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【駐在員の本音】海外生活を満喫する駐在員を、少し冷めた目で見ていた

第103話


月曜日の朝、オフィスで週末の話になった。

ゴルフに行った人。
ワイナリーに行った人。
家族で少し遠くまで出かけた人。
新しく見つけたレストランの話をしている人。

みんな、楽しそうだった。

「週末どうだった?」

そう聞かれて、僕は少しだけ笑って答えた。

「特に何もしてないです」

本当に、何もしていなかった。

土曜日は昼過ぎまで寝ていた。
洗濯をして、スーパーに行って、冷凍食品を買った。
日曜日は少しだけ仕事のメールを見て、日本の動画を流しながら部屋でぼんやりしていた。

気づいたら、夜になっていた。

アメリカにいるのに。
海外駐在をしているのに。

週末にしたことといえば、洗濯と買い出しと、月曜の不安を少し先延ばしにすることだけだった。


駐在を楽しんでいる人が、少し苦手だった

正直に言うと、駐在生活を楽しんでいる人が少し苦手だった。

週末のたびに旅行へ行く人。
ゴルフ場の写真を見せてくる人。
現地のイベントに詳しい人。
「せっかく海外にいるんだから」と、軽く言える人。

そういう人を見るたびに、心のどこかで思っていた。

この人たちは、仕事をしに来たのか。
それとも、海外生活を楽しみに来たのか。

もちろん、口には出さなかった。

そんなことを言えば、ただの嫌な人になる。
楽しんでいる人が悪いわけではない。
むしろ、海外にいる時間をちゃんと使えているのだから、たぶんその方が正しい。

でも、その頃の僕には、どうしても少し眩しかった。

そして、その眩しさを素直に認められなかった。

だから、少し冷めた目で見ていた。


本当は、ただうらやましかっただけだった

今なら少しわかる。

僕が冷めた目で見ていたのは、その人たちが嫌いだったからではない。

本当は、うらやましかった。

仕事に飲まれず、週末をちゃんと自分のものにできていることが。
月曜の会議を気にせず、金曜の夜から予定を入れられることが。
知らない街に出かけて、写真を撮って、楽しそうに話せることが。

うらやましかったのは、ゴルフでも旅行でもなかった。

仕事に潰されずに、自分の生活を守れていることだった。

僕には、それができなかった。

平日は、英語の会議で気を張っていた。
日本との時差で、夜にもメールが来た。
現地では現地の顔をして、日本には日本向けの説明をした。
小さな確認と調整だけで、気力が削られていった。

週末になっても、何かを楽しもうという気持ちが残っていなかった。

どこかに行きたい。
何かを見たい。
現地の生活を楽しみたい。

そう思う前に、ただ休みたかった。

ただ、誰にも何も聞かれたくなかった。


「せっかく海外にいるのに」が、いちばんしんどかった

駐在中、何度もこの言葉が頭に浮かんだ。

せっかく海外にいるのに。
せっかくアメリカにいるのに。
せっかく会社に選ばれて来たのに。
せっかく普通ではできない経験をしているのに。

だから、楽しまなきゃいけない気がしていた。

週末にどこにも行かない自分が、もったいない人間に見えた。
部屋で寝ているだけの土曜日が、負けている時間に思えた。
スーパーと洗濯で終わる日曜日が、何かを無駄にしているように感じた。

でも、体が動かなかった。

行きたい場所がないわけではない。
興味がないわけでもない。
海外生活を楽しみたくないわけでもない。

ただ、そこまで気持ちが残っていなかった。

仕事に慣れること。
英語で何とか会議を乗り切ること。
日本側に説明すること。
現地側の不満を受け止めること。
来週もまた会社に行くこと。

その全部で、すでに手いっぱいだった。

海外生活を楽しむ前に、海外で働く毎日をこなすだけで精一杯だった。


楽しめる人は、ちゃんと強かった

当時の僕は、楽しんでいる人たちを少し軽く見ていたのかもしれない。

仕事より生活を優先している人。
駐在を特別な休暇のように使っている人。
海外に住むこと自体が目的になっている人。

そんなふうに見えていた。

でも、今なら少し違って見える。

楽しめる人は、たぶん強い。

仕事を全部背負いすぎない強さ。
平日の疲れを、週末まで引きずらない強さ。
自分の生活を、会社に明け渡しすぎない強さ。

それは、逃げではなかったのだと思う。

むしろ、自分を守る力だったのかもしれない。

僕には、その力が足りなかった。

だから、うらやましかった。

楽しそうにしている人を見て、少し冷めた気持ちになっていたのは、
その人たちが浅かったからではない。

自分に、余裕がなかっただけだった。


それでも、楽しめなかった自分を責めなくていい

もちろん、駐在を楽しめるなら、その方がいい。

知らない街に行く。
現地の食事を試す。
家族と旅行する。
週末にゴルフをする。
アメリカでしかできない経験をする。

それは素直に、いいことだと思う。

でも、楽しめない時期があってもいいのだと思う。

海外にいるからといって、毎週末を充実させなければいけないわけではない。
駐在しているからといって、常に前向きでいなければいけないわけでもない。
せっかくの経験を、全部きれいに味わい尽くせる人ばかりではない。

部屋から出られなかった週末もある。
寝るだけで終わった土曜日もある。
日曜の夜に、また明日が来ることだけで少し重くなった日もある。

それでも、その時間は無駄ではなかったと思いたい。

何も楽しめていないように見えて、
あの頃の自分は、ただ必死に生活を保っていた。

海外生活を楽しむために来たように見える人が、正直うらやましかった。

でも本当は、僕も楽しみたかった。

ただ、その前に、毎日を崩さずに立っているだけで精一杯だった。

今なら、あの頃の自分に少しだけ言える。

旅行に行けなかった週末も、
ゴルフの予定を入れられなかった土曜日も、
家で一人、何もせずに終わった日曜日も、

それでもちゃんと、駐在の一部だった。

楽しめなかった時間も、
たぶん、僕の海外生活だった。


✈️ 駐在員の本音シリーズを読んでいただきありがとうございます。

海外生活を楽しめる人を見ると、少しうらやましい気持ちになることがあります。

でも今振り返ると、楽しめなかった理由の一部は、生活の土台がまだ不安定だったからかもしれません。

住む場所が落ち着かない。
車がないと動けない。
医療保険がよく分からない。
会社の手当や補助の範囲も、どこか曖昧なまま。

そういう小さな不安が積み重なると、せっかくの海外生活を楽しむ余裕もなくなっていきます。

僕自身が赴任前に確認しておけばよかったことを、住居・手当・医療保険・車・休暇・家族帯同の観点で90日チェックリストにまとめました。

これからアメリカ駐在を控えている方には、少し役に立つかもしれません。

こちらから読んでみてください。


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駐在員の本音|戦略企画・海外人事の視点でつづる海外のリアル 読んでくださりありがとうございます。スキ/フォローだけでも励みになっています。無理のない範囲で応援いただけたら嬉しいです。