、
八十吉は常に刺激を運んでくれる存在だった。
都で流行ってる面白い出来事を聞かせてくれたり、時には小さなお土産を持ってきてくれたりした。
そして、
八十吉は観音子の「初めての男」でもあった。
それと今は、あの日の「拭えない秘め事」の共犯者でもある。
・・・・・
誠一朗は死に
自分は生きている
不貞の報いならば、自分ではなく何故に罪なき誠一朗が負わなければならなかったのか?
観音子には因果が解らなかった。
「因果といわれちゃ、俺にもよくわからねえが、運命(さだめ)ってのは、あると思うんだ」
「運命?」
「そう、お前が寺の娘に生まれたみてえに、俺が・・まぁ、生まれてこのかたの身分を、変えれねえってのと同じでさ」
「じゃあ、八十さんは誠一朗さんのこと、運命だって言いたいの?」
「わからねえ、、が、生まるるに運命があるんなら、死するにも運命があると思う」
「・・・・・」
曰く付きの出戻り女には、明るい未来など到底訪れる筈もない。
狭い秩序の中では尚更のこと
八十吉から数回に渡り都行きを勧められ、
観音子は決心する
夜に紛れ、
二人は逃避行を企てたのだった。
やがて八十吉と共に都へ出るが、生活は苦しく、観音子も給仕で大きな屋敷に出入りするようになる。
八十吉は真っ当な仕事には向かず、やがて賭博に溺れていく。
博打で下手を打ち、大きな借金を抱えた八十吉は、賭博仲間から聞いた「ある儲け話」を思い出していた。
・・・・
絵師が描いた綺麗な上臈(じょうろう)絵を数枚抱えた八十吉は、長屋で観音子にそれを広げて見せた。
美しい上臈の立ち姿
艶やかな衣裳
魅了され、うっとり眺める観音子。
「どうだ、綺麗だろ?」
八十吉の脳裏には観音子の凛とした上臈姿が浮かんでいた。
が、観音子の瞳の奥に映る光景には気付けなかった。
・・・・
八十吉は仲間の伝で、観音子を伴いある楼主の所に向かう。
二条柳界隈では豪腕として知られた、
傾城楼(けいせいろう)の楼主喜三郎は観音子を見て即、局入りを承知した。
(内実は身売りだったが)
観音子が傾城楼に出始めても、八十吉は相変わらず博打に明け暮れ、度々おねだりに来る始末の悪さ。
類い稀な美貌だった観音子は日に日に頭角を現していったのだった。
(時は流れ)
・・・・
観音子の身の回りの用事を請け負って奔走する若衆の佐吉(さきち)は、息抜きで入った居酒屋で退っ引きならない場面に出くわす。
佐吉は、観音子の内縁の夫八十吉と賭博仲間の会話に、耳を側立てていた。
(これは、お上臈様に言うべきか、言わぬべきか・・否)
急ぎ、楼に戻った佐吉は
戸惑いながらも、観音子にその時の会話の断片を語り始めるのだった。
佐吉の話から「あの日」の、誠一郎の死と八十吉の行動が繋がっていく。
観音子の内面では過去が「意味として」再構成される。
愕然とする観音子。
体が震える。
(あの八十吉が、、仲間を使って、、誠一朗さんを、、)
体から力が抜けていく
そして、気力も失せたまま
倒れ込む
「お上臈様!」
佐吉は観音子を抱え床につかせて、
急ぎ喜三郎に状況を伝えに走る
喜三郎もあわてて観音子の元へ
「早く!早く医者を呼べ!」
「だ、旦那様、お待ちくだせえ!」
「なんだ佐吉!」
「この度も、その~、例の発作が原因と~察するものでして」
「うぬぬ、例の発作か・・・」
喜三郎は襖を少し開け中の様子を見、
暫し考えてる様だった。
「佐吉、後はまかせる」
「旦那様、承知いたしやした」
佐吉は観音子の顔を拭い
部屋の四方に香を焚いた
部屋を出て、手を合わす
そうやって
ただ観音子の回復を
祈るしか、術はなかった。
其から七日間、観音子は床に伏した。
そして、
七日目の晩
ある決断をする。
・・・・・
八十吉の死は
長屋のお隣によって、発見された。
八十吉は大量の血を吐き
うつ伏せに倒れており
亡骸の脇には
徳利が一本、転がっていた。
・・・・
八十吉の不審死のあと
観音子の評判はますます上がっていく。
とくに観音子の伎芸である「ご開帳」は
評判につぐ評判で、その噂は瞬く間に広がった。
内外から、多くの士族や豪商が群がってくる様は、まるで大名行列さながらのようだった。
この観音子の開帳は後々「観音開き」として楼の歴史に記される。
花街一の看板上臈として長らく君臨した後、観音子は楼主喜三郎の正式な内儀となる。
豪腕喜三郎は、周辺の庵(あん)の女長(めのおさ)を囲い込み新築の楼(二階建造)に収め、各々を長(おさ)とする管理体制を敷き勢力を拡大していく。
観音子もそれに伴い、楼内の規範を定め長の指導に明け暮れていた。
そんな矢先
志半ばで、喜三郎は病に倒れる
「観音子、お前さんなら、、やれるやろ」
喜三郎が亡くなると、観音子は女楼主として本格的に楼を仕切っていく。
傾城楼同士の牽制争いも激しい中、
観音子は色で手玉に取った他の楼主らと共謀し、謀略によって次々と勢力を塗り潰していく。
やがて、二条柳周辺の花街を一手にまとめ上げた功績により
幕府(おかみ)より補任状(ぶにんじょう)が下され
初の遊女別当に任ぜられた。
観音子は
絶頂を極めたのだった。
・・・・
晩年の観音子
夏の夕暮れ
観音子は一人、夕涼みを楽しんでいた
庭に降り、池の鯉に餌をあげる
空には大きな満月
月を見上げ、何か遠い昔を思い出していた
「おじょう!おじょう!」
「何だい?騒がしいね佐吉」
「日中は暑うございましたから、おじょうのお体が心配で」
「心配性だね佐吉。今日はね、何だかとてもいい気分だよ」
「それは良かった!じゃあすぐに冷えた薬味茶をお持ちいたします!」
「ちょいと待ちなさいな佐吉、
あたしはね、いつもお前には良くしてもらって感謝してるんだよ」
「もったいない、お言葉で、、
あっしにとってお上臈様は月の華なんで」
「月の華とな?それじゃあ
お前さんには月に咲く華が見えるとでも?」
「おじょう、勘弁してください。願っても届かない、例えですから。生ける伝説を毎日崇められて、あっしこそ感謝です」
「大袈裟なこと言うね~佐吉は、
その伝説ってやらを、一生の内に拝んでみたくはないのかい?え?佐吉さん、、」
「えっ、えっ、どうゆう意味で?」
「アハハ、皆まで言わせるつもりかい!
さっきから汗臭いんだよ佐吉、早く湯に浸かっておいで!」
皆まで察した佐吉は、興奮でおかしくなりながら廊下を走り湯に向かう。
その滑稽な様子に下女達が笑う。
コトッコト、、廊下で音がする
「ん?何だい?佐吉かい?」
観音子が襖を開けると、姿はない
お盆に薬味茶が置いてある。
「やれやれ、気が利くにも程がある、
湯上がりついでに持ってくりゃいいものを」
観音子は縁側に座り、満月を見上げる
「あの日も、こんな月夜だったよね、、」
薬味茶を口にする
激しい喉の痛みと、全身に痙攣が走る
「ううっ!ううっ!」
喉を抑え必死に立ち上がる
口から鮮血を吹き出しながら、
よろめき歩き出す
「うぐぐっ!」
言葉にならない
目からは炎が吹き上がり、凄まじい形相
で、池に映る月を睨みつける
最期の力を振り絞り
観音子は月に向かって両手を伸ばした
・・
湯上がりの汗を拭きながら
佐吉が戻ってくる
「おじょう!」「おじょう!」
部屋に姿はない
「おじょ、、?」
佐吉は庭に目を移した
その目線の
その先には、
大の字になり池に浮かぶ
月明かりに照された
観音子の姿があった
・・・
伝説の上臈
観音菩薩の子
観音子の生涯は幕を閉じた
観音子の葬儀は明円寺にて執り行われた
多くの弔問客が詰めかけている
読経
鐘の音
僧侶は読経を終え、
弔辞客に向き合う
その表情には何故か
誠一朗に似た面持ちが感じられた
(完)
