連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 6話「巨大樹の街」(3)
6話「巨大樹の街」(3)
……が…。飲み屋街も撃沈であった。
やはり18歳と言い張るには無理があり、そして剣やら弓やら毛皮やらを身につけたみすぼらしい様子の少年が仕事を求めて彷徨う様は、この観光の街ではとても悪目立ちした。人手を欲しがっている店はわりとあったが、どのお店も厄介ごとになるのを厭ってゴナンを門前払いにした。10軒以上回って、心が折れるゴナン。
(……何もうまくいかない…。いや、今までが、うまくいきすぎてたんだ…)
そう落ち込み、すぐに首を横に振る。
(…大丈夫。俺はどこだって寝られるし、おじいさんの毛皮があるから寒くても大丈夫。食べるものもあるし、なくなっても俺は食べ物を見つけるのが上手だから……。大丈夫だ……)
自分にそう言い聞かせながら歩みを進めるゴナン。ひとまず、今日の寝床を探そうと顔を上げたとき、遠くの巨大樹が目に留まった。
「…そうだ…。巨大樹の見学に行こうかな……」
イライザが、観光客が入れる洞があると言っていた。洞で寝れたりはしないだろうか? そもそも、近くで見るとどれだけの大きさなのか興味があった。巨大樹のある方角へ急ごうと駆け出し、道を横断するゴナン。
と……。
「あ、おい、坊ちゃん! 危ないよ」
とゴナンを引き留める声が聞こえた。そしてすぐに誰かにぶつかり、ゴナンはひっくり返る。
「……!」
「おい、気をつけろ、小僧」
「あ、……す、すみません……」
ギロリと体格の良い男が、ゴナンを睨み付けている。武装し帯剣、軍人のようだ。その後ろに何人か人が続いている。ゴナンがその男の前で呆然と座り込んだままでいると、その男はちっと舌打ちをし、そのまま前に歩みを進める。座り込んだゴナンを避けることもせず、代わりに足でがっと蹴り飛ばして自身らの進む道を確保した。
「……いて…、何……、を……!」
ゴナンは転がったが、すぐに立ち上がってその男性に立ち向かう。しかし、軍人は再度、ゴナンを腕でドンと倒した。
「お前が道を空けないからだ。平民の分際で子爵とそのご令嬢の歩まれる道をふさぐとは」
「……?」
見ると、その軍人の後ろには、複数の護衛や執事らしき人物と共に、妙にきらびやかな衣装を身に纏った男性とその娘らしき少女がいた。少女は女中も2人引き連れている。少女はゴナンと年齢が変わらないように見えるが、扇子を口元に当てて、蔑んだ目でゴナンを見下ろしていた。
「まあ、嫌だわ。汚い」
「……!」
「あまり平民に近づいてはいけないよ。全く、お前が街歩きを体験したいというから、わざわざ馬車を遠くに止めたのに…。やはり、馬車で乗り付けるほうが良かったのではないか?」
キレイに整えた口ひげをたくわえた男性が娘にそう諭し、そしてやはり汚いものを見る目でゴナンを見下ろす。

「……」
無言のまま、子爵一行を睨むように見上げるゴナンに、その令嬢は眉をひそめたまま、言葉を続けた。
「まあ、汚い上に、生意気だわ。平民のくせに、そのようなお顔は失礼ではないかしら。謝りなさい」
「……!」
言葉遣いはミリアと似ているが、とても侮蔑的で冷たい口調だ。
「……俺は、…別に悪いことは……、して、ない……」
「まあ、口答えまで。謝罪なさい。失礼だわ」
さらに冷たい目線で見下ろす子爵の娘。ゴナンにとっては理不尽極まりない状況だが、横に立っている父親は娘のそんな振る舞いを止めるどころか、その態度に賛同している様子だ。
それでもゴナンが謝罪の言葉を口にしないため、令嬢は先ほどの軍人に目配せをした。この男性は家来か護衛のようだ。さらにゴナンを蹴り上げ、制裁を加えてくる。道行く人はその様子を眺めるばかりで、止めに入ってきてくれるひとはいない。子爵は娘を引き寄せる。
「おお、汚い。あまり見ない方がよい。さあ、巨大樹見物へ行こう。日が暮れてしまう」
軍人がひとしきりゴナンを蹴ったところで、ようやくその場を離れる一行。道に転がった土まみれのゴナンが残された。
「おい、大丈夫か? ダメだよ、貴族の前に立ち塞がっては」
1人、男性が声を掛けてくれた。体を起こしてくれる男性に、ゴナンはペコリと頭を下げる。さっき、気をつけるように声を掛けてくれたのも、この男性のようだった。
「…ぶつかったのは俺の不注意だったけど……、それはあっちも、同じだったのに……」
「だから、貴族の道を塞いじゃだめなんだよ。君は田舎から来たの? 覚えておきなさい」
「……」
「全ての道は、貴族が優先なんだ」
「……どうして?」
「…貴族だからだよ。この街は、物見遊山で訪れる貴族が多いから、くれぐれも気をつけな。無礼打ちにあったりなんかしたら、たまったもんじゃないからな」
「無礼打ち……?」
「…失礼な態度を取ったりすると、斬り殺されてしまうってことだよ。まあ、流石にそこまで行くと、よっぽどだけどな」
「……」
どうにも物わかりの悪いゴナンに男性は呆れつつも、腕を取って立たせてくれながら忠告してくる。ゴナンは男性にお礼を言って、体中の土埃をはたき、散らばった荷物を拾い集めた。と、袋の中に老人からもらった陶器があったことに気付く。
(しまった、割れたかも…?)
慌ててバッグの中を探ると、布で丁寧に包んで小鍋の中に入れていた陶器は、無事にヒビ一つ入っていなかった。ホッとして、そして周りに気をつけて、ゆっくり歩き始めるゴナン。
(ミリアもディルも、エレーネさんも貴族のはずだけど、人の事を平民だといったり、あんな嫌な目で見てきたり、偉そうな態度は取ったことがないのに。貴族には、嫌な人もいるものなんだな…)
そんなことを考えつつ、とぼとぼ歩く。
爵位やこの国における地位で行くと、先ほどの子爵の某卿よりもミリアやディルムッドは遙かに高位であるのだが、ゴナンにはその差があまりよく分からない。そして、貴族のほとんどが先ほどのような振る舞いをする人種で、ミリアやディルムッドのように『平民』と目線を同じにして振る舞おうとする貴族こそ珍しいのだということを、ゴナンは知らなかった。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
