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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  5話「訪問者」(8)


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5話「訪問者」(8)


 それからの数日、ゴナンはなるべく多く獲物を獲ることに専念した。ほとんどを保存食への加工に回す。そういえば野草も減ってきたし、あんなに採れていたコブルの実ももう、1個もなっていない。ほんの短期間で景色の色が様変わりしたことに驚くゴナン。自然相手に人間はあがらえない、そんなことを肌身で感じていた。

 日中はまだいつもの装いで過ごせるが、夜の冷え込みは日々、厳しくなってきた。途中、雨が降った日は昼間からとても冷え込み、小屋に張った葉の隙間から雨水がしたたり落ちてきた。干し肉やルチカから預かった書類を濡らさないようにと毛皮で防いでいると、また眠れず凍えて熱を出し、熱冷ましを飲みきってしまう羽目になった。故郷では泣くほど嬉しい雨なのに、時と場が変わればこんなにも忌避したいものになるのかと、ゴナンは不思議に感じる。

 雨も上がったある夜、食事の後に焚き火で暖を取り、小鍋で沸かした野草茶を飲みながら、ゴナンはボンヤリと考える。

(……もう、巨大鳥は次の地域に移動した頃かな…。そうなると、皆も、そっちに行っちゃうかな…)

 結局、必死に上げ続けた狼煙も意味がなかった。これからどうするべきか、決断しないといけない時期に来ている気がする。

(……しまった…。ルチカに、今、ここがどの辺りなのか聞いておけば良かった)

 ゴナンは、ルチカが『借りて』いた書類を持ってきて広げる。その中には、巨大樹が描かれた遺跡の場所を示す地図もあったが、いつも見ている旅行用の地図に比べるとかなり簡素化されたもので、街道や目印なども描かれていない。そもそも、自分がこの地図の範囲内にいるのかすらわからない。

 ルチカの発光石の照明を点けて、遺跡の資料を読み始めたゴナン。文字を読むのも随分、久しぶりのような気がする。

 油断すると、すぐに薄暗いものに心が侵食されていく。結局リカルドが無事なのかどうかも分かっていないし、体じゅうを襲う疼くような痛みも消えないまま。ルチカからもらった熱冷ましは飲みきってしまったから、もっと寒くなってまた熱を出してしまったら、ここでは命に関わるかもしれない。

 ゴナンは頭を振ってネガティブな思考に蓋をした。そして、少しでも気を紛らわせるために、書類の内容に集中する。

「……エルダーリンドの近くにも、壁画の遺跡がある…。そして、ここの近くには、開ける方法が分からない『開かずの遺跡』がもう1つあるが、こちらも特に歴史的価値は認められていないため、あまり調べられてもいない…。王都の近くの遺跡は、石室が3つつながった複雑な間取りになっていて、最奥の壁画も最も大きい……。絵の内容は同じ……」

 巨大樹の街や壁画の遺跡…、いずれもリカルドが気になると言っていた場所だ。でも、きっとリカルド1人で辿り着いても、彼はまた妙な拒否反応を起こして何もできない。自分が支えてあげたいのに、そばにいられない…。

(……だめだ。夜にこういうことを考えるとだめだ…。これからのことは、朝、起きてから考えよう…)

火の始末をして、小屋の毛皮にくるまり、ぐっと目を閉じた。

*  *  *

 その翌日、昼頃のことであった。

 いつものようにゴナンが狼煙を上げていると、突然、森の中から複数の人の声が聞こえた。見ると、女性1人と男性2人の大人だ。皆、30代くらいの年齢に見える。

「あ、本当に男の子がいた」

 そのうちの女性が、ニッコリ笑いながらゴナンに話しかけてきた。

「妙な煙が上がってるから、気になってたんだよ。そしたら、男の子がせっせと煙を上げてるって聞いたから、見に来たの」

「聞いた…?」

「1人っきりでどうしたの? あら、でも、結構ちゃんと暮らしているみたいだね。ここに住むの? だったらいいけど」

「あ、いえ…」

 男達も、「なんだこれ、すげえな」「1人で作ったのか、大した物だなあ」とゴナンの住み処や食料庫を見る。干し肉や燻製肉の量の多さにも驚いているようだ。

「なあに? 行き場がないんだったら、どこかに連れて行こうか? 私たちは行商隊でね。馬車で商売しながらいろんな土地を動き回っているんだよ」

 女性が金色の瞳を優しく光らせてゴナンに話しかける。長い濃茶のくせ毛を後ろに三つ編みで一つにまとめた、豊満な温かさと活力を感じる女性だ。背も高めで、母・ユーイに似ているように感じ、少し心を開くゴナン。




「……いえ…。仲間、が、迎えに来てくれるのを、ここで待ってるんです…」

「こんなところで? その、お迎えさんは、あなたがここにいるって分かってるの?」

「…いえ…。でも…、ここなら、きっと、辿り着いてくれるから…」

「……?」

 その言葉の意味が分からず、顔を見合わせ首を傾げる3人。「まあ、本人が大丈夫っていうんなら、いいんじゃないか? イライザ」と男性の1人が女性に言うが、イライザは納得がいかない様子で反論する。

「でも、こんな子ども1人、こんな場所で? ね、坊や、本当にいいの?」

 ゴナンは坊や、と呼ばれたことに少し恥ずかしそうにする。

「……ゴナン、です…」

「ああ、ごめんね、ゴナンくん。私はイライザよ。ねえ、ひとまず、もっと人が居るところで待った方がいいんじゃないの? どこでも連れて行ってあげるわよ? この近くだったら、フースーの村とか。今の季節は朝霧が美しい場所なのよ。ああ、そうだ、巨大樹は見たことがある? 大っきいわよ~」

「…巨大樹…」

 その言葉に、ゴナンはハッとした。

「…巨大樹…、エルダーリンド……?」


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