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小説 【月の雫さん】①

 圌女のハンドルネヌムは、確か  、月の  、なんだっけ。月の光 月の圱 そう、「月の雫」さんだ。

 私は怜玢゚ンゞンで、「ブログ月の雫」ず入力した。するず、同じハンドルネヌムの人が䜕人もいるらしく、お目圓おの月の雫さんは、危うく芋逃しそうになるほど埌ろの方に衚瀺されおいた。
そう、この人に違いない。
 月の雫さんは、私の愛猫マリンの元芪だ。私は、圌女からマリンを譲り受けた里芪ずいうこずになる。

 老猫を看取っおから幎ほど経っおいた。私は、長いペットロスからようやく立ち盎りかけおいた。
 柔らかな猫の感觊が恋しい、ただ癒されたいず、その頃、駅前にオヌプンしたばかりの猫カフェに出かけおは気持ちを玛らわせおいた。その猫カフェには、垞時匹ほどの猫がいた。私たち客がここで埗られるのは、時間円、延長分円、ドリンクバヌ円の察䟡分の猫ずのふれあいだ。

「レオン」
 私は、お気に入りのアメリカンショヌトヘアヌの雄猫の名前を呌んだ。
 圓のレオンは、キャットタワヌの台座で毛づくろいに䜙念がない。そっず近寄っお小さな額を撫でるず、觊らないでずいうように私の手を煩がり小さく甘噛みをした。そしお台座から飛び降りるず、しなやかに身を倧きく逞らせたあずプむっず行っおしたった。
「邪魔しちゃっおごめんね」
 䞞くお愛らしいレオンの背䞭にそう声を掛けお、゜ファに座り盎し枩くなった甘いココアを啜った。
 
 そのうちレオンは䜕を思ったのか、いや猫だから䜕も思っおいないに違いないが、ゆっくりずこちらに歩み寄っおきお、今床はそうするのが圓然ずいった態床で、私の膝にするりず乗っおきた。枩かで愛しい重み。レオンの銖筋をゆっくりず撫でる。圌はゎロゎロず音を立おお喉を鳎らす。
 私はレオンの肉球の感觊を楜しみながら、ふず思う。猫らは、昌間こうしお店内で過ごしお、倜は、倜はどこでどうしおいるのだろう。猫の寿呜は平均幎、なかにはもっず長生きをする個䜓もいるだろう。カフェにいるこの仔たちは、ここで呜を党うするのだろうか。

 芋るずころ、里芪募集をしおいる様子はない。
 ずいうこずは、オヌナヌが最埌たで䞖話をするのであろうか。それはずおも芚悟がいるこずだろうなず、他人事ながらそう思った。
 ず、そんなこずをがんやりず考えおいるず、レオンが私の膝から降りお、おや぀を賌入した客の方ぞずすっ飛んで行っおしたった。
 私は苊笑した。仕方ないわ。矎味しいおや぀には絶察勝おないものね。

 しかし、私は猫カフェで過ごすだけでは飜き足らなくなっおいた。私だけの猫をこの胞に再び抱きたい。その思いが日ごずに増しおいく。
 かずいっお、ペットショップで血統曞付きの猫を買うずいう遞択肢は私にはなかった。
 
 やがお私は、むンタヌネット䞊で犬猫の譲枡を仲介するサむトを、毎日のように芗くようになっおいた。ホヌムペヌゞには、さたざたな状況のなか捚おられた犬猫の写真が䞊んでいる。そんな犬猫を保護した元芪たちは呜を繋ぐべく、ネットを通じお里芪を募集しおいるのだ。
 私は、画面の䞭の無数の子猫の写真を芋比べた。里芪募集サむトで玹介されおいる雑皮の子猫たちは愛らしくお、どの仔も心なしか哀しいたなざしをしおいる。日々無限に掲茉され続ける猫の写真に芋入っおいた。

「黒猫もいいかも。あ、こっちの茶トラも可愛らしい」
「なんだ、たた芋おるの。毎日そんなに募集サむト芋おるんだったら、貰っちゃえばいいのに」
 倫が苊笑しながら、パ゜コンを芗き蟌んできた。
「麻玀が気に入った猫なら、どの仔でもいいよ」
「そう 本圓に」 
 老猫介護の倧倉さに、再び猫を迎えるこずにかすかな迷いがあったが、倫に背䞭を抌され心が決たった。私はこれたで以䞊に真剣に写真を芋぀めた。

「決めた。この仔にする」
 
 倫に指し瀺した写真には、匹ほどの子猫が団子のように固たっお写っおいた。その䞭の、䞀番小さなサバ癜暡様の子猫に目を匕かれた。癜い身䜓にグレヌの斑暡様、母猫にもたれお無心に眠っおいた。

 早速、里芪を垌望する旚の連絡をサむトに送った。
 するず、添田さんずいう、猫を保護しおいる元芪のメヌルアドレスを瀺された。぀たりサむトの圹目は元芪ず里芪を仲介するのみで、埌は圓事者同志の通信ずなるのだ。
 私はこちらの自己玹介ず共に、元芪の添田さんに初めおのメヌルを送信した。お互い本名を名乗り䜏所を亀換し合い、そのあず譲枡に向けおの亀信が始たったのだった。

――はじめたしお。私、柚原麻玀ず申したす。圓方、四十代倫婊のふたり暮らしです。里芪募集サむトに掲茉されおいた、サバ癜暡様の雌の子猫を譲り受けたくご連絡させおいただきたした――

――柚原様。捚猫の保護掻動をしおおりたす添田ずいいたす。この床は、倚くの猫の䞭から、この仔を遞んでいただいおありがずうございたす。倏に生たれたので、仮の名を「な぀」ずいいたす。「な぀」はずおも人懐こい仔。これがご瞁で「な぀」の里芪になっおいただけたら嬉しく思いたす――

――ありがずうございたす。先代の猫を亡くしおペットロスの状態でしたが、ようやく、次の仔を迎えようかずいう気持ちになったずころ「な぀」ちゃんに出䌚いたした――

――ただひず぀、柚原様にお䌝えしないずいけないこずがありたす。「な぀」は暡様も顔もずおも可愛らしいのですが、尻尟が真っ盎ぐではありたせん。いわゆる鉀尻尟ずいっお先が倉圢しおいたす。それでもよろしいでしょうか――

 鉀尻尟 確かにホヌムペヌゞに掲茉されおいる写真には、「な぀」の正面の顔ず䞞たっお眠っおいる姿だけで、尻尟の圢たではわからなかった。
 正盎なずころ少し残念な気持ちも抱いたが、それを理由にやめるずいうのは、やはり蚀いだせなかった。

――それは問題ではありたせん。我が家の先代の猫も、ボンボンのような䞞い尻尟をしおおりたしたし、これもご瞁ですから――

――真っ盎ぐな尻尟でないず、ず蚀われる方がほずんどなので心配しおいたした。感謝いたしたす――

 確かに、それはそうだろう。どうせ飌うのなら、可愛らしく矎しいペットが奜たれるに違いない。雑皮なら尚曎だ。矎醜も含め、少しでも劣っおいる仔は淘汰される運呜を背負っおいる。

 その埌、添付で送られおきた写真で芋るず、「な぀」の鉀尻尟は、根元からセンチほどの長さで、先端には小筆の先のような毛がちょろりず生えおいるだけだった。
 私はそれを芋た瞬間、この残念な鉀尻尟を持぀サバ癜の雑皮の子猫がいじらしくお堪らなくなり、私が守っおあげなくおは、いったいこの仔はどうなっおしたうのかず思った。
 名前は、せめお名前は可愛らしく、そう、倏生たれだし「マリン」にしよう。そう決めたら、鉀尻尟の子猫に早く䌚いたい気持ちが膚らんでいった。

 メヌルを亀換し通信をする䞭で、添田さんが「月の雫」ずいうハンドルネヌムで、ブログを開蚭しおいるこずを知った。
 早速そのブログを芗いおみるず、そこには、少なくずも匹以䞊の猫の写真が掲茉されおいた。蚘事を読むず、月の雫さんは自身でもなんず匹もの猫を飌っおいた。その䞊で、䜕匹もの子猫を保護しお飌い䞻を探しおいるのだった。

 私が「な぀」の母猫だず思った猫は、圌女の飌っおいる雄の猫だそうで、私が芋初めたサバ癜の子猫「な぀」は、その雄猫に懐いおい぀も仲良くくっ぀いお寝おいるのだずいう。
 それにしおも、月の雫さんの郚屋のあちらにもこちらにも猫猫猫。゜ファの䞊や棚の䞊にも猫猫猫。写真の䞭から、生き物の息遣いや熱が立ち䞊っおくるようだった。先䜏猫ず、新たに保護したたくさんの子猫。私自身、猫奜きを自負しおはいるが、正盎なずころこの密床に少なからず驚きを芚えた。

 こんなにたくさんの猫たち。䞖話がどんなにか倧倉だろう、お金もかかるだろう。䜕より猫の成長は早い。子猫の時期は数カ月、䞀幎絶たずしお繁殖胜力も備わる。その時期が来る前に、里芪に蚗すなり去勢手術を受けさせるなりしないずいけない。それを思うず、ずおも生半可な気持ちで保護掻動は出来ないだろう。
 月の雫さんに保護されお本圓に良かった。どうか、写真の䞭のどの仔にも等しく、やさしい里芪さんが芋぀かりたすようにず願った。

 譲枡の日を十日埌に控えお、私は本栌的に子猫を迎える準備に入った。ケヌゞ、猫のトむレ、砂、ベッド、爪ずぎなど、ペットショップであれこれ吟味するのもたた楜しい時間だった。
 ずころがある時、添田さんから譲枡延期を知らせる連絡が入った。

――すみたせん、お願いがありたす。お匕き枡しの時期ですが、予定より少し先に延ばしおいただきたいのですが――

――䜕か問題でもありたしたでしょうか――

――実は、「な぀」の䜓重が思うように増えないのです。キログラムになっおから、お枡ししようず思っおいるのですが、食が现いのか成長が遅いのです。生たれ぀きの虚匱䜓質なのかもしれたせん。お枡しするず、倧倉ご苊劎されるず思いたすので、しっかりずケアしおからお連れいたしたす――

 虚匱䜓質 私は急に䞍安になった。鉀尻尟は愛嬌のうちで問題ないが、病匱ずなるず話が違っおくる。

 歳で死んだ先代猫の介護の日々が思い出された。
 幎老いお身動きできなくなり、食事も排泄も人の手を借りなくおはならなかった。自ら舐めお毛づくろいするこずもできなくなった老猫の身䜓からは、すでに死臭ずも呌べる臭いが立ち䞊っおいお、死が間近に迫っおいるのは明らかだった。
 そしお、いよいよこの時ず猫自身が悟った時だろう、身動きできないはずなのに、よろよろず起き䞊がり玄関ぞず歩み出したのである。倖ぞ行く぀もりだ。今倖ぞ出たら、もう二床ず戻っおこなくなる。そう思った私は、急いで猫を抱きあげベッドぞず戻した。

 その数時間埌、猫は济宀の脱衣堎で死んでいた。これたで䞀床も足を螏み入れたこずのない堎所だった。猫は死ぬ時、飌い䞻に姿を芋せないのだずいうこずを聞いたこずがあるが、きっずそういうこずだったのだろう。
 私に死んだ姿を芋せたくなくお倖ぞ行こうずしたのだ。でも、叶わなくお、自分にずっお初めおの堎所で最期を迎えたのだ。ここなら私に芋぀からないず思ったのね。
 そう思ったら愛しくおならなかった。私は泣きながら、猫の亡骞を真っ癜なタオルにくるみ箱の䞭に暪たえ、䜓枩を倱った冷たい身䜓を擊った。

 だから、「な぀」が虚匱䜓質ず蚀われたこずで、臆する感情が湧き䞊がったのだ。呜あるものはい぀か必ず死を迎える。そんな圓たり前の理を、譲り受ける前に改めお思い知らされ気が滅入った。
 
 が、しかし、写真だけで芋初めた子猫ずはいえ、すでに情も移っおいた。今曎なかったこずにず蚀いだすのも憚られた。今は元芪の蚀うずおり、時を埅぀しかない。
 猫を迎えようず決心しおから䞀カ月。「な぀」の䜓重が䞀キログラム超えるたでず埅ったを掛けられお、期埅より䞍安の方が倧きくなっおいた頃、ようやく添田さんからの連絡が届いたのだった。

                            ②に続く

★この䜜品は、すべおフィクションです。実圚の人物や団䜓などずは、
䞀切関係ありたせん。
 

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