掌編小説「ぼくらのヒーロー」
夏休みは、あまり楽しめなかった。
病院で過ごさないといけなくなっちゃったから。
春先は本当に調子が良かったんだ。
学校にも行けたし、
胸が痛くなることもなかった。
実際、
冬に受けた手術は成功してたし、
先生も「よくなってきている。がんばったからだね」とほめてくれた。
夏休みはやりたいことがいっぱいあった。
パパは、動物園に連れてってくれるって言ってたし、
ママは、僕の好きなアップルパイをたくさん焼いてくれると言った。
修とも自由研究を一緒にやる約束もしてた。
結局、半分もできなかった。
風邪が悪化して、安全をみて入院することにしただけ。
一週間くらいの予定だった。
今日もママが来てくれた。
でも、少し元気がなかった。パパに聞いたらわかるかな?
枕元のカレンダーを手に取り、めくる。
星型のシールが2つ貼ってある。
一つは8/21、もう一つは8/24。
お姉ちゃんが来た日。
もう10日も前なんだ。
今日も来てくれなかった。
机の上に巨峰のデザートが置いてある。
巨峰のコンポート?って言うみたい。
さっき修が持ってきてくれた。
修は僕のともだち。
となりに住んでる。
僕は修が羨ましい。
僕と同い年なのに、
こんなお菓子も作れちゃうし、
一人でも、いつも平気そうでかっこいい。
それに、
お姉ちゃんといつでも遊べる。
お姉ちゃんは
いつの間にか、来てくれなくなっちゃった。
僕が弱いから、
パパとママを取っちゃったから、
お姉ちゃんは、
きっと、僕のことが嫌いなんだ。
***
週末には帰れることになった。
結局、二週間ちょっとかかってしまった。
僕は朝からずっと外を見ている。
まだ学校が終わらないうちから。
今日は来てくれるかなと、
ずっと、そわそわしている。
***
ガラっ、と音がした気がした。
いつの間にか寝ていたみたい。
部屋には誰もいない。
(気のせい?)
時計は4時半を指していた。
廊下から声が聞こえた。
おぼつかない足で、スリッパを履く。
少しだけドアを開けて覗く。
同じ病室のおばさんと、
隣には修がいる。
それともう一人。
(お姉ちゃん、来てくれた)
ドアを開けようとした。
「実優ちゃん。こんにちは。」
「こんにちは」
「あら、今日は弟くんと一緒に来たのね」
引き戸が思いっきり壁に当たり、大きな音が響く。
「お姉ちゃんは、僕のお姉ちゃんだ!!」
静かな病院が、いつもより、さらに静かになった気がした。
***
その後のことは、あまり思い出したくない。
お姉ちゃんと修の顔をまともに見ることができなくて、
ずっと布団の中に隠れた。
ずっと話したいと思ってたのに、無視しちゃった。
明日は家に帰る日なのに、
全然うれしくないや。
***
僕の部屋には、
僕と、修と、お姉ちゃん。
「……ふたりとも、何してるの」
二人とも、顔にお面をつけている。
小さいころ好きだったレンジャーのお面。
「優ちゃんがつけろってうるさくて」
「ちょっと!修も賛成だって言ったでしょ!」
二人の声は、お面の下で少しこもっている。
「えっと……」
僕が戸惑っていると、
「これつけてれば、気にせず話せるでしょ?」
「え?」
「優也さ、優ちゃんとケンカしてるんでしょ?これなら優ちゃんの怒った顔見えないから大丈夫。怖くない。」
お姉ちゃんが、余計なことを言うなと、また修を怒る。
確かに、お姉ちゃんの顔は見えない。
お面をつけた2人と、僕
変な光景。
そのお面には見覚えがあった。
去年の夏まつり。
修がピンクで、お姉ちゃんが青。
修が、「なんで、僕がピンク……」と珍しく文句を言ったら、
「だって一番、姫ポジだし」ってお姉ちゃんが言った。
修は、僕たちの中で一番おおらかで、なんでもできて、笑うと少しかわいいから、
僕も納得して、笑った。
修はちょっと、不服そうだった。
「それで、なんで優ちゃんが青なの?」
修が、そう聞くと、
「クール」
と、お姉ちゃんは変なポーズを取った。
右手を腰に、左手をまっすぐ伸ばして、がに股。
「ダサい」と二人で笑ったら、追いかけられた。
思い出したら、可笑しくて笑いそうになる。
二人みたいに、僕はお面をつけてないから、ばれちゃわないか、ちょっと焦った。
しばらくして、
お姉ちゃんは、見舞いに行かなくてごめんと言った。
修は、僕の方がたくさん行ったと冗談を言って、お姉ちゃんがまた怒った。
僕は立ち上がり、机の引き出しを開ける。
赤いお面を手に取る。
あの時、
「優也は赤ね」「赤だね」
二人が同時に赤いお面を指した。
「なんで?」
と聞いたら、
「強い」「逃げない」
と二人は違うことを、バラバラに言った。
「そこはあわせてよ~」と二人して、言い合ってた。
その赤いお面で、顔を隠す。
「ふたりとも、ごめんね。」
本当だ。
素直に言葉が出た。
青とピンク、小さな僕のヒーローたちが「はは」っと笑った。
もしお時間があれば、修と実優のお話もぜひ。
この3人のお話を見つけてくださり、ありがとうございました🐻
