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掌編小説「ひと夏の思い出」

外交官の両親は、僕が夏休みに入っても、他の人がお盆休みに入っても、毎日仕事をしていた。
お国を守る、国民を守る素晴らしい仕事だと、両親は立派な人なのだと、
親戚の人も、先生も、近所の人もそう言う。

僕は、
一年生の時、一人でお留守番ができるようになり
二年生には、一人で買い物ができるようになった。
去年はじめて、一人で料理をした。

お父さんは、僕にできることが増えると、お小遣いをくれた。
お母さんは、「しっかり者」になってくれてうれしい、と言ってくれた。

けど、まだ、僕の作ったごはんの味は知らない。

こないだは酢豚を作った。
野菜が大きくて食べづらかった。
次は、もう少し小さく切ろうと思った。

コロッケは少し焦がしちゃうときもあるけど、レシピを見なくても作れるようになったよ。

夏休みの宿題は、去年よりも少し多かった。
でも、ドリルと読書感想文と自由研究は、お盆前に終わった。

「アルジャーノンに花束を」という本を読んだ。
いとこのお姉ちゃんが置いていった本だった。
少し難しかったけど、
いっぱい考えて、怖かったです、と感想文に書いた。

何日か、お手伝いさんが来てくれた。
切れていた天井の電球を交換してくれた。

親戚のおばさんが果物をもってきてくれた。
甘い巨峰を二房。
食べきれなかったから、冷凍にした。


明日で僕の夏休みが終わる。
あと二日分、日記を書いたら宿題が全部終わる。

(今日は何を書こう?)

お祭りは終わってしまったし、
育てていたアゲハ蝶は、蛹から羽化して飛んで行ってしまった。
塾の友達と遊んだ話も書いてしまったし、

広げたノートのページは、さっきから白いままだ。

「こつん」
しばらくして、また
「こつん」

窓を開けると、ベランダに二つの紙飛行機が落ちていた。

拾い上げると、紙飛行機に
「ひま」
「かまえ」
と、それぞれ書かれていた。

向かいの家の優ちゃんが、三つ目を飛ばそうとしているところだった。

「修、ひまだ、かまえ」
紙飛行機に書かれていることを、そのまま言った。

「うん、みたから知ってる」
紙飛行機を飛ばし返す。
けれど、明後日の方向に飛んで、力なく落ちていった。

優ちゃんは、ダメだなぁ、とでも言いたげな顔をして、手に持っている紙飛行機の角度を上に向けたりしている。

「それにはなんて書いたの?」
僕が聞くと、優ちゃんは片目をつぶり、すっと空へ向かって投げた。

大きく弧を描いて、風に乗る。
視線を上に向けたら、太陽の光がまぶしくて、目を細めてしまった。

「こつん」
僕の額にあたり、僕は床に落ちるすんでのところでキャッチする。

「ナイキャッ!」
優ちゃんが楽しそうに笑う。

おでこをこすりながら、紙飛行機を見る。

「はらへった」
先ほどよりも、大きな字で書いてある。

「パパもママも、優也のところに行っちゃった。ひどいのよ、お昼代忘れてる!」

優也は、優ちゃんの弟だ。
僕と同い年。
でも、心臓があまりよくないらしく、たまに病院に行っている。

「カレーでよければあるけど」
「え!まじ?神っ」

優ちゃんは、合掌して僕を拝んだ。

優ちゃんは、五分もしないうちに僕の家のリビングに来た。

昨日作ったカレーを鍋で温め直す。
今朝とれたゴーヤを炒めて、上に乗せることにした。

優ちゃんは、てっきりレトルトだと思ってた、と驚いていた。

待っている間、優ちゃんが机の上を片付けてくれた。
「宿題、まだ終わってないの?」
僕の日記をのぞきながら言う。

「他は終わってるよ。ちょうど書こうとしたとき、優ちゃんが邪魔した」

「人のせいにするな」
そう言いながら、ぺらぺらとノートをめくる。

しばらくして、カレーのいい香りが部屋中に広がる。
優ちゃんは、邪魔をしちゃ悪いと思ったのか、それから何も話しかけてこなかった。

少し大きなお皿に、白米をよそい、カレーをたくさんかけた。
トマトのサラダも隣に置いた。

「味どう?」
「辛い」

辛口で作ったから、僕たちにはちょっと辛すぎたのかもしれない。

「苦い」
庭で育てたゴーヤがたくさん採れたから、いっぱい入れてしまった。

僕も食べる。
優ちゃんの言う通り、辛くて苦かった。

「でも、私はこの味、好き。また作って」
優ちゃんが、少し恥ずかしそうに、ぶっきらぼうに言った。

「うん。明後日くらいにまたゴーヤが採れそうなんだ。」
部屋から見える庭のゴーヤの蔦を指さして言った。
まさか、一つの苗からこんなに育つなんて思わなかった。

「うん。まあ、いいよ。ゴーヤも好きだし」

それから優ちゃんは、お皿を洗って帰っていった。

静かになった部屋で、日記の続きを書こうとノートを開く。

丸い文字が書かれていた。

8/30(日)
隣に住む、優しくてかわいい優ちゃんと遊んだ。
一緒にカレーを作って食べた。
優ちゃんは料理もうまくて、性格もいい、完ぺきな女の子だと思う。

男の子と女の子が、笑顔で大盛りのカレーを楽しそうに食べている絵が描かれていた。

8/31(月)
今日も優ちゃんと遊んだ。
優ちゃんが花火をもってきてくれたので、庭で遊んだ。
庭で育てている野菜の話もした。
優ちゃんが、来年は一緒に育てたいと言ったので、種を取っておくと約束した。

男の子と女の子が、星空の下で花火をしている絵が描かれていた。
庭には、ゴーヤやトマト、ナス、ピーマン。
たくさんの野菜が育っている絵だった。

優ちゃん、
カレーは僕が作ったし、
優ちゃんは優しいけど、少し性格はきついよ。
ゴーヤとトマトは育ててるけど、育ててない野菜も描いちゃってるよ。

字も、絵も僕じゃないって、先生にばれて怒られちゃうけど、
僕はうれしくて仕方なかった。

はやく、来年にならないかな。

ノートを静かに閉じた。

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