連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 12話「声」(5)
12話「声」(5)
と、巨大鳥が一瞬、素早く動いて、泉の中から魚を捕まえた。そのまま丸呑みする。お食事タイムのようだ。
「…ふふ。上手だよな、魚取るの。あんなでっかい身体なのに、あんな小っちゃい魚で足りるのかな」
「……」
と、巨大鳥がまた、泉に顔をつっこみ、魚を捕った。しかし今度は、その魚をゴナンに投げてきた。
「……えっ? あ、また……!」
「!」
思わず受け取るゴナン。その巨大鳥の挙動に、コチは驚きを隠せずにいる。ゴナンは困ってしまって、立ち上がって巨大鳥に話しかけた。
「ちょっとお腹も空いてるけど、俺は焼かないと食べられないから、今は大丈夫だよ。もったいないからお前が食べな」
そう言って巨大鳥の方へ歩み寄り、魚を差し出す。巨大鳥は少し残念そうな表情になったようだが、ゴナンから魚を受け取り、丸呑みした。
「ごめんな、ありがとう」
そう巨大鳥に声をかけて、またコチの隣へと戻ってくる。
「なんか、あいつ。俺が腹減ってるのがわかるみたいなんだよ。すごいな」
そう巨大鳥を見ながら話すゴナンに、コチは驚いた表情のまま、尋ねる。
「……君、は…」
「…ゴナン、だよ、名前」
「……ゴナンは、『あの子』の『声』が聞こえているのではないのか?」
「声?」
さっき、巨大鳥は「しゃべらない」と言っていたはずだが、なぜまた同じことを聞いてくるのか分からず、ゴナンは首を傾げる。
「……私は、『この子』から魚をもらったことなんてない。木の実を渡されたことも」
「……えっ? そうなの?」
そう聞き、ゴナンは少し申し訳ない気持ちになる。コチは羨ましがっているのだろうか?
「……ああ、でも、ミリアも、そんなことはなかったって言ってたな」
「……ミリア…?」
「ウキの近くで、俺が巨大鳥に乗って行っちゃった後で会ったんだろ? コチと同じくらいの背の、深緑色の髪の女の子。ミリアは3ヵ月くらい、巨大鳥に乗ってたって言ってたけど」
「3ヵ月…。あのとき…。あの子が…、そうだったのか……?」
コチはまた驚きの表情を見せる。ミリアが巨大鳥に乗っていたことは、知らなかったようだ。
「……その時は、『この子』が王都の方に飛んでしまった後で行方が分からなくなって、大変だった……」
「王都……」
今度はゴナンがハッとする。王城で巨大鳥に乗ったということが分かると、ミリアの正体につながってしまうかもしれない。「へ、へえー、そうなんだ。それは知らないなあ。どこで乗ったんだろうなあ」とゴナンはなんとか白々しくとぼける。そして話題を変えた。
「……でも、こいつ。身体が大きいからすごく怖く思えたけど、なんか、可愛いよな」
その言葉に、コチは少し瞳を輝かせる。巨大鳥が褒められることが嬉しいようだ。
「なんか、可愛い子どもにも見える。可愛い……、女の子…?」
そう呟くゴナンに、コチは軽く頷く。
「こうやって、美味しい水飲んだり、美味しい魚食べたり、思いっきり空飛びたいだけなのかもな。……追いかけられて、かわいそうだよな…」
「……」
自分も追いかけている1人なのだが、思わずそう呟くゴナン。コチはその言葉を、興味深く聞いている。
「……寒くなると動けなくなるって…。他の獣みたいに、冬眠するの? こいつ」
「……冬眠じゃない…。でも、もうすぐ、動けなくなる…」
「……」
それがどういうことかを聞こうとしたとき、巨大鳥が動いた。水辺から離れて、羽をバサッとはためかせて、コチを見る。飲水と食事が終わったようだ。その挙動を見て、はっとゴナンは気付いた。
「あっ、もう、気流に乗る? 次の場所に行くのかな?」
「……え? どうして、それを…?」
「だって、なんかあいつ、今『よし、上まで飛ぶぞ!』って感じだったから。ずっと一緒にいたから、雰囲気でわかるよ」
「……」
「次は、シャールメールの方?」
「……」
リカルドが、次のエリアがシャールメール付近だと予測しているのを聞いているゴナン。
「……なぜ…? やっぱり、声が……」
「いや、だって、同じ水がある場所だろ? こいつが好きな水。気流に乗って行ける場所…」
コチは立ち上がり、そして戸惑ったような表情でゴナンを見下ろす。どう答えていいか、悩んでいるような表情だった。
(…あ……。鳥が遠くに行ってしまうから、その前に、少しでも、卵のことを…。少しでも、リカルドの、ためになる情報を……)
「あ、あの…。この近くの遺跡に、卵のニセモノがあって、それで、コチの仲間?の卵男が、そこに入るのを見たって……。あそこ、あの遺跡、何…?」
「……」
「……そ、それに、動けなくなるって、どういうこと? こいつは女の子って…、もしかして……?」
「……」
その時であった。
「待って!」
と、急にコチが叫んだ。同時に、スッ、と首になにかの感触を感じたゴナン。不思議に感じてそこに手をやろうとした瞬間、ゴナンの身体はぐらりと倒れる。
「……!」
手足が動かない。一気に痺れが周り、そして感覚がなくなった。
(……これ、しまった…。毒矢……)
一瞬で身体が地面に沈む。意識も徐々に遠くなっていく。その中で、コチが誰かと話す声が聞こえた。

「待って! この子は、大丈夫なのに!」
「大丈夫なものか。こいつはいろいろと感づいていた」
男性の声のようだ。しかし、ゴナンが祭のときにしゃべった卵男シマキではない。もっと年長の男性のように聞こえる。視界がぼやけて、姿を見ることはできない。
「この子は『声』が聞こえていた」
「違う。ただ勘がいいだけだ。そういう人間もいるんだ」
「でも、それにしては……」
「それに、こいつだけじゃない、あっちに……」
コチと男性が何かを言い争っている様子だったが、そこでゴナンの意識は途切れた。
↓次の話↓
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