連載小説「オボステルラ」 【第三章】17話「盃」(6)
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17話 「盃」(6)
「……ああ、そういえば」
ゴナンの名を聞き、ディルムッドは1つ思い出した。
「…リカルド、貴殿はゴナンの保護者だと聞いている。見たところ、ナイフも同じような立場だろう」
「ん? ああ、そうだね」
私もいつの間にか保護者扱いになっているのね、と思いながら、ナイフも頷く。ディルムッドは神妙な表情で、小声になった。
「一応伝えておくが、鉱山でゴナンは、……その、狙われていた」
「狙われていた?」
「…ああ。あそこは男しかいない環境で、まるで奴隷のように働かされ娯楽も何もない場所だった。そんなところに、あのように弱々しくおとなしく小柄で、顔立ちが整った、まだ髭も生えていないような少年が放り込まれると…」
「……」
ディルムッドの言葉の意味を理解し、リカルドとナイフはゾワッと戦慄する。
「…何とか私が護ることができ、すんでのところで事なきを得た。ゴナンは気付いていなかったが、いつか、あの日に起ころうとしていたことを理解する日が来るかもしれない。そのときは、フォローをしてあげてほしい」
「……そうね…。こういうことが残す傷は、想像以上に厄介だから…」
ナイフは苦い顔でそう呟き、リカルドはふう、と目を閉じて息をつく。
「本当に、本当に、ディルがいてくれてよかった…。幸運だったよ。本当にありがとう…」
リカルドの心の奥底からこぼれ出たその言葉に、しかしディルムッドは首を横に振る。
「人は誰しも、不運の海の中をもがきながら生きているものだ。その中でかすかな幸運を拾い上げながら、人生を前に進めるのだろう。ゴナンも然り、幸運だったというのなら、それは自分の力で掴みあげたものだ。私が礼を言われることではない」
そうしてディルムッドは少し遠い目をして、グラスの酒をぐっとあおった。
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その後も大いに語り合い、親交を深めきった3人。もう夜も2時過ぎ、周辺の店は全て閉まってしまっている。
「マスター、長居して悪いね、ありがとう」
「いいってことよ、酒代だけでこんな勘定になったのは初めてだぜ。また、金貨でも持って飲みに来てくれよ」
そう言って笑顔で見送るマスター。なかなかに、いい男である。
「……さすが、ナイフちゃんの元カレ…」
「え? 何か言った?」
ほろ酔いでご機嫌のナイフが尋ねてくるが、リカルドは微笑むだけで答えなかった。
と、前方に人がうずくまっていることに気付いた。酔い潰れた客だろうか?
「…大丈夫ですか?」
そう声を掛けながら近づくリカルド。……が、次の瞬間に、ナイフがリカルドの首根っこを掴んでひっぱった。彼の体があった場所に、刃物がブンと空転する。
「…うわあっ…!」
1テンポ遅れてリカルドが情けない叫び声を上げている間に、ディルムッドがその刃物を蹴飛ばし、リカルドに切りつけてきた男をあっという間に確保する。

「……な、何だ…?」
よく状況が分からない。リカルドは目を凝らしてみると、ディルムッドが確保した男の他にもう1人、男性が倒れているのが見える。荷物や衣類を剥ぎ取られて、何かうめいているようだ。
「…あ…、もしかしてこいつ、排水溝の……?」
リカルドがそう口にすると、それを聞いた犯人らしき男は、ディルムッドの下でジタバタと暴れる。しかし、もちろん王国騎士の敵ではない。ナイフがすでに警察を呼びに行っており、すぐに発光石の照明を持った警察隊が来た。
警察に拘束され連行される犯人の姿を、じっくり観察するナイフ。
「……。卵男でも、彼の仲間っぽくもないわね。普通のならずもの、っていう感じ…」
「排水溝の殺人鬼は、巨大鳥や卵とは関係がなかったのか…」
リカルドは、少しだけほっとしたような気持ちになる。なんとなく、自分がずっと追いかけてきた巨大鳥や卵に関わる者が、人殺しをしているとは思いたくなかったのだ。
「……とはいえ、あの毒付きの吹き矢で狙われていたのは事実よ。あまり甘く考えない方がいいのではない?」
ナイフはあえて、厳しい見立てをリカルドに伝えた。
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