連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 6話「巨大樹の街」(4)
6話「巨大樹の街」(4)
巨大樹は、観光街の中心部から少し離れた場所にあるらしい。観光客向けの案内看板が随所に出ていたため迷わずに行けた。何より、あの巨大な樹を見失うことはありえない。近づくほどに異様さを増す巨きな姿に圧倒されながらも樹の麓近くへとやってきたが、柵で入れないように仕切られていることに気付く。
「……見学のための入場、1200アスト…?」
案内看板を見て、また呆然とするゴナン。と、ゴナンの様子に気付いた案内人らしき年配の女性が声をかけてくる。
「ここから先は1200アスト払えば進めますよ。木肌に触れられるし、葉も拾えるよ」
「……?」
そう案内する女性に、ゴナンは首を傾げる。
「…木肌に触れたり、葉っぱを拾うと、何かいいことがあるんですか? 葉っぱが美味しい…、とか…?」
「……おや、そういうのは信じないタイプかな? 巨大樹はすごいパワースポットだからって、触れてありがたがる人が多いんですけどねえ。葉っぱも、巨大樹の生命力をお裾分けしてもらえるってんで、お守りとして持ち帰って、本に挟んで押し葉にしたり、乾燥させてお茶にして飲むのがトレンドなんですよ」
「……パワースポット…」
「ついでに、洞に入りたいのなら、400アスト追加だね。木の枝に登りたいなら、さらに400アスト。洞中に泊まりたいなら、また別途料金が……」
「……」
ゴナンは少しうんざりした気持ちで、女性の案内を聞き続ける。大きな木に触れただけで何かの力をもらえるというのは、どうにも信じがたい。でも、この巨大な樹だからこそ、そんなパワーがあるのだろうか。
「どうする? 中に入りますか?」
「……いえ…。俺はここから見るので、十分です…」
「まあ、そうだね。見るだけならここで十分ですね。何せこんなに大きいんだから」
ゴナンはぐっと巨大樹を見上げた。高さは500メートルを超えているそうで、近くからはてっぺんは見えない。周りにも木が生えているのが見えていて、同じ品種のようだが、この木だけが異様に大きい。幹回りの太さは、もうとんでもなく太い、という風にしか表現できない。端から端まで歩くだけでもひとときかかりそうだ。大きく広がった枝には葉がフサフサと生えている。あの葉っぱ一枚一枚も大きいように見える。しかし…。
「……なんか、この樹。元気がないように見える…。冬が近いからかな……」
ゴナンは目が良い。その言葉に、女性はピクリと反応した。そして驚いたようにゴナンを見て、小声で答える。
「…実はね、ここだけの話、この数年間で、巨大樹が枯れかけてきているって噂なんですよ。常緑樹なのに枯葉も増えてきているしね。枝も弱っているものが多いって」
「……えっ?」
「ただ、もし枯れてしまったら、この街は商売あがったりですからね。頻繁に大学から樹木専門の研究者の人なんかが来て調べたりしているようだけど、どうだろうねえ….。何か樹の病気にかかっているのかもしれないって言う話なんですよ」
「……」
「この樹も樹齢何千年と言われているけど、植物だし、いつかは寿命がくるでしょうからからね…。それもあって、見学料が年々、高くなっているんですよ。巡礼の人達は見学料の値上がりがこたえているようだね。巡礼者は洞中で身を清めて一泊するのが習わしだから」
「…巡礼……」
「それにしても、あんた、よく気付いたねえ」
感心してゴナンを見る女性。
「……何となく、そう思っただけで…」
故郷が干ばつで緩やかに乾きつつあるとき、多くの木々が力を失い枯れていく姿を見ていたゴナン。同じような雰囲気を、何となく感じていた。
「ま、遠くから眺める分にはタダだから、思う存分、眺めていくといいですよ。そういう方も多いですよ」
女性はにこりと笑って、そしてまた別の観光客の対応へと離れていった。ゴナンは少しだけ巨大樹を眺めていたが、特にそれ以上何かに興味を持つこともなかったので、その場を離れることにした。ただ大きい、というだけでは、すぐに見飽きてしまうものだ。
と、ゴナンの足元に1枚の葉が落ちてくる。顔よりも大きい。巨大樹の落ち葉が、風に乗って飛んできたようだ。
「……」
ゴナンは無言でその葉を拾い、そして両手で包んでみる。なにか『パワー』を感じられるかなと、手のひらの感覚に集中してみたが、特になにもなかった。それでも、先ほどの女性が教えてくれたように、押し葉にするためにちぎって書類の間に挟んでみた。

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