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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  16話「ねがいごと」(3)


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16話「ねがいごと」(3)


 「お散歩か…」

ディルムッドを見送り、ゴナンは戸惑ったように口にする。リカルドは微笑みながらアドバイスした。

「お散歩…。まあ、ゆったり散策するのにはちょうどいいよ、この街は。街並みもキレイだし、湖を見に行ってもいいかもね。歩いて行ける距離に観望台があったはずだよ。それか、連れて行きたい場所」

「連れて行きたい場所……」

 一昨日来たばかりの街でそんな場所を探すのも難儀だが、ゴナンは少し考える。「あっ、ゴナン。昨日、僕が買った上着を着ていくんだよ。毛皮ではまだ昼間は暑いから。ベストじゃもう寒いからね」としつこく言ってくるリカルドに応えて、例によって大事に奉るように棚の上の方に置いていた上着を渋々手に取るゴナン。ついでに、「ミリアと出かけるなら」と上衣を刺繍入りのものに着替える。

 と、再びディルムッドがやって来て、ミリアの準備ができた旨の連絡が来た。続いてやってきたミリアは、今日も念のため、髪をくくって伊達メガネをかけた「少年剣士」スタイルだ。

「ゴナン。お散歩だなんて、どうしたの? でも、楽しそうね」

「あ、うん。なんか、急に、すごく、お散歩したくなって。お散歩、しよう」

「何か、話でもしながらな」

 ゴナンはディルムッドの依頼通り「お散歩」を繰り返し、ディルムッドが付け加えるように声をかける。部屋にやってきたミリアに、ゴナンは手を差し出した。

「さ、行こう、ミリア」

「……ええ、ありがとう」

 ミリアは少し目を伏せて自身の手を差し出し、そして手を取り合って宿の階下へと降り始めた。

「あらあら、デート? ニブチンと思ってたディルさんも、なかなか気が利くことするじゃない」

 と、様子を窺っていたナイフが自室を出て声をかけてくる。ディルムッドはしかし、怪訝な表情だ。

「何のことだ? ミリア様と『お散歩』をしてもらうよう、ゴナンに依頼したのだ」

「…え、お散歩?」

「お散歩だ」

「お散歩って…?」

「だから、お散歩だ」

「なにそれ、犬じゃあるまいし……」

 やはり首を傾げるナイフをよそ目に、ディルムッドは考える。

(…ゴナンの『嘘』のない言葉なら、ミリア様の心に届くかもしれない…)

 母・オルフィナがミリアに対して、幾重にも幾重にもかけてしまっている言葉の『呪い』。ディルムッドや周りの大人が「不運の星なんて、気にしなくてもいい」とどれだけ慰めても、結局は『慰めている』ことが伝わってしまうので、ミリアの心を動かすには至らない。ミリアにとって母の言葉は、何よりも巨きな意味を持ってしまっており、もはや烙印だ。

(しかし、ゴナンは、ミリア様の『不運の星』のことを、本当に、全く信じていない…)

 だからこそ、そんなゴナンの率直な嘘のない言葉が、今また母の言葉に囚われてしまっているミリアの心を救ってくれるかもしれない。そんな期待を込めて、なにも作為的なことを行わない状態で(とはいえ実際はかなり不自然だが)、ゴナンと2人だけで出かけてもらったのだ。朝の件を受けてゴナンの元気がない様子も気付いてはいるが、なるべく早くミリアと話をしてほしかったディルムッド。

(もし、ゴナンの言葉にミリア様が心動かされ、そして『不運の星』などないと自覚されれば、卵など必要なくなり、その時点でミリア様の旅は終わってしまうのかもしれないが…)

「さて…。私も出発するか」

 ディルムッドも身支度を急ぐ。いくらゴナンがついているとはいえ、ミリアの警護をしないわけには行かない。つかず離れずの位置で、こっそりと2人をつけ見守ることにした。

 と、ディルムッドの横に上着を着たナイフが現れる。

「ナイフ? あなたも出かけるのか?」

「え? やあね。2人の後をつけ…、もとい、きちんと護衛をするに決まっているじゃないの」

 ナイフが少しワクワクとした表情で答える。

「いや、護衛は私の仕事なので、あなたの手を患わせることは…」

「何、野暮なこと言ってるのよ」

「野暮…?」

 と、上着を身につけたエレーネがすっと部屋から出てきて、ナイフの横に来た。少しそわっとした表情だ。

「エレーネ。あなたもどこか出かけるのか?」

「……いえ、その、ミリアに何かあったらいけないから、見守らないと」

「だから、それは私の役割であるから……」

「だからディル、野暮はなしだってば」

「野暮…」

 ナイフはニブチンの筋肉男を小突くと、部屋の中のリカルドに声をかける。



「リカルド、あなたはゴナンの『見守り』、行かなくていいの?」

「……ああ、僕はいいよ。部屋にいる」

「…そう?」

 リカルドはデスクに座ったまま、そうナイフに伝えた。ちょうど手紙の封印を押したところのようで、書き終わっている様子だが…。しかし気にせず、ディルムッドに向き直る。

「さ、2人を見失っちゃうわよ。行きましょ」

 ナイフが楽しそうに、エレーネを引き連れ宿の廊下を進んで行く。ディルムッドは首を傾げながらも、慌ててナイフの後を追った。





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