連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 17話「巨大鳥」(1)
17話「巨大鳥」(1)
「……あっ」
翌朝、ゴナンはベッドを飛び起きた。窓の外はもうすっかり日が高くなっている。朝の鍛錬に遅れてしまったと、慌てて身支度を始めるゴナン。
「あ、おはよう、ゴナン。慌てなくても大丈夫だよ」
と、リカルドが個室に入ってきた。先に起きて、水場に顔を洗いに行っていた。
「リカルド、おはよう。大丈夫って?」
「ディルも今さっき起きたところみたいだから」
そう、面白げに微笑むリカルド。昨日、深夜にへべれけで帰ってきたナイフとディルムッド。2人とも珍しく朝の鍛錬にも起きず、先ほどまで寝ていたようだ。
「ゴナンもよく寝てたね。昨日は楽しかった?」
「うん。なんだか、楽しすぎて疲れた。あっ、そういえばシャワー浴びてなかった…」
「今から浴びておいでよ。目覚ましついでにね」
ゴナンは頷き、準備をして部屋を出る。と「おはようございます、ジョージ先生」と玄関に数人の男性が訪ねてきた声が聞こえた。ジョージが出迎えにいき、何かを話している。少し深刻そうな表情だ。
「…何? 昨晩のあれでか?」
「ああ…、今までこんなことはなかったんだけどな。被害が出てしまったから、少しやり方を考える必要があるのかもしれない…」
訪れてきた男性達の中には、エドワードの父親もいた。ゴナンは挨拶に向かう。
「エドのお父さん。先日は、お世話になりました…」
「おお、ゴナンくん。こちらこそ。昨日はエドとたくさん遊んでくれたようだったな。ありがとう。家に帰ってきてからも、君の話ばっかりだったよ」
そう微笑むエドワードの父だが、少し憔悴しているようだ。
「…何かあったんですか?」
「ああ…、昨晩、ちょっと火事が起こってね。それで、収穫したキィの穂が少し焼けてしまって」
「えっ?」
ゴナンは驚き、ジョージの方を見る。リカルドも部屋から出てきて尋ねた。
「火事って、もしかして、『火飛ばし』の火が飛んで行ったんですか?」
「ああ、多分そうだと思う。うち以外も何ヵ所か燃えたらしいんだが、どこも収穫物や小屋が焼けた程度で、家屋や人に被害が出なかったのが不幸中の幸いだったな」
ジョージは腕を組み、思案する。
「昨日は妙な風が吹いたのかな? そんな気配は感じなかったが…」
「もう何十年もこの祭をやっているが、こんなことは初めてだ。火が周りに付かないよう最低限のロウソクの大きさでやっているし、念のため会場も水場周りで土の地面の広場でやっているんだがなあ…」
そう話す男性達に、ゴナンは不安げな表情を見せる。それに気付いたエドワードの父親は、安心させるように微笑んだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。焼けたと言ってもそんなにたくさんじゃない。君も見ただろう。うちの畑はとても広いから、収穫量も多いんだ」
「…はい…」
「エドワードもエミリーも、うちの奥さんも無事だから。心配ありがとう。エドがまた、夕方に屋敷に遊びに行くって言ってたから、相手してやってくれよな」
「…はい…」
男性達は、他に被害が出ていないかを聞いて回っているようだ。ジョージの屋敷周辺が無事であることを確認すると、また次の家へ回るために去っていた。ゴナンはしかし、不安げにリカルドに囁く。
「…ねえ、リカルド。これって、巨大鳥の…。昨日、エドも鳥を見てた…」
「……」
リカルドはそのゴナンの不安を、はっきりとは否定できなかった。今まで一度も起こっていなかったことが、よりにもよって巨大鳥が現れたその日に起こっているのだ。
「…まあ、でも、大きな被害はないみたいだから、大丈夫だよ」
「うん…」
ゴナンは少し沈んだ声で答えた。
* * *
結局、ミリアとエレーネも寝坊しており、皆、ゆっくりの朝ご飯になった。
今日は先に朝食を済ませていた夫妻は、そんな一同の様子を見てクスクスと笑う。
「おや、ディルさんとナイフちゃんは二日酔いか?」
「まあ、先生。流石にその辺りはわきまえているわ。目覚めはスッキリよ。ただ、ちょっと飲んだ量は過ぎたかもしれないけどね」
「ああ、私もだ。街の人々と飲むのがあまりにも楽しく、すっかり戻りが遅くなってしまった」
2人とも、流石の自己管理能力である。一方でミリアはまだ眠いらしく、大きなあくびだ。
「まあ、ミリア、大きなお口。淑女がはしたないのではなくて?」
「ごめんなさい、ナイフちゃん。でも、わたくしは『普通のミリア』だから問題ないの」
「あらあら、言い訳が上手になって」
洗練された立ち振る舞いを崩さなかったミリアも、市井で過ごす中で、少しずつだが緩い部分が出てきているようだ。ナイフは微笑ましく感じるが、後に城へ戻ることを考えると、あまり良いことではないのかもしれないが…。

と、ミリアがゴナンの着ている服を見る。
「まあ、ゴナン。今日もその服を着てくれているのね。わたくしがお直ししたお洋服」
「あ、うん…。洗って、乾いていたから」
ミリアが異様に大量の糸を使って繕い、ユラリアの花”らしき”刺繍を施した上衣。ゴナンは上衣の着替えは全部で3着持っているのだが(リカルドは3着とも違う色形のものを買おうとしたが、ゴナンが「全部、同じでいい」と要望した)、このミリアの手刺繍入りのものを積極的に着ようとしているようだ。ミリアは満足げな表情を見せる。
「…ミリア。左手は大丈夫? まだ、しびれがある?」
「え、ええ。そうね。でも大丈夫よ」
「後でまた、少しさするから。蒸しタオルで少し温めるのもいいかもしれないな。朝晩するだけでも違うと思うよ」
心配そうな表情でそう申し出るゴナンに、ミリアは少し目を伏せ「ありがとう」と答える。2人のほんわかした雰囲気をリカルドはニコニコと見守っているが、ナイフはまた、少し物考えな顔になっていた。
↓次の話↓
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