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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  9話「不自然な自然」(3)


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9話「不自然な自然」(3)


 「ゴナン…!」

 ゴナンとリカルドが泊まる宿の部屋に入って、ミリアはベッドに駆け寄った。続いて、他の面々も入ってくる。

 結局ゴナンは昨日、ウサギを3羽獲って食材屋に納品した後、宿に戻った途端にまた熱がぶり返してしまっていたのだ。ぐったりとベッドで眠っていたが、ミリアの声に目を覚ます。

「ゴナン。無事で良かったわ。大丈夫?」

「……ミリア…。みんな……」

 仲間達の姿を見て驚き、そう小さく声を上げるゴナン。

「ゴナン。また熱が出ているのね。でも、咳は出ていないようね。思ったより元気そうで安心したわ」

 そう明るく声をかけるナイフ。その顔を見て、ゴナンはぐっと詰まるような表情になり、そして目に涙をにじませた。

「……あら? どうしたの? 私に会えて嬉しい?」

「……うん…」

 ナイフの冗談に素直に答えるゴナン。この街での扱いを経て、ストネで自分を拾ってくれたナイフの温かさが身に染みていたのだ。しかし事情が分からない一行は、そんなゴナンの様子に少し戸惑う。

「あらあら、少し見ない間に甘えん坊になったのではない? ゆっくり休みなさい」

「うん……」

 ナイフにそう答えたゴナン。しかし、すぐにミリアに声をかけた。

「……ところでミリア……、お前、どうしたの……? それ…」

「え?」

 ゴナンは驚いた風にミリアの姿を見ている。リカルド以外の大人3人は苦笑いだ。ミリアはスッと背筋を伸ばして答えた。

「まあ、ゴナン。わたくしの装いのことを言っているの? いろいろ考えて、わたくしも身体を鍛えて強くなろうと思っているの」

「え…、強く……?」

 ミリアは、やはりコビナ衆国の民族柄のテキスタイルの服を着ているが、パンツスタイルに変わっている。髪もキュッとひっつめて結び、少年のような服装だ。なぜか、眉も少し凛々しく描き足しているようだ。そして腰には小剣も携えている。




「……わたくしの『いろんな』至らなさのせいで、皆に迷惑を掛けているから、少しでも足を引っ張らないようにと思って、ディルに鍛えてもらっているの。スカートでは動きにくいから、お洋服も変えたわ。このような装いは初めてだったけど、歩きやすくて快適だわ」

「えっ……」

 ゴナンは驚き、そしてリカルドは少し渋い顔をする。ミリアを慰めるつもりで言った「ぶきっちょ」発言が、どうやら尾を引いているようだ。ナイフはリカルドを軽く睨む。

「…ミリア……。でも、腕力も付いていなくて、慣れてもいないのに刃物を扱うのは危ないんじゃ……」

 ミリアが包丁すら触ったことがないということを思い出すゴナン。が、
「ゴナン」と、ディルムッドがゴナンの枕元にやって来て、小声で囁いた。

「安心しろ。ミリア様が身に付けてらっしゃるのは、木で作られている模造剣だ。私がOKを出すまでは本物の刃物は持たないことで納得していただいた。かなり、説得は難儀したが…」

「あ、そう……」

 それを聞き、ホッとするゴナン。さらに、ナイフも枕元に寄ってきて小声で付け加える。

「あと服装も、今から寒くなるから防寒面でもパンツスタイルの方がいいと思って、よしとしたのよ。眉を描き足しているのは……、正直、なんだかよくわからないけど、ミリアなりの決意の現れかしらね。意外にミリアも、形から入るタイプみたいね」

「そっか…」

「まあ、ディル、ナイフちゃん。何の内緒話?」

 そう首を傾げるミリアに、「何でもございません」とその場を離れるディルムッドとナイフ。ミリアは不安げにゴナンに尋ねる。

「……あの、その、このような装い、おかしいかしら?」

「そんなことないよ。なんだか、カッコいいよ。すごく似合ってる」

「そう?」

 そう聞き、嬉しそうな表情になるミリア。しかし、申し訳なさそうにゴナンを見た。

「……ゴナン、ごめんなさい。わたくしの狼煙玉や、わたくしの刺繍の服を着ていたせいで、ゴナンをひどい目に……」

「えっ? 何が?」

 落ち込む様子を見せるミリアに、ゴナンはキョトンとする。

「だって、わたくしの狼煙玉が爆発してしまったのだし、わたくしの刺繍を身に付けていたせいで不運が来たのよ」

「いや。あの狼煙玉がなかったら、たぶん、ディルたちを呼べなかったから、あれはお守りになったよ。本当に、持ってて良かった」

 ゴナンは不思議そうにしたまま、答える。そして、身体を起こしてベッドから出て、フラフラと荷物の方に歩いて、ずっと着ていたミリアの刺繍の上衣を持ってきた。熱でふらつくゴナンをリカルドが支える。

「……この縫い目があったから、これに触っていたから、俺、なんだか1人でも安心できたし……。真っ暗な夜でも、この縫い目は触ればはっきり分かったから」

(……そりゃあ、これだけ大量の糸を使って繕っていればね……)

 リカルドはそう思ったが、口にはしなかった。

「……それに、このミリアの刺繍のおかげで、オシャレな服になったから、この街でもバカにされなかったし…」

「えっ?」

 今度は大人達が一斉に疑問の声を上げる。実際はゴナンが思っているのとは全く逆効果であり、それは大人達が予想したとおりであるのだが、今はそれを確認する術はない。

「……この服のおかげで、俺、頑張れたよ…。ありがとう……。斬られた裂け目が増えちゃってるから、またここも繕ってほしい」

「ゴナン…。ええ、分かったわ。わたくしに任せて。右腕にも刺繍を入れるわね」

 ミリアは、少し嬉しそうな表情でゴナンを見ている。「刺繍は増やさなくてもいいんじゃないかな」などとさり気なく口にしつつも、リカルドはその様子を優しく見守りながら、ゴナンをまたベッドに寝せた。ゴナンは横になったまま、ミリアに声をかける。

「ミリア、髪はそんな風に縛ってしまってるけど、伸ばす? 前髪も留めてるけど…」

「……あ、いえ…。これは、伸びてしまって邪魔だったから、ひとまず留めているだけなの」

 そう、伏し目がちに答えるミリア。本当はナイフやエレーネが、ゴナンの代わりにミリアの髪を切って整えようと申し出たのだが、ミリアはそれを許さなかったのだ。ナイフはこっそり苦笑いする。

「そっか…。熱が下がったら、髪を整えるよ。あ、手の痺れはもう、治った?」

「…ああ、それなら、ミリアは治ったと言って……」

「いえ、まだ、ちょっと、痺れているわ」

 ミリアがナイフの言葉に食い気味に、目を伏せたまま答える。

「あら? ミリア、あなた、治ったと言っていたじゃない」

「その……、治ったような気が、していたのだけど、なんだか、今、痺れ始めたような……」

「……」

 また王女が下手な嘘をついている。それが分からないゴナンは、心配そうな表情になった。

「俺がさすってあげられなかったからだな…。ごめんな。早く熱を治して、手の治療もするから」

「ええ、お願いしたいわ」

 そう、少し嬉しそうになったミリアを、ナイフはまた物考え気な表情で見ていた。






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