事業承継は、何から始めればいいのか
「事業承継は、何から始めればいいですか」
事業承継のご相談をお受けする中で、よく尋ねられます。
多くの場合、思い浮かべられているのは「手続き」です。
株の移転、税金の対策、遺言や信託の準備。
もちろん、いずれ必要になるものですが、ここから入ると、やがて大切なことを忘れていることに気づきます。
まず一緒に考えたいのは、手続きという一時的なことではなく、この先どんな事業をやっていきたいか、という先々までの未来像です。
そこが一つに合致してはじめて、ファミリーの関わり方やオーナーシップの持ち方も、無理なく整えていけると考えています。
まず決めたいのは、この先の事業の姿

冒頭でもお伝えしましたが、まず最初に整えたいのは、「ビジネス」の未来像を合致させること。
未来像には、複数のシナリオがあり得ます。
たとえば、こんな二択です。
今の事業領域のまま、規模を広げていく
今の強みを生かしながら、隣接する事業に踏み出す
複数のシナリオのなかから、先代と後継者が「共にこれを目指したい」と言えるものを一つ選ぶ。 ここが出発点になります。
先代は、これまでの事業をどう守るかという視点から未来像を語りやすく、後継者は、これから何を変えたいかという視点から語りやすい。
どちらも会社のことを思っての発言ですが、見ている時間軸が違うと、同じ「未来像」という言葉を使っていても、中身がすれ違います。
どちらの見方が正しいかを決める場ではなく、双方の前提を出し合う場だと捉えると、話し合いは進めやすくなるでしょう。
この選び方が曖昧なまま株や役員構成の話に入ると、何のための承継なのかがぼやけます。承継は未来のためにやるのです。
逆に、目指すシナリオが一つに決まっていれば、そのあとの細かい決め事は、判断の軸を持って進められるのです。
ファミリーの関わり方とオーナーシップは、あとから合わせる

未来像が一つに決まると、次にすることが見えてきます。
たとえば、規模の拡大を目指すシナリオなら、経営に集中したい人に権限を寄せ、そうでない親族は株主として見守る立場に回る、という体制が考えられます。
今の事業領域を大きく広げないというシナリオなら、複数の親族が経営に関わる体制もあるでしょう。
逆の順番で株や役割を先に固めてしまうと、あとから「なぜこの配分なのか」「なぜこの体制なのか」を後付けで説明し直すことになり、かえって時間がかかるのです。気持ちも良くありません。
この順番を守るだけで、後々の説明の手間もかなり減ります。
感情や既得権は、簡単には動かない

正直に言うと、ここがいちばん難しいところです。
ファミリーには感情があります。
「平等に分けてほしい」「自分も経営に関わりたい」
株式や役割の話には、事業の合理性だけでは測れない気持ちが乗ります。
オーナーには、これまで築いてきた既得権があります。
経営権を手放したくない、これまでの財産権を維持したい。
こちらも、簡単には動きません。
どちらも自然な感情です。
けれど、ここで立ち止まってほしいことがあります。
ビジネスが成長しなければ、ファミリーが受け継ぐ資産も、オーナーが守りたい権利も、意味を持たなくなる、ということです。
分ける対象そのものが小さくなっていけば、平等に分けても、既得権を守っても、誰の手元にも多くは残りません。
だからこそ、感情や既得権の話を無視するのではなく、ビジネスの未来像に合わせて丁寧に置いていくのです。
感情の置きどころを、ビジネスの未来像という軸の後ろに置く、という順番の話になります。
次に話し合いの場を持つ前に、問いを一つ持っておくと、順番を確かめやすくなるでしょう。
今すり合わせているのは、手続きの条件か、目指す未来像そのものか
ファミリーやオーナーの言い分は、ビジネスの未来像に照らして、どこまで動かせるものか
まとめ

事業承継は株や税金の手続きから始めるものだと思われがちだが、最初に整えるべきはビジネスの未来像を一つに合致させること
複数のシナリオがあっても、先代と後継者が共に目指したい一つを選ぶところが出発点になる
感情や既得権はすぐには動かない。それでも、ビジネスが成長しなければ誰にとっても意味がないという原則を判断の軸に据え続ける
相談を受けていると、手続きや権利の話が先に立ち上がり、肝心の「この先どんな事業をやっていきたいか」が後回しになっている場面によく出会います。
手続きを整える前に、まず何を合わせておくか。
そこに「ビジネス」の未来像を置けているか、次の話し合いの前に確かめてみてください。
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