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ワールドカップ優勝を争う国では、サッカーはどこまで日常会話になっているのだろうか|Japan’s Wayから生まれた問い④。

Japan’s Wayを読んでいて、気になることがある。

日本がワールドカップ優勝を争う国になるためには、何が変わらなければならないのだろう。

選手がもっと海外へ行く。

世界基準の指導者を育てる。

育成年代の環境を変える。

サッカーをする人を増やす。

もちろん、どれも重要だと思う。

でも、もっと普通の生活の中にある違いもあるのではないだろうか。

例えば、月曜日の朝。

会社へ行って、

「昨日の試合見た?」

と誰かが話している。

昼休みに代表監督の選手起用が話題になる。

学校では子どもたちが週末の試合について話す。

家へ帰れば、親子で代表戦の話をする。

男性同士だけではない。

女性同士でも話す。

若者だけでもない。

高齢者も知っている。

サッカー経験者だけでもない。

自分では一度も本格的にボールを蹴ったことがない人まで、選手やクラブのことを知っている。

そういう国と日本では、何かが違うのではないか。

今回は、競技人口でも登録者数でもない。

「サッカーが会話に出てくる人口」

について考えてみたい。

Japan’s Wayは「日常」という言葉を使っている

私がこう考えたのは、Japan’s Wayを読んだからである。

JFAは2022年版のJapan’s Wayで、ワールドカップを掲げるためには「サッカーで世界一幸せな国」になり、サッカーが「日常」になっていることが不可欠だと記している。

そして、「いままでしてきた人」「真剣にやる人」のためのものになりがちではなかったか、知らず知らず排他的な雰囲気を生み出していなかったか、とまで踏み込んでいる。(日本サッカー協会)

私は、この部分をかなり高く評価している。

強化の話だけをしているのではない。

日本代表が強くなることと、

日本社会にサッカーが普通に存在すること

をつなげて考えているからである。

では、「サッカーが日常になる」とは、具体的にどういう状態なのだろう。

フランスでは、71%がサッカーについて話している

調べていて、かなり面白い数字を見つけた。

2024年にIpsosがフランスで行った調査では、71%の人が、少なくとも時々、周囲の人とサッカーについて話すと回答している。

さらに興味深いのは、その内訳である。

男性は79%。

女性でも63%。

16~24歳では84%。

60歳以上でも63%だった。(Ipsos)

私は、この数字を見て少し驚いた。

女性でも6割を超えている。

60歳以上でも6割を超えている。

これは、

「サッカー好きの男性がサッカーについて話している」

という世界ではない。

社会のかなり広いところまで、サッカーが会話の材料として入り込んでいる。

しかも同じ調査では、フランス人の43%が現在サッカーをしている、または過去にした経験があり、50%はアマチュアのサッカーの試合をスタジアムで見た経験があるという。(Ipsos)

そして2026年の別の調査では、フランス人が普段からフォローしているスポーツの1位はサッカーで39%。2位のラグビーとテニスはいずれも23%だった。(Ipsos)

つまりフランスでは、

プレーする。

見る。

クラブを応援する。

そして、

話す。

これらが重なっている。

ワールドカップで優勝を争う国の「強さ」は、代表チームのピッチ上だけを見ても分からないのかもしれない。

ブラジルやアルゼンチンでは、サッカーへの関心そのものが広い

ブラジルやアルゼンチンにも、似たものが見える。

2022年ワールドカップ前に34か国を対象として行われたIpsosの調査では、「熱心にサッカーを追いかける」「お気に入りのリーグ、クラブ、代表などを追いかける」と答えた人を合わせた割合は、アルゼンチンで51%、ブラジルで50%だった。(Ipsos)

2026年ワールドカップについても、ブラジルでは71%が観戦する予定だと答えている。しかも世代別に見ると、若い男性だけのイベントではない。ブラジルではミレニアル世代の女性でも76%が観戦予定と回答している。(Ipsos)

もちろん、

ブラジル人はみんなサッカー好きだ。

アルゼンチン人なら誰でも代表について語れる。

などと単純化するべきではない。

どんな国にもサッカーに興味のない人はいる。

ブラジルでも、2024年パリ五輪で楽しみにしている競技では、バレーボール41%に対してサッカー39%という調査結果もある。(Ipsos)

だから「サッカー大国=国民全員がサッカーしか見ない国」ではない。

それでも、サッカーが社会の広い範囲に共有されていることは確かだろう。

日本では、ナンバーワンスポーツがサッカーではない

ここで日本を見る。

Nielsen Sportsが21か国を比較した2024年の調査では、サッカーは21か国中13か国で最も人気のあるスポーツだった。

ところが、日本の1位は野球である。(Nielsen)

これは、どちらが優れているという話ではない。

日本には高校野球がある。

プロ野球がある。

甲子園がある。

地域に球団がある。

野球が長い時間をかけて日本社会へ浸透してきた歴史がある。

実際、2025年の笹川スポーツ財団の12~21歳調査でも、現地観戦したスポーツの1位はプロ野球11.3%、2位は高校野球7.4%で、Jリーグは4.7%だった。(笹川スポーツ財団)

だから日本で考えるなら、

サッカー大国を想像するには、むしろ現在の日本における野球を考えてみると分かりやすいのではないか。

と思う。

日本で野球は、どこまで日常に入っているだろう

野球を熱心に見ない人でも、

大谷翔平選手を知っている。

甲子園が始まったことを知っている。

プロ野球の優勝争いがニュースになる。

ドラフト会議がテレビで放送される。

高校生が指名されれば、地元のニュースになる。

野球に詳しくなくても、会社のお昼休みぐらいになると、

「大谷、また打ったらしいね」

という会話には参加できる。

これが文化としての強さなのではないだろうか。

大切なのは、

全員がコアファンであることではない。

ことである。

野球のルールを細かく説明できなくてもいい。

球団の選手を全員知らなくてもいい。

球場へ行ったことがなくてもいい。

それでも、そのスポーツについて話すことができる。

サッカーがナンバーワンスポーツになっている国では、この状態がサッカーで起きているのではないだろうか。

「昨日の試合見た?」が誰にでも通じる

例えば、アルゼンチン代表が試合をした翌日。

会社へ行く。

学校へ行く。

スーパーへ行く。

カフェへ行く。

そこでサッカーの話が出る。

もちろん全員ではない。

でも、

相手もたぶん知っているだろう

という前提で話せる。

私は、この状態が重要なのではないかと思う。

日本でJリーグの話をするときは、相手を少し選ぶ。

「サッカー見ます?」

から始めることが多い。

さらに、

「Jリーグは?」

「どこか応援しています?」

と確認する。

それからようやく具体的な話へ入る。

でも、日本代表がワールドカップを戦っているときだけは違う。

いきなり、

「昨日見た?」

から始められる。

相手も見ている可能性が高いからである。

つまり日本にも、

一時的に「サッカーが日常になる瞬間」はすでにある。

ワールドカップである。

ワールドカップのとき、日本は一時的にサッカー大国になる

これは、今回の2026年ワールドカップでも感じた。

普段はサッカーについて発信しない人が試合について書く。

芸能人が代表について話す。

ニュース番組が長い時間を割く。

SNSには、普段サッカーを見ていない人の感想まで流れてくる。

「にわかファン」が大量に現れる。

以前の記事では、その「にわかファン」を拒絶する必要があるのだろうか、と考えた。

Japan’s Wayの「日常」という言葉から考えると、むしろ逆なのかもしれない。

ワールドカップ期間中に起きていることこそ、

日本サッカーが目指している未来の縮小版

なのではないだろうか。

問題は、大会が終わると多くの人がサッカーから離れていくことなのである。

サッカー大国では「見る人」と「する人」と「話す人」が重なっている

ここまで考えて、私はもう1つ人口を考えてみたくなった。

競技人口。

登録人口。

観戦人口。

これらは、スポーツを考えるときによく使われる。

でも、もう1つあってもいい。

私は仮に、

「サッカー会話人口」

と呼んでみたい。

もちろん、これは正式な統計用語ではない。

私がこの記事で考えるために置いた言葉である。

定義するとしたら、

日常生活の中で、サッカーについて誰かと話す人。

である。

毎週スタジアムへ行く必要はない。

JFAに登録する必要もない。

DAZNへ加入する必要もない。

ユニフォームを買う必要もない。

ただ、

「昨日の試合すごかったね」

と話す。

それだけである。

ところがフランスの調査を見ると、その「それだけ」をしている人が71%いる。(Ipsos)

これは競技人口とは別の意味で、サッカーが社会へ浸透していることを表しているのではないだろうか。

女性同士の会話に、普通にサッカーが出てくる国

Japan’s Wayを読みながら私が想像したのは、こんな光景だった。

女性同士でランチをしている。

昨日の代表戦の話になる。

好きな選手の話になる。

子どものサッカーの話になる。

地元クラブの話になる。

別に、その人たちが「サッカー通」である必要はない。

男性からサッカーを教えてもらう必要もない。

ただ、普通の話題の1つとしてサッカーがある。

フランスで女性の63%が少なくとも時々サッカーについて話すという数字を見ると、これは単なる想像でもなさそうである。(Ipsos)

そして高齢者も同じである。

60歳以上でも63%。

つまりサッカーが、

若い男性の趣味

という枠から完全にはみ出している。

私は、サッカーがナンバーワンスポーツである国の強さは、こういうところにも現れるのではないかと思う。

会話が増えれば、サッカーとの入口も増える

では、なぜ会話する人が多いことが、日本代表の強さにつながるのだろう。

直接的な因果関係を証明することは難しい。

会話が増えればワールドカップで勝てる、という単純な話ではない。

ただ、間接的な効果はいくつも考えられる。

家庭でサッカーの話をする。

子どもが興味を持つ。

一緒に試合を見る。

スタジアムへ行く。

ボールを蹴ってみる。

親がサッカーに理解を持つ。

地域のクラブを知る。

スポンサー企業にもサッカーを理解する社員がいる。

自治体にもいる。

学校にもいる。

メディアにもいる。

つまり、

サッカーについて話す人が増えることは、サッカーに触れる入口を社会中に増やすことでもある。

前回考えた「人口の7%」とも、ここでつながってくる。

強豪国との差は、ピッチの外にもある

日本代表は強くなった。

海外のトップリーグでプレーする日本人選手も珍しくなくなった。

ワールドカップで強豪国を倒しても、かつてほど「奇跡」とは言われなくなってきた。

だからこそ、次に見えてくる差があるのかもしれない。

選手の技術だけではない。

指導者の能力だけでもない。

競技人口だけでもない。

社会の中に、どれだけサッカーが存在しているか。

である。

ブラジルやアルゼンチンをそのまま日本へ持ってくる必要はない。

フランスを真似する必要もない。

日本には日本のスポーツ文化がある。

野球もある。

バスケットボールもある。

バレーボールもある。

さまざまなスポーツを楽しめることは、日本の良さでもある。

だから、

日本人全員をサッカーファンにしよう

という話ではない。

それでも、

「昨日の試合見た?」

と自然に言える相手が、今より少し増える。

会社にもいる。

学校にもいる。

家庭にもいる。

女性同士の会話にも出てくる。

高齢者同士の会話にも出てくる。

それだけでも、日本サッカーの景色はかなり変わると思う。

「世界一、サッカーで幸せな国」は、会話の中にも現れるのかもしれない

Japan’s Wayが描いているのは、ワールドカップのトロフィーだけではない。

そのトロフィーを掲げる国が、どんな国であるべきなのかまで考えている。

私はそこが面白い。

人口の7%がサッカーをする。

それだけではない。

見る人がいる。

支える人がいる。

そして、

話す人がいる。

朝、学校へ行く。

会社へ行く。

近所の人と会う。

家族で夕食を食べる。

その何気ない会話の中に、ときどきサッカーが出てくる。

誰も、それを特別なことだと思わない。

もしかすると、

ワールドカップ優勝を争う国になるということは、代表チームが変わることだけではなく、私たちの日常会話まで少しずつ変わっていくことなのかもしれない。

日本にはすでに、その瞬間がある。

ワールドカップの期間である。

ならば次に考えたいのは、

4年に1度だけ現れるこの巨大な「サッカー会話人口」を、大会が終わったあとどうすればいいのだろう。

全員をJリーグファンにする必要はない。

全員にサッカーを続けてもらう必要もない。

それでも、この人たちは日本がサッカー大国になるうえで、大切な存在なのではないだろうか。

次回:4年に1度しかサッカーを見ない人も、「サッカー大国」をつくっているのではないだろうか|Japan’s Wayから生まれた問い⑤


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